ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

最終話 俺の野暮用とは……実は。

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 さっさと野暮用を済ませて、夕方には帰ってくる予定と伝えていた俺。
 実際にアパートに戻った時には、既に日が暮れていた。

 改築したアパートの目玉。
 電気が灯るナイター設備が自慢の井戸端会議広場。


 単なる中庭なんだけどな?


 そこの一角にテーブルなどを広げ、缶詰や保存食などの食糧、酒瓶に缶ビール、バーベキューセットやらを準備して、俺の帰りを待ってくれていたようだった。

「ただいま~、遅くなりました。すいません」

 頭をぽりぽり掻きながら、皆の元へと向かう俺。

「遅~い! 何かあったのかって心配しちゃったじゃない!」

 出迎えてくれる佐藤さん。
 その後ろから、何かがぴょこんと現れた!


 その瞬間、俺は一瞬だが死んだ!
 鈴木さんではないが、目玉が飛び出るほど驚いて、思考が停止した!


「――♪」

 ちょっと照れ臭そうに、もじもじ身悶えながら上目遣いで俺を見る、加藤さんの娘さんだった!

 西洋人形も真っ青な、可愛いらしい白いゴシックドレスに身を包んでその仕草!


 それだけではなく、
 佐藤さん必殺の、特殊メイクときた!


 施した佐藤さんは青白い紫斑の浮き出たノーメイク姿なんだが、娘さんの方は完璧に生きた人に化けていた!


「――これは……。ちょっと抱っこしても良い?」

「――♪」

 恥ずかしそうに、こくりと小さく肯いて両手を広げた。
 赤ちゃんで言う、ダァダァなヤツだ!


 そっと抱きかかえる俺。


 小学生だ言うに、赤ちゃんや幼児特有の柔らかさを遥かに超えるぷにぷに感。
 どうやったら再現できるかな的、きめの細やかな肌とサラサラで艶々な髪。
 死臭も腐臭も全くしない。
 寧ろ、佐藤さんとはまた違った、すげぇ甘い香りがする――。


 他の追従を許さない超絶美幼女として、廃退した世界に天使が降臨した!


「……♪」

 そして、俺の頬っぺたにそっと口付けをしてくれたあと、冷んやりしたぷにぷに頬っぺで頬ずりまで!


 ヤバい! ロリコンじゃねぇけど、これはヤバい!
 どんだけヤバいかってぇと、スゲーヤバくてテラヤバい!


 ――そこまで混乱するほどにヤバい! 美幼女天使、最高かよ!


「参った! もう、俺、メロメロだよ~」

「――! ――♪」「良かったね~」

 ガッツポーズな加藤さんの娘さん。
 それを見た佐藤さんは俺の隣にきて、そっと手を繋いできたり。

「山田さんの居ない間、佐藤さんの張り切り方と良い、忙しないこと。メイキングはビデオにバッチリ録画してあるんで、後で僕らと一緒に観ましょうよ」

 デジタルビデオカメラで撮影しながらサムズアップの鈴木さん。
 娘さんを抱きかかえる俺の周りを、パパラッチのようにちょろちょろ。


 アンタ、どんだけカメラ好きなん?


