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◇第一部◇
第二一話 自我を失っても。
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先のホームセンターで入手した、太陽光パネルや蓄電機などの設備を、ボロッボロのアパートに皆で手分けして設置する。
ついでに雨漏りの補修、外壁修理に塗装なども行った為に、約一ヶ月とかなりの日数を要することとなった。
ボロッボロだったアパートは、今では新築とは言えないが、随分マシにはなったと思う。
「遂に……僕らの根城が完成しましたね!」
「うむ、儂も感無量だな!」
「良かったわね? これでアニメとかゲームができるわよ」
「――♪」
「私の娘の為に……皆さん、本当に有難う……。山田さん、本当に有難う……」
住人全員が軒下に集まり、各々にアパートを感慨深く見上げると、手に手を取って喜びを分かちあった。
「俺は機械関係だけです。外壁の補修は田中さんが居てくれたこそ、塗り直しは佐藤さんの技能あってこそですよ。加藤さんには手の足らない所をマルチに手伝ってもらったし、そんな皆さんの協力があってこその結果ですよ」
「僕は、僕は⁉︎ パシリに雑用……お掃除とか頑張りましたでしょ⁉︎」
「鈴木さんは私の娘を相手してくれてたし、そのあたりが随分と助かりましたよ」
「――♪」
「……良かった。役立たずじゃなくて」
「そそ。山田さんが言うように、全員で取り組んだからこそ、こんなに素敵に改築できたんですよ」
「うむ……佐藤さんの言う通りだ。これは今日は完成パーティー……宴会だのう!」
「じゃあ、皆さんは夜まで休むなり、部屋に電気が通ったのを楽しむなり、自由にしてて下さい。――俺はちょいと野暮用で出掛けて来ます」
「ん? 野暮用とな? 私に手伝うことは――」
「加藤さんは娘さんとゆっくりしてて下さい。本当に個人的な野暮用なんで……」
「私も……ついて行っちゃダメ――」
「――今回は俺一人で成し遂げたいことがあって……すいません。ちゃんと夕方には帰って来ますから」
「解った……待ってるから早く帰って来てね」
「なんか暑くなってきましたな、田中さん!」
「局地的猛暑だのう、加藤さん!」
「ヒューヒュー!」「――♪」
「もう! 皆んなして!」
「ははは……。とりあえず、とっとと行ってきます!」
各々の部屋に戻っていく皆さんと別れ、自分の部屋に戻って、俺セレクト散策セットを用意し雨合羽を着込む。
準備が整ったところで、増設したガレージへと向かい、中に止めてあった七三式に荷物を積み終えると、早速、アパートを後にした――。
◇◇◇
「新築? 改装? 何かそんなパーティーならば……御馳走がいるもんな」
向かうは野良ゾンビの捕獲。
約一ヶ月も頑張ってくれた皆さんへ、俺からの細やかなお礼として。
言えば絶対に俺に遠慮するから、皆には内緒にしてきた。
それに電気が通って、業務用冷凍庫が使えるようにもなったし、備蓄する意味でもな?
それに、もう一つ大事な目的がある。
実はそっちの用件が本命だったりだよ。
佐藤さんと前に訪れた、商店街の入口にやって来た俺は、適当な場所に七三式を止め、積んできた道具類を持って散策に出る。
「さて、状態の良い野良ゾンビが居てくれれば良いけどな。旨そうな奴……って、言い方は酷いかもだけど」
表通りを進む途中、状態の酷い野良ゾンビな男性が立ち塞がるものの、真面に動けてはおらず、余裕で沈黙させる俺。
「あちゃ~、やり過ぎたか。お持ち帰りはスルーしとこ」
気を取り直し、女性向けの専門店が立ち並ぶ中央通りの方へと、警戒しつつ足を運んだ。
「この通りならば、何処かのお店に良い感じのが居るかも。帰りに漁ってみるかな」
そしてお目当てのとある店舗に辿り着くと、持ってきた土木用スコップで窓を割り侵入する。
そして――。
「――俺ながら運が良い……否、遭遇したから悪いのかも」
とある店舗の中に、のそのそと蠢く影が一体。
田中さんの大好物を発見したのだ!
「アァ……アゥ……アァ……」
焦点も合わず涎を垂らし、ふらりふらりと蹌踉めき揺蕩っていた。
店舗内に閉じ込められて居た所為か、目立つ損傷もなく、パッと見は紫斑が僅かに浮き出ている程度で凄く状態が良い。
更にちゃんと出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる、見目麗しき女子高生の野良ゾンビときた!
