上 下
29 / 154
第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

弐拾玖話 休息、其の肆。

しおりを挟む
 ほどなくして、リビングに皆が集まってくる。

 俺が少し遅れて皆の所へやって来ると、でき立ての最妃の手料理が、テーブルに続々と運ばれてくる。

 未来とアイも運んだり食器の準備をしたりと、甲斐甲斐しくもお手伝いをしていたらしい。

 ワンコ?達も既にリビングに集合して、ベロは忙しなく、スゥは優雅にご飯を待っていた。

 ただケルだけは窓の外を見やり、大人しくお座りしている。
 所謂、見張りってヤツだな……ナニを見張っているのかは俺の知るところでは全くないのだが、まぁ、いつものことだ。

「遅~い! 今日はハンバーグらしいよ、パパ」

「おお! お昼から豪勢だな!」

「あらあら」

「アイも大好きです♪ ママの美味しいご飯♪」

「ベロにスゥもお待たせ。さぁ、召し上がって」

「ハッ!」「フンッ!」

 最妃に出されたお昼ご飯にベロは飛び付き、スゥは静かに食べ始めた。

「ウォンッ」

 見張り役をしているつもりのケルだけは、最妃に会釈し終わると、再び外を監視していた。
 いつもベロとスゥが食べ終えてから食事をするからだ。

「「「「いただきまーす」」」」

 テーブルに腰掛け全員が集まったところで、一家団欒のお約束的な挨拶を済ませ、食事をし始める斗家の面々。

 今日の出来事など色々と雑談をしたりして、和気藹々と愉しい時間を過ごしていく――。


 そして唐突に俺が切り出すわけだが。


「最妃の誕生日は?」

「「明日!」」

「そこで俺から提案がある!」

「あらあら」

「皆で明日、お出掛けしよーではないか!」

 そーなのだ。
 俺嫁の最妃の誕生日は明日だ。

 俺的素敵プレゼントはなし崩しで先渡しになってしまったので、代わりに皆で出掛けようと提案してみたのだ。


 当然の如く、俺店は休業日に決まっているのでな?

「何処ぞ行きたいスポットとかないかな~? ホラースポットとか」

 行楽地でも良いし、買物や食事でも良い。
 最妃が喜ぶことならバッチ来いだ!

「ボクはショッピング!」

「アイは遊園地!」

「だが断る!」

「「えー!?」」

「あらあら」

 全く、俺娘共は……相変わらずで御座いますな。
 しかし、俺的便利家電のアイが遊園地って……。


 絶叫コースターも真っ青な機動力なのにか?


 ま、家族で賑やかな場所で遊びたいんかね?

「彼方、私は何処でも宜しくってよ?」

「それがな? 一番困る返事と知れよな、最妃」

 お決まりの返事にダメ出しをする俺。

「それはいけません。如何なさいましょう?」

 口の前に手をやり貴婦人の良くやる、オホホな仕草で謝る最妃の表情は、めっさ嬉しそうだ。

「ママー! 自分の行きたいところで全然オッケーだよ! 例えば、皆でワイワイお買い物とか!」

「そうだよ、ママー! 皆でワイワイ乗りモノに乗るのも良いよ~♪」

 テーブルに両手をついて身を乗り出し、悪巧みしてる悪戯っ子の様に目を輝かせ、最妃に自分の行きたい所を強引に勧める二人。

「未来! アイ! しれっと誘導、す・ん・な!」

 そして、それぞれにデコピンを喰らわす俺。
 未来の意見については、最妃にしても、案外、喜びそうだから良いかもだ。


 だがな、アイ。元乗りモノが現乗りモノに乗りたい心境を、俺に解り易く丁寧に説明するがよろし。


「私は皆と一緒であれば、何処へなりと――でも、そうですわね~」

 俺の質問に嬉しい感情を隠せずにいる最妃。
 いつも以上に和やかな微笑みで、顎にヒト差し指をあてがい暫し思案する。
 少し間をおいてから、自分の希望を優雅に優しく返答し始める。

