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Chapter One. 軍役時代。

Report.08 戦場に舞う妖精達――フェアリーズ。【後編】

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 タロスを載せて飛ぶホバー型ドローン。
 運悪く流れてきた一発の砲弾が片方のエンジンへと直撃、大ダメージを与えられた。

『――チッ、しくっちまった!』

 通信機からタロスの舌打ちが聞こえた直後、推進力とコントロールを失ったホバーはエンジンから黒煙と炎を噴き上げつつ不時着、地面を抉ぐるように転がり滑る。
 そしてアーマノイドの群れへとそのまま突っ込み、その中の取り分け巨躯な一体へと激突する。
 その衝撃で投げ出され、地面へと叩きつけられたタロスだった。

「タロス!」

 普段は抑揚のない喋りのフェイトが、慌てた声をあげる。

「直ぐにいく、なんとか持ち堪えろ!」

 スレイプニルのオートパイロットを解除しつつ急旋回。
 後方のタロスの元へと向かおうとした。だがしかし――。

『来るんじゃねぇっ! アタイに構わず先――』

 そんな怒号のような叫びが聞こえた直後、最後まで言い終える前に――。



 アーマノイドの一体に、背後から胴体を打ち抜かれた――。


 ◇◇◇


 密集したアーマノイドの中を縦横無尽に駆け抜ける、俺たちの先を行っていたテリア。
 ホバーの爆発音、タロスの最後の言葉を通信機を通して耳にした瞬間――脚を止めた。

『タロス……』

 口に咥えていたバイブレーション・ソードを利き手に持ち替える。
 更に腰のホルダーからも予備を取り出し、交差するよう両手に構えたテリア。

『――貴様らを全て壊し尽くすまで。或いは私が壊れるまで。――存分に付き合ってあげましょう!』

 その直後、赤く光る両目が尾を引くほどの速度で逆走する。
 群がるアーマノイドを歯牙にもかけず、次々と破壊、殲滅しながら、タロスの元へと向かうのだった――。


 ◇◇◇


「タロスを拾うぞ、フェイト! このまま突っ切る!」

「イエッサー。援護は任せて」

 既に旋回させタロスの元へ向かっている俺は、アーマノイドの群れの中を突っ走る。
 立ち塞がる奴は跳ね飛ばし、最大速度で爆走するスレイプニル。
 要所要所で的確にフェイトの援護も飛ぶ。

 そして右半身が吹っ飛び、盾に寄り掛かるタロスが見えてきた。
 周囲に群がるアーマノイドらが小型だったのと少数だったのが、不幸中の幸いだった。

「ニール、周囲のブリキ共を一匹残らず瓦礫に変えろ。存分に踊ってこい」

 スレイプニルをオートインターセプトモードに切り替え、素早く飛び降りる。

 そしてニールが周囲の小型アーマノイドらを蹴散らしている間に、タロスの元へと駆け寄り、重いタロスを軽々と背負い込んで、近くの瓦礫の影へと移動する。

「このスカタン隊長っ! なんで……なんで戻ってきたんさねっ! アタシは造り物……ただのマスプロ量産型さね。本部施設にあるバックアップから、いくらでも新しい素体――アタイが再生できるってのに……なんでさねっ!」

 右半身もだが……厳つくも独特の特徴を持つ顔の表皮が半分以上も吹き飛んで、骨格とも言える機械じみた素体が剥き出しとなっていた。
 そんなタロスが、その残った顔半分を顰めて俺に意見する。

「そうだろうな」

 瓦礫を盾にSMGで乱射しつつ、群がる小型アーマノイドからタロスを庇い、そう答える。

「そうでしょうね」

 同じくヒュージ・キャリバーで近付く大型、中型らを狙撃し、援護に回ってくれたフェイトからも、同じ返事が返された。

「だったらどうしてさねっ⁉︎ 戻ってくる必要がないのに、二人して何さねっ⁉︎」

 実際、タロスの言う通りだ。モアベターな選択は考えるまでもなく、当然、そうなる。


 だがしかし。だからこそ言ってやる。


「なぁ、タロス。俺らと共に修羅場を潜り抜けてきた厳つい女は誰だ? お前だろ? 造り物だからなんだ? バックアップ? マスプロ? 知るか、そんなもん。俺のチームに居るお前――今を生きるタロスはお前だろ? 代わりなんて居やしない。例えデータをコピーできるとしても、だ」

