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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰弐拾肆話 閑話 俺と最妃と自転車と。【後編】

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 ナニがなんだか全く解らないままに、俺は言われるままされるがままになっていた。


 理由が不明だが、ナニやら物々しい機材やら器材やらで全身を測定されている。


 その間、ずっと凄ぇ双丘をガン見する俺。


 気付いた最妃さんは頬を赤く染め、頬っぺたをぷくっと膨らませて俺を無言で睨む。


 両腕を双丘の前で組んで隠してな?
 可愛い……駄目だ……俺、もう駄目だ……。


「お客様、お疲れ様でした。そちらのソファーにお掛けになって、もう少々お待ち下さい」

 測定し終えるとと、労いの言葉と一緒にコーヒーを差し出してくれた、めっさ営業スマイルの美人お姉さん。

 更にイケメンお兄さんが奥からやって来て、一枚の紙を最妃さんに差し出し手渡した。

「コレで良くってよ。手配なさって下さる」

 受け取った最妃さんは、それにサインをしながら、イケメンお兄さんに何ぞ指示を出す。

 そして頬っぺたを膨らませながら俺の方へとやって来ると、徐に一枚の紙を差し出すのだった。


 そして一言。


「――貴方、ここにサインして下さる?」

 そこには……誓約書と記載されていた――。


 え⁉︎ もしかせんでも買わされるのか⁉︎
 めっさ欲しいけども⁉︎
 貴女の方が……って、っがーう!
 そーじゃない、そーじゃないでしょ、俺!


「ちょっと待って下さい。俺……こんな大金ありませんよ?」

 内心ではヤっべ、外面は平静を装って。
 断腸の思いで一応は拒否る俺。


 だがしかし――。


「――要りません。但し、条件がありましてよ?」

 何故かそんなことを言ってきた。

「え⁉︎ お金は取らない⁉︎ じゃあ魂とか取るんですか⁉︎」

「なんですの、それ⁉︎ 私が悪魔にでも見えまして⁉︎」

 恐る恐る尋ねる俺に、更に頬っぺたをぷくっと膨らませ言い放つ最妃さん。


 側のスタッフさんからクスクス笑い声……今、ある意味で悪魔とも言えるなとか、呟いたスタッフも居たぞ?


「どっちかと言うと、俺には天界から降臨した女神にしか見えませんけど――付き合って……違うな。結婚して下さい――って。あーっ、すすす、すいませんっ⁉︎」

 動揺のあまり、ついポロっと本音でが出てしまった。

「――ナ、ナニを、い、いきなり仰って⁉︎ あ、貴方は……」

 顔を真っ赤にした最妃さん。
 あゝ可愛い……。

「よ、良く読みなさい! 早く!」

「……あ、ハイ。では」

 言われた通り、誓約書なるモノを良く読む俺。


 内容は――従業員募集だと言うこと。
 更に採用条件は――自転車に興味があるってこと。
 まぁ、当たり前だな。
 そして、オーナーが気に入ったヒト?
 オーナーって? え? え~っ⁉︎


 最後に採用認可印のところに、最妃さん直筆のサインが。


 最妃さん、オーナーだったんかい⁉︎


 更に――採用祝いにその自転車を差し上げても良くってよ? と、直筆で追記されていた!


「貴方……凄く良くってよ? ここで働くと良いかしら? 私も嬉――な、なんでもなくってよ? オホホホ~」

 あらぬ方向に顔を背けて、高貴なオホホ笑いの最妃さんは顔が真っ赤。 


 俺は何処ぞに座す運命の女神さま何ぞに感謝しまくった。
 そんな眉唾な高次存在、居るわけないんだけど。


 ◇◇◇


 帰り際にスタッフが総出でに丁寧に挨拶をして、更にお見送りまでしてくれた。


 俺ではなく俺達の理由。


 実は店外に出ても、何故か俺の手を離さず、一緒に歩いてついてくる最妃さんが居た。


 なして? 俗に言うお持ち帰りですか?


 若干、恥ずかしいのか照れてるのか俯き加減ではあるが、しっかりと握る手は離さないときた。
 そのまま俺の手を引き、通りを優雅に歩く最妃さんに、恐る恐るも確認した俺。

「あの……最妃さん?」

「あ⁉︎ も、申し訳ありません⁉︎ 見ず知らずの女性が殿方のお手を握ったままで⁉︎ ご、ご気分を害されて当然ですわね⁉︎ 私ったら⁉︎ オ、オホホホ~」

「……いえ。寧ろご褒美ですよ? 俺何ぞで良いんですか……」

 この一言が決定打となり。

「も、もっと今のお互いのことを知るべき? 否、コレは運命……そう運命なのよ……長い刻を待ち続け……再び同じ時代で巡り合い、前世……当時の姿のまま……偶然にも出逢うことが叶ったんですもの……このチャンスを逃しては……次はないかもしれないんだし……記憶は……幸い心は私に向いている――不束者モノですが、よ、宜しくお願い致します!」 


 とかなんとか。
 目紛しく表情が入れ替わる百面相を披露する最妃さん。


 お気付きではないでしょうが、なんか凄い壮大な中二病厨二病臭い物語が、ひたすらダダ漏れておられますよ?
 もしかして貴女は、その美貌でこっち側オタクの濃ゆいヒト?


「えーと……採用の件なんですけど……」

「――え? え~? ええっ⁉︎  ――って、わわわ、私ったらナニをっ⁉︎ オ、オホホホ~」

 その反応は…… 今、会ったばかりだよね、俺達?
 貴女も一目惚れとか?
 否、待て待て……それは早合点の可能性が大だ。
 動揺する意味は……なして?

