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Session.

第八回 僕を殺す気か、ボクは!

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 僕は自分の部屋でボクに意識を飛ばされて、次に気付いた時には現代と同じ舗装された道路の真ん中に立たされていた――。


 縞々柄のいけない布地一丁で。


「どんだけ鬼畜なん、ボクは! もしも通行人がいたら、テラヤバい所か拉致られるじゃんか!」

 道路の真ん中で、縞々柄のいけない布地一丁で不満を叫ぶ男の娘な僕だった。

 そう、僕とボクで創造した世界では、僕の姿は男の娘――つまり、めっさ可愛いんだよ?

「変態紳士に連れ去られたりしたら、どうしてくれるんだ!」


 返事はない。GMのボクはシカトをぶっこいている。


「明らかにボクの悪意を感じるっての」

 僕が立っている道路は、樹々が生い茂る山の中の一本道らしい。

「てっきりファンタジーでやるかと思ってたのに。中途半端に現代ってどうなん、ボク?」

 呟いた通り、今回の舞台は現代っぽい。

 僕とボクで創造した世界は、SFからファンタジー、現代から伝記物まで多種多様に対応する、汎用ルールブックとしてグリモワール魔導書に記述されている。

 どう言うことかと言うと、キャラクターを創り替えることなく、そのまま別の新たな舞台へと持ち込める仕様ってこと。

「敵さんを用意する時間稼ぎを兼ねた、派遣シナリオっぽいね」

 メガネ、クイッ! と香ばしいポーズで呟こうとした僕は手が空振った。


 メガネを掛けてないのを、ド忘れ……癖って怖いね。


「うっかりしてた。所持金を得たら伊達メガネを買わんと」

 縞々柄のいけない布地一丁で自重気味に笑う僕は、先の見えない道路を突き進んで行く――。


 しかし……なんの羞恥プレイだろうか。


「僕がやらかしたこととはいえ、本気で嫌だな。早くなんとかしないと……ん?」

 げんなりしていると、道路の傍で動く影が目に入った。

「早速、ランダムエンカウント? もしかモブ的野生動物?」

 武器がないので代わりに拳を握り締め、ゆっくりと道路を進んで行く僕。

 シナリオを用意したのは僕でないボクの方なので、ルール以外は何が起こるか全く知らない僕なのです。

「気付かれず通り過ぎる判定を試してみよう」

 そう考えた矢先、行為判定の目標値が頭に浮かんだ。
 内容は敏捷値を用いて50以上を出せば良いと。

 僕とボクで創造した世界がちゃんとTRPGになってて、実体験で遊べるってのが物凄く嬉しい!

「今回は敏捷値での行為判定ね。GMのボクとの意思疎通をどうするかって心配して損した。目標値が漠然と頭に浮かんで解るってなんか不思議」

 今回は目標値が開示されてるけど、大体は開示しない。
 それはGMが手加減したり、シナリオを誘導したりする為だね。
 オープンダイスにするってことは、このぐらい余裕で行けるだろってこと。

「早速、行為判定なう――うっは、出目、低!」

 頭の中で振った白いダイスは、29を上にして止まった。

 忍び足や潜伏と言ったスニーキングスキル隠密技能を持っていれば、技能効果で目標値を引き下げることもできる。

 僕は持っていないので、単純に基本パラメータと出目での挑戦となるんだけど、敏捷値は上限値なのでファンブル以外は成功ってわけだ。

 影の横を忍び足で通り抜ける僕。
 判定に成功しているので、状況が変わらない限り見つかることはない。

 影の正体を知っている僕でも、ミックスと言うキャラクターは知らない筈なので、直ぐ様、識別判定も同様に行う。
 知力は低い僕だけど、問題なく成功した。

「――げっ⁉︎ ボクは僕を殺す気か!」

 影の正体はジャイアントスパイダー、大人くらいの大きな毒蜘蛛だった。

 識別判定を行い、成功すればそのモンスターを知っている事になる。
 モンスターに設定されている認知度を目標値にして行為判定を行い、達成値を越えたら越えた分だけ詳細が解るルールとなっている。


 もしも判定に失敗したら、プレイヤーは知っていてもキャラクターは知らない。

 そう言うプレイを行うのがTRPGの共通ルールだ。


 僕とボクで創造した世界のルールだと、グリモワール魔導書の力を用いて、失敗したセッション中は状況が変わらない限り、本当に忘れさせられてしまうと言った恐ろしいルールになっている――。


「低レベル且つ素手で勝てるわけないっしょ! 何考えてんだよ、ボク!」


 返事はない。やはりGMのボクとしては、シカトを貫くつもりのようだ。


「判定がファンブルだったらどーすんだ……何も知らずに毒でも喰らってたら、確実に死んでたっての……」

 少しだけ怖くなって身震いする僕。

 僕とボクで創造した世界で命を落としたキャラクターは蘇生と言う救済措置もグリモワール魔導書に記述はしてある。

 厳しい蘇生条件を満たしていれば生き返れるけども、蘇生に失敗すると永久にロスト消失する。
 更に蘇生された回数で、目標値が跳ね上がると言った厳しいルールだ。

 緩和しようとしてできなかっただけに、ポンポンと死ぬわけにはいかない。

「本気で僕を殺す気だったとしか、こんなの思えないよ……」
 
 真っ青な顔になる僕は、そう愚痴りながらも真っ直ぐ伸びた道路をひたすら歩く。


 ◇◇◇


 程なく、終わりが見えてきた――。

 安物の倉庫みたいな建物が現れて、そこで道路も行き止まりとなってることから察するに、どうもここで野盗狩りをさせられることになるっぽい。

「本当に突貫工事のシナリオだね、ボク。道路進んでお終いって、シティアドベンチャーですらないじゃん。一種のパワープレイ――救済措置だった。止む無し」

 杜撰過ぎるシナリオに憤慨しそうになる僕だったけど、元はと言えばファンブルを出して文無しな僕が悪いと堪える事にした。

「――どんな敵さんを用意してくれたんだろうね、ボクは。さっきの蜘蛛を見た所為で、全く油断できなくなったよ、うん」

 一気に緊張感を高め、さっきと同じ忍び足の行為判定を行い無事に成功する。

 そして建物の入口へと静かに歩み寄っていった――。
 


 ――――――――――
 続きは広告の後。
 運命はサイコロのみぞ知る!(笑)
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