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序章 人ならざる者。
00 俺の日常茶飯事。
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俺が村までやってくると、村民たちであろうか。入り口で様々な農具を身構えた、殺意たっぷりの老若男女に出迎えられた。
更には見張りの高台に居た狩人から、なんの警告もなく放たれた矢の雨が、俺の頭上から容赦なく降り注ぐ。
慌てて回避行動を取る。反撃は一切しない。
見知らぬ部外者であれば警戒こそされど、有無を言わさず敵対される謂れはない。当然、命を狙われる理由もない。
だがしかし。それはあくまでも『普通の人間だったなら』の話しだが。
◇◇◇
「村を守れ!」「蜥蜴の魔物は一匹だ!」
「仲間を呼ばれる前に潰せ!」「おおっ!」
喧騒甚だしく怒号が飛び交う。
実を言うと村民の仰る通り、俺の姿は人間じゃない。魔物然とした蜥蜴。
但し四つん這いで歩く魔獣などではなく、失った右眼を眼帯で覆い隠し、黒銀の鎧などで武装を固める二足歩行の蜥蜴人である。
まぁ、人で例えるなら無頼漢に野盗や盗賊のような出立ちなわけで。初見だと毎度の如く敵と見做される。
自分で言うのもなんだが、そんな奴らが束になっても足元にも及ばない強面かつ人外なのだから、警戒どころか敵対されないってのは普通に考えてまずあり得ない話し。実際、俺でも訝しむだろう。
それをなんとかすることから、いつも始まるってわけで……もう止むなしと半ば諦めている。
「ま、待ってくれっ! 危害を加えるつもりはないっ! 無論、反抗する気もないっ! た、頼むから話しだけでも聞いてくれーっ!」
頭上から降り注ぐ矢の雨を回避しつつ、重低音で響く咆哮のような声で必死に叫び、いつものように嘆願するのだった――。
◇◇◇
村の入り口。俺は胡座を組んでドカリと座り込み、敵意はないと両手をあげる。
だがしかし。敵意はなくとも武装解除などはしない。万一にも収拾のつかない不測の事態に陥った際、速攻で逃げ出せるように。
(皆さん、殺意高いな……)
そうして座り込む俺の周囲。農具などを身構えた老若男女らが人垣を作り、遠巻きにだが油断なく取り囲んでいる。
更には見張り台の上に居る狩人からも、未だ油断なく弓の標的にされていると言った状況だ。
「おい、蜥蜴。話しだけでもと叫んでやがったな? 一応は聞くだけ聞いてやるが……おかしな真似はするなよ」
妙に偉そうな御仁が、周囲を取り囲む人垣から一歩前に出てくる。威圧たっぷりで。
「僅かでも不審な動き見せれば容赦はしない――それで?」
とても立派な剣を突きつけられて、そう尋ねられた。
(それで? って、どんだけ上から目線だよ、おっさん。相変わらずぞんざいに扱ってくれるのな……全く。まぁ今回は縛られてない分だけマシだけどさ――さて)
「俺はこんな姿だが、ナイース街の冒険者組合から派遣された冒険者だ。斡旋された依頼を真っ当に請け負って、この村へと赴いた。その革の背嚢に入ってる羊皮紙を検めてくれれば、言ってることが嘘じゃないとわかる」
地面に投げ出されている革の背嚢に視線を向け、そう言いつつ顎で促した。
「けっ。どう見ても魔物風情にしか見えん奴が冒険者だぁ? あり得ない!」
「嘘に決まってる! 魔物の斥候か何かだ! 村長、仲間を呼ばれて荒らされる前に処分だ!」
案の定、野次が飛ぶ飛ぶ。こんな姿だけに信じられん気持ちはわかるが……とりあえずちゃんと真偽を確認してからにしろ。
「皆の衆、まぁ待て。今それを検める」
妙に偉そうな御仁――村長が近づき、革の背嚢を剣で掬い上げると、そのまま容赦なく裁断してくれやがった。毎度のことながら酷い扱いだこと。
「――これか」
中身の荷物が散乱する中、件の羊皮紙を掴み上げ内容を確認する。
「なるほどな。どうやら依頼云々の件は本当らしい」
そう言いつつも疑いの目は変わらない。
羊皮紙を丸め直し、俺の目の前にぞんざいに投げ捨てた。
「だがしかし。それはそれ、これはこれだ。依頼を受け負った本当の冒険者から奪ってきたのかも知れん」
(やっぱりそう言われるか……毎度のことながらホント面倒臭いわ。もうこの村を見捨てて帰ったろかな……)
「お前が冒険者である証拠を見せてみろ。まさか持ってないとは言わんだろうな?」