 ――って、まぁ良いや。
 考えても無駄なことはいくら考えても無駄だよ。


「――では、お世話になります」

「承知。こちらこそ」

 そのあと、制服姿の金髪縦ロールな絶世の美女と、草臥れたリーマン姿に俺が手を繋いで談笑し、商店街を抜け帰路に着いた。


 すれ違う通行人らからは、奇異の目を向けられたのは言うまでもなく。



 そしてその翌日。
 勤めていた職場を速攻で退職した――。



 ◇◇◇


 俺は最妃さんの自転車店に鞍替えをして、毎日頑張っていた。

 あの日に貰った自転車は、その数日後に俺居城……と言っても、この時はボロい安アパートだったけど――に届くも、知識が全くなく、暫くは俺部屋に飾って見つめるだけの手付かず状態が続いた。

 最妃さんに気に入ってもらう為にも、この自転車を弄る為にも、必死になって猛勉強した俺。

 邪な動機から始まったわけだけれども、途中から自転車のことが本気で、凄く愉しくなっきて、例によってやらかしまくってしまう。

 気付けばあっという間だった。
 この店一番の技術スタッフになってしまっていたのだ……。

 最妃さんの父にも見染められ、トントン拍子に話が進み……ここの副店長、実質は店長だけども、昇格させてもらえた。

 この頃には最妃さんと、結婚を前提にお付き合いを始めていた。

 後日談だが、やはりお互いが一目惚れだったり。
 当然、結婚して直ぐに未来を授かった。

 いつか俺店を開業するつもりになった俺は、この間に民間の整備士免許や自転車技師免許云々、必要な資格何ぞも全て取得しておいた。


 そうして、あらゆる自転車の知識を吸収した俺は、数年前に独立して開業し、現在に至る――。


 そして俺が自転車屋何ぞを始めることになった、最妃との仲を取り持ってくれた記念すべき自転車。

 今まで大切に保管してあったのだが、仕事の片手間に手掛けていくことにしたのだ。
 足りない部品を探し集めて買ったりとか、色々と必死になってな?



 その自転車が――アイシャ。
 つまり、ヒト型に再構成されたアイなのである。



 ありとあらゆる俺の大切な想い出が、山ほど沢山詰まった奇跡の車体……車体違うな。




 俺の娘が、アイなのだよ。



 もしもアイと出逢っていなければ、最妃とも出逢ってはいない。
 更に言うと、未来も生まれていない。


 人生、ナニがどう転ぶか解らんモノだな、うん。



 ◇◇◇


「彼方……起きて……ん~~」

 好みの香りと、マシュマロを凌ぐ素敵過ぎる感触が頬に当たる。
 更に耳元に甘い囁きが聴こえると、額に柔らかくも暖かい感触がずっしりと伝わった。


 どうやら俺的超お至宝を枕に、いつの間にか眠っていたようだ。


 俺も大概、ヒトのこと言えんのな。
 油断し過ぎだよ、うん。


「貴方達……ラブラブ過ぎよ? アタシ、溶けちゃうよ」

「ボチボチ着くのよ?」

「パパとママだよ? 世界が滅ぶ一大事でも、お互いが最優先って言うほどだからね」

「ボクもパパとママを取るよ。パパはボクとママならどっちが大事――」

「最妃!」

「もぅ! 彼方ったら! ん~~」

「少しの躊躇もなく、一切の迷いすらなく、顔色ひとつ変えずに即答って……。ボク、聴かなければ良かった……」

「――お姉ちゃん、パパに聴くだけ無駄だから。パパの世界はね、いついかなる時でもママを中心に回ってるもん」

「即答したけどな、未来もアイ大事だよ、俺。勿論、アリサも。家族愛がナニよりも最優先だ。当然、クモヨにファーストも家族になったんだから大事にしていく……縁があって出逢ったんだから決定事項だ!」

「カナタサン……イエ。パパ……アリガトウ」

「貴方……もしかプレイボーイ?」

「あらあら。彼方は未来永劫、私のモノ。絶対き誰にも、欠片すら差し上げませんわよ?」

「ご馳走様……欠片も要らないわよ。でもさ、家族って良いよね……アタシなんかでも家族で良いの? なれるの?」

「さっきも言ったがバッチ来いだ! 全部終わったら名前も決めてやんよ。――ハジメとか」

「貴方……泣かすわよ?」

「ハジメって……ないわ~。ボクなら断固拒否する。一応見た限りは女の子だよ? 男の子の名前って、ナニ?」

「貴女……一応って酷くない?」

「……お姉ちゃんに激しく同意」

「私も……ちょっとそれは……」

「ぷっ――良いのよ? お似合いなのよ? ありふれたName名前、ハジメ程度でお似合いよ?」

「アリサ……アンタも泣かすわよ?」

「ステキナ オナマエ……」

「……貴女は……良いか。帰ったら、アタシが言葉のお勉強に付き合ってあげよう! 後は……下半身をどうにかしないとね……うーん」

「チュ、チュイーン;」

「ハッ;」「フン;」

「全国のハジメさんを敵にする気かよ。ちゃんと謝っとけ――お? ボチボチ出入口が見えてきた。皆、気を引き締めて事に当たるように!」

 俺如きに何ぞもできやしないかもしれない。


 だがしかし。
 家族だけは護る――なんとしても、な?
 

 俺達の頭上に見えて来た出入口。
 見上げる限りに異常は感じない。
 結界だったか? 有効に働いていることを切に願いたいモノだ。


 そして……皆で無事に帰るんだ。


 って、ナシナシ!
 死亡フラグ立ってまうわ!


「――さぁ、行こう!」

 地下三階層に無事に辿り着き、掛け声と共に行動を起こす俺達。


 無事に帰り着けるのだろうか……。



 ――――――――――
 閑話後編、おわり。本編へと、つづく。
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