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第壱章 崩れゆく、日常――遭遇編。

拾壱話 絶望、其の参。

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「ゲホっ……痛てぇ……ナニが……!?」

 言い終わる前に、ナニが起きたのか気付く男――。


 そう、未来に投げ飛ばされたのだ!


 目にも止まらぬ速さで投げられたことを、理解する間も与えないほど――瞬時に。


 実は、未来は自分で自分の身を護る為、友人の道場で稽古をつけてもらっていた。
 なんでも卒なく熟す母の血を色濃く受け継ぎ、外見ギャルだが根は真面目な性格の未来。
 稽古もヒト以上に真剣に取り組んだ、その結果。


 門下生で未来に並ぶモノは居らず、道場主を遥かに超える達人に到っているのだった――。


「――これ以上、ボクを怒らせない方が良いと思うよ」


「さっさと立ちやがれ! ――この、馬鹿野郎っ!」

「チッ! 痛っ……油断したんだな!」

「オレもぅ……はぁはぁ……旨……」

 呆気に取られていた男二人も正気に戻り、倒れていた男を足蹴にする。

 倒れた男は背中を丸め腕を抑えながらも、痛みに顔を顰めつつ起き上がる。

「調子に乗んなよ!」

「痛い目に合わせるんだな!」

「旨旨にしてやんよ~ 旨そう~」

 表情を凄ませ迫る三人の下衆な男共に対し、怯まず、友人を庇うように立って身構える未来。

「――大概にしときなさいよっ!」

「――未来っ!?」


 武術を会得し極めている未来に、そこらのチンピラが如きが敵う筈も無く――。


「……な、何者だ!? テメェ!」

「……い、痛いんだな」

「アヒ……アヒ……アヒ」


 下衆な男共は、数分もしない内に地面に這い蹲されていた――。


「ふんっ! ボク、暴力は嫌いなんだよね!」

「え!? ええ!? 未来がそれ言っちゃうの!?」

 ムカつく下衆な男共を軽く往なして少し気が晴れたのか、いつもの口調で自嘲気味に少々呟く。

 本来は、争うことを良しとしない、至って温厚な未来。

 今回は友人も同伴し、得体の知れない不気味な男が混ざっていたので、意を決して懲らしめてやったのだった。

 一番不気味な男を除き、情け無いほどに蒼褪めている男共。

 争いに巻き込まれたくない一般人は、悶着が始まるや否や、蜘蛛の子を散らすように逃げて離れていった。

 気付けば、周囲には誰も居なくなっていた。

 最早、危機的状況に助けはない。
 誰かが通報して警察が来ればあるいは――⁉︎


 ――ナニかが、おかしい。


 ここは、ヒトが行き交う繁華街の一角。
 夜や夜中なら未だしも、今はお昼過ぎ……自分達は昼食を摂りに出た筈――。

 ならば……お昼休みの会社員や買いモノの主婦、愛するヒトと楽しくお出かけのカップル、家族連れなどの様々なヒトが行き交っている筈なのに――、


 誰一人として、何処にも居ない!


 この騒ぎを嗅ぎつけやって来るであろう、警察すらも助けに来ないのは――何故?

 未来達が置かれている状況に対して、不意に浮かんだ理解し難いこの現象。

 何故と思考を巡らせていたその時――、


 一番、気味の悪い男が痙攣し始めたのだった。


 急所は外して、当然、手加減もしている……多少の痛みはあれど、うずくまって悶える程度の筈だった――。

「や、やり過ぎちゃった……かしら?」


 その男から発せられている、ナニか――。


 危険極まりない警告を放つ直感に基づき、その場から跳び退き、相手を警戒しつつ油断なく身構えて、痙攣している気味の悪い男に視線を集中する未来。

「ナ、ナニ? この……悍しい嫌な……重圧プレッシャー

「――え? プレッシャーって……ど、どう言う意味!?」

 突如、痙攣していた気味の悪い男が涎を垂らしつつ、死に体の状況で静かに起き上がってくる。


 その目には、最早、光は無い――意識は消失しているように思えた。


「ぐ……うぅ……ガ……っ!」

 突如、息も絶え絶えに、異常なほど苦しみ出し唸り始めた気味の悪い男――。


「な、なんなの――!?」

「――イ、イヤ!」

 息も乱れていない未来だが、尋常じゃない重圧と不快感に充てられて、冷や汗が頬伝う。

 そして、先程から感じている悪寒が一層増した――。

 友人も、どう対処していいかわからず、未来の後ろに隠れて震えて見ているだけだった。


 刹那――。


「XXXXXX」

 ヒトとは思えない声なのかすら判別できない、聴くも恐ろしく禍々しい唸り声と共に、背中が隆起し体も肥大化していく気味の悪い男!

 成人男性の軽く二、三倍はあろうかと言う程に背丈が伸び、身体が赤黒く変色していくと、内臓剥き出しのような悍ましい姿に変わっていく。

 両腕両脚に爪が長く鋭く伸び始め、獣のような凶悪な鋭い牙が生え揃っていく。

 二対のヒトの目では有り得ない――四つの眼が禍々しい血の色に染まっていく。


 形容し難い、見るモノ全てが畏怖するであろう、悍ましい人為らざるモノへと変貌していったのだ――。


「――な、なんだコイツ⁉︎ ――ちょ、マジかよっ!?」

「――ヒィ、ヒィっ! ――バ、バケモノなんだなっ!」

 残された二人の下衆な男も、起きている異常事態に冷静に対処できる筈もなく、絶叫し逃げようと必死になって踠いていた。


 腰を抜かし這い蹲って逃げようとする男。

 震えながら尻餅をついて後退る、もう一方の男。


「――ナニッ!? ア、アレはナニよっ!?」



 ―――――――――― つづく。
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