Tactical name: Living dead. “ Fairies never die――. ”

されど電波おやぢは妄想を騙る

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Chapter two. 三年後の今。

Report.12 戦闘員、派遣されます? 契約派遣社員たるオレは、戦場に咲く一輪の花?

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 とある国、元は賑やかな繁華街だった場所。今現在は見るも無惨な見渡す限りの瓦礫の山と化していた。

 摩天楼の如く聳え建っていた現代建築物にしても、その痕跡は既に残っていない。全てが崩壊していた。

 そこら中からあがる火の手に爆発が更に追い討ちをかけ、死屍累々の山を踏み分け必死に逃げ惑う人々らを無慈悲にも飲み込んでいく。

 それはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図。
 まるで爆撃空襲を受けたかような、言葉では言い表せない酷い有り様だった。

 そこに左腕を肩から失い、左目を破片に抉られても尚、残された右腕に抱きこむように手にした、超大型の回転式多銃身機関銃ガトリングガンで果敢にも応戦している一人の男が居た。

 瀕死の重傷を負っているにも関わらず、痛みに苦悶することも怯むこともなく、瓦礫に身を隠しつつ、この惨劇を生み出した元凶に抗っていた。

 身につけている装備も、既にその機能は果たしていない。残弾も残り僅かだった。


 このままでは死屍累々の仲間入りになるのも時間の問題だった――。


 ◇◇◇


「ちくしょうっ! なんなんだ、あの化け物はっ!」

 瓦礫に身を隠しつつ応戦している男は、苛立ちからそう吐き捨てる。


 対峙しているのは化け物――だ。


 それは半透明な肉塊の中に、臓器が浮き出るか剥き出しになってるかのような醜い姿をした、人為らざる者であった。

 血のように赤い禍々しい四つの眼を忙しなく動かし、巨大な両腕の鍵爪でそこら中を斬り裂き暴れ回っている。

 炸裂手榴弾に焼夷手榴弾、戦車砲に対戦車擲弾てきだん、対物小銃ですら有効打にはならず、頼みの回転式多銃身機関銃ですら効かない。未だ全くの無傷である。

「クソが!」

 回転式多銃身機関銃を投げ捨てる男。
 遂に弾が尽きたからだった。

「どの道……俺はもう助からねぇな」

 出血が酷く、男は立っているのもやっとの状態。
 今まで必死に応戦していたのも、目の前で殺された人たちの仇討ちと言えば聞こえは良いが、その実、半ば意地だった。
 既に意識も朦朧としだし、混濁し始めていた。

 隠れていた瓦礫ごと唐突に吹き飛ぶ。
 衝撃で投げ出された男は、壁の残骸に衝突。全身が麻痺し、そのまま動けなくなった。
 血の滲む霞む目。真っ赤な視界に映るのは、既に目の前に迫っていた略奪者だった。
 巨大な鍵爪の腕を振り上げ、悔しさで睨む男を突き刺そうとした、その時――。




 凄まじいが周囲を支配した。




 その瞬間、目の前に居た略奪者の上半身が木っ端微塵に吹き飛んだのだった。

 男は何が起きたのか解らない。理解し難い光景だからだ。
 自身の回転式多銃身機関銃でも歯が立たない相手を、たった一発で粉砕したのだから。


 ◇◇◇


「大丈夫か? ……って、酷ぇな。大丈夫じゃないな、これは?」

 ヒラリと目の前に降りて、軽い口調でそう言ってきた人物。
 血で真っ赤に染まる霞む目で見るその人物に、理解が及ばない。

「応急処置では難しいか。今は止血と輸血だけ。あと気つけだな。――少し痛むが我慢しろよ」

 背中のバックパックから数点の道具を取り出すと、実に慣れた手際で処置を開始する。

「君は……一体……」

 男は静かにされるがまま、信じられない光景に疑問を問う。



「何故、が……しかもって……」



 少女が身に纏う衣装は、あり得ないことにメイド服だった。ただ見たこともない形式の物。
 どっちかと言えば単にメイド服と言うより、動きまくっても邪魔にならないように配慮された戦闘服に近い。
 目にしている繊維の材質にしても、男が纏う迷彩柄の軍仕様とも全く違うようにも思えた。

「オレか? メイドじゃねぇよ。女の子でもねぇよ。見た目はかもだがな」

「う、嘘……」

「超絶美少女でも中身はちゃんとした男だ。この巫山戯た格好についてはスルーしておいてくれ。上の趣味? 相手が油断してくれるらしいんだと。いくらオレが超絶美少女だからって酷い話しだろ?」

