ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第十話 佐藤さんにしてやられた!

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 小一時間ほど準備時間を取る旨を伝え終えると、最早、毎朝のお約束である井戸端会議は、一旦、終了。

 俺は直ぐに出るつもりだったんだが、佐藤さんが久々に町に出掛けるってことで、おめかして行くと言い出したんで、準備時間を設けたってわけ。
 そう言うところはゾンビッチでも、やっぱり女性だなとか、変な感心をしてしまった俺だったり。


 しかし、佐藤さん。随分と危機意識ナッシングなデート気分だが……大丈夫かな。


「繁華街は流石に怖いか……ならば、少し遠いけど、商店街の方にでも出張でばるかな」

 繁華街は人の行き来が活発すぎて、恐らく野良ゾンビが大量に居る筈。
 単体ならまだしも、束になって群衆で襲われでもしたら、ホラー映画真っ青な大惨事で目も当てられんのでな?

 昔ながらの商店街の方は、規模こそ小さいが濃ゆい店舗が軒並み揃っている。
 少し歩き回ることになるが、繁華街よりは野良ゾンビとの遭遇率は低いはずだ。


 久々に出掛けるデート気分な佐藤さんに、少しでも応えてあげたいのが本音だったり――男ってのは俗な生き物なのさ。


「この程度の移動距離であれば、護りながらでも大丈夫かな。問題は――店舗が無事かと言う点だな」

 スマホのGPSマップを使って、目的の玩具屋、ゲームショップ、佐藤さんが声を大にしてほざいてた下着屋などの位置関係を把握しておく。
 デートの下調べではないが、当たりをつけておかないと、いざと言う時の逃走ルートに困るからな。
 見て回る順番も、荷物が嵩張らないように注意しないといかん。

「はぁ――ソロ散策のが楽で良いな」

 溜息混じりにスマホをスリープにして、着替え始める。
 佐藤さんのデート気分に水を差したくはないので、俺なりに気を遣って身形も整えておく。

 そして、ビッとした黒いスーツに袖を通し、荷物類を持って部屋を後にした――。


 ◇◇◇


 荷物を七三式に積み終えたあと、搭載の軍用ナビゲーションにルートをインプットしておく。
 俺が万一の時に、佐藤さん一人でも帰って来れるようにの配慮だよ。

「ホームセンターから太陽光パネルを掻っ攫ってくるのに、七三式では載らんか……それは次回にして……そうすると、大きな運搬トラックも要るな。力仕事にもなるし、次は腐っちゃいるが筋肉ムッキムキな田中さんでも無理矢理に引っ張ってくか。あと他にやることは――」

 積み込み作業を終えて佐藤さんを待つ間に、貴重な煙草を燻らせつつ、ボロッボロのアパートの修繕改装案を練っておく。


 そうこうしてる内に、佐藤さんが満面の笑顔でやってくるわけだが――。


「――お待たせ。どう……かしら?」

 照れ臭く笑って可愛いポーズを取る佐藤さんを見た瞬間、咥えてた煙草をポロリと落とし、唖然として惚けてしまった――。

 ゆったりした淡いピンクのセーターを着込み、パンタロンスタイルの黒いパンツルックで、有名ブランドのハンドバックを肩から提げている。

 着飾ったネックレスとピアスにしても、嫌味や下品さもない、見るからに高級そうで上品な物。


 そして一番驚いたのが――、


 青白い肌が健康的な人間の肌の色で、かつ紫斑が全て消えていたこと。


 キリッとした目に鼻筋が通って、潤んだ小さめの唇に、上品なシニヨンスタイルに纏めた髪などなど。
 ゾンビッチさを一切感じさせない、本来の恵まれた容姿を余すことなく引き立てた、清楚で可憐な上品さで……素晴らしい完成度。


 グラビアモデルも驚きの、正しく眩し過ぎる、素敵なお姉さんに化けていたのだ――。


「――もしもーし、山田さん?」

 惚けている俺を覗き込み、冷たい手で頬っぺたをペチペチしながら、甘ったるい声で優しく呼びかけてくれる佐藤さん。
 死臭ひとつなく、上品で良い香りが俺の鼻に仄かに届いたところで、我に返った。


 ヤッベ……完全に見惚れてた……。


 心臓の鼓動がめっさめさ早くなって、恥ずかしさで顔が真っ赤になってんのが解る。

「――あ、はい。どちら様で?」


 なので、褒めるよりもボケた。


「コラ~、その口は、なんの為についてるのかなぁ~?」

「い、痛い、痛いっす! まじ痛い!」

 俺の顔にグィッと綺麗な顔を近付けて、両方の頬っぺたを冷たい手でもって、思いっきり容赦なくつねってきた!

 頬っぺたを抓っている冷たい手に俺の手を添えて、目を泳がせてジタバタと捥がく。

「そんな気の利かない悪い子には――こうよ」

 めっさめさ近い距離の佐藤さんの顔が、更に近くなって……、


 優しく俺の唇に、冷たい唇を重ねた――。


「――意地悪しちゃった。てへ。――嫌じゃ……なかった?」

 そっと唇を離し、目を真ん丸にして心肺停止状態に等しい俺に、首を傾げた上目遣いと言ったあざとさ全開で、可愛いらしく謝ってきた。

「――あ、うん……嫌じゃ……ないかな?」

 実際、ご褒美だよ。
 不覚にも、言葉が選べないほどにドキドキさせられた。

「良かった!」

 そんな俺の腕を和かに笑って取り、谷間に埋めて引き起こしてくれる佐藤さん。

「今日は宜しくお願いします。山田さん」

 さっきまでのお巫山戯を改めて、未だ惚けている俺を覗き込んで、そうお願いされた。

 あまりにも可愛い仕草の佐藤さんに、何度も壊れた玩具のようにウンウン頷き、ギクシャクしながらもエスコートして、なんとか七三式に乗せて出発した――。


 あかん……今日だけは冷静で居られる自信ねぇわ、俺――。

 

 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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