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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰捌話 追跡、其の肆。

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「お前……違うな。貴女に色々聴きたいことが山程あるんだ。どうやって此処に来たのかとか、ナニモノなんだとかな? そうだな、ヒトから呼ばれてた名前とかがあれば、先に教えてもらえないかな?」

 俺は皆の前に一歩進み出ると、できるだけ敵意を感じさせない笑顔を作り、絡新婦のようなモノに尋ねてみた。


 勿論、顔を見ながら目線はもっと下で。
 あかんヤツだな、俺。


「ワタシハ ふぉー ト ヨバレテイマス……」

 そして自分の首に付けられた、枷とタグと言うかな首輪な、そんな何ぞを指差した絡新婦のようなモノは、ニッコリ微笑んで名乗ってくれた。


 そこには『No.00004』の文字。
 つまり、個体識別番号で単純に『フォー』と呼ばれていたそうだ。


「ワタシハ――」

 名乗ったあとで、静かに目を瞑り肯いた絡新婦のようなモノ。
 俺の質問に対しての返答をゆっくりと話し出した――。


 要約するとですな、俺達の居る地下三階層よりも更に地下にある庭園らしい所に棲んで……違うな。住んでいるんだそうだ。

 普段は固く閉ざされた区画の出入口が開けっ放しになっているのと、ナニやら騒がしいのが気になって、ここまで上がって来たのだそうだ。


 話しを聴くに……そこに軟禁されていたっぽいのな?


 そして、凄惨な現場で俺達と蜥蜴のようなモノが争っているのを見て、怖くなって天井の通風口に身を隠し、成り行きと言うか様子を窺っていたんだと。


 俺達を鳥黐何ぞで拘束した理由は、自分の身姿を気にしてのこと。


 蜥蜴のようなモノと同様に思われて、危害を加えられたくないからの行動で、これについては誠心誠意謝ってくれた。

 未来がそーだったように普通は警戒するわな?

 何ぞかの病気で亡くなったことは覚えているが、それ以外は解らない。


 つまり、ヒトの頃の記憶は思い出せない。
 蜘蛛の下半身になっている理由何ぞも解らないときた。
 ……ま、この辺りお約束だわな?


 ――終始、ヒトのソレと同じ仕草で、辿々しくも一生懸命話してくれた。


 本当に可愛いと思ってしまう俺。
 実際、上半身は凄い美人さんなんだよな。
 下半身の異常にはこの際、目を瞑ろう――。


「――クモヨは、お持ち帰りの方向で」

 不適切な笑顔で伊達メガネ、キラッ! な俺。


「パパ? クモヨって、ナニ?」

「個体識別番号のフォーも響きは良いけどな? もっとこーフランクな感じで取っ付き易い名前のが俺的に良いからな? 蜘蛛の四番、クモ・ヨだ! 蜘蛛ですよ。と言う意味も、当然、含んでな!」

 やや不満げに呆れたジト目の未来にドヤ顔で返す俺。

「彼方――安直過ぎで無くて?」

「激しく同意」

「ボクもソレはないんじゃないかと思う」

 斗家美女軍より総突っ込みを喰らう俺。


 だがしかし――。


「くもよ――ステキ……」

 しかし、当の本人?……ヒトではないけども。
 満更でもないっぽく、満面の笑みで喜んでいる。
 意外に気に入ってくれたようだ。

「本当にそんなで良いの? フォーのが良くない?」

「イエ……くもよノホウガ ウレシイデス……ステキナ オナマエ……」

「さよかー。でもさ……本人が納得ならボクがとやかく言ってもね……ま、良いか」

 先ほどまで草刈デスサイズ改を構えて警戒していた未来も、すっかり態度が軟化。

 余りにもあんまりな名前に申し訳ないのか、警戒を解いて困り顔で促すも、喜んでいるようなのでそれ以上は言わずに呑み込んだようだ。

「おっと。重要なことを忘れてたわ! アリサ――見た目が小学生の女の子を知らんか?」

 上半身素っ裸なクモヨに、俺的バックパックに潜ませてあった合羽を取り出して掛けてやりながら、此処に潜り込んだ目的でもある、アリサのことを尋ねる俺。

 どーでも良いことだが、俺的バックパックには様々で色々なモノが詰め込んであんのな。
 某猫型耳無ロボの四次元ポケ◯トかって、俺でも時々思うから謎だ、うん。
 実際は、俺の身長の三分の二くらいの大きさなんだが……。


「ありさサン? ワタシト イマシタヨ?」

 顎にヒト人差し指をあてがい、首を傾げてあざとさ全開で言い放つクモヨ。

「「「「え⁉︎」」」」

 俺達は目を見開き驚く。
 アリサの居場所がやっと判明したのだ!

「クロイ イヌサン? ト イッショ 二 テイエン ノ オウチ デ マッテマスヨ?」

 更にクモヨは話しを続けた。

「それを早く言って欲しかった! 俺も聴いてないけども!」

 先ほどまで一緒に居たのだそうだ……更に居残ってるだとさ。

「アリサ叔母さん、無事で良かったよ」

「だね、お姉ちゃん!」

「クモヨちゃんが護ってくれてたのかしら?」

 斗家の面々は各々に安堵の表情を浮かべ喜んだ。

 クモヨの話しの仕方から、無事なのは間違いない。
 ただ俺だけは、従僕が居ると言うことに妙な引っ掛かりを覚えて、イマイチ両手を挙げて喜べんのだがな?

 突然、姿を眩ませたと思ったら、アリサの側に付き従っているだと?

 ま、アリサを問い質せば自ずと解るだろう。

「クモヨ。庭園だったか? 多分、住まいと言うか……そんな何ぞな所へ案内を頼めるか? 俺達はアリサを助けにここに来た。なのでお願いしたいのだが……」

「ワカリマシタ。ワタシ 二 ツイテキテ」

「おぉ! まぢか⁉︎ ありがとう、クモヨ!」

 ニッコリ笑顔で返事をするクモヨ。
 畳んでいた脚を広げて、大きな下半身をゆっくり持ち上げて動き出す。


 しつこくて済まんのだが……本当、ナニが理由で下半身が蜘蛛なん?
 他にも色々と有るだろうに……。
 もしもだが、アリサが一枚噛んでたら……絶対に泣かす!


「あと少しで目的は達する。皆、頑張ってくれ。クモヨを先頭にあとに続くぞ」

 妙な決意を心に秘めた俺。
 皆を見やって頷いたあと、クモヨのあとに続いて奥の通路に進む旨を、皆に伝えて準備をする。


 当然、俺的玩具何ぞを回収したりとかしながらな?


 先頭は案内係のクモヨ。
 続いて索敵特化双子組。
 最妃に寄り添って肩を貸す夫婦組がしんがりの隊列で油断なく。


 とは言っても――ま、大丈夫だろうがな。


 理由? クモヨが居るからだよ。
 無事に俺達の居る区画に来れたと言うことは逆も然り。
 庭園までは間違いなく無事に辿り着けるだろうよ。


 問題は……そのあとだ。


 アリサの話し次第では……この施設――場合によっては機関そのモノを、あらゆる手を尽くして潰す。


「彼方……」「なんでもない……気にするな」

 どうやら考えが顔に出てしまっていたようだ。
 最妃が心配そうに俺を覗き込んで、何ぞ言おうとするが遮っておく。

「とにかくだ。アリサと会おう」「――ええ」

 複雑な想いを胸に秘めた俺と皆は、区画奥の通路へと進んで行った。


 更に驚愕する事実を知らぬままに――。



 ―――――――――― つづく。
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