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第肆章 終りゆく、日常――メフィスト編。

佰参拾肆話 漆黒。

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 黒騎士と高速域での一進一退の攻防を続けている未来達。

 モ◯ハンやロールプレイングゲーム何ぞに登場する、中世時代の馬上の騎士とかが使う身の丈もある巨大な槍を変幻自在に操って、黒騎士は未来達を翻弄し苦しめていた――。


「PI――PIPI――」

 紙を丸めた棒の如く、重量を感じさせずに易々と振り翳し、移動速度までを上乗せしての超高速な連続突きを繰り出す黒騎士。

「幾ら無数に見えても結局はたった一本。 ――当たらなければどうってことないんだけど」

 針のむしろよろしくな剣山のように、無数に襲い掛かる突きの全てを身を捻ったり反らしたり、時には弾いたりもしつつ、絶妙な間合いを保ったままで躱したり往なしたりと立ち回る未来。


 だがしかし。


 未来がアイアンキャンディを穿とうと、脚を踏ん張って止めた一瞬の隙を見逃さなかった黒騎士。

「PIPI――PI――」

 先ほどまでの小刻みな突きから一転、一際大きく力を溜めて穿たれた槍が未来に迫る!

「ハッ! あまいっての!」

 直ぐ様、その突きに反応し体勢を切り替えて、黒騎士の槍を再び掴む未来!

 直撃すれば即致命傷に成りかねない渾身の一撃だと言うのに、切先を難なく掴み取ったのだ。

「PIPIPI――」

「ピピピーじゃないってのよ、全く。もう少し格好の良い動作音とかできないの? 暗黒堕ちの騎士っぽい吸気音、コーホーコーホーとかさ?」 

 槍を掴まれたままだというのに、更に押し込もうとする黒騎士だが、冗談を宣いつつ微動だにしない未来。


 まるで時間が停止したかのように、相対する姿が晒される。


「折角、格好良い姿なのに。動作音のちゃっちさで全てが台なし――ってねっ!」

 槍の切先を掴んだ状態のまま、更になかほども掴み上げ、身体の重心を落とす未来。

 押し込んでくる黒騎士の力の慣性を利用し、槍を竿に見立てたマグロの一本釣りの要領で黒騎士の身体を引っ張り上げると、そのまま思いっきり投げ飛ばした!

 投げ飛ばされた黒騎士は、凄まじい勢いで床を滑って流れていく。

「うっは……ゴリラも真っ青の怪力って……本気のお姉ちゃんに逆らうのだけは絶対にヤめとこ」

 黒騎士が滑ってきて停止した場所の頭上には、既にアイが待機していた。

 振り被った伐採ヒートホークで真上から殴りつけるように斬りつける!

「PIPI――」

 だがしかし。
 間一髪の所で盾を翳され防がれてしまう。

「そうくるなら――ギアチェンジ、Low!」

 アイの謎の必殺技的な掛け声と共に、凄まじい力が伐採ヒートホークに加わった。

「PIPI」

 伸し掛かる威力に耐え切れず、受け止め防いだ盾を押し戻され、そのまま身体に密着する様に減り込んだ。

 床に這い蹲され拘束された黒騎士に、更なる追い討ちが頭上より迫っていた。

 アイに仰向けに動きを封じられ押さえ込まれている黒騎士に、碧い輝きに包まれたベロの必殺の体当たり――回転ボディプレスが炸裂したのだ!

「ハーッ、ハッ!」

 見事に直撃させたあと、勢い余って残骸などを巻き上げつつ床を転がるベロ。
 直ぐ様、四つの脚を踏ん張って起き上がり体勢を整える。
 妖しく輝く金眼で、狩る獲物を睨みつけるが如く威嚇する!

「PI――PIPI……」

 何ぞな加護かどうかは定かではないが、尋常じゃない質量でのベロの体当たりを真面に喰らった黒騎士は、身体半分以上が床に減り込み埋まってしまう。

 防ごうと翳した盾までもが身体に減り込み、逆さまに背負い込む亀の甲羅状態になって踠いている。

「――最強の盾と矛の話は知ってる?」

 黒騎士に何ぞ不適切な笑顔を携えて、問い掛けるように話し掛ける未来。

 どうやら奪った槍で黒騎士を穿ち、トドメを刺す気満々の模様。

 ちなみに極悪な槍は、未来が投げ飛ばした拍子に奪い取って、棒術のように軽々と振り翳していたり。

「さて、どーなるかなぁ――」

 不適切な笑顔のまま、奪った槍を逆さ持ちに携えると一足跳びで跳躍し、黒騎士に減り込む盾の真上に舞い上がる未来。

 埋まって踠く黒騎士に、頭上からの重い槍の一撃を盾に穿つ算段の模様。

「PIPI――」

 床で死に体を曝け出していた黒騎士。
 なんとか這い出そうと捥がき動いた。


 その一瞬――、


「任せておきたまえ!」

 良く知る人物の声が聴こえたと思った矢先、大きな影が槍を構えて自由落下中の未来の真下を通り過ぎた。

「――ふんっ!」

 そして黒騎士の頭に覆い被さり正拳突きをお見舞いする、全身が筋肉隆々のゴツい金髪男性。

 放たれた正拳突きの威力は素手――ましてやヒトが放つ拳とは到底思えない破壊力だった。

 黒騎士の頭部を木っ端微塵、跡形もなく粉々に粉砕するだけに留まらず、威力が余りにも桁外れがゆえに、床や周囲の残骸までをも巻き込んで吹き飛ばしてしまった。

「――ちょっ⁉︎」

 落下中に一回転をして体勢を整え、床に腕を減り込ませている金髪男性の直ぐ後ろに、軽やかに舞い降りた未来。

「ないわ……」

 行き場のなくなった巨大な槍をドカリと肩に担ぐと、金髪男性に向けて口惜しさを隠しもしない不満げな表情で見やるのだった――。



 ―――――――――― つづく。
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