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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。
佰拾話 再会、其の弐。
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「アリサ、大概にしとけ! 常識的に良く考えてから行動しろや! とか言いながら、俺にも言えるんだけどな……どーするよ?」
流石の俺も困り顔で皆を見やるのだった。
「パパ……降りるにしても……五キロはないわ~」
「アイも流石にそんな距離は跳べないよ」
「ですわね……私も昇降スイッチらしいモノを探しておりましたけど、見当たらなくってよ。……困りましたわね、彼方」
アイの言う通り、この距離をデパートの時みたく、順番に運んでもらうのは無理だ。
降りるだけならともかく、上がっては来れないのだから。
当然、ロープ何ぞでなんとかなる距離ではないし、中央のワイヤーを伝って降りるのも、かなりリスキーな行動。
万が一、降りる途中で襲われでもしたら……逃げ場すらなく即アウトだ。
この高さから落ちたら確実に即死。
ちなみに即死とは即座に死ぬこと。
下にあると思われるゴンドラ何ぞを上に引き上げるってのも、操作方法が不明な時点で却下。
クモヨに先行してもらってアリサを呼ぶ……これもいつになるか解らんので却下。
この深さに隠すほどだ――迂回路何ぞも期待するだけ無駄。
つまり、当然の如く用意されていないと断言しておこう。
「ワタシ ガ フタリ セナカ ト ウデ デ ハコべマス……」
「流石のボクでも、この高さを自前で降りるってのはキツいってか無理……」
「アイも……。ううん、一人くらい背負ってあのワイヤーを伝うぐらいなら……できる?」
「何故に疑問形……。でも、ま、そーだわな。無理せずクモヨに甘えとくかな。最妃と未来はクモヨに運んでもらうとしよう」
「彼方は……アイに運んでもらうのでして?」
「いや。俺もあの中央のワイヤーにカラビナ……まー、登山何ぞに使う安全具なんだけども。それらを取り付けてアイと一緒に降りるとするわ……。特殊部隊も真っ青な降下作戦みたいだな。滾るわ~」
「パパ……大丈夫なの?」「彼方……」
「サバゲーで鍛えた俺を舐めんな。……多分、大丈夫だ」
「お姉ちゃん、ママ。アイもパパなら大丈夫だと思うよ。こーゆーの割に得意っぽいって記録があるから」
「お? ほれ、アイのお墨付きだ。流石に俺の記憶を継承してるだけはあるのな? ……だから心配すんな」
皆の心配を余所に、俺的バックパックから必要と思われる道具を準備し始める俺。
この間に降りる順番何ぞも皆で話し合って方針を決めておく。
時間が多少なりとも掛かってしまい、クモヨにも大きな負担になってはしまうが、降り方については現状で譲歩できる唯一の最適解だよ。
俺が考えてる方法の内容を皆に伝え、作戦の要であるクモヨにできるか確認を取ってみたのだが、ニッコリ笑って大きく肯いた。
つまり、出来るらしい。
更に言うと、全然オッケーらしい。
流石だな。クモヨの身形は伊達ではないのな、うん。
それと念の為。
誰かが落下したその時は、例の鳥黐みたいな蜘蛛糸で、フォローないし救助してもらえるようにも言付けておく。
「クモヨ、負担を掛けて申し訳ないが……どうか宜しく頼む」
「クモヨさん……ちゃんかな? ま、ヨロ~」
真剣な表情で頼む俺に対して、片手を挙げて軽い挨拶の未来。
「お、お姉ちゃん!」「チュイン!」
そんな姉の態度に慌ててダメ出しする呆れ顔のアイと、肩の上に戻ったリペアは完全にヒト事で『ま、頑張れ』的に前脚を掲げる。
「あらあら、未来ったら。それでは私も。クモヨちゃん、お願い致します」
和やかな微笑みで二人を見やった後、クモヨに頭を下げる最妃。
「マカセテ……」
