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第弐章 壊れゆく、日常――デパート編。

肆拾漆話 脅威、其の参。

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 着地後、素早く瓦礫に身を隠す俺達。


 上階から見たままの、あまりにも酷く凄惨な光景が目に入る――。


 無残に破壊された瓦礫の下敷きになって潰れたモノ。
 投げ出された御体満足なモノから、五臓六腑を喰い散らかされたモノまで。


 流石の俺でも目を覆いたくなるほど、そこかしこに犠牲者の遺体が散乱していた。

「酷えな……」

 更に、周囲は錆びた鉄の匂いが充満し、赤黒い霧のようなモノが充満。
 その所為なのか、ザラリとした不快な空気が立ち込めていた――。

「安らかに――南無。皆、油断するなよ! 躊躇せず、一気に抜け切る!」

「りょ!」「肯定」「承知ですわ」

 執拗に周囲を見渡し、脅威がないことをしっかりと確認したうえで、皆が瓦礫から一斉に飛び出す!

 そして、エントランスに向けて、一気に駆け抜けた!

 だが、エントランスのゲートに差し掛かる寸前、俺達は足を止めた――。


 否、止めざるを得なかった!


「クソったれが……」

「ゆ、許さない!」

 俺達の目の前に立ち塞がって蠢く――ヒトだったモノ。

「クソ! 何処まで冒涜すれば気が済む!」

「――万死に値する所業ですわ」

 既に意思無き肉塊として、ただ、蔓延っているそれら――。


 素敵なハロウィンのコスプレ衣装に身を包み、俺達家族と気さくに写真を撮ってくれた、あの素敵なお姉さん。

 兎や熊の愛くるしい可愛い着ぐるみ姿で戯けて、俺達家族を愉しませてくれた、スーツアクターの方々。


 その……成れの果てであった――。


 コスプレ衣装のお姉さん達は――腕が捥げたモノ、肉が削げ落ちたモノ、あらぬ方向に関節が曲がっているモノ、腸を引き摺って這いずり蠢いているモノ。

 兎や熊の着ぐるみの合わせ目からは、悍ましい肉塊や肉汁を垂れ流し、ただ蠢いている――。


 見るに堪え難い、酷い有り様であった。


 意思無き肉塊に成り下がったそのヒトらが、俺達に気付くや否や踵を返し、我先にと一斉に群がってきた!

「楽にしてやりたいところだが……今は逃げるぞ!」

 捕まえようと迫る意思無き肉塊を躱し、エントランスゲートを目指し走り出す俺達!

「肯定」「承知」

 アイも最妃も俺の指示に従い、相手にせず交わしていく。

「許さ……ない」

 未来からは凄まじい怒りが伝わってくる。
 だが、今は俺の指示に従って回避に専念してくれた。

 群がる意思無き肉塊は動きが鈍く、俺でも余裕で交わせる程度だった。


 だがしかし。
 そこで予期せぬ異常事態が発生する!


「ナニっ⁉︎」「不明」

「何ぞ!?」「なんですの⁉︎」

 突如、赤黒い霧のようなモノが充満しているだけの、ナニもない空間が、突然、歪んだのだ!


 そして、俺達目掛けて群がってくる意思無き肉塊の多くが――宙に浮いたのだ!


 踠きながら次々と宙を舞って消えていく、意思無き肉塊!


「何ぞ!? ヤツらは空を飛べるとか?」

「この状況で馬鹿なことを宣わないで、パパ!」

「す、すまん、未来。あまりのファンタジーさに……つい」

「彼方、新手のノウ……かしら?」

「アイには不明」

「俺にもサッパリ……」

「キモ」「お姉ちゃんに同意」

「でも……一体、ナニが何処から……」


 だがしかし。
 今度は謎現象の原因がハッキリと見えた!


 俺達の頭上から気配もなく掴み掛かって伸びてくる、タコ烏賊イカに似た悍ましい触手らしきモノ。


 更に、降り注ぐ勢いで襲い掛かってくる触手は、一本どころではなじゃったのだ!


 かなりの数が赤黒い霧のようなモノを掻き分け、俺達を意思無き肉塊諸共、無差別に掴もうとして不規則に伸びて襲い掛かる!

「しまった!」

「パパ!」「マスター」「彼方!」

 その内の一本に不意を突かれ、胴体に絡みつかれる俺!

「クソ! また触手かよ! 俺は美少女じゃねぇぞ! おやぢだぞ!」

 美少女に触手は心躍るお約束展開なのだが、気色悪い何ぞに掴みあげられ、そんな余裕が全くなく悪態を吐くので精一杯の今の俺。

「誰もおやぢのそんなシーンは見たくない!」

 すかさず脇の専用ホルスターから俺的ドラグーンを抜き放つと、胴体に絡みつく触手の根元に向けてブっ放した!

 途端、吹き飛んで分断された触手!

 解放されるも投げ出されてしまった俺は、そのまま地面を転がっていった!

「痛つつ~、大丈夫だ! 俺に構わず急げ!」

 直様、跳び上がるように起き上がり、無数の触手を潜り抜け、皆の元へと駆けつける俺。


 意思無き肉塊に成り下がったモノ達は、突如として現れた触手のようなモノに次々と捕縛され、いつの間にか全てが消失していた――。


「触手のようなアレは一体――」

 理解に苦しむ現象に困惑する俺。

 索敵特化なアイも、超直感な未来も無反応。
 俺にしても、悪寒もしなければ鳥肌すらも立っていない。
 

 ノウ出現の予兆は、誰も感じなかった。


 つまり、辺りに意思無き肉塊以外は居なかった筈だろ?

 では、あの触手みたいなモノは何ぞ?
 状況から見てもノウに違いない筈だが。


 突如湧いた意味不明なモノについて考察していた俺は、不意に様子のおかしい家族らに気付く。

 ゲートがあったであろう瓦礫の側で足を止め、虚空を唖然として見上げているのだ。

 未来とアイ、最妃までもが、苦い顔をして遠くを見やっている。


 凄まじく嫌な予感――懸念していた最悪の事態が、俺の頭を過ぎる。


 そして――。


 大急ぎで皆の元へと駆け寄った俺は、皆が見やる方向を見て驚愕することになった。



 ―――――――――― つづく。
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