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Session.

第九回 僕はボクに不満を打つけたい。

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 GMなボクが用意した、野盗の隠れ家らしい安物のプレハブのような建物。

 その入口にべったり張り付いて、斥候スカウト三点セット――所謂、聞き耳、罠発見、鍵開けを試してみる僕。

 達成値はいずれも成功し、聞き耳だけクリティカルだ。

「――何もなし。中で何かが動いてるのは解ったけど――手抜きどんだけって感じ」

 入口横の壁に凭れ掛かり、大きく溜息を吐く僕。

 救済シナリオでも見せ場くらいはちゃんと作り込んで欲しい。
 まぁ、所持金決定で僕がファンブルを振ってなければ、必要のないシナリオだったし……止む無しだね。

「中に居るのは野盗で間違いないとして、人数は大体四、五人って所。素手で勝てるのかな?」

 聞き耳がクリティカルだったので、足音から大体の人数が解ったのは幸い。


 問題は、僕が素手で縞々柄のいけない布地一丁ってこと。それに尽きる。


 攻撃も防御も補正値のない素のパラメータで、行為判定をするしかないのが辛い。

「為せば成る、ね。GMなボクの手心が入ってると期待と言うか信じて踏み込むか!」

 意を決して入口の扉を蹴り飛ばす!
 器物破壊の行為判定はクリティカルだ!

 当然、凄い勢いで吹っ飛ぶドア!
 転がり込むように建物の中に入って身構える僕!

「結構、嫌な性格してるよね、ボクは」

 聞き耳で判断した通り、四人の年齢もバラバラな男女が、其々に武器を手にしてそこに居た。


 ツルハシを持つ、工事現場のおっさん。
 大きなマイバックを提げた、いかにも主婦っぽい服に身を包んだ女性。
 鎖を振り回す、近代ヤンキー的下品なお兄さん。
 学生鞄を盾に見立てて構える、女子高生なお姉さん。


 ねぇ、悪人とかの雰囲気感を重じて出そうよ、ボク!


 あからさまに適当過ぎるの、なに?
 急いで間に合わせました感が半端なくないかい?


 ――と、心で盛大にツッコミを入れる僕。


 更に一番奥には、清楚ないけない布地オンリーで亀甲縛りにされ、無造作に転がされている女性が一人見えた。


 なんで亀甲縛り?
 今回はあれか、ギャグか?
 ギャグで推して参るのか、ボク!


 ――と、やっぱり心でツッコミを入れておく僕。


 転がされていたのは、この僕の嫁になることを運命づけられたあの子だった。
 僕の希望通り、ちゃんとTda式改変モジュールっぽくなって、シルクのように艶のある桃色の長い髪に造り変えられている。
 アニメやゲームなんかに登場する女の子を、俺の嫁って言うオタク用語があるけど。


 本当にそれが叶う。嫌、凄いわ、ボク。


 しかも、暴漢から女の子を助けるのは、男なら誰もが滾るシチュエーション!


 鉄板だけど。僕は男の娘だけど。


「はは~ん、人質救出イベント乙。見事、助け出し仲間しろってことね。――そうと解れば僕、頑張ってみる!」

 徒手空拳は知らないけど、そんな感じで身構える僕。
 目の前の僕の嫁のお陰で、恐怖心も吹っ飛んだ!


 なにより身近な存在過ぎて怖くもない。


「悪の秘密結社とか、ゴブリンの巣とか期待して損した。もうね、掛かってきやがれコンチクショー共だよ!」

 煽る言葉を投げ掛けた直後、工事現場のおっさんが手に持つツルハシで僕に攻撃を仕掛けてくる!

 直ぐに白いダイスを頭の中で振る僕。
 リアルタイムで振る仕様が結構大変かもと感じつつ、敏捷値を用いた回避判定は見事にクリティカル!

 振り下ろされるツルハシを潜り抜けるようにスルリと躱した僕は、白と黒のダイスを頭の中で振る!

 命中判定成功、ダメージはクリティカルではないけど割と大きな出目だ!
 背中に強烈な蹴りを見舞ってやった!

 背骨を砕く生々しい手応えが、僕の素足から容赦なく伝わる!
 背中から人体では曲がってはいけない方向に曲がった工事現場のおっさんは、床を滑って吹き飛んで壁に激突!
 血反吐を吐いて痙攣――そして動かなくなった。

「徒手空拳だけでもやってけそうかも。ダイス運も絶好調だし、この調子なら余裕かな?」

 生々しい経験をするのは二回目の僕は前回ほど嫌がってはおらず、寧ろ、自分が強いのを実感して楽しくなってきていた――。

「どんどん行こう! ――次はお兄さん?」

 頭の中に判定の成否のみ知らされた直後、背後から迫るお兄さんから伸びる鎖の一撃を簡単に避けた僕!

 どうやら不意打ち判定については、TRPGのお約束通りにシークレットダイスにて、GMのボク側で自動的に行われた模様。

「成る程ね。不意打ち判定で僕がダイスを振ったら、不意打ちになんないもんね」

 お兄さんから距離を取り、身構えた僕に間髪入れず鎖が伸び迫った!

 直ぐに白いダイスを頭の中で振る僕。
 敏捷値を用いた回避判定は、なんとファンブル!
 普通ならダメージを軽減させるダイス勝負となるけど、このままでは素通しになる!

「ヤバ、レアスキルでカバー!」

 頭で念じて僕の持つレアスキル――絶対防御を発動させる。
 判定をクリティカルに変更し、命中、或いはダメージを無効とする超反則スキルだ!

 間違いなく僕を貫く筈だった鎖は、謎の力によって僕に届く前に弾かれた!

 直ぐに反撃に出る僕は、身を捻ってお兄さんの怖い顔を裏拳で殴りつけると同時に、白いダイスを頭の中で振る!
 命中判定は普通に成功。続けて黒いダイス――普通に成功。

 僕の裏拳に顎が砕ける鈍い感触が伝わって、お兄さんの首が半回転した!
 折れた歯と血反吐を撒き散らし、身体はうつ伏せなのに頭だけ仰向けになって倒れ込んだお兄さん――痙攣して動かなくなった。

「僕は強いって、両手を上げて喜べないよ。生々しいし残酷過ぎない? 僕が人殺しみたい……良心の呵責に苛まれそう。」

 拳についた返り血を払い、残った二人の女性に目を向けて、嫌そうに呟く僕だった――。



 ――――――――――
 続きは広告の後。
 運命はサイコロのみぞ知る!(笑)
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