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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

弐拾捌話 休息、其の参。

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 外は肌に心地良い、秋晴れの絶好の天気。

 幸いにも斗家は敷地が広く、遊ぶ場所は豊富。
 未来達は従僕三匹と元気にフリスビーで遊んでいた――。


「ハッ! ケル! ボクの必殺技を受けてみろ!」

 未来は仰々しく指差しポーズを取ったあと、ケル目掛けてアンダースイングで投げ付ける!

 凄まじいまでの加速と回転でケルに迫るフリスビー。


 最早それは、凶器に等しい。


「ウォン!」

 未来に向けてひと吠えするケル。

 向かってくるフリスビーを勢いを殺さないように、動態速度を合わせつつ追いかけて、中央付近を咥える。

 未来から投げられた勢いを利用して、くるりと横に一回転して未来に投げ返した!


 投げ放った勢いにケルの回転が加わって、超加速で返されたフリスビーは未来を穿つ!


「やるな! ――だが断るっ!」

 両手をつき床体操の選手のような華麗な動きで、穿たれたフリスビーの中央付近を蹴り上げる未来!

 遥か上空に打ち上げられたフリスビー!

「ハッハ!」

「アイは負けない!」

 自由落下してくるフリスビーを追うベロと、地面を蹴り抜きロケットのように空中に跳びあがるアイシャ。


 そして制したのはアイシャ。


 掴み取ると落下中に回転を加え、ベロ目掛けて弾丸のように発射する!

「ハッハッハ~」

 跳躍したベロは、フリスビーの中心軸真上を軽く後ろ脚で弾き飛ばし、地面のスゥに送る。

「フフフンッ」

 送られたスゥはジャンピングキャッチ!
 そのまま前方宙返りをしつつ、フリスビーをアイシャに向けて縦向きに投げ返した!

「なんの! えぃ!」

 向かってくるフリスビーの横っ面に、未来譲りの後ろ回し蹴りを放ったアイシャ。

 見事に弾き飛ばし、遥か遠くの地面に蹴り落としたのだった!


 だがしかし――。


「あ~っ! ついやっちゃいました~っ!」

 両手を地面つき、がっくりと項垂れるアイシャ。


 どうやら地面に落としたヤツが負けになるルールらしい。


「ウォンッ!」

「ハッハッ!」

「フフーン♪」

「アイの負け~! ボクらの勝ち! イェーイ!」

 未来の側に集まって前脚を掲げるワンコ?らに、順番にハイタッチしていく未来。

「今日のお風呂当番はアイ! やったー!」

「えー? 酷くない? 未来お姉ちゃん!?」

「勝ったモノが王様。つまり、法なのだよ。アイ!」

「未来お姉ちゃん――なんて怖ろしい子!?」

 勝利宣言で勝手に罰を決める愚王様な未来に、電波台詞で異議を唱える漫画の真似のアイシャ。

「ウォンッ!」「ハッハッ!」「フフーン♪」

 アイシャの周囲に集まって、各々に嘲笑うワンコ?達。


 この一か月の間に、皆はすっかり仲良くなっていた――。


 元々、未来は妹が欲しかったらしく、瓜二つを良いことに、お姉ちゃんとして君臨。

 アイシャは未来から義妹役を仰せつかり、未来のことをお姉ちゃん呼びに改変させられ挙句、口調までもを無理矢理に変更させられたのだった。

 そしてアイシャは、皆からは愛車の愛から取って、単純にアイと呼ばれていた。

 ちなみに最妃のことは最妃ママかママ、俺のことは単純にパパと、今では親しみを込めてそう呼んでくれている。


 ただ、シリアスな作業のときは、例の電波メカ口調に早変わりするのが、悪い癖のアイだったりする。


「中々にやりおるわ! ケル、ベロ、スゥ! 地獄の番犬ケルベロスゥ~、爆誕だよ!」

 三匹の首を纏めて抱きかかえ、其々の首を引っ付けアイに向けてドヤ顏の未来。

「あはははは~っ! 痛いっ! 痛過ぎっ!」

「流石に地獄の番犬だけの事はあるよねっ! ね~♪ ケルベロスゥ……ぷっ」

 腹を抱えて笑い転げる回る未来に、フォローしようとして逆に吹き出すアイ。

「クゥン;」「ハ~~ッ」「フッフン!」

 頭を下げ額に前脚を当て力無く鳴くケル。
 仰向けに腹を出してハッハッハと笑う? ベロ。
 我関せずと伏せてプイっと溜息を吐くスゥ。


 皆が皆、実に愉しそうであった――。


「そろそろ、お昼ご飯ですわよ~~」

 少し離れた母屋の方から、皆を呼ぶ最妃の声がする。

「「ハーイ♪」」

 返事をし身体についた汚れを払いつつ、立ち上がって手を振る未来。
 その未来の空いた手を握って、同じく手をふるアイ。

「ハッハ♪」「フーン♪」

 一目散に母屋に走って行くのはベロとスゥ。

「ウォーーンッ!」

 ケルは返事の遠吠えのあと、置きっ放しのフリスビーを拾って皆に続く。

「本当に良い子達ですこと。彼方に感謝ですわ」

 目を細め二人を暖かく眺めて独り呟く最妃は、アイを連れて来てくれた彼方に感謝した。

 未来は母親譲りのあの容姿――。
 一般社会で苦労して塞ぎ込んだ時もあった。

 それが今では、小学生な元気っ子になったのだ。
 それも全ては、新しい愛娘の愛のおかげなのだ。
 母としては二重三重に、とても嬉しいことなのである――。


 この先お嫁に行けるかどうかは別として。


「あらあら、いけません! 私としたことが! 彼方も呼びに行って差し上げなくてわ」

 胸のペンダントに軽く触れ、和やかに微笑んで呟く。

 そして足早にラボへと迎えに行く最妃であった――。



 ―――――――――― つづく。
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