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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

佰壱話 予兆。

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 床に降り立った蜥蜴のようなモノ。
 太い四本の脚で踏ん張り溜めを作ると、再び大口を開けて二人に強酸何ぞを吐き掛けた。

「よっと!」

「とぉー」

 後方回転を連続で披露し、後退しながら躱す未来に続き、同じく後方に跳躍して距離を取り躱すアイ。

 息の合った動きを見せて、難なく躱す二人だった。

「GURU……GURU……」

 強酸何ぞを軽く躱された蜥蜴のようなモノ。

 張り出した気味の悪い腐った眼玉が左右別々に忙しなく蠢いて、二人を睨みつけるように追い回す。

 そして、禍々しい三本の鋭角を二人に構えると、床の残骸を巻き上げながら猛突進を開始した!

「ハッ! 馬鹿の一つ覚えかってね!」

 挑発とも思える罵声を浴びせる未来。

 蜥蜴のようなモノを跳び越えるように跳躍し、真下を通り過ぎた蜥蜴のようなモノの背後に宙返りを披露して着地する。

「ホントだよね、角が自慢なのかな」

 アイは未来の言葉に相槌を打ちながら横っ跳びで躱し着地すると、一足跳びで未来の元へ。

 反転している蜥蜴のようなモノを油断なく見据え、伐採ヒートホークを両手持ちで構える。

「GURU GAH GAH GAH GAH」

 二人の方に向き直り太い四本の脚で踏ん張ると、再び溜めを作り大口を開けた。

 周囲一帯を埋め尽くす勢いで、弾丸のように吐き出された無数の強酸何ぞ。
 床と散らばる残骸をも溶かして黒煙を上げる!

「ウザっ!」

 周囲に銃弾のように撒き散らす強酸何ぞ意にも介さず、立体的な動きで躱しながら距離を詰めていく未来。

「ばっちぃ!」

 同じく跳ね回って躱しながら、横に回り込んでいくアイ。

「ハッ! その大口、いい加減に閉じてやんよ!」

 蜥蜴のようなモノの正面に辿り着いた未来は、顎下から俺的パイルバンカー付きの右拳で殴りつける!

「じゃあ、アイは大口を開けれないように、裂いてあげよっかな」

 同時にアイの伐採ヒートホークが真横から、大口目掛けて振り抜かれた!


 だがしかし――。


 二人の息のあった連携攻撃が到達する刹那、蜥蜴のようなモノが突如として掻き消える!

「な!?」「え!?」

 空振りして空を斬り、体勢を崩した未来とアイ。

「GYA GYA GYA」

 次の瞬間、未来とアイの背後から姿を現し、嘲笑うかの如き咆哮をあげて、丸太のような太い尻尾で薙ぎ払った蜥蜴のようなモノ。

 予想だにしない躱され方で不意を突かれた二人。

「アゥッ!」「アイ!」

 背中から薙ぎ払われた為に、反り返って吹き飛んでしまったアイ。


 だがしかし。
 未来だけは振り抜かれた尻尾に反応した。


 瞬時に身を捻ねり、両手を交差させて真正面から受け止め、踏ん張る脚が床を引き摺られて後退るもどうにか堪えきった。

「GYA GYA GYA」

 初めからそこに居なかったかのように、再び掻き消える蜥蜴のようなモノ。
 未来の横に唐突に姿を現わし、太い尻尾で薙ぎ払う!

「なんのっ!」

 咄嗟に床を蹴り抜き、背面宙返りで跳び越える未来。
 床に手を突き着地すると、数回ほど横転して距離を取る。

「GYA GYA GYA」

 未来を薙ぎ払うと同時に、倒れているアイに向け強酸何ぞも吐き掛けた。

「あぅっ!」

 床を数回ほど横転してなんとか躱しきるアイ!

 吐き掛けた直後に掻き消えた蜥蜴のようなモノは、起き上がったアイの目の前に瞬時に現れると、噛みつこうと大口を開けて迫る!

「させるかっての!」

 アイに迫る蜥蜴のようなモノの横っ面から、飛び蹴りを喰らわした未来。
 蹴り抜く瞬間、蜥蜴のようなモノは再び掻き消える。

「GYA GYA GYA」

 空を斬って着地する未来の背後に現れ、太い前脚で横薙ぎに殴り飛ばされそうになる未来。

「舐めんなっての!」

 鋭い爪が生えた不気味に太い前脚を、俺的パイルバンカーを盾に受け流す未来。
 その流れた勢いのままに、左後ろ回し蹴りを腹に目掛けて蹴り放った!

 蜥蜴のようなモノは半回転して即座に躱し、回った勢いを載せた太い尻尾で未来を薙ぎ払うが、両手を交差させて尻尾を受け止める未来。


 息を吐かせぬ攻防を繰り広げる、未来と蜥蜴のようなモノ!


「GYA GYA GYA」

 再び掻き消えると瞬時に背後に現れて、未来に噛み付こうと大口を開ける。

「さ、させない!」

 アイは起き上がるや否や、渾身の体当たりで吹き飛ばしてなんとか防ぐものの、吹き飛ばされた蜥蜴のようなモノは、宙を舞う間に掻き消えてしまう。


 直後、二人の真横に現れ、太い尻尾を振り抜いて薙ぎ払った。


「チョロチョロと!」

 未来はまたも両腕を交差させて受け止める!

「あぅ、重い!」

 アイは伐採ヒートホークを縦替わりに受け止める!


 だがしかし。
 遠心力が載った重い一撃に押し切られてしまい、吹き飛ばされる二人!


「あの速度、簡易型では捉えきれんぞ」

 直接戦闘では役立たずな俺は、双子組と蜥蜴のようなモノの攻防を、ただ見ていることしかできなかった。

 下手に動くと未来とアイの足を引っ張るか、最悪は邪魔になりかねない。
 隙有れば援護的何ぞを入れたかったんだがな。
 実際には無理だっただけだよ。

 攻撃の機会を窺ってたと言うわけではなく、そう言うわけで単に動かなかったに過ぎない。
 更に言うと、動けなかったが正しいんだが。

 その所為とでも言っておくと聞こえは良いが、蜥蜴のようなモノが行った詭計の一部始終を、遠巻きに見れて知ることができた。

 桃色の蜥蜴のようなモノが掻き消える一瞬を、俺的ナイトヴィジョンに搭載の高速度カメラは鮮明かつ明確に捉えてくれた。


 突如、消えて現れたかのように見えたが、透明化して消えたわけではなかった。

 肉眼で追うのは普通のヒトでは不可能なほど、目にも留まらぬ速度で単純に動いていただけだ。


「くっ……ホント、重い!」「うぅ……」 

「GYA GYA GYA」

 壁際まで吹き飛ばされて、起き上がろうとしている二人を仕留めようと、猛突進を仕掛ける素振りを見せる蜥蜴のようなモノ――。



 ―――――――――― つづく。
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