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第肆章 終りゆく、日常――メフィスト編。

佰伍拾弐話 終焉、其の肆。

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 丁度、そんな状況の場に駆けつけた、アリサとクモヨにスゥの移動砲台組。

「な⁉︎ 大好兄さん⁉︎ しっかりなのよ!」

 大慌てでクモヨの背中から飛び降り、脇目も降らず大好の元に駆け寄って声を掛けるアリサ。

「アリサか……力及ばずこのザマだよ。面目次第もない」

 心配させたくないのか、謎の白い歯をニッカリで力なく笑う大好。

Badlyなんて Injured酷い怪我なのよ⁉︎」

 アリサが必死に叫ぶほどに、そんな態度で会話できるのがおかしいくらい酷い状態だった。

「フフン?」

 大慌てなアリサとは対照的に、本来の姿を晒したままのケルとベロの元へと優雅に歩み寄るスゥ。

 側まで来るや否や、そのまま埋葬してやるよの如くな勢いで、土や瓦礫を後ろ脚で掛けまくるのだった。

「ヴォ――」「バッ……」

 土は勿論だが、土に混ざる瓦礫の破片がチクチクと降り注ぎ微妙にキツいのか、土砂を被りながら必死に手で静止するケルと、抵抗する力が残っていないベロは、怪我をしている肩を手で押さえる姿のまま、徐々に埋葬されていったり。

 ケルが半分、ベロが頭だけ出してほぼ埋葬状態になった頃には、未来と永遠がメフィストを翻弄し始めていた――。

「一体――ナニなのよ? ――本当にあれは未来ちゃんなのよ⁉︎」

 大好を抱き起こし座らせる際に気付き、理解の範疇を遺脱する人外な未来の姿を目の当たりにしたアリサは、信じられないと驚愕の表情で叫んでしまう。

 そう。異形な姿になった未来らしきモノは、あの強大なメフィストを圧倒し始めているのだ。
 先程までの余裕の表情はメフィストには既になく、ひたすら防戦一方となっている。

 寸断され捥ぎ取られる腕や身体の肉――瞬時に再生できるメフィストだからこそ、未来らしきモノに持ち堪えているらしい。


 ――それほどまでに凶悪無比な未来は無
言。


 どうやら無意識とでも言えば良いのか、条件反射に近い状態でメフィストを圧倒しているのではないかと考察するアリサだった。


 右目の魔眼からは青白い焔が燃え盛っている風に幻視するほど、今まで以上に禍々しい気配を放っていた。

 左の澄んだ碧い目にしても神々しいまでの気配を放ち、ナニモノにも屈しない強き意志を宿す尊き純白の輝きを放っていた――。


 敵を滅する力の源、右の魔眼。
 己を護ることに特化した力の源、左の聖眼。

 それは。
 未来の内に潜んでいた神と悪魔――。


 正に最強の矛と盾を有するモノとして、今、未来は覚醒していたのだった――。


「あゝ大切なヒトと大切なことを罵倒されてな。――それよりも、だ。……ここから下がっていなさい、アリサ」

 驚愕し慄くアリサに気遣った言葉を掛けてやる大好。

「でもなのよ?」

 下がれと言われて素直に下がるアリサではない。
 まして実の兄が動けないのに、自分だけ放って逃げるなどはできる筈もない。

「今の尋常じゃない未来ちゃんだからこそ戦えている。白い甲冑の少女は初見だが――外見が未来ちゃんやアイちゃんに瓜二つのところをみると、おそらく彼方君が関わっているナニかなのだろう」

 国家重鎮に相応しい迫力を纏い、アリサを叱咤する大好。
 置かれている現状を冷静に分析、把握しつつ続ける。

「良いから下がっていなさい、アリサ……私の全力でもこの有り様なんだ。私の側に居てもアリサが巻き込まれる。或いは私の為に戦えば自殺に等しい行為になる。――辿る結果は同じことなのだよ」

