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◇第一部◇
第十二話 玩具店でのひととき。【前編】
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流石に新車、素晴らしい乗り心地と快適さで進む。
静音性もバッチリで、静かな車内に不快な雑音も届かない。
酸っぱくて汗臭い、機材がごちゃごちゃした車両なんかでデートできるかっての!
車内に籠る、佐藤さんの香水かは知らんが、良い香りにも癒される。
ホント、乗り換えて良かった……俺ながらグッジョブだな、うん。
再び俺の手に冷たい手を添えて、しな垂れ掛かる佐藤さん。
何がそんなに面白いのか、まるで無邪気な子供の目をして、流れ行く退廃し瓦礫の山と化した町並みを、満足そうに見やっていた。
「佐藤さん、ちょいと聴いても良い?」
聴いて良いものかと悩んだ俺だったが、意を決して尋ねることにした。
「何をですか?」
愉しそうな笑顔のまま、俺を見る。
「その……血色の良い顔色とかどうやったんですか? ……冷たい手のままだし、生き返ったってわけではないんでしょ?」
「――えっと、特殊メイクよ? ホラー映画で人をゾンビにするアレの逆。昔取った杵柄ってやつよ」
「まぁ、化粧だろうなって予想はしてましたが、特殊メイクですか」
「ただ、見せる部分だけだけどね。おっぱいとかは青白い肌に紫斑が浮き出たままよ――ガッカリした?」
「青白い肌に紫斑程度で俺がドン引きするとでも? 鈴木さんとかのあの酷い状態を見慣れてる所為で、感覚は麻痺ってますから」
「そう言えば、私の身形を見た感想を、まだ聴いてなかったわね? ――で、どうかな?」
「意地悪な質問ですね? 態度で察して下さいよ。――でも言葉にして欲しいと言うのであれば……あまりにも桁外れに美人過ぎて、一瞬、惚けてました――ははは」
「――ホント⁉︎ 頑張った甲斐がある」
「実際、凄いと思いました。ぶっちゃけると、今も俺はドキドキですよ?」
「有難う。違和感バッキバキとか言われなくて、本当に良かった」
良い意味で、違和感バッキバキですけどね?
などと、たわいもない会話をしながら車を走らせ、三〇分もしない内に目的の玩具店に到着した――。
商店街の入口に構える玩具店だけに、目印を兼ねて建てたとでも言うかな立派な建物。
だがしかし、半壊していた――。
「半分崩れてるけど、大丈夫かな?」
心配そうに呟く佐藤さん。
広い駐車場に止めて外観を見ると、言われたまんまでそんな感じ。
車内から周囲を見渡せば、肉塊やら残骸やらが、色々と巻き散って悲惨な状況にはなってはいる。
だが、動いている者は見当たらなかった。
「相当、散らかってますから、足元に気を付けて。特に周囲には、充分に気を配って下さい」
降りる前に佐藤さんに促し、リモコンで両ドアを開ける。
俺も車から降りて直ぐ、荷台から電動ガンタッカーを取り出して、念の為にも佐藤さんに手渡しておく。
あとは小道具の入ったリュックを背負い、土木用スコップを持って準備完了。
「万一の時は、野良ゾンビの頭をそれで撃って凌いで下さい。あと、俺からは絶対に離れないように」
そう伝えて、しっかりと佐藤さんの冷たい手を握った。
「はい。――ちょっと緊張してきました」
直ぐに恋人繋ぎにしてくる佐藤さんの冷たい手が、少し震えていた。
「――大丈夫です。俺が必ず護ります」
しっかり握り返して、崩れた方へと一緒に回る。
「――ここから入りましょう」
案の定、外壁の一部が崩れて中に繋がっている。
窓を割ることなく、労せず入ることができそうだった。
中に入ると館内は真っ暗。
リュックからヘッドマウントライトを取り出して、照明を灯す。
夜間作業の業務用だけあって、めっさ明るい。
「工事現場の人みたいでしょ?」
佐藤さんの緊張を解す為、スコップで地面を掘る仕草を真似て戯けてみせた。
「――ぷ。スーツではやんないでしょ」
「そりゃそうだ。ところで……女の子って、どんな玩具が良いんすかね? 加藤さんのご意見を伺いたいです」
「今回は遊ぶ物ってことだし……ドールハウスとか着せ替え人形とか? 縫いぐるみも良いかもね」
「俺だったらラジコンとかプラモデルだけど……あ、ボードゲームとかトランプもゲッチュしましょうか? アパートの皆んなでも遊べるヤツ!」
「良いですね、一人遊びよりもずっと良いアイディア。流石、山田さんです! 食べても良いですか?」
「良いで――おっと、危ね! しれっと怖いこと混ぜないで下さい!」
緊張が解れたのか、冗談を言って噛みつくフリをする佐藤さん。
そんな気がないのは解ってるから、仰々しく驚くフリをする俺。
「売り場は……あっちですね。周囲に注意して向かいましょう」
「ええ」
ホラー映画さながらに警戒しつつ、半分となっても広く薄暗い館内を巡り歩いていく。
そこで嫌な状況を目撃する――。
――――――――――
退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
静音性もバッチリで、静かな車内に不快な雑音も届かない。
酸っぱくて汗臭い、機材がごちゃごちゃした車両なんかでデートできるかっての!