 予備マガジンに差し替えつつ、投げ掛けてやった。

「そうよ、タロス。ユージはボク達を『物』としては絶対に見ない。あくまでも『人』として扱ってくれる。そう言った考えができるユージだから、ボクは一緒にここに居る」

 的確に狙撃しつつ相槌を打つフェイト。

「――だけど……それで隊長が取り返しのつかないことになったら……」

 納得のいかないタロスは、尚も反論する。

「あのな、タロス。俺のTACはリビング・デッド、しかも第一小隊長だぞ? 死ぬか、阿呆」

「しかし……隊長は生身――」

「まだ言うかコイツは」「――っつ⁉︎」

 装填が終わった俺がデコピンを喰らわしてやると、痛くもないのになんとも言えない顰めっ面になるタロス。

「そんな表情ができるお前をな、俺は死なせたくねーの。大体、チームに所属している以上、絶対に誰も死なせやせんってのが、安っぽい俺のポリシーだ。当然、お前もな」

 言い捨てて乱射を再開する。

「そうよ、タロス。黙って見てなさい。きっちり落とし前はつけてあげるから」

 そのタイミングでフェイトがタロスに視線を移し、真顔で言い切った。

「隊長、フェイト……もう一生張り付いて生きてやるさね……」

 仰向けになって、より姿勢を低くするタロスから、そんな呟きが漏れた。
 フェアリーズに涙を流す機能があれば、きっと男泣きしてたところだろう。

「しかし古くっさくもダサい言い回しだな、フェイト」

「たぶんユージの所為」

「ぷっ――アタイも激しく同意」

「そりゃ悪かったな」

 敵の真っ只中で余裕の会話を交えつつ、ひたすら応戦する俺とフェイトだった。


 ◇◇◇


 迫り来る所属不明のアーマノイドとのエンゲージ、乱戦状態の激戦を繰り広げていた、その場所で――。


 突如、轟音が轟き、謎の大爆発が起こる。


 それも敵味方入り乱れる戦場のど真ん中。
 爆炎に黒煙が噴き上がった瞬間、全てが吹き飛び、壊れ、崩れる。


 半身が吹き飛んでいる者。
 ただの肉片となり下がり散らばる者。
 瓦礫に埋もれ潰れる者。
 燃え盛る炎に焼かれ息絶える者。


 それら先ほどまで人だったものが、そこら中に散乱している凄惨な現場と変わり、山となって積み上げられた。

 事切れた者らが焼かれる嫌な臭いが、周囲一帯に蔓延する。
 僅か一瞬で核弾頭でも落ちたかの、阿鼻叫喚な地獄絵図と化した――。


 ◇◇◇


(くそっ……何が起きた……)

 凄惨な光景を目の当たりにしている俺にしても、爆風で吹き飛んだのか瓦礫に埋まっていた。
 何かの破片に右目を抉られ、崩れて伸し掛かる何かの下敷きとなり、右半身をも潰されている。

(くそったれが!)

 爆風と爆炎から咄嗟に守ろうと、俺を庇ってくれたのだろう。
 霞む左目に映るのは――タロスの重盾半分と下半身が残されていた。

 そして何かに完全に潰されずに済んだのは、伸し掛かるそれと俺の間に割って入り、上半身が押し潰れた状態で機能を停止している――テリアのおかげらしい。

(タロス、テリア……)


 それともう一人――。


 全身の表皮が焼け焦げ崩れ落ち、骨格が剥き出しの状態で俺を抱き込むように覆い被さり、全ての害から守ろうとしてくれたらしい――フェイト。

 胸から上半分、俺を抱く右の片腕しか残っておらず、かろうじて半分ほど表皮の残った見慣れた顔は……ただ優しく微笑んだまま――その役目を終えていた。

(フェイト。それに皆……自らの命を賭してまで……俺を守ってくれたのにな――結局、無駄死ににさせて済まない……俺も直ぐに逝くから……な)

 最早、逃げることはおろか動くことも儘ならず、意識が朦朧とする中で、間もなく訪れるであろう最期の瞬間を待っていた――。



 ――――――――――
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