つまり、加藤さん的に言うと――、
極上中の極上なお肉。希少なレア物。
「生前は、さぞもてはやされた美少女だったんだろうな……」
あまりにも綺麗な姿で……全く似てはいないのに、佐藤さんと被ってしまう……。
少しばかり躊躇した俺は――、
「皆の糧として――俺は今から君を狩る。……覚悟は良いか?」
土木用スコップを下げ、野良ゾンビの目を見据え、静かに問い掛けてみた。
「アァ……アゥ……アァ……」
焦点の合わない視線は泳ぎ、動きも散漫。
ふらりふらりと蹌踉めくだけ……。
目の前に居る問い掛けた俺に、問答無用で襲い掛かかって来ない!
「もしかして……君はまだ……」
何かを訴え掛けてきているようにも思えた俺。
自我が僅かにでも残っているのかと期待して、そっと手を差し伸べてみた。
だがしかし――。
次の瞬間、綺麗に整った見目麗しい顔が歪む!
「アァ――!」
可愛らしい口を大きく開けて、俺の腕に喰らいつこうとしてきたのだ!
「……チッ」
腕を噛もうとした頭を咄嗟に掴み、そのまま腕を取って背後に回り、床へと組み伏せる!
ジタバタと捥がく野良ゾンビの頸に、土木用スコップの鋭い切っ先を押し付け、片足で足蹴にし立ち上がる俺は――。
「――もう少し早く出逢えていたら」
頸を押さえつけている土木用スコップの足掛けを、渾身の力で踏み抜き――、
頭を切断した――。
持ってきた背負い袋から麻袋と寝袋を取り出し、狩った野良ゾンビを――機械的に仕舞い込んでいった。
そして、その辺りに転がしておいて店内を物色。
お目当ての品を無事に手に入れたところで、放置の野良ゾンビを回収し、その場を後にした――。
帰る道すがら、通りに徘徊していた主婦と少年と少女と出会した。
お揃いの服から察するに、恐らく親子の野良ゾンビだろう。
不思議なことに、三体が争うことなく、側から離れず蹌踉めき揺蕩っていた。
「死して自我を失っても尚、親子の絆で繋がっているとでも言うのか……」
土木用スコップを握りしめ、三体に近付き、先と同じ手際で手に掛けた――。
何故か抵抗する素振りもなく……俺になすがままにされて――静かに狩られてくれた。
「もう、残虐非道な振る舞いも、ゴソゴソ蠢く頭にも……慣れっちまったな、俺。――こんなに平然と熟せる俺は……正しく人と呼べる存在なのか? 実際、生きちゃいるが……人としては既に終わってるのかも知れん」
七三式の荷台に積み込みながら、自問自答しながらも呟くのだった――。
――――――――――
退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
ついでに雨漏りの補修、外壁修理に塗装なども行った為に、約一ヶ月とかなりの日数を要することとなった。
ボロッボロだったアパートは、今では新築とは言えないが、随分マシにはなったと思う。
「遂に……僕らの根城が完成しましたね!」
「うむ、儂も感無量だな!」
「良かったわね? これでアニメとかゲームができるわよ」
「――♪」
「私の娘の為に……皆さん、本当に有難う……。山田さん、本当に有難う……」
住人全員が軒下に集まり、各々にアパートを感慨深く見上げると、手に手を取って喜びを分かちあった。
「俺は機械関係だけです。外壁の補修は田中さんが居てくれたこそ、塗り直しは佐藤さんの技能あってこそですよ。加藤さんには手の足らない所をマルチに手伝ってもらったし、そんな皆さんの協力があってこその結果ですよ」
「僕は、僕は⁉︎ パシリに雑用……お掃除とか頑張りましたでしょ⁉︎」
「鈴木さんは私の娘を相手してくれてたし、そのあたりが随分と助かりましたよ」
「――♪」
「……良かった。役立たずじゃなくて」
「そそ。山田さんが言うように、全員で取り組んだからこそ、こんなに素敵に改築できたんですよ」
「うむ……佐藤さんの言う通りだ。これは今日は完成パーティー……宴会だのう!」
「じゃあ、皆さんは夜まで休むなり、部屋に電気が通ったのを楽しむなり、自由にしてて下さい。――俺はちょいと野暮用で出掛けて来ます」
「ん? 野暮用とな? 私に手伝うことは――」
「加藤さんは娘さんとゆっくりしてて下さい。本当に個人的な野暮用なんで……」
「私も……ついて行っちゃダメ――」
「――今回は俺一人で成し遂げたいことがあって……すいません。ちゃんと夕方には帰って来ますから」
「解った……待ってるから早く帰って来てね」
「なんか暑くなってきましたな、田中さん!」
「局地的猛暑だのう、加藤さん!」
「ヒューヒュー!」「――♪」
「もう! 皆んなして!」
「ははは……。とりあえず、とっとと行ってきます!」
各々の部屋に戻っていく皆さんと別れ、自分の部屋に戻って、俺セレクト散策セットを用意し雨合羽を着込む。
準備が整ったところで、増設したガレージへと向かい、中に止めてあった七三式に荷物を積み終えると、早速、アパートを後にした――。
◇◇◇
「新築? 改装? 何かそんなパーティーならば……御馳走がいるもんな」
向かうは野良ゾンビの捕獲。
約一ヶ月も頑張ってくれた皆さんへ、俺からの細やかなお礼として。
言えば絶対に俺に遠慮するから、皆には内緒にしてきた。
それに電気が通って、業務用冷凍庫が使えるようにもなったし、備蓄する意味でもな?