 納得せずとも理解してもらわねば困る――そんな想いを露わにして、アリサを叱咤した。

「……大好兄さん」

「そう心配するなアリサ。寝るにはまだ早い――と言うのだったか? 未来ちゃん達の危機的状況に大人な私は――まだ終れない……終わってはならんのだよ。――ふん!」

 満身創痍な筋肉を隆起させて、出血を止める。
 そして死地にいざ行かんと無理矢理に動こうとした。


 その時――。

 
 そんな混沌とした現場にやっと駆けつけることができた俺と最妃が現れる。

「――み、未来⁉︎ 香ばしいあの格好は、ナニ⁉︎ それに何ぞ、この異常な気配つーか威圧っつーか重圧は⁉︎ 最妃の比じゃねーぞ、コレ⁉︎ まさか暴走――」

 着くなり驚愕の表情で現状を見やる俺は、声を荒げて叫んでしまった。
 それほどに想定外の事態に進展していたのだ。

「――キャー」

 黄色い悲鳴を上げて吹き飛んでくるアイ。

「アイ!」

 俺を下ろして直ぐ様、アイを受け止めに跳んだ最妃は、危なげなく軽々と受け止める。

「あ痛たたた――ママ、助かった~」

「どういたしまして、ですわよ」

「――だ、大丈夫か、アイ⁉︎ ……で、未来のアレは何ぞ⁉︎ どう見たって甲冑……違うな。某聖闘士聖衣にしか見えんぞ」

「アイは大丈夫。バランスを崩して余波に飛ばされだけだから。……でもパパ、お姉ちゃんが!」

「未来はまだ大丈夫ですわ、アイ、彼方。されどあぼ状態が長引――うっ――」

「もういい、最妃! 無理に言おうとするな! どうなるか何ぞ見てれば予想がつく!」

「――も、申し訳ありません。最悪は私が身を挺してでも……未来を致します」

 アイを下ろしながら、悲痛な表情で言葉を濁して答える最妃。

「――な⁉︎ き、救済だと⁉︎ そこまでの状態なのかよ⁉︎」

 素っ頓狂な裏声を上げて叫び取り乱す俺。
 長年連れ添った俺嫁の最妃が言う救済の意味。
 つまり、無事では済まない方の意味で言っているのが伝わった。

「わ、私は幸せでした。今まで本当に――」

「――え⁉︎ ママ、急にナニ⁉︎」

「ま、待て、待てって! 最妃を失うくらいなら俺も一緒に逝く……否、俺がやるっ!」

「彼方……ですが――」

「要はクソ爺いをサッサと倒せば良いだけだろ! ――俺には秘策があるんだよ! この場凌ぎの嘘じゃない! 本当に取っておきっつーのが!」

「――秘策?」

「それでダメな時は――未来共々、俺と一緒に逝ってくれ、な? とにかくアイは手伝ってくれ」

「――承知でしてよ、彼方」

「え⁉︎ ――良く解らないけど解ったよ、パパ。――ア、アイだって、負けない?」

「あのな、アイ。ここ緊迫した状況下でボケるな! 疑問形って、ナニ?」

「だって今のお姉ちゃん……怖――ヤバいもん」

「もん。じゃねーよ! まぁ、無理もねぇとは思うけども。――とにかくクソ爺いの本体の居場所を急ぎ特定してくれ!」

「う、うん。ここからじゃ解り難いから――頑張って行ってくる!」

「頼む、アイ!」

 尋常ならない未来に加え、永遠の執拗なまでの攻めが加わり圧倒されていたメフィスト。
 尋常じゃない未来と永遠が優勢には見えるが。


 そうは思っていない俺が居た。


「未来のあの状態がナニ何ぞかは知らんのだが、急がないとヤバい。アイ特定早よ! 頼む!」

 メフィストの本体を探る為、未来と永遠の激戦に身を投じるアイを、祈る気持ちで見送る俺。



 手遅れとなる前に――。



 ―――――――――― つづく。
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