車内に籠る、佐藤さんの香水かは知らんが、良い香りにも癒される。
ホント、乗り換えて良かった……俺ながらグッジョブだな、うん。
再び俺の手に冷たい手を添えて、しな垂れ掛かる佐藤さん。
何がそんなに面白いのか、まるで無邪気な子供の目をして、流れ行く退廃し瓦礫の山と化した町並みを、満足そうに見やっていた。
「佐藤さん、ちょいと聴いても良い?」
聴いて良いものかと悩んだ俺だったが、意を決して尋ねることにした。
「何をですか?」
愉しそうな笑顔のまま、俺を見る。
「その……血色の良い顔色とかどうやったんですか? ……冷たい手のままだし、生き返ったってわけではないんでしょ?」
「――えっと、特殊メイクよ? ホラー映画で人をゾンビにするアレの逆。昔取った杵柄ってやつよ」
「まぁ、化粧だろうなって予想はしてましたが、特殊メイクですか」
「ただ、見せる部分だけだけどね。おっぱいとかは青白い肌に紫斑が浮き出たままよ――ガッカリした?」
「青白い肌に紫斑程度で俺がドン引きするとでも? 鈴木さんとかのあの酷い状態を見慣れてる所為で、感覚は麻痺ってますから」
「そう言えば、私の身形を見た感想を、まだ聴いてなかったわね? ――で、どうかな?」
「意地悪な質問ですね? 態度で察して下さいよ。――でも言葉にして欲しいと言うのであれば……あまりにも桁外れに美人過ぎて、一瞬、惚けてました――ははは」
「――ホント⁉︎ 頑張った甲斐がある」
「実際、凄いと思いました。ぶっちゃけると、今も俺はドキドキですよ?」
「有難う。違和感バッキバキとか言われなくて、本当に良かった」
良い意味で、違和感バッキバキですけどね?
などと、たわいもない会話をしながら車を走らせ、三〇分もしない内に目的の玩具店に到着した――。
商店街の入口に構える玩具店だけに、目印を兼ねて建てたとでも言うかな立派な建物。
だがしかし、半壊していた――。
「半分崩れてるけど、大丈夫かな?」
心配そうに呟く佐藤さん。
広い駐車場に止めて外観を見ると、言われたまんまでそんな感じ。
車内から周囲を見渡せば、肉塊やら残骸やらが、色々と巻き散って悲惨な状況にはなってはいる。
だが、動いている者は見当たらなかった。
「相当、散らかってますから、足元に気を付けて。特に周囲には、充分に気を配って下さい」
降りる前に佐藤さんに促し、リモコンで両ドアを開ける。
俺も車から降りて直ぐ、荷台から電動ガンタッカーを取り出して、念の為にも佐藤さんに手渡しておく。
あとは小道具の入ったリュックを背負い、土木用スコップを持って準備完了。
「万一の時は、野良ゾンビの頭をそれで撃って凌いで下さい。あと、俺からは絶対に離れないように」
そう伝えて、しっかりと佐藤さんの冷たい手を握った。
「はい。――ちょっと緊張してきました」
直ぐに恋人繋ぎにしてくる佐藤さんの冷たい手が、少し震えていた。
「――大丈夫です。俺が必ず護ります」
しっかり握り返して、崩れた方へと一緒に回る。
「――ここから入りましょう」
案の定、外壁の一部が崩れて中に繋がっている。
窓を割ることなく、労せず入ることができそうだった。
中に入ると館内は真っ暗。
リュックからヘッドマウントライトを取り出して、照明を灯す。
夜間作業の業務用だけあって、めっさ明るい。
「工事現場の人みたいでしょ?」
佐藤さんの緊張を解す為、スコップで地面を掘る仕草を真似て戯けてみせた。
「――ぷ。スーツではやんないでしょ」
「そりゃそうだ。ところで……女の子って、どんな玩具が良いんすかね? 加藤さんのご意見を伺いたいです」
「今回は遊ぶ物ってことだし……ドールハウスとか着せ替え人形とか? 縫いぐるみも良いかもね」
「俺だったらラジコンとかプラモデルだけど……あ、ボードゲームとかトランプもゲッチュしましょうか? アパートの皆んなでも遊べるヤツ!」
「良いですね、一人遊びよりもずっと良いアイディア。流石、山田さんです! 食べても良いですか?」
「良いで――おっと、危ね! しれっと怖いこと混ぜないで下さい!」
緊張が解れたのか、冗談を言って噛みつくフリをする佐藤さん。
そんな気がないのは解ってるから、仰々しく驚くフリをする俺。
「売り場は……あっちですね。周囲に注意して向かいましょう」
「ええ」
ホラー映画さながらに警戒しつつ、半分となっても広く薄暗い館内を巡り歩いていく。
そこで嫌な状況を目撃する――。
――――――――――
退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
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