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第参章 失いゆく、日常――秘密の花園編。

漆拾参話 贈物、其の弐。

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 真っ黒な黒熊にそっくりな容姿から付けられた種名――クロクマハムスター。

 有り得ない未知のこの環境の中で、現代に実在しているその生物の姿のままでだ、屈託のない愛嬌のある愛らしい寝顔で、丸まってスヤスヤと静かに寝息を立てていた。


 ここって俺的電波検証では、外宇宙知的生命体の未知なる宇宙船的何ぞか、秘密の駐屯基地的何ぞと思ってたのに、ナニ?
 なんでこんなのが居るんだよ!
 意味不明にも度が過ぎてんじゃね?
 頭が変になるわ! 
 いや、元々から頭おかしいけども。


「クロハムもだが……これは……一体、何ぞ?」

 一通り自分に突っ込んで気を取り直した俺は、隣に置かれた小さな板状のナニかに気付いた。


 目の前に現れた謎の生物と一緒に在ったモノ。


 まるでヒエログリフのような記号とも模様とも思えない謎の何ぞが描かれた、俺も見たことがない石盤のようなモノだった。

「これはもしや!? お約束の重要アイテムでは!? 謎の石盤的なモノと違うんじゃね、コレ!?」

 魔法文明や古代文明を扱う創作モノ騙りや、ゲーム何ぞに良く登場するお約束的アイテム――、


 通称、謎の石盤――。


 本当に謎の石盤のようなモノだったとしたら、大概は重要な情報が記されている場合が殆どだ。
 この生物に関する説明的な何ぞではないのか。

 なので俺は重要な手掛かりが得られるモノと、もう少し詳しくと逸る気持ちが先に来てしまい、迂闊にも石盤のようなモノに全く警戒せず、不用意に手を伸ばしてしまった。


 そして、指先が触れた瞬間――、


「なっーー!? う……っ!!」

 俺の頭の中を弄くり回すような、妙な感覚に突如として襲われた!
 表現のしようがない膨大な謎の何ぞなナニかが、俺の頭を掻き乱すように侵入してきた!

「なんだ……これ……」「マ――パパ⁉︎」

 見たことも聞いたこともない、わけの解らない単語のような記号のような何ぞが侵食してきて、脳を直接揺さぶってくるような妙な感覚。

 そして足元が不安定に揺れるような錯覚を感じる。
 それでいて不快な感じ何ぞは一切しない。
 余りにも膨大な量の何ぞかが侵食する所為で意識が朦朧とし、まるで酔ったようになる俺。

「ち、地球が……回っている……」

 目眩に襲われて立っていられなかった俺は、妙な台詞を宣い頭を抱えてその場に倒れた。

「パパ、しっかりして⁉︎」

 慌てて俺に寄り添うと静かに仰向けにして、頭を支えるようにそっと膝枕してくれたアイ。

 眩しくないようにと、仮称、アイライトの光量も落とし、そのまま俺を心配そうに抱きかかえてくれた。

「アイ……大丈夫だ。ちょっと――酔っただけっぽい」

「パパ? 大丈夫……なんだよね?」

「あゝ――心配するな……少し……眠い……」

「え⁉︎ ――パパ?」

 俺的お至宝の心地良い柔らかさも頭に直に感じ、頬に掛かるサラサラの銀髪の肌触りに絆される。

 甘く優しい香りに包まれ安心感を貰った俺は、難しいことを考え過ぎてつい眠くなる感覚に陥り、愛娘に抱かれたまま意識を手放してしまった――。


 君の知識……。言葉を紡ぐ……。
 我は不明……。理由は敵対勢力……。

 君側の言葉……。ヒュービーと呼ぶ……。
 我は抗う……。君を巻き込む……。
 君を直した……。それは謝罪……。

 君の知識が対価……。知識は我の力の源……。
 再構成は貰う知識……。故に若返る……。
 必要分は増減……。知識は時間……。
 時間は有限……。無限ではない……。
 故に潰える……。

 君も超常に関わった……。
 ヒュービーは我を滅ぼす……。
 ヒトはヒュービーに滅ぼされる……。
 我がヒュービーを滅ぼす……。
 ヒュービーもまた我を滅ぼす……。

 君の言葉……。ノウと呼ぶ……。
 自己保存と増殖……。世に悪影響……。
 君らを護る……。君の記憶を元に……。
 アイを与える……。
 ヒトの姿……。対応し易い……。
 記憶から娘……。理想を具現化……。
 これは特典……。

 過ぎた力……。身を滅ぼす……。
 膨大な知識……。限られた一部……。

 我は君が好ましい……。
 我は敵では無い……。

 友好の証……。君を信頼……。
 故に譲渡……。

 君の言葉……。現代文明……。
 多大な影響……。止むなく制限……。
 故に自由叶わず……。

 我は少し眠る……。我の願い……。
 君の助けが必要……。
 我と共に……。君と共に……。

 我と君等に…… 。幸あれ…… 。


 俺に言葉ではなく、意識で直接擦り込んで来た神に疑問符なるモノからの啓示のようなモノ。


 俺は寝ているにも関わらず、全てを認識し掌握できていた。


 感覚で得た知識をナニと表現すれば良いのか。
 強く意識して呼び出そうとも思い浮かばない。
 誰かに伝えようとしても言葉に繋がらない。
 理解はできるのに表現はできない感覚。


 何がどうとかの理屈ではなく、ただ解る。
 俺にしか理解できず、知識には制限が掛かる。


 それすなわち制約。等しく誓約――。


 俺自身がこのファンタジー現象を実際に体感して、最妃が晒せないその理由と意味を唐突に理解した。

 最妃にも恐らくこの手の制限ないし制約があって、あんな風に濁して伝えるしかなかったんだろうな……。
 恐らく俺のとは比べモノにならないほどに重い、リスクが掛かった制約ないし誓約なんだろうな。


 呪いの類と言っても過言でないほどのな。


 一方的な感は否めないが、神に疑問符はヒトではない。
 俺から知り得た知識から言葉を紡いで伝えたんだろうか――。



 ―――――――――― つづく。


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