再び剣の切先を突きつけられ、そんな疑いをかけられる。
「俺はこんな姿だ。今みたく疑われるのも毎度のことなんでね。身分の証は常に携帯してるよ」
「そうか。ならば早く見せろ」
「この首から提げてる冒険者証を見てくれ。これは偽造も不正使用もできない魔術処理が施されてることはご存知だろうか?」
両手をあげたまま、首元が見えるように胸を張る。普段は鎧の襟で隠れてる為に、こうしないと鎖すら見えないからだ。
「馬鹿にするな、蜥蜴。そのくらい無論知っているとも。他者が手にし触れる分には問題はないが、持ち主に成り済まそうと他者が身につけた、或いは提示した場合、黒く変色する不思議な代物だったな?」
実は冒険者証の裏には偽造防止が付与された特殊な魔術文字で、所有者とその者の具体的な特徴、場合によっては所属などが隠蔽されつつ記されている。
軽く魔力を込めて検めると、その内容が浮かび示されるようになっている。
もしも他人の物を奪い取って不正に使用すれば、村長の仰る通り何も示されず、ただ真っ黒に変色する。
「そう言うこと。俺は変色する事なく普通に身につけている。つまり身の証しを立てるのに問題はない筈だ」
「ならばその冒険者証自体が本物かどうか、それ自体を拝見させて頂こう。何、手にしてみれば直ぐにわかる」
剣を突きつけたまま油断なく近づき、俺から視線を外すことなく首から提げられた冒険者証を手にし裏返す。
するとやんわりと輝き始め、魔術文字を俺と村長の間に描き出した。
「ふむ、どうやら本物のようだ。しかし蜥蜴――否。貴様はどう言う経緯で、そんな面妖な姿で冒険者などを……いや、詮索はよそう」
疑いが晴れたのか剣を鞘に戻す村長。だがしかし。疑いをかけた謝罪の言葉はない。
「もう腕を下げても良いか?」
「構わん」
「助かる――ふぅ。毎度毎度のことながら、命を賭けて誤解を解くのにはうんざりだ」
両手を広げ、蛇のように細長い舌を出したり引っ込めたりしつつ戯けてみせる。
「だろうな。暫し待て」
偉そうにひと言だけ告げて、人垣の方に戻っていく村長。どうやら村民らに事情を説明するらしい。
(ホント、疲れる……)
俺は隻眼の蜥蜴人。こんな魔物然とした姿をしていても、信じ難いことに元は人だった者である。
そして真っ当な魔物を狩る側――つまり冒険者なのである。
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更には見張りの高台に居た狩人から、なんの警告もなく放たれた矢の雨が、俺の頭上から容赦なく降り注ぐ。
慌てて回避行動を取る。反撃は一切しない。
見知らぬ部外者であれば警戒こそされど、有無を言わさず敵対される謂れはない。当然、命を狙われる理由もない。
だがしかし。それはあくまでも『普通の人間だったなら』の話しだが。
◇◇◇
「村を守れ!」「蜥蜴の魔物は一匹だ!」
「仲間を呼ばれる前に潰せ!」「おおっ!」
喧騒甚だしく怒号が飛び交う。
実を言うと村民の仰る通り、俺の姿は人間じゃない。魔物然とした蜥蜴。
但し四つん這いで歩く魔獣などではなく、失った右眼を眼帯で覆い隠し、黒銀の鎧などで武装を固める二足歩行の蜥蜴人である。
まぁ、人で例えるなら無頼漢に野盗や盗賊のような出立ちなわけで。初見だと毎度の如く敵と見做される。
自分で言うのもなんだが、そんな奴らが束になっても足元にも及ばない強面かつ人外なのだから、警戒どころか敵対されないってのは普通に考えてまずあり得ない話し。実際、俺でも訝しむだろう。
それをなんとかすることから、いつも始まるってわけで……もう止むなしと半ば諦めている。
「ま、待ってくれっ! 危害を加えるつもりはないっ! 無論、反抗する気もないっ! た、頼むから話しだけでも聞いてくれーっ!」
頭上から降り注ぐ矢の雨を回避しつつ、重低音で響く咆哮のような声で必死に叫び、いつものように嘆願するのだった――。
◇◇◇
村の入り口。俺は胡座を組んでドカリと座り込み、敵意はないと両手をあげる。
だがしかし。敵意はなくとも武装解除などはしない。万一にも収拾のつかない不測の事態に陥った際、速攻で逃げ出せるように。
(皆さん、殺意高いな……)
そうして座り込む俺の周囲。農具などを身構えた老若男女らが人垣を作り、遠巻きにだが油断なく取り囲んでいる。
更には見張り台の上に居る狩人からも、未だ油断なく弓の標的にされていると言った状況だ。
