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Chapter One. 軍役時代。

Report.07 戦場に舞う妖精達――フェアリーズ。【中編】

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「――と言うわけで、俺の前から退避しろ。巻き込まれても知らんぞ」

 スレイプニルを減速することなく、エンゲージポイントに突っ込んでいく。

「各隊に通告。フェイト、アサルト強襲シークエンスに移行。テン十秒・カウント」

 俺の肩を固定台座代わりにヒュージ・キャリバーを載せ、射撃体勢に移行する後部座席のフェイトは、絶賛、目の前で交戦中の第三と第五小隊に向け、抑揚なく退避勧告。

『な⁉︎ 十秒って、おま――』

『ど真ん前で交戦中なんだぞ、オレらっ⁉︎』

 射線上のテュルフィング、シリアルキラーからは、当然、クレーム。

「ナイン――状況は把握していますが、知りません」

 抑揚なく一刀両断。

『だ、第三っ! き、緊急離脱っ!』

『『『イ、イエッサー』』』

『ま、待て待て待てーっ⁉︎』

 当然、大慌て。悲鳴に近い声が通信機に届くも。

「セブン、シックス――待ちません」

 俺の相棒は全くブレません。

「――だそうだ。さっさとしろ」

 弾道予測から想定される被害、十秒後の状況も、フェイトは視野に入れて計算しているんだろう。
 なので俺にしても高圧的に肯定しておく。

『フェイト、ティルフィングに当てたらね! タダじゃおかないからね! ウザいシリアルキラーは、巻き込んで殺しても良いから!』

『ちょ、おま、なんつ――』

『恋する乙女は怖いのう……』

 ほぼ同時に通信が届く。
 マーメイドからのクレームとヴァルチャーからのヤジだった。

「後方支援だけに余裕あるのな」

 第三第五に配属のマスプロ量産型・フェアリーズ達は、おそらくフェイトにリンクして状況に的確に対処するだろうし、あの二人にしても精鋭中の精鋭、シングルナンバーズのコマンダーだからな。
 万が一にも誤爆を喰らうことはないと言い切って良いだろう。

(まぁ、飛び散った破片云々までは知らんがな)

 事実、俺のバイザーに投影されるマッピングデータ――友軍表示のマーカーが、一瞬で射線上より退避した。
 交戦中のエネミーらが固まるように、きっちり足留めを行なってからな。流石だよ。

「――ゼロ。フェイト、アタック」

 抑揚なく告げられた直後、レールガンだけあって空気を切り裂く轟音が響き渡り、閃光の槍となりてエネミーを貫く。

 先陣のアーマノイドに着弾後、融解させつつも貫通。続く中陣、後陣をも撃ち抜いた。
 そのまま次々とターゲットをロック、連続発砲して殲滅していくフェイト。

(コンバットスーツ着込んでて、このショックかよ。全く、親爺おやっさんは……)

 固定台座役の俺は、撃つ度に肩に伝わる凄まじいショックでリコイル反動を伴い、爆走中のスレイプニルに襲いかかるビヘイビア挙動を抑えるのに必死。

『む、無茶苦茶にもほどがあるぞ!』

『お、覚えてろよ!』

 そんなわけで今は余裕はない。クレームやヤジが入るがスルー。

「このまま突っ込み、俺とフェイトで道を切り開く。二人とも雑魚の相手はせず、最奥まで大人しく追従しろ」

『『イェッサー』』

 フェイトが射撃を止めた隙に、スレイプニルをオートパイロットに切り替える。
 俺が合わせるより、が確実だからだ。
 搭載のイクウィップキャリア武装格納庫よりSMG、APC-9Kを二丁取り出した俺は両手持ちで乱射しつつ、指示した作戦通りに中央突破を敢行。

「ユージ。前方に立ち塞がるエネミーは、ヒュージで破壊するから突っ込んで」

 後部座席のフェイトから。

「前方については大丈夫だ。ニールスレイプニルは、いくつもの過酷な戦場を、俺らと共に駆け抜け超えてきた機体だ。潜った修羅場の数が他のと違うんだ。もっと信頼してやれ」

「――そうだったね。ニール、ごめん」

 軍に配備される戦車並のマローダー装甲車を遥かに凌ぐ機動性と堅牢さを誇り、次世代の技術を惜しみなく投入され任務特化に組まれた、神の駆る馬のTACを持つ戦術級機動二輪――それが俺の愛馬たるスレイプニルだ。

「テリアは単独先行、俺とフェイトはフォローとバックアップ、タロスはそのまま続け」

「「「イエッサー」」」

 その指示のあと、超高速で移動しつつ狭い範囲で散開。
 縦槍のようなオフェンス・フォーメーションを取りエンゲージした。


 ◇◇◇


「補給物資を運ぶ部隊の気持ちが少し解るわ。きっと大変なんだな」

 スレイプニルをかっ飛ばし、有象無象を蹴散らし進む俺は、ちょいと愚痴っぽく呟く。

「ユージ。意外に余裕ある?」

 ヒュージ・キャリバーで、邪魔になる大型のアーマノイドを的確に射抜いていくフェイトから、そんな風に言われてしまった。

「いや、タロスがな。積載量過多により、ややふらついて飛んでいるホバーが気になって……ただの的にならんかと心配でな」

「そうならないようにテリアが先行して道を開き、ボクらがフォローとバックアップを熟してるんでしょ?」

「いやまぁ……そうなんだけども」

『実際、ホバーがやられたが最後、確実に置き去りですしね。このフォーメーションでモアベターかと思います』

 マスプロ・フェアリーズ最速を誇る彼女ならではの、タクティカルスキルで敵を殲滅しつつ、俺達の少し先を先行するテリア。

 四つん這いの超高速移動中にも関わらず、立体軌道で跳ね回り、口に咥えたバイブレーションソードでアーマノイドらの急所である動力パイプや関節を的確に、しかも容易く斬り裂いて無力化していく。

 ただ武器を咥えて流暢に通話してくる点については、フェアリーズだからとスルーしておく。

 そしてテリアに心配されているタロスはと言うと、蛇行するホバーに伏せて、必死にしがみつく姿勢で追従してきている。
 図体が大き過ぎて全部が収まらない為もある。
 そんな状態で、当然、攻撃などできる筈もなく。
 体重と言うかその所為でもあるんだろうが……最奥に着いた時の最大戦力として、温存していると割り切って考えるべきだな、止むなし。

『そんときゃ、そん時さね! その場に留まってだね、壊れて動けなくなるまで大暴れしてやんさね!』

 とかなんとかと、当の彼女はこんな調子。相変わらず男前と言うか……。

「脳筋」「激しく同意」

『すいません、同意ですね』

『満場一致っ⁉︎ 酷い言われようさね……』

 乱戦状態で混乱する戦場のど真ん中、道なき道をテリアが切り開く。

 テリアに追従し、アーマノイドらを余裕で跳ね飛ばして爆走していくスレイプニル。

 更にそれに続くタロスを乗せたホバー。



 だがしかし。
 懸念していた心配が、現実となる――。



 ――――――――――
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