クモヨはちょっと照れ臭そうに微笑みつつ、十本の蜘蛛の脚をモジモジさせた。
うーむ。
ファンタジーを通り越して、大概なホラーになってきたかもな。
「んじゃ、始めますか」
「りょ!」「うん!」
「チュイン」「承知」
「ハイ……」
先ずはクモヨに、扉内のワイヤー周囲一帯へと蜘蛛の巣を張ってもらった。
そしてワイヤーまで俺とアイを運んでもらい、ワイヤーと身体の固定の準備を進めて行く。
勿論、俺とアイも命綱で繋いでおくことも忘れない。
作業が終わって俺とアイが降下可能になったら、怪我をしている最妃はクモヨに腕に抱えてもらい、身軽な未来は咄嗟の事も考えて背中に乗ってもらい、二人と一匹はそのまま先行して下に降りてもらった。
ある程度――大体、二〇〇メートルほど降りた所だろうか。
最初と同じく蜘蛛の巣を張ってもらう。
所謂、安全ネットを構築してもらう。
そう。万が一、俺とアイが落ちても大丈夫なようにな。
途中で疲れたりしたら、その安全ネットを足場にして休憩を入れることもできるしな。
さっきクモヨに確認したことだが、俺とアイが拘束されていた蜘蛛糸のようなモノ。
解放する際には粘性のある蜘蛛糸のようなモノを溶かして吸い込んでいた。
間近で見ていた俺は、その逆ができないか確認していたわけだ。
その逆とは――硬化させること。
当然の如くできると返された。
なので今回のようなことを思いついたってわけだな、うん。
その繰り返しで、俺達は順当に下へ下へと降りて行った――。
もしもクモヨとの出逢いがなければ、ここから先には進めずに詰んでいた。
今だけは蜘蛛の脚をくっつけやがった鬼畜野郎に感謝――。
否、やっぱそれは許せんな。
理由はナニであれ、こんなヒトの良い子に酷すぎる。
病気で亡くなった薄幸の美女の亡骸に、なんて酷い仕打ちをしてやがんだよ……。
しかし、クモヨがこの身形で居てくれなければ詰んだのも事実……辛いところだな……。
アリサ救出後には、俺が出来る限りの最大の誠意で必ずお礼をしよう。
そうだな。
できれば俺達と一緒に暮らせる方向で話を進めたいけども……皆と相談するか。
とにかく今は、無事に下に辿り着き、アリサ救出が最優先だな。
―――――――――― つづく。
流石の俺も困り顔で皆を見やるのだった。
「パパ……降りるにしても……五キロはないわ~」
「アイも流石にそんな距離は跳べないよ」
「ですわね……私も昇降スイッチらしいモノを探しておりましたけど、見当たらなくってよ。……困りましたわね、彼方」
アイの言う通り、この距離をデパートの時みたく、順番に運んでもらうのは無理だ。
降りるだけならともかく、上がっては来れないのだから。
当然、ロープ何ぞでなんとかなる距離ではないし、中央のワイヤーを伝って降りるのも、かなりリスキーな行動。
万が一、降りる途中で襲われでもしたら……逃げ場すらなく即アウトだ。
この高さから落ちたら確実に即死。
ちなみに即死とは即座に死ぬこと。
下にあると思われるゴンドラ何ぞを上に引き上げるってのも、操作方法が不明な時点で却下。
クモヨに先行してもらってアリサを呼ぶ……これもいつになるか解らんので却下。
この深さに隠すほどだ――迂回路何ぞも期待するだけ無駄。
つまり、当然の如く用意されていないと断言しておこう。
「ワタシ ガ フタリ セナカ ト ウデ デ ハコべマス……」
「流石のボクでも、この高さを自前で降りるってのはキツいってか無理……」
「アイも……。ううん、一人くらい背負ってあのワイヤーを伝うぐらいなら……できる?」
「何故に疑問形……。でも、ま、そーだわな。無理せずクモヨに甘えとくかな。最妃と未来はクモヨに運んでもらうとしよう」
「彼方は……アイに運んでもらうのでして?」
「いや。俺もあの中央のワイヤーにカラビナ……まー、登山何ぞに使う安全具なんだけども。それらを取り付けてアイと一緒に降りるとするわ……。特殊部隊も真っ青な降下作戦みたいだな。滾るわ~」
「パパ……大丈夫なの?」「彼方……」
