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第肆章 終りゆく、日常――メフィスト編。

佰弐拾陸話 困惑、其の弐。

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「俺の側に居て……俺を護って欲しい。……実際、もうコレしか残ってないんだわ」

 ワザと辛そうに言いながら見せたモノ。
 俺的ドラグーンの予備マガジン一個と俺的ガチャポンが二個。


 ホントは、もう一つだけ奥の手があるんだけど、それは内緒。


「彼方……そうでしたわね、私が護るってお約束したのでしたわね……承知ですわ」

「すまんな。怪我してる上に負担まで掛けて……駄目だな俺、昔っから――」

「そんな彼方だからお慕いしているのでしてよ? ……私が必ず、全てを投げ打ってでも護り抜きますわ」


 ――ふっふっふ、俺の作戦大成功。


「そうだな。愛してるよ、最妃。……つーことで、リペアは最妃を頼むわ」

「チュイン!」

 戦闘面では俺以上に役立たずなリペアに頼んだのは、最妃の怪我の治療。

 明確に伝えずとも『言わなくても解ってるよ』って表情をして、前脚で敬礼と言った器用な返事をしてくれたリペア。

「貴方……アタシも前に出るよ。なんかさ、少しでも役に立ってあげたくなっちゃった」

 両拳をパンっと打って気合を入れるファースト。
 未来の横について戦闘体勢を取る。

 まだ、敵さんも居ないのに気が早いやっちゃ。
 でも……ありがとな、ファースト。

「――さて。まったり気分はここまでだ。状況を開始するぞ? ――と、言っても訓練じゃない。皆、くれぐれも無理無茶無謀はなしの方向で宜しく頼む」

 最後に俺から一言伝える。
 勿論、真面目顔に改めて真剣に。

「皆で。無事に俺居城に帰ろうな!」


 各々に返事をしたあとで、順番に通路に入り進んで行く――。


 索敵特化双子組にスゥとファーストが横並び、少し先を先行する。

 真ん中には移動砲台組とベロ、俺夫婦組とリペアが司令塔と後詰を担当する形になった。

 中々にバランスの取れた、大所帯な冒険パーティと化したのな。
 この面子でダンジョン探索何ぞができたら、さぞ面白いのに……。
 

 そんなしょーもないことを考えてる内に、問題なく蜥蜴擬きと戦った広い区画に到着した――。


 この区画は其処彼処に残骸云々が散らばる酷い有様のまま。
 片付けるモノが居ないので当然だった。

 自身の研究施設、それも悲惨な戦場と化した区画を苦い顔で見やったアリサは、両手を合掌して祈りを捧げ始めた――。

 気持ちは痛いほどに解る。
 床に横たわる犠牲者、意思無き肉塊と化した犠牲者だったモノ、それらを含む散らばる残骸何ぞの全てが……同僚か部下だったモノ達の成れの果てなのだから。

 ファーストやクモヨも言葉なく静かに目蓋を閉じて、アリサに倣い冥福を祈っていた。

 俺を含む斗家の面々は、三人の黙祷が終わるまで警戒は怠らず、周囲に気を配った。
 表には出さないが、俺達も心ばかりの黙祷を静かに捧げる。
 
「あそこから地上に出るのよ?」

 最後に祈りの言葉を捧げて十字を切るアリサ。
 追悼が終わると表情を引き締めて、大型の搬送用エレベーターを指を差した。

「そこの上に行くSwitch昇降ボタンを押すのよ?」

「ハイ……」

 クモヨに乗ったまま指示を出し、搬入用大型エレベーターの前に向かう。
 言われた通り、素直に例の長い脚で昇降ボタンを押すクモヨ。

「……皆、少し待つのよ?」

 大きな作動音がしたあと、アリサから待機の指示が皆に伝えられる。
 どうやら搬入用大型エレベーターが降りてくるには、少々、時間が掛かる模様。

「さて、ここからが問題だな。――もうね、嫌な予感しかしないんだ、俺。この揺れの中、エレベーターを使うってこともだが――すまん、なんでもない」


 さっきからずっと地震にも似た小刻みな振動が、地響きを立てて続いているんだよなぁ。
 恐らくだが、地上? 絶対にヤバい状況下にあると思うぞ、俺。

 ――と、言い掛けて縁起でもないことは言わない方が良いと、顰めっ面で止めた。

 きっと大丈夫だよな、うん。
 クモヨもファーストも居てるし……さっきも大丈夫だったし。

 しかし、何ぞ?
 さっきから言い知れぬ不安が俺の脳裏に付き纏ってんだが……。
 俺もいよいよ人知を超えた、素敵技能的何ぞ……超感覚とかが目覚めたんか?
 ――って、ねぇな。
 ニュ◯タイプの未来じゃあるまいし……。

「パパ、心配し過ぎ……考え過ぎるとね、禿げるよ? そん時はさ、カツラ買ってあげるよ――ぷっ」

「……うっさいわ、未来! 乗るとも! ああ、乗ってやるとも!」

 俺を心配してくれたのか、振り返った未来はいつもと全く違う優しい笑顔で茶化してきた。

「あらあら。私もお側に居ましてよ? 心配でしたら……手を繋いで……いえ、抱き締めて差し上げますわよ? 彼方」

 それに乗っかって和やかな笑顔で茶化してくる最妃。


 もしか揶揄われてんのかね、俺?


「それは……とっても魅力的なご提案だがな、最妃。流石に今は我慢して、ご褒美として取っておくわ。ちなみに未来のカツラはノーサンキューだ!」

 一応、言い返す俺は、内心ほっこりしてたり。
 本当に俺家族ってヤツは……。

「貴方達……本当に仲が良いわね」

「アイもそう思う。――それがアイ達、家族の自慢なんだよ、ファーストさん」

「義兄さんは本気で家族を大事にするのよ? アリサも一緒に暮らしてた時は――」

「……ワタシモ パパ ダイスキ」

 ファーストが羨ましそうに呟くのを拾って言葉を返すアイ。
 続けて何ぞ言い出すアリサに聴き入るクモヨ達だった。
 

 その表情は、誰もが超がつくほどに優しい笑顔だった――。


 数分後、到着を知らせるお約束的な音が鳴った。
 どうやら搬入用エレベーターがこの区画に到着したようだ。 

 大きな扉がゆっくりと開き始め、巨大なゴンドラが姿を現す。



 ――筈だった。



「――パパ! 怪電波反応! しかも強い!」

「――こりゃヤバい! 貴方達、下がってっ!」

 音が鳴った直後、アイとファーストから悲痛な叫びが同時に上がる!

 耳にするや否や、その場の全員が即座に散開!
 皆が各々に臨戦体勢で迎え撃つ準備を整え、固唾を呑んでゆっくりと開く扉を睨みつける。


 搬入用エレベーターの大きな扉が開き切り、姿を晒すモノ――。


 ゾンビ映画を思い出す蠢き方で、こちらにゆっくりと降りて向かってくる、数十体ほどの意思無き肉塊だった――。



 ―――――――――― つづく。
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