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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

玖拾参話 未知、其の肆。

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 靄の中に輪郭が浮き上がるか、不自然に揺らげばそこに居ると解る。

 動けば足音ないし、何ぞかの僅かな音でも拾える筈だ。

 周囲との温度差が大きく生じれば、熱源を感知し易くなる。


 視覚に聴覚、更に温感の三段構えだ!


「流石パパのアンビー! 何とか攻撃が見えるよ! 細長いナニか! それでボク達を攻撃してる!」

 皆に向けて大声で見えたモノを伝える!

 未来は後方一回転で跳び退いて躱す最中に、素早く草刈デスサイズ改をも背中から抜き放ち、攻撃された方を見据え、隙のない迎撃体勢で移動する。

 連続して襲ってくる細長いモノから身を躱すアイ。

 俺の成そうとすることの意味が解ったらしく、転がる最中に俺的スカウターのレンズを素早く下ろし、俺的ビームライフルを俺的スカウターに接続して未来に倣う。

「見えた! これなら躱せる! アイも負けない! 」

 攻撃される瞬間が解るようになり上手く躱していく! 

 床を何回も横転しながら躱してその場を離脱する。

「チュイン、チュイン、チュイン!」

 リペアもアイの肩から肩へまるで滑車を回すが如く、危なげなく器用に移動して飛んでくる障害物を躱す。

 ハムスターの外見は伊達ではなかった謎生物は、前方を特徴的な金眼で油断なく睨み敵を探した。

 俺的ナイトヴィジョンは周囲を青色で映している。
 区画一帯に蔓延した冷えた空気の温度を示している。


 そんな中、アイを攻撃した際に赤く染まる物体を映し出した!


「そこかっ!」

 赤く染まる物体は敵の体温を示すモノ――それが上に巻き上がったのを俺は見逃さなかった。

 俺的ナイトヴィジョンは明確に薄い靄の中に浮かぶ、対象の体温と移動時の微かな音を確実に捉えた!

「アイ! 本体は、アイの真上だっ!」

 叫ぶと同時に天井に向けて俺的ドラグーンをぶっ放す俺!

「ハッ!」「チュイン!」

 俺が撃ち抜いた天井の真下に居たアイは、俺の叫びを耳にした瞬間に跳び退いて向き直り、その天井の周囲をバルカンで包囲射撃を敢行!

 直後、天井から真下の散乱していた犠牲者達が、巻き上げられて四方八方に吹き飛んでいく!

「気配すら遮断し透明化までとはな……全く恐れ入るわ……。だが、体温と動く音までは、やはり誤魔化せなかったな!」

 俺が最初に床に投げ付けた俺的ガチャポンは、実は単純な煙幕何ぞでは断じてなかったのだ。


 中身は俺的調合の固体二酸化炭素に塩水。

 つまり、ドライアイスだ。


 スィーツ屋で詰めてくれるドライアイスなるモノは、固体から直接気体になるファンタジーな性質があり、常圧環境下では液体にならず気体に昇華してしまい、それで空気中の水分が凍って白煙を発生させるのだ。

 水に浸けると大量に噴き上がるアレの応用だ。


 つまり、煙幕のように見えていただけだな。


 靄の流れで大凡の位置や動きが把握できる。
 輪郭でも浮き彫りに出れば尚良しってな感じだ。

 更に固体二酸化酸素は溶けて気体に昇華する時の効果で、周囲の熱を奪い温度を下げる性質もある。

 周囲の温度が下がれば対象の体温との差がより開く。


 つまり、熱源感知で検知し易くなるってわけだ。


 投げた俺的ガチャポンの狙いは同時に二つ、本来の冷却効果と副次効果の煙幕散布だったんだよ。

 但しその効果はドライアイス何ぞと比較にならん程、周囲を冷やして靄を噴き上げる大概なモノだがな。


 次に俺が押し付けてやった俺的ガチャポンには、鉄粉と活性炭、塩水等のお馴染みの素材の他に、ヒル石という雲母系の原鉱石から作られる人工用土、バーミキュライトをたっぷり詰め込んである。

 鉄は酸素と反応すると酸化鉄、水酸化第二鉄、所謂、錆に変化する際に化学反応が起きて発熱する。この発熱する仕組みを応用した。


 つまり、使い捨てカイロってわけだよ。


 万一、体温まで隠蔽されていたら元も子もないので、中身を撒いて熱源をヤツの身体に付加したってわけ。

 俺的ガチャポンで周囲の温度が下がり、次の俺的ガチャポンで対象の温度が上がれば、外気温と対象の温度差が大きく生じることになって、当然、赤外線センサーにも捉え易くなるって寸法だ。


 たっぷり詰め込まれた発熱素材はそれを可能とする。


 電波妨害等で完全に隠蔽されて姿が見えなくても、接敵する至近距離での熱源探知と音波探知までは、流石に誤魔化せんのではと考えた俺的作戦だな。


 ちなみに俺的ナイトヴィジョンに搭載の音波探知機は、超音波を飛ばし対象の位置を割り出し把握もできる。


 つまり、蝙蝠のアレ。


 今回は音を拾う方で音波探知を使用したが、超音波は熱源探知が無効の時に試すつもりだった。

 まあ、俺が遊んでたゲームに出てくる似た敵を攻略する手段から閃いた、苦肉の作だった。
 通用するかってのも俺自身は半信半疑だったがな……。


 そして――。


 狙い通りに極薄い白い靄が揺らいだ場所に、浮き彫りにされた敵の輪郭が曝け出された!


「やはり……だが……コイツは何ぞ!?」

「ナニであろうとも、私は容赦致しません!」

「ハッ! ――って、ナニ!?」

「怪電波反応なしだよ、パパ! 正体不明!」


 極薄い靄が揺らぎ、輪郭を曝け出した場所から徐々に色が浮き上がり、本来の姿が完全に曝されていった――。


 俺達の前に立ちはだかった未知の怪物。


「何ぞ!? この研究機関でナニが起こっている!?」

 コイツは一体――。



 ―――――――――― つづく。
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