ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第十四話 野良ゾンビが少ない理由。

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 程なく駐車場に戻り、大量にゲッチュした玩具を車に積み込む。
 勿論、周囲に変わりないかなどの確認も忘れない。

「ふぅ――野良ゾンビが居なくて良かったですね」

 小さな安堵の溜息のあと、ホッとした表情を見せる佐藤さん。

「俺の予想以上に少ないですね……寧ろ、異常に少な過ぎるんですけど」

 道中、チラホラと見掛けた程度だった。


 しかもだ――原型を留めた遺体は、未だ一体も見掛けてはいない。


「もしかしてなんですけど……遺体を喰いつくしたから――共喰いを始めた。その線が濃厚かも」

 顎に手をやり、思いついた可能性をボソボソっと呟く俺。

 玩具店内の元親子らしい残骸についても、見るも無残に喰い散らかされていた。

 駐車場付近に遺体は一つもなく、代わりに散らばる結構な量の肉片や残骸が見て取れることからも、野良ゾンビ共に餌として喰い尽くされたと考えて、ほぼ間違いはないだろう。


 では、それらを喰いつくしたあとは、一体、どうなるかって話だよな? 


 佐藤さん達のように、俺のような獲物を狩って供給してくれる人は居ないのだ。
 そして野良ゾンビは、誰彼構わず無差別に襲い掛かる習性がある。


 共喰いで数が減っている。


 そう考えれば、見掛ける頻度の少なさに辻褄が合い、この酷い惨状にも説明がつくわけだ。


 あとの理由としては――、

 腐食が進行し、遂に朽ち果てて崩壊し自滅した、だな。


 って、そう簡単には、くたばらんとは思うんだけどな?
 なんらかの理由で取り残された人以外は既に避難して、ここらに残っていない可能性ってのもあるし。

「野良ゾンビと化した者同士で、互いを喰いあうとか……嫌な世界よね」

 そうした見解を伝えると、嫌悪感を覚えたのか、眉根を寄せて苦い顔をする佐藤さん。


 昨晩、焼肉パーティーを催して、賑やかに喰ってたのはどちら様だっけ?


「共喰いよりも俺が心配してるのは、環境に適応する個体の出現ですけどね?」

「それは――どう言う意味?」

「人が生きたままに腐ってゾンビ化したのは、飛来した隕石がもたらした細菌の突然変異です。そいつらが再び変異する可能性も、この先で無きにしも非ずですから」

「そう、ですね――良い風に変異すれば良いんでしょうけど……それは期待するだけ無駄か」

「鈴木さん達男性陣と、佐藤さん達女性陣の腐り方の違いも、前々から疑問に思ってたんで」


 男性陣は外側から腐り、女性陣は内側から腐る。


 男女のホルモンか何かの違いに起因して、左右されるのだろうか?

「細菌は固定の一種類ではないと……つまり、派生型も出てくるんじゃないかと考えてましたから」

 実際、スーパーに居た軍曹アシダカグモにしても、鈴木さんを引っ張り上げれるくらいに巨大化していた。
 軍曹が喰い散らかしていたゴキブリの殻にしても、拳大以上の大きさだったからな。

「現時点では憶測の域を出ません。俺にしても創作のゾンビならまだしも、リアルなゾンビなんてのには、詳しくないですからね」

「――ですよね」


 腐れば脆い――この常識的弱点を克服した強靭なゾンビも、いつか現れるかも知れないのだ――。


 今いくら考えたところで、答えは出ない。
 気持ちをスパッと切り替えて、デートと言う名の散策を続けることにする。


「さて、お次はゲーム店ですが――」

 次の店は、ここから歩いて直ぐの所にある――。

「この距離なら車より歩いて行く――普段ならそっちのが楽ですけど、何が起こるか解らないので、一応、乗って行きますよ?」

「ですね。少し歩きたかったけど……これ以上は、わがままね」

 ここの玩具店にビデオゲームが会ったら良かったんだが、倒壊していた側のフロアにあったようで、残念ながら入手できず。

 と言うことで、車に乗り込み移動する。
 玩具店から直ぐ近く、あっという間に到着です、うん。


 だがしかし――建物は完全に倒壊。
 更に男女の野良ゾンビが数体、店の前に陣取って居た。


 しかも、お互いを喰いあって争っている、酷い光景を目の当たりにすることになる――。


「俺の予想が当たってたようです」

 確固たる意思は感じられないが、喰う方も喰われる方も必死だった。
 ただ喰うと言う本能のみで、突き動かされているみたいに思えた。

 暫く車内から成り行きを見ていると、互いの全身を喰い荒らし、全部が動かなくなって倒れ伏す。

 それらの周囲には、食い荒らされて飛び散った、生々しい腐った肉片に臓物、赤黒い体液。
 腐臭に入り混じって、気分の悪い悪臭が車内にも漂ってきた……。

「もう大丈夫っぽいですけど……行く気失せましたね。なんとも嫌な気分です」

 哀しくも嫌そうな、複雑な表情になった佐藤さん。

「――確かに。アパート全体に電気を供給する課題も残ってますし、それが終わるまでお預けですかね。最悪は俺の秘蔵コレクションでも献上して、俺の部屋で遊んでもらうとします……」

「そう言えば、山田さんの部屋には発電機がありますものね」

「まぁ、冷たいビールが飲みたい一心で、頑張って構築したんですけどね?」

「――あ、解るそれ! 冷えたビールは格別ですものね! 是非味合わせて欲しい!」

「佐藤さんもイケる口ですか。こりゃあ是非とも宅飲みに付き合ってもらおう」

 と言う事で、ゲーム店をスルーする。

 外の凄惨な状況とは裏腹に、車内で暢気な会話をしながら、今日の散策と言う名のデートの締めである下着店へと車を回す。

 ちなみにこの店の周囲には、アパレル関係の店舗が軒並み揃っているので、化粧品から衣装まで、結構、佐藤さんの要望に応えてあげられる筈だ。

 ただ、ゾンビッチな佐藤さんだけに、最早、大惨事の予感しかしない……。
 俺の予想では、絶対、下着オンリーなファッションショーとかを平然とやらかすに決まってる。


 ――実に愉しみだ。


「野良ゾンビが思った以上に少ないし、気分転換がてら周辺を少しブラつきますか? ただ……ウインドウショッピングには程遠いですけどね」

 ガラス越しに飾ってる店も綺麗に残っているけども、殆どのお店はシャッターが降りている。


 まぁ、緊急事態時に、店を営業する阿呆は居る筈もないわな?


「外の空気を満喫できるし、それでお願いします」

「途中で興味を引いた店があったら、遠慮なく言って下さいよ?」

 佐藤さんの冷たい手を恋人繋ぎにしつつ、そう真顔で伝えた。
 しっかり握り返す佐藤さんは、少し照れ臭そうに微笑んで、そのまま腕を取ってくれる。


 そして誰も居ない寂しい商店街を、二人並んで、ゆっくりと散歩することにした――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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