 的確に処置を施しながらも優しく笑い、やはり可憐な軽い口調でそう語られた。

「男だって否定してるのに、自分で超絶美少女って……君も言うねぇ。まぁ、俺には天使に見えるよ。ありがとう、痛みがだいぶ引いた」

 何かの注射をされて直ぐに痛みが引いた男は、軽く笑い礼を述べる。

「これもオレの仕事だから気にするな。あと褒め言葉として受け取っておく。オレに惚れるのは勘弁しろよ?」

 道具をテキパキと片付けつつ、冗談めかして答える少女。

「あー。先に釘刺されたか。今、勇気を出して言おうと思ってたのに」

 緊張が解れ、冗談に冗談で返す男だった。

 直ぐ側に居る少女が処置を施す度に、艶のある甘い香りのする青白い銀色プラチナシルバーの髪が男にかかる。

 碧と紅と言った両目が不揃いの特徴的な目。
 その真剣な眼差しが、時折、優しく笑いかけてくれる度に男は照れてしまっていた。

 どう目てもメイドが戦場に居るのはおかしい。それも異国情緒溢れる、幼さが残る均整の取れた超絶美少女が。
 男は疑問しか湧かず、未だに信じられずにいた。

「そんだけ軽口が出るのなら、一応は大丈夫そうだな? 御体満足……ではない満身創痍だが……オレも救えて良かった」

 全てを片づけ終えた少女は、身につけていた特殊な腕時計を確認しつつ、何やら操作していた。

「ああ。本当にありがとう。――やっぱり、その……君のことは聞かない方が良い? どう見ても……し」

 折り畳んで背中に背負っている、伸ばせば優に身の丈以上はあるかといった、見たこともない巨大なアンチマテリアル対物特化型ライフル小銃にしてもそう。
 つまりこの少女は、だと直ぐに理解できたから、聞くのを躊躇ったのだった。

「察してくれるとは流石。本来は存在しない人間なんでね、オレ。まぁ、リビング・デッド生きた死体だからな」

 バックパックを肩に担ぎ直すと、華奢な両腕を広げ肩を竦め戯けて見せた。

「そっか……OKだ。もしもまた縁があったら……その……恩を返させてもらうよ」

 軍装で右手を拭き、差し出して握手を乞う男。

「それでOKだ。そう遠くない未来で

 嫌な顔ひとつ見せず、笑顔で応じる少女。

「また?」「そう。また」

 語尾に引っ掛かりを覚えた男が聞き直せば、肯定する少女。

「そうか……もう一度会えるのか!」

 右手をぐっと握り締めて大喜びの男。

「めっさ嬉しそうだな? まぢで惚れてくれるなよ?」

 そんな男に対し前屈みで顔を寄せ、和やかに、それでいて悪戯っぽく微笑んでそう告げる。

「……あ、うん。自信ない」「いや、ナイナイ。まぢでキモい」

 目の前の笑顔に照れてしまった男と、手を左右に振る少女。

「愛は性別を超える。そうだ! 俺はウィル。君の名前……くらいは聞いても大丈夫? 答えてくれる?」

 言いかけて聞いても良いものかと思案した挙句、結局は申し訳なさそうに尋ねるのだった。

「まぁ良いでしょ。オレはヴァース。ちょっと超絶美少女で激強くも可憐な男です」

 姿勢を正し気品ある優雅なポーズで可愛いらしく答える。内容は自画自賛だが。

「盛るねぇ。宜しくな、ヴァースちゃん。お友達からお願いします!」

 少し恥ずかしそうに俯いて、右手を差し出す。先ほどまで瀕死だったと思えない。
 実は男も気づいてはいないのだが、それほどまでに既に回復していた。

「あのな……まぁ良いや。言うだけ無駄っぽい。んじゃ、これはオレから。最後まで死なず、勇敢に戦ったウィルに。言っておくが超レアだぞ?」

 そんなウィルに顔を寄せ、頬にほんのりと軽く唇づけをする。


 すると――。


「ああああっ、俺もう死んでも良いやーっ! 我が生涯に一片の悔いなーしっ!」

「いや、生きて! 生涯に悔いなーしじゃない! 阿呆か!」

 右腕を天に突き出し大喜びなウィル。その腕を掴まえて正すヴァース。

「はは……ははは」「あはは……あははは」

 そして最後は肩を寄せて笑い合う。存外にも息がピッタリの二人だった――。


 ◇◇◇


 この後、輸送ヘリが到着する。
 既に元気発剌ではあるが、部位が欠損している重症のウィルは、野戦病院へと緊急搬送された。


 だがしかし。
 ヴァースはこの場に一人残る。


 瓦礫の山に埋もれ、焼け野原と化した繁華街を、一際高い瓦礫と化した建物から見下ろすヴァース。

「――略奪者ども。貴様らの存在は絶対に認めない。許しもしない。全てをオレから奪った報いは受けさせる。俺の戦友、フェイトたちに誓って。この世から存在全てを根絶やしにしてやる。どれだけ時間がかかろうが必ず潰す。奪う者から奪れる者になると……覚悟しておけ」

 ただ静かに。だがしかし、決意をこめた力強さで、そう呟くのだった――。



 ――――――――――
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