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第弐章 壊れゆく、日常――デパート編。
参拾陸話 最妃。
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ノウ・キメラと相対する未来とアイ。
突如として現れた悍ましき醜きモノに、並々ならぬ苦戦を強いられていた――。
耐性のない普通のヒトならば、目にするだけで精神障害を引き起こしてもおかしくはないほどに、禍々しくも悍ましき醜きモノ。
生物が不規則に混じり合い、形成しているそれは、例えるなら混沌。
威嚇とも咆哮とも思える耳障りな咆哮が、こちらの冷静な判断を阻害して、動きも鈍らせる。
だが、二度も絶望に瀕した経験のある未来は、尋常ならないほどのそれらに耐え抜いてみせた――。
どれほどの手数で、アイアンキャンディを打ち込んだのかは解らない。
それでも目の前の敵は倒れない。
同化している珠玉の力添えも、何故か感じない。
破損箇所は再生されてはいないとはいえ、終わりの見えない戦いに、未来は攻め倦んでいた。
崩落して穿たれた穴に落ちていった両親も気掛かりだが、迂闊に動けば死あるのみ。
気持ちばかりが焦る未来だった――。
「XXXxx!」
「ハ? ナニ言ってんの? 意味フだっつーの! タフだけが取り柄のキモタコ野郎が!」
流石に消耗してきたのか、肩で息をする未来。
油断なく身構えて倒れない目の前のモノに、悪態をつきつつ吐き捨てた。
「肯定。知性の欠片も感じない」
アイも臨戦体勢のままで抑揚なく、未来の言葉に相槌を重ねた。
「アイ。ナニか……弱点的なのとか解んない?」
「否定。流石にその機能はないです」
「――使えない子」
余りにも理不尽な目の前のモノに、疲労の色を隠せずにいた未来。
父の真似をして、少し巫山戯気味に期待薄でアイに尋ねるも、予想通りの返答だった。
「酷っ! お姉ちゃん、酷っ!」
茶化された未来の言葉にアイは、素に戻ってぷくっと頬っぺたを膨らませて、その言葉に異議を唱える。
「さて、どうしたら良いのよ、私」
アイに愛らしい膨れっ面――自分そっくりな顔を見せられて、憔悴しきっていた心と身体に、僅かばかりのゆとりが戻ってくる未来。
少し冷静になり気持ちを切り替えた矢先、それは訪れた――。
「緊急。詳細不明な個体。数、一。位置、真下。速度低。現在接近中」
血相を変えたアイから挙がる突然の警告――未来も持ち前の感覚で違和感を直ぐに感じ取れた。
「感じた――この重圧ナニ!? ちょっ、ヤバない!? パパは大丈夫なの!」
「肯定。生存は感知済」
この場に居るだけで、精神崩壊を起こしそうな、未だ経験したこともない、凄まじいまでの重圧感。
全身が震えて萎縮するのが自分でも解る。
呼吸も徐々に覚束なくなってくるうえに、悪寒がはしり、全身に鳥肌が立つ。
嫌な冷や汗も大量に吹き出てくるほどに――。
相対するノウ・キメラでさえ、その得体のしれない存在を察知したのか、動きを止めて後退りしつつ警戒し始めた。
得体の知れない恐るべきナニかが、目の前の大穴から接近しつつある――。
「ナニ……ナニが来るって言うのよ!」
「詳細不明。緊急離脱推奨って――お姉ちゃん、早くっ!」
近付いてくる強大な脅威に焦るアイは、電波演技も忘れて素に戻ってしまうものの、すかさず未来の腕を掴み警告を発する。
アイが掴んだ未来は……身体が萎縮し、かなり震えていた。
勇敢で自慢の姉を、ここまで怯えさせるモノとは一体……。
「ここにいたら――」
戸惑いを隠せないがモタモタしている暇は無い!
掴んだままに、一気に全力で跳び退いた!
