ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第十一話 人生初デート……その前に。

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 出発してまなし、瓦礫の少ない大通りに出たところで、ちょいと七三式を止めた俺。

「えっと……佐藤さん?」

「なんでしょう?」

「ち、近いし。運転し辛いと言うか……良い感じに当たってるんですけど?」

「当ててるんですよ? でも、運転の邪魔になるのは良くないですね……じゃあ、これで我慢しておきます」

 左手に冷たくも柔らかい手をちょこんと重ね、肩にしな垂れてきた佐藤さん。


 流石にゾンビッチ、男の喜ぶツボを心得ていらっしゃるのな。


「ま、まぁ……そのくらいなら」

「ふふ……有り難う、山田さん」

 切れ長でもパッチリした目が上目遣いに俺を覗き込み、潤んだ唇が優しく緩んだ。


 何? このテラ可愛い生物は?
 ゾンビッチ? 何処に居るの、そんなの?


 動揺するのを必死に抑え、ポケットからスマホを取り出した俺。

「――さ、さて。一応ですけど、俺なりに散――こんな感じにデートコースを選んでみたんですけど? ピン止めしてる店に寄るつもりですけど、他に寄りたい所ってあります?」

 下調べをして商店街周辺の店をマーキングしておいた、スマホのGPSマップを開いて佐藤さんに渡した。
 
「流石ですね、山田さん。できる男の人って感じです。私の希望が完璧に抑えてある。……凄く気遣ってくれてるんですね」

 俺から受け取ると、マーカーポイントをチェックしつつ、そんな嬉しいことを言ってくれる。

「ぐ、偶然ですよ、偶然」

「今日はエスコートしてもらうお約束ですし、この流れで構いません」

「了解です。ではそのマップ通りに進んで、一番遠い玩具店に向かいます」

 最初の目的地が決まったので、七三式のカーナビを起動して再び走らせる。


 だがしかし、ここから直ぐ先にある輸入車ディーラーで、直ぐに車を止めた――。


「ちょっとだけ待っててもらって良いっすかね? 俺の野暮用を済ませてきます。直ぐに戻りますから」


 野暮用と言っても、トイレ云々ではない。


「――どうしようかな……じゃあ、ん~」

 目を瞑って唇を出して甘えてくる佐藤さん。


 その仕草は――待ってるから唇付けしろってか? ……とことんまで容赦ないな、今日は――全く。


「ハイハイ……ん……これで良いっすか? 佐藤さん、はっちゃけ過ぎ。これじゃまるでバカップルじゃないですか……」

 バードキス程度に軽く。

「――山田さんが優し過ぎて、今日は私……メロメロなんですよ、てへ」

 頬を朱に染めてモジモジちゃんときた!


 あ~もう、可愛い過ぎかよ!
 このままだと、俺が狼になりそうだっつーの!


「んじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 佐藤さんに見送ってもらい、向かったのは事務所。
 そこらに落ちている瓦礫で窓ガラスを割って侵入し、お目当ての物を無事に確保した。


 それは販売車の鍵のケース。


 ご丁寧に車種と色とが明記されている。
 その内の一本をポケットに入れて、展示ルームに急ぎ向かう俺。

「折角のデートだし、汗臭い中古の軍車両では気分も台無し。やっぱり超高級な新車で出掛けたいもんな――良し、ちゃんと動く」

 凄く気合の入ったデート気分な佐藤さんに、俺も誠心誠意に応えてあげたくなった。

 今日の予定にはなかったんだが、そう言うわけで、高級車を戴くことにした――まぁ、追々、役にも立つんでね。


 戴くのは、俺が兼ねてから目をつけていた、素敵車両――その名も、レズバニ社の『Tankタンク』だ!


 五〇七馬力を誇る、地球上で最もタフなSUV。
 外装は軍用の装甲車に丸みを付けたような、厳ついデザイン。
 大径タイヤを装着で悪路もへっちゃら。
 更に自動で開くドアは観音開きのコーチドア、積載性に乗降性も抜群。
 更に展示されていたタイプは防弾仕様車ときた!
 瓦礫が散乱する世紀末なこの世界に、まさにうってつけの車両だよ。

 近づいてバッテリーを接続しキーレスを起動させると、問題なくエンジンが掛かった。
 ガソリンも充分量入ってるし、提案展示車両なので、カーナビなどのオプションも搭載済みときた。

 早速、俺のスマホをリンクさせGPSマップデータを転送し、展示ルームの出入口を開けて中に乗り込む。

「流石に最新式だけのことはあるのな。シートの座り心地、新車特有の香りもグッド。きっと喜ぶだろう――」

 七三式に横付けし、右側の助手席のドアを自動でオープンさせた俺。

「お待たせです、佐藤さん」

「――こ、これ、ちょっと……す、凄くない?」

 こう言うごっつい系の自動車は物珍しいのか、タンクの周囲をクルクル見て回る佐藤さんだった。

 その間に俺セレクト散策セット、土木用スコップなどの道具を移し替えておく。

「記念すべき初デートですから。ちょいと贅沢に行きましょう。ただ、瓦礫が散乱している廃れた世界なので、スポーツ車ってわけにはいかない。なのでコイツです。実際、軍の装甲車以上の性能ですし、野良ゾンビと出会しても、ぶっちゃけ跳ね飛ばしてやれば良いんすから。そんくらい丈夫いんです」

 ちょいと不適切なドヤ顔で自慢げに語り、執事の真似をして助手席にエスコートしてみた。

「なんか嬉しくなってきた。色々と本当に有り難う、山田さん」

 俺に引かれて助手席へと腰を下ろす際、真面目な顔になってお礼を述べる佐藤さん。

「汗臭い中古の七三式と違い、乗り心地最高の新車ですよ? 退廃した世界の略奪者。今日は贅沢にとことん満喫しましょう」

 運転席に乗り込み、ドアを閉める操作をしつつ笑いかけた。

「言えてる。――自動でドアも閉まるんだ、これ。――わ、わわわ、座席が⁉︎ これも自動調整⁉︎ ホント、全然違う……凄い」

 乗り込んで深くシートに座ると、座席がリラックスできる位置に調整されて驚く佐藤さん。
 超ご満悦の笑顔になって、車内でやんややんやと大はしゃぎし始めた。
 どうやらことほか、お気召してくれたようだ。

 エアコンを操作する時に、俺がこっそり座席位置を操作して調整したんだけどもね?


 ちょっとした悪戯だよ?


「――コホン。それでは改めて、出発~」

 新車のタンクを走らせて、最初の目的地である玩具屋へと向かった――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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