「最近、できたデパートに、素敵なお洋服店があるとご近所さんが仰っておりましたから、そちらにでも伺ってみたいですわね~」

「え? 洋服⁉︎」

「屋上には観覧車等の遊園地、他にも色々な娯楽施設が充実してらっしゃるとか」

「え? 観覧車⁉︎」

 それから額を摩りながら涙目で聴いていた、俺娘二人に向かって髪を撫でると、茶目っ気たっぷりのウィンクをかました。

「「決まり! デパートで!」」「あらあら」

 返答を聴くなり再び悪戯っ子の様に目を爛々と輝かせ、嬉しい声をあげつつ復活した二人。

 いやはや、未来とアイ、お前らホント瓜二つじゃの。
 全く違和感なく自然に行動規範が同じとか、見た目だけ双子じゃないってホラーだわ、うん。


 存外、お前らも魂繋がってんじゃねーの? 


「お前らは何処ぞの小学生か! まぁいい。最妃、そこで良いのか?」

「ええ。宜しくお願いします、彼方」

「へいへい」

 家族会議と言うより、ほぼ双子組の強引な行先に合わせて、後押しした形なのな。
 はぁ……俺嫁ってヤツはホント、うん。


 そんな訳で、明日はオープンしたてのデパートへ、家族揃って遊びに行く運びとなった――。



 ―――――――――― つづく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

王太子妃の仕事って何ですか?

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚約を破棄するが、妾にしてやるから王太子妃としての仕事をしろと言われたのですが、王太子妃の仕事って?

新・三国志 

明日ハレル
SF
皆さんも三国志はご存じですね、私も学生の頃嵌って読みふけりました。丁度図書委員をしていたので放課後遅くまで図書館で読んでいたのを思い出します。 三国志を見ていると弱い劉備と強い曹操を見て何時も不思議に思っていました。劉備の配下には曹操配下の猛将に劣らない関羽、張飛、趙雲等の勇将が居るのに、なぜ?何時も負けているのか? 劉備も漸く軍師諸葛亮を得て蜀と言う辺境の小国の主となりますが、漢王朝の復興も出来ないまま死んでいきます。 反三国志等が出て、徐庶の母親を趙雲が助けて、鳳士元、諸葛亮、徐元直の3名の軍師が揃って、劉備が曹操を打倒する物語もあります。 他だ黄巾党が滅んだ時点で軍師なり有能な文官が付いていれば1国の主となり、曹操や孫権、董卓や袁紹等にも対抗で来たのではないでしょうか? 兎も角劉備に漢帝国を再興して欲しいので、この物語を書きました。是非、皆さんも応援してください! 9歳になり早くに父親を失った劉備は従兄らと長安を牛耳る秦王劉星玄に招集され、彼の一番下の息子となる。秦王には16名の息子があり、それぞれが英雄クラスの武官・文官であった。 彼らの教育を受けながら劉備は成長して行く、10歳になり幼年学校に進み同じく劉氏の子弟達と争いながらも成長して行く。幼年学校を3年で納めた劉備は12歳で高校に進んだ。 劉備はここで知己を得て人脈を築いていく、師範級の兄達に幼少時から剣術、槍術、弓術、太極拳等を叩き込まれた劉備は学生では敵う者がなかった。高校を是も2年で終わらせ大学へ進む。 大学では学生以外に学者や官吏、商人とも接する機会があり、劉備の人脈は急速に拡大した。 大学を3年で終わらせ劉備は18歳で南陽の丞(太守の副官)となり政治の世界に入った。 これから太守を目指して勉学に勤しむ劉備の姿があった。

その幼女、巨乳につき。〜世界を震撼させるアブソリュートな双丘を身に宿す者――その名はナイチチ〜 ――はい? ∑(゚Д゚)

されど電波おやぢは妄想を騙る
ファンタジー
 たゆんたゆんでなく、ばいんばいんな七歳の幼女であるナイチチは、実はあらゆる意味で最強の盾を身に宿すシールダーだった。  愉快な仲間二人をお供に連れて訪れていた森の奥で、偶々、魔物に囲まれて瀕死に追い込まれていた、珍しい棒を必死に握り締め生死の境を息を荒げ堪えていた青年タダヒトの窮地を救うことになる――。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...