「サバゲーで鍛えた俺を舐めんな。……多分、大丈夫だ」
「お姉ちゃん、ママ。アイもパパなら大丈夫だと思うよ。こーゆーの割に得意っぽいって記録があるから」
「お? ほれ、アイのお墨付きだ。流石に俺の記憶を継承してるだけはあるのな? ……だから心配すんな」
皆の心配を余所に、俺的バックパックから必要と思われる道具を準備し始める俺。
この間に降りる順番何ぞも皆で話し合って方針を決めておく。
時間が多少なりとも掛かってしまい、クモヨにも大きな負担になってはしまうが、降り方については現状で譲歩できる唯一の最適解だよ。
俺が考えてる方法の内容を皆に伝え、作戦の要であるクモヨにできるか確認を取ってみたのだが、ニッコリ笑って大きく肯いた。
つまり、出来るらしい。
更に言うと、全然オッケーらしい。
流石だな。クモヨの身形は伊達ではないのな、うん。
それと念の為。
誰かが落下したその時は、例の鳥黐みたいな蜘蛛糸で、フォローないし救助してもらえるようにも言付けておく。
「クモヨ、負担を掛けて申し訳ないが……どうか宜しく頼む」
「クモヨさん……ちゃんかな? ま、ヨロ~」
真剣な表情で頼む俺に対して、片手を挙げて軽い挨拶の未来。
「お、お姉ちゃん!」「チュイン!」
そんな姉の態度に慌ててダメ出しする呆れ顔のアイと、肩の上に戻ったリペアは完全にヒト事で『ま、頑張れ』的に前脚を掲げる。
「あらあら、未来ったら。それでは私も。クモヨちゃん、お願い致します」
和やかな微笑みで二人を見やった後、クモヨに頭を下げる最妃。
「マカセテ……」
クモヨはちょっと照れ臭そうに微笑みつつ、十本の蜘蛛の脚をモジモジさせた。
うーむ。
ファンタジーを通り越して、大概なホラーになってきたかもな。
「んじゃ、始めますか」
「りょ!」「うん!」
「チュイン」「承知」
「ハイ……」
先ずはクモヨに、扉内のワイヤー周囲一帯へと蜘蛛の巣を張ってもらった。
そしてワイヤーまで俺とアイを運んでもらい、ワイヤーと身体の固定の準備を進めて行く。
勿論、俺とアイも命綱で繋いでおくことも忘れない。
作業が終わって俺とアイが降下可能になったら、怪我をしている最妃はクモヨに腕に抱えてもらい、身軽な未来は咄嗟の事も考えて背中に乗ってもらい、二人と一匹はそのまま先行して下に降りてもらった。
ある程度――大体、二〇〇メートルほど降りた所だろうか。
最初と同じく蜘蛛の巣を張ってもらう。
所謂、安全ネットを構築してもらう。
そう。万が一、俺とアイが落ちても大丈夫なようにな。
途中で疲れたりしたら、その安全ネットを足場にして休憩を入れることもできるしな。
さっきクモヨに確認したことだが、俺とアイが拘束されていた蜘蛛糸のようなモノ。
解放する際には粘性のある蜘蛛糸のようなモノを溶かして吸い込んでいた。
間近で見ていた俺は、その逆ができないか確認していたわけだ。
その逆とは――硬化させること。
当然の如くできると返された。
なので今回のようなことを思いついたってわけだな、うん。
その繰り返しで、俺達は順当に下へ下へと降りて行った――。
もしもクモヨとの出逢いがなければ、ここから先には進めずに詰んでいた。
今だけは蜘蛛の脚をくっつけやがった鬼畜野郎に感謝――。
否、やっぱそれは許せんな。
理由はナニであれ、こんなヒトの良い子に酷すぎる。
病気で亡くなった薄幸の美女の亡骸に、なんて酷い仕打ちをしてやがんだよ……。
しかし、クモヨがこの身形で居てくれなければ詰んだのも事実……辛いところだな……。
アリサ救出後には、俺が出来る限りの最大の誠意で必ずお礼をしよう。
そうだな。
できれば俺達と一緒に暮らせる方向で話を進めたいけども……皆と相談するか。
とにかく今は、無事に下に辿り着き、アリサ救出が最優先だな。
―――――――――― つづく。
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