ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第十五話 予想以上のはっちゃけぶり。

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 言葉通りに寂れた商店街を、二人で手を繋ぎ並んで歩く。
 二人の足音がコツコツと響くくらい、本当に静かだった。

「佐藤さん、灯りが要るかも知れません。これを鞄にでも吊り提げておいて下さい。LED照明なので安全です」

 リュックから小型ランタンを取り出し、佐藤さんに手渡しておく。

「有難う御座います。山田さんは……頭のそれがありますものね」

 ランタンを受け取り、俺のヘッドマウントライトを愉しそうに見やる佐藤さん。

「俺は周囲の警戒に専念しますから、思う存分に物色して下さい。あんまり嵩張る荷物はこのキャリーに積んで下さいね」

 徒歩で練り歩くので、荷物運搬用に旅行などで使うキャリーを持参してきた。
 普通のお店にショッピングカートなんて、置いてないからね。

「あ、ここに寄っても良いです?」

 佐藤さんが立ち止まって指し示すのは、有名化粧品の直販店だった。
 
「勿論。行きましょうか。――おりゃ!」

 早速、持ってきたハンマーで、気合いの掛け声と共に窓ガラスを叩き割って侵入する。

 小洒落た陳列台に大量の口紅やら化粧水やらが飾られたり並べられていた。
 それはもう、すげー細かいこと細かいこと。
 色んな品々を真剣に見ていく佐藤さんは、何かを探していた。

「あった! これだけは欠かせないのよね! あとこれね」

 大喜びで手にしていたのは、髪と身体用のドライシャンプー。
 これらは水で流す必要のない洗剤だよ。
 ちなみに男性用の物もあり、水が貴重で風呂に入れない俺にしても使っている。

「確かに欠かせないですね。俺も偶に飲み水にできない古いミネラル水で身体を拭いてますけど、それが無いとスッキリしませんから」

「ですよね! あと……これとこれも大事」

 手に取って見せてくれたのは、液体歯磨きと歯ブラシ。

「歯磨きのあと、濯ぐ必要が無いですから」

「言えてる」

 腐った肉を食べてるだけに、臭いのエチケットは気にしているようだ。

「最後はこれよ!」

 手にしているのは、デオドラントスプレーの類いの消臭剤。
 あとは佐藤さんがつけている、優しい香りの香水だった。


 やはり、滲み出る死臭や腐臭を気にしているご様子で、それらの類いばかりを漁っていた。
 流石の俺も、ここはデリカシー的にも黙っておく。


「化粧品は良いんですか?」

 女性らしい香水を選ぶ割に、口紅なんかに見向きもしないので聴いてみた。

「うーん、どっちかと言うと要るのは絵具?」


 とんでもない答えが返ってきた!


 そう言えば、特殊メイクだったっけ。
 流石にファンデーションとかでは無理があるよな、そりゃ……。

 ありったけの在庫品を店内の袋に詰めて、持って帰る佐藤さんと俺だった。


 この時点で最早手一杯だよ、うん。
 最後に寄る算段にしておいて良かったわ。


 そして、装飾店や洋服店、本屋に雑貨屋と、色んなお店に侵入しては、愉しげに会話しながら物色していった俺と佐藤さん。

 偶に居座る野良ゾンビは、その都度、俺のツルハシの餌食となって無力化していった――。


 そんなこんなを長い時間続けて、遂に来ましたメインイベント――、


 そう、ランジェリーショップだよ!


「どんなのにしようかなー。これ可愛い。こっちも良いけど……繊維がなぁ。柄と色はこれが……あ、サイズが微妙――」


 とかなんとか、ブツブツ言ってる。


 ドデカいブラをいくつも手に取って、手触りや柄を細かく調べる佐藤さんは、自分の世界に閉じこもって拘りまくり。


 その目は尋常じゃなかった。
 正に獲物を狩る獣のような目で選んでいる。
 それはもう、俺がどうこうできるレベルではないくらい、どうしようもないほどのはっちゃけぶりで。


 なんとなく、話しかけたらテラヤバそうなので、静かに周囲の警戒に専念しておくことにした俺だった。


 活き活きとした佐藤さんを、こうして間近に見ていると、本当、ゾンビとは思えない極普通の女性だよな……。


「ご、ごめんなさい! つい夢中になっちゃって」

 一番長く滞在している気がするなとか、いつまで続くんだろうとか思っていたところで、ようやく話しかけてくれる――。

「えっと……本当にごめんなさい。久しぶりだったから……怒ってる?」

 身悶えしながら、上目遣いに謝ってくる佐藤さん。

「――全然。気持ちは解りますから。水を使って洗濯もできませんしね……」

「身体は拭いてなんとかできるけど、服は……特に下着はね? こんな世界で非常識だけど、ここだけはいつも綺麗にしていたいの」

 一生懸命に言い訳する佐藤さん。

「いけない想像してまうんで、そのくらいで勘弁して下さい――」

「――あ、ごめんなさい!」

 正しく人であったなら、真っ赤になって照れているような素振りで俯く佐藤さんだった。


 誰だよ、下着ショーやらかすって期待してた阿呆は? ――俺だな。


「持って帰れるだけ持って帰りますけど……」

「どんだけでもどうぞ。足りなくなったら、また一緒に来ましょう」

「――有難う! もう、大好き! 山田さん!」

「――ちょ、ちょっと⁉︎ 佐藤さんっ⁉︎」

 この日一番の女神の笑顔を携えて、俺に抱きつく佐藤さん。

「帰ったら、早速、身につけよっかな? 勿論、山田さんにもお見せしますね」

「――本音で言うと是非にですけど、一応、理性を立ててノーサンキューと言うことで」

「そう言う山田さんだから……」


 何かを言い掛けて止めた佐藤さん。
 心なしか、一瞬、凄い寂しい表情になった気がする……。


 下着を詰め込んだ大きなビニール袋をキャリーに載せて、残りは持ち手部分を縛って自分で担ぎ、両手一杯に吊り下げた……。


 えっと……どんだけ?


「流石にもう戻りましょう。これじゃ野良ゾンビの相手ができませんよ?」

 最早、手荷物どころではなくなったので、今日は切り上げることにする。

「……す、すいません」

 凄い量のビニール袋を携えて、申し訳なさそうに俯く。

「デートの続きはまた今度で。佐藤さんさえ良かったら……ですけど?」

「――はい! 喜んで!」

 チラッと見せた照れ笑いは、本当に女神のような純粋さだった。


 誰だよ、ゾンビッチって言ってた阿呆は? ――俺だな。


 妙に甘酸っぱい空気を纏い、車へと急ぎ戻る俺と佐藤さんだった――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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