「ちょっと頑張りすぎて、私を仕上げる時間がなくなって、ゾンビ顔のままだけど……ごめんなさい」

「俺は気にしないですって」

 繋がれた佐藤さんの手を優しく力強く握る。

「パーティの模様も漏れなく録画しておいてくれよ、鈴木さん。勿論、儂の姿もな? これはきっと、生涯の良い思い出になる」

 腐った顔で謎の白い歯をニッカリの田中さん。


 田中さん、ボディビルなハウツービデオは勘弁して下さい。


「リアルなホラー映画にはしないでね」

 俺が言おうとしたことを、佐藤さんにしれっと和かに言われた。


 既にゾンビ映画ですけどね。


「私は既に感無量だよ……こんな酷い世界で、こんな醜い姿になっても、こんな可愛いらしい娘と愉しく暮らせる……こんなに嬉しいことはない」

 深々と頭を下げたあとで、腐った顔をぐしゃぐしゃにして赤黒い月を見上げ、男泣きな涙を零す加藤さん。

「――♪」

 俺に抱きかかえられて、冷たいぷにぷに頬っぺを寄り添わせ、微笑む天使。


 本当に親子か疑うほどの違いだな。


「愉しそうで何より。――でもね。皆さんに言いたいんですけど、俺に気を遣い過ぎですよ? ――酒以外、殆ど普通の食べ物、つまり俺用じゃないですか……」

 ゾンビら住人には美味しくない、普通の食材ばかりが並べられていた。
 腐った肉やアレな肉は皆無。

「――ん、良いんだ。皆で愉しむには、この形が一番良い」

「そうそう。今日は皆でアパートの完成をお祝いする会。だから焼肉パーティの時みたく、山田さんだけを除け者するわけにはいかないし、僕もしたくないですから」

「――♪」

「そう言うことさ、山田さん。私も娘も山田さんと一緒に祝いたいのだ。特に佐藤さんは――ね」

「もう! 加藤さん!」


 皆んな……。やっぱりゾンビでも良いヤツらだよ。


「常々って言うか、俺も色々考えてたことがあるんですよ。――田中さん、ちょいと運ぶの手伝って下さい」

「構わんが……何だ?」

 荷台から麻袋四つと寝袋三つを下ろし、田中さんと担いで中庭に運んでくる。

 田中さんは担いだ瞬間、目を見開き俺の方を見るも、驚いただけで黙っていてくれた。

「俺からの飛びっきりの差し入れっすよ!」

 蠢く麻袋は個人的には開けたくないので、寝袋のファスナーを下ろして中身を見せた俺。


 生首の目や口が動くのだけは、未だにどうしても慣れないんだよ!


「何と⁉︎ まさか、そんな!」

「嘘っ⁉︎ とんでもない御馳走じゃないですか⁉︎」

 声を荒げて驚く加藤さんに、目ん玉ドーンな鈴木さん。

「――!」「山田さん⁉︎」

 俺に冷たい頬っぺを寄せたまま、冷たい小さな手でキュッと抱きしめて、心配してくれる娘さんと、俺の目を真剣に見つめ、辛そうにする佐藤さん。

「――俺の気持ちは皆さんと一緒です。一緒にドンチャン騒ぎしたいです。――あ、でも、捌くのだけは皆さんでお願いします。肉になったら対して気にならないので」

「臭いで食欲が失せるんじゃ――」

「佐藤さん、コレ。――俺が同席したい意味を良く考えて……察して下さい」


 俺の野暮用――小さな贈り物を手渡した。


「――! こ、こ、こ、コレって⁉︎」


 化粧箱の蓋を開いた瞬間、俺を見て驚きの声をあげる佐藤さん。


「俺と一緒に暮らすのに、食事が別々だなんて有り得ないでしょ? 宅飲みの時に言ってくれた言葉――そのまま俺からお返しします」

「や、山田さん……で、でも……ですよ……」

「もう一回言っておきます。佐藤さんは佐藤さん……でも、これからは山田さんで……俺のです」


 俺が渡した贈り物――結婚指輪だよ。


「ああ……もう、馬鹿! 本当に馬鹿!」

「何と喜ばしい! 私もお二人を祝福致しましますぞ!」

「ウヒー! 幸せ顔、バッチリ録画できました!」

「鈴木さん、愛を営む風景もバッチリ撮影させてもらうんだぞ!」


 ちょ、アンタらな!


「えー、どうしよっかな♪」


 意外に乗り気だった!


「阿呆か!」「「「減るもんじゃないし」」」

 そして、俺の見えないところに持っていき、捌き終えた肉を運んでくる。
 流石に頭は遠慮してくれた模様。

 そこからは盛大にバーベキュー、焼肉パーティを催し、香ばしい臭いが充満する中、飲めや歌えやの大騒ぎと化した。
 間違ってアレな肉を食べたりな、トラウマ込みの色々な意味を含んでな?



 皆と大騒ぎしたこの夜は……俺の生涯でも決して忘れられない、大切な思い出となった――。



 ◇◇◇


 いつ晴れるかも解らない暗雲立ち込める腐り切った空の下、あとどれだけの間、こうやって皆と愉しく暮らし、俺は生きていられるのだろうか。

 先のない未来だけど、ボロッボロのアパートの愉快な住人――ゾンビな皆さんと、願わくば……このままずっと愉しく暮らしたいと切に思う。


 世紀末、或いは暗黒世界――デイストピアさながらの様相と化したこの過酷な世界で、俺は終わりを迎えるその日が来るまで、今日もしがなく生き抜いていく――。


 生ける屍と化した、愉快なゾンビらと共に、俺がいつか終わりを迎える、その時まで――。


 
 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。(本編、完)



【謝辞】
 此処までお付き合い頂き、本当に有り難う御座いました。
 意図しない誤字脱字が多く、お目汚し、大変失礼致しました。

 実はこの先も製造してはいたのですが、内容がホラーと言うよりもファンタジーになり過ぎて没にしちゃった筆者です。
 先のない未来は難しい……。_φ(・_・
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