「おい、蜥蜴。話しだけでもと叫んでやがったな? 一応は聞くだけ聞いてやるが……おかしな真似はするなよ」
妙に偉そうな御仁が、周囲を取り囲む人垣から一歩前に出てくる。威圧たっぷりで。
「僅かでも不審な動き見せれば容赦はしない――それで?」
とても立派な剣を突きつけられて、そう尋ねられた。
(それで? って、どんだけ上から目線だよ、おっさん。相変わらずぞんざいに扱ってくれるのな……全く。まぁ今回は縛られてない分だけマシだけどさ――さて)
「俺はこんな姿だが、ナイース街の冒険者組合から派遣された冒険者だ。斡旋された依頼を真っ当に請け負って、この村へと赴いた。その革の背嚢に入ってる羊皮紙を検めてくれれば、言ってることが嘘じゃないとわかる」
地面に投げ出されている革の背嚢に視線を向け、そう言いつつ顎で促した。
「けっ。どう見ても魔物風情にしか見えん奴が冒険者だぁ? あり得ない!」
「嘘に決まってる! 魔物の斥候か何かだ! 村長、仲間を呼ばれて荒らされる前に処分だ!」
案の定、野次が飛ぶ飛ぶ。こんな姿だけに信じられん気持ちはわかるが……とりあえずちゃんと真偽を確認してからにしろ。
「皆の衆、まぁ待て。今それを検める」
妙に偉そうな御仁――村長が近づき、革の背嚢を剣で掬い上げると、そのまま容赦なく裁断してくれやがった。毎度のことながら酷い扱いだこと。
「――これか」
中身の荷物が散乱する中、件の羊皮紙を掴み上げ内容を確認する。
「なるほどな。どうやら依頼云々の件は本当らしい」
そう言いつつも疑いの目は変わらない。
羊皮紙を丸め直し、俺の目の前にぞんざいに投げ捨てた。
「だがしかし。それはそれ、これはこれだ。依頼を受け負った本当の冒険者から奪ってきたのかも知れん」
(やっぱりそう言われるか……毎度のことながらホント面倒臭いわ。もうこの村を見捨てて帰ったろかな……)
「お前が冒険者である証拠を見せてみろ。まさか持ってないとは言わんだろうな?」
再び剣の切先を突きつけられ、そんな疑いをかけられる。
「俺はこんな姿だ。今みたく疑われるのも毎度のことなんでね。身分の証は常に携帯してるよ」
「そうか。ならば早く見せろ」
「この首から提げてる冒険者証を見てくれ。これは偽造も不正使用もできない魔術処理が施されてることはご存知だろうか?」
両手をあげたまま、首元が見えるように胸を張る。普段は鎧の襟で隠れてる為に、こうしないと鎖すら見えないからだ。
「馬鹿にするな、蜥蜴。そのくらい無論知っているとも。他者が手にし触れる分には問題はないが、持ち主に成り済まそうと他者が身につけた、或いは提示した場合、黒く変色する不思議な代物だったな?」
実は冒険者証の裏には偽造防止が付与された特殊な魔術文字で、所有者とその者の具体的な特徴、場合によっては所属などが隠蔽されつつ記されている。
軽く魔力を込めて検めると、その内容が浮かび示されるようになっている。
もしも他人の物を奪い取って不正に使用すれば、村長の仰る通り何も示されず、ただ真っ黒に変色する。
「そう言うこと。俺は変色する事なく普通に身につけている。つまり身の証しを立てるのに問題はない筈だ」
「ならばその冒険者証自体が本物かどうか、それ自体を拝見させて頂こう。何、手にしてみれば直ぐにわかる」
剣を突きつけたまま油断なく近づき、俺から視線を外すことなく首から提げられた冒険者証を手にし裏返す。
するとやんわりと輝き始め、魔術文字を俺と村長の間に描き出した。
「ふむ、どうやら本物のようだ。しかし蜥蜴――否。貴様はどう言う経緯で、そんな面妖な姿で冒険者などを……いや、詮索はよそう」
疑いが晴れたのか剣を鞘に戻す村長。だがしかし。疑いをかけた謝罪の言葉はない。
「もう腕を下げても良いか?」
「構わん」
「助かる――ふぅ。毎度毎度のことながら、命を賭けて誤解を解くのにはうんざりだ」
両手を広げ、蛇のように細長い舌を出したり引っ込めたりしつつ戯けてみせる。
「だろうな。暫し待て」
偉そうにひと言だけ告げて、人垣の方に戻っていく村長。どうやら村民らに事情を説明するらしい。
(ホント、疲れる……)
俺は隻眼の蜥蜴人。こんな魔物然とした姿をしていても、信じ難いことに元は人だった者である。
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