「コレはナニ! ――有り得ないでしょ!!」
「未来お姉ちゃん!」
戦闘領域から観覧車付近まで後退したあとで、油断なく大穴に注意を向ける未来とアイ。
崩落した穴から、強大で絶望を知るに等しい気配を放つモノ――。
相対して生き残る事叶わずの、禍々しい魔獣の如き気配を全身から発している。
異議を唱える事認めずの、有無を言わさぬ絶対者の如き威圧感も纏っている。
この場から逃げる事許さずの、確実に訪れる終わりを告げるがの如く、絶対的な死を連想させ辺り一帯を支配する、未だかつて無い圧倒的なまでの重圧感のそれ――。
「――無理。アレがもし敵なら……全てが終わり、世界が滅ぶ!」
未来は気を失いかけ意識を手放しそうになるが、必死に繋ぎ止めて耐えようと試みる。
しかし、余りにも理不尽な重圧感に敵わないと本能で悟り、弱音を吐いてしまう。
「未来お姉ちゃん――気をしっかり!」
人外のアイでさえ、先ほどから脚が竦み、恐怖と焦燥感にかられてしまうほどに。
「こんなの、ヒトの世界に……居て良いモノじゃない……」
決して関わってはならないモノが、今、ゆっくりと姿を晒す――。
―――――――――― つづく。
突如として現れた悍ましき醜きモノに、並々ならぬ苦戦を強いられていた――。
耐性のない普通のヒトならば、目にするだけで精神障害を引き起こしてもおかしくはないほどに、禍々しくも悍ましき醜きモノ。
生物が不規則に混じり合い、形成しているそれは、例えるなら混沌。
威嚇とも咆哮とも思える耳障りな咆哮が、こちらの冷静な判断を阻害して、動きも鈍らせる。
だが、二度も絶望に瀕した経験のある未来は、尋常ならないほどのそれらに耐え抜いてみせた――。
どれほどの手数で、アイアンキャンディを打ち込んだのかは解らない。
それでも目の前の敵は倒れない。
同化している珠玉の力添えも、何故か感じない。
破損箇所は再生されてはいないとはいえ、終わりの見えない戦いに、未来は攻め倦んでいた。
崩落して穿たれた穴に落ちていった両親も気掛かりだが、迂闊に動けば死あるのみ。
気持ちばかりが焦る未来だった――。
「XXXxx!」
「ハ? ナニ言ってんの? 意味フだっつーの! タフだけが取り柄のキモタコ野郎が!」
流石に消耗してきたのか、肩で息をする未来。
油断なく身構えて倒れない目の前のモノに、悪態をつきつつ吐き捨てた。
「肯定。知性の欠片も感じない」
アイも臨戦体勢のままで抑揚なく、未来の言葉に相槌を重ねた。
「アイ。ナニか……弱点的なのとか解んない?」
「否定。流石にその機能はないです」
「――使えない子」
余りにも理不尽な目の前のモノに、疲労の色を隠せずにいた未来。
父の真似をして、少し巫山戯気味に期待薄でアイに尋ねるも、予想通りの返答だった。
「酷っ! お姉ちゃん、酷っ!」
茶化された未来の言葉にアイは、素に戻ってぷくっと頬っぺたを膨らませて、その言葉に異議を唱える。
「さて、どうしたら良いのよ、私」
アイに愛らしい膨れっ面――自分そっくりな顔を見せられて、憔悴しきっていた心と身体に、僅かばかりのゆとりが戻ってくる未来。
少し冷静になり気持ちを切り替えた矢先、それは訪れた――。
「緊急。詳細不明な個体。数、一。位置、真下。速度低。現在接近中」
血相を変えたアイから挙がる突然の警告――未来も持ち前の感覚で違和感を直ぐに感じ取れた。
「感じた――この重圧ナニ!? ちょっ、ヤバない!? パパは大丈夫なの!」
「肯定。生存は感知済」
この場に居るだけで、精神崩壊を起こしそうな、未だ経験したこともない、凄まじいまでの重圧感。
全身が震えて萎縮するのが自分でも解る。
呼吸も徐々に覚束なくなってくるうえに、悪寒がはしり、全身に鳥肌が立つ。
嫌な冷や汗も大量に吹き出てくるほどに――。
相対するノウ・キメラでさえ、その得体のしれない存在を察知したのか、動きを止めて後退りしつつ警戒し始めた。
得体の知れない恐るべきナニかが、目の前の大穴から接近しつつある――。
「ナニ……ナニが来るって言うのよ!」
「詳細不明。緊急離脱推奨って――お姉ちゃん、早くっ!」
近付いてくる強大な脅威に焦るアイは、電波演技も忘れて素に戻ってしまうものの、すかさず未来の腕を掴み警告を発する。
アイが掴んだ未来は……身体が萎縮し、かなり震えていた。
勇敢で自慢の姉を、ここまで怯えさせるモノとは一体……。
「ここにいたら――」
戸惑いを隠せないがモタモタしている暇は無い!
掴んだままに、一気に全力で跳び退いた!
「コレはナニ! ――有り得ないでしょ!!」
「未来お姉ちゃん!」
戦闘領域から観覧車付近まで後退したあとで、油断なく大穴に注意を向ける未来とアイ。
崩落した穴から、強大で絶望を知るに等しい気配を放つモノ――。
相対して生き残る事叶わずの、禍々しい魔獣の如き気配を全身から発している。
異議を唱える事認めずの、有無を言わさぬ絶対者の如き威圧感も纏っている。
この場から逃げる事許さずの、確実に訪れる終わりを告げるがの如く、絶対的な死を連想させ辺り一帯を支配する、未だかつて無い圧倒的なまでの重圧感のそれ――。
「――無理。アレがもし敵なら……全てが終わり、世界が滅ぶ!」
未来は気を失いかけ意識を手放しそうになるが、必死に繋ぎ止めて耐えようと試みる。
しかし、余りにも理不尽な重圧感に敵わないと本能で悟り、弱音を吐いてしまう。
「未来お姉ちゃん――気をしっかり!」
人外のアイでさえ、先ほどから脚が竦み、恐怖と焦燥感にかられてしまうほどに。
「こんなの、ヒトの世界に……居て良いモノじゃない……」
決して関わってはならないモノが、今、ゆっくりと姿を晒す――。
―――――――――― つづく。
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