それに、もう一つ大事な目的がある。
実はそっちの用件が本命だったりだよ。
佐藤さんと前に訪れた、商店街の入口にやって来た俺は、適当な場所に七三式を止め、積んできた道具類を持って散策に出る。
「さて、状態の良い野良ゾンビが居てくれれば良いけどな。旨そうな奴……って、言い方は酷いかもだけど」
表通りを進む途中、状態の酷い野良ゾンビな男性が立ち塞がるものの、真面に動けてはおらず、余裕で沈黙させる俺。
「あちゃ~、やり過ぎたか。お持ち帰りはスルーしとこ」
気を取り直し、女性向けの専門店が立ち並ぶ中央通りの方へと、警戒しつつ足を運んだ。
「この通りならば、何処かのお店に良い感じのが居るかも。帰りに漁ってみるかな」
そしてお目当てのとある店舗に辿り着くと、持ってきた土木用スコップで窓を割り侵入する。
そして――。
「――俺ながら運が良い……否、遭遇したから悪いのかも」
とある店舗の中に、のそのそと蠢く影が一体。
田中さんの大好物を発見したのだ!
「アァ……アゥ……アァ……」
焦点も合わず涎を垂らし、ふらりふらりと蹌踉めき揺蕩っていた。
店舗内に閉じ込められて居た所為か、目立つ損傷もなく、パッと見は紫斑が僅かに浮き出ている程度で凄く状態が良い。
更にちゃんと出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでいる、見目麗しき女子高生の野良ゾンビときた!
つまり、加藤さん的に言うと――、
極上中の極上なお肉。希少なレア物。
「生前は、さぞもてはやされた美少女だったんだろうな……」
あまりにも綺麗な姿で……全く似てはいないのに、佐藤さんと被ってしまう……。
少しばかり躊躇した俺は――、
「皆の糧として――俺は今から君を狩る。……覚悟は良いか?」
土木用スコップを下げ、野良ゾンビの目を見据え、静かに問い掛けてみた。
「アァ……アゥ……アァ……」
焦点の合わない視線は泳ぎ、動きも散漫。
ふらりふらりと蹌踉めくだけ……。
目の前に居る問い掛けた俺に、問答無用で襲い掛かかって来ない!
「もしかして……君はまだ……」
何かを訴え掛けてきているようにも思えた俺。
自我が僅かにでも残っているのかと期待して、そっと手を差し伸べてみた。
だがしかし――。
次の瞬間、綺麗に整った見目麗しい顔が歪む!
「アァ――!」
可愛らしい口を大きく開けて、俺の腕に喰らいつこうとしてきたのだ!
「……チッ」
腕を噛もうとした頭を咄嗟に掴み、そのまま腕を取って背後に回り、床へと組み伏せる!
ジタバタと捥がく野良ゾンビの頸に、土木用スコップの鋭い切っ先を押し付け、片足で足蹴にし立ち上がる俺は――。
「――もう少し早く出逢えていたら」
頸を押さえつけている土木用スコップの足掛けを、渾身の力で踏み抜き――、
頭を切断した――。
持ってきた背負い袋から麻袋と寝袋を取り出し、狩った野良ゾンビを――機械的に仕舞い込んでいった。
そして、その辺りに転がしておいて店内を物色。
お目当ての品を無事に手に入れたところで、放置の野良ゾンビを回収し、その場を後にした――。
帰る道すがら、通りに徘徊していた主婦と少年と少女と出会した。
お揃いの服から察するに、恐らく親子の野良ゾンビだろう。
不思議なことに、三体が争うことなく、側から離れず蹌踉めき揺蕩っていた。
「死して自我を失っても尚、親子の絆で繋がっているとでも言うのか……」
土木用スコップを握りしめ、三体に近付き、先と同じ手際で手に掛けた――。
何故か抵抗する素振りもなく……俺になすがままにされて――静かに狩られてくれた。
「もう、残虐非道な振る舞いも、ゴソゴソ蠢く頭にも……慣れっちまったな、俺。――こんなに平然と熟せる俺は……正しく人と呼べる存在なのか? 実際、生きちゃいるが……人としては既に終わってるのかも知れん」
七三式の荷台に積み込みながら、自問自答しながらも呟くのだった――。
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退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
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