ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第九話 加藤さんからのクエスト。

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「それはそうと。山田さんにお願いがあったんだ。実は……私の娘のことなんだが……」

 朝の井戸端会議、話の区切りがひと段落ついたところで、加藤さんが手の平をポンと打ち、やや申し訳なさそうに切り出してきた。

「娘さんが……どうかされたんですか?」

「ああ……うん。まぁ、こんな世界になってしまって……遊びに連れて行こうにも何処にも行けないし、部屋で遊ぼうにも遊べる玩具がひとつもない……流石に不憫でな」

「小学生だと本来なら遊び盛りですものね……」

「確かに……僕ら大人は我慢できるけど……」

 などなど、納得する鈴木さんに佐藤さん。
 加藤さんにあーだこーだと言い始めたので、その間にちょいと解決策を見出しておく。

 電気が通ってないからなぁ。
 ビデオゲーム世代にはちょっと辛いか。
 アナログな玩具は当然ないだろうし。

 そういやホームセンターに、太陽光パネルと蓄電機が残ってたな。
 俺の部屋だけでなく、アパート全体にも電気が行き渡るようにしてやるかな。
 そうすりゃソシャゲは無理でも、ビデオゲームくらいは楽しめるだろうしな。
 夜に漫画とか、アニメや映画も観れるしな――。

 ついでに電化製品、湯沸かし器や給湯器も使えるようになるか。
 風呂にでもゆっくり浸かれば、リラックスできるかもな……。
 問題は水だが、過装置程度では有害物質まで取り除け――。


 思考が脱線し始めた時だった――。


「儂と一緒に身体を鍛えれば良いのだ!」

 田中さんが、香ばしいポーズで腐った筋肉をピクピクひくつかせ、恫喝する勢いの大声で、何ぞほざきやがった。


 腐っても健康な筋肉爺さんは少し黙ってて。


「つまり、部屋で遊べる玩具や道具が欲しいってことですよね。――要は娘さんを連れて出れないから、俺にそれを調達してきて欲しいと?」

 田中さんの無意識なギャグで我に返った俺は、加藤さんらに話を簡潔にまとめた答えを伝えた。

「山田さん一人にさせる気は毛頭ない。私と一緒に出向いてくれないかとお願いしたいんだ。こんな無茶な願い……とても危険なことだと、私も充分に承知しているが――」

「良いですよ」

「頼れるのは山田さんだけで――って、え⁉︎ 良いのか⁉︎」

 話してる途中で即了承した俺に、目を真ん丸にして驚く加藤さん。
 俺もゲーム世代だし、娘さんの気持ちが少しは解るんでね。

「但し、加藤さんは留守番で。何かあったら娘さんが可哀想でしょうが? 俺一人で行きますよ」

「しかし……それは……」

「じゃあ、僕が同行するよ。山田さんが確保してくれた武器もあることだし」

 心根の優しい鈴木さんが名乗り出る。

「鈴木さんばかりズルいです。今回は私が同行します。丁度ね、切らした化粧品が欲しいなって思ってたし、新しいお洋服も欲しいし。あと下着、替えの下着、素敵な勝負下着。自分で選びたいし! ――お姉さん頑張っちゃお」

 珍しく会話に割って入り、下着をやたら強調して握り拳のゾンビッチな佐藤さん。


 色々とツッコミたいが、やめておこう。
 言っとくが、紳士向けの意味でじゃねーからな?


「佐藤さんが……ですか?」

 鈴木さんが少し複雑な腐り顔を見せた。

「佐藤さん、盛り上がってるところ大変申し訳ないんですけど、顔が前後逆向きでは、咄嗟の動きに支障が出ます。流石に危ないですって。――俺一人で充分ですよ」

 ゾンビッチな佐藤さんも、うら若き女性。
 いつの時代も、歳を取っても、女性は永遠に美しくありたいって願うものだしな。
 ゾンビになっても変わらないってことか。
 気持ちは解るけど、身体の状態がね……。

「ああ、それなら心配無用ですよ。――えいっ!」

 両手で頭を持って軽く上に持ち上げると、前後正しい向きに嵌め直した佐藤さん。


 できるんなら最初からやっとけ!
 ねじ切れてデュラハンにでもなってまえ!


「――なんで今まで後ろ向きだったんです?」

 動揺するのをひた隠し、冷静に尋ねる俺。
 
「それなのよ。最近になってできるようになったというか、蹴躓いて転んだ時に、偶然、戻せるって発見したの。笑っちゃうわよね」

 なるほど……鈴木さんの目ん玉ドーンやギックリ腰と同様、首の筋肉が緩んで戻せるようになったってことか。
 見た目は変わってないけども、佐藤さんも体組織が緩やかに腐っていってるんだな……。

「ずっと後ろ向きで過ごしてきたから、もう慣れちゃっててね。面倒だし……まぁいっかなってね。えへ」

 色が少し濁った舌を出して悪戯っぽく笑う、正しい向きの佐藤さん。

 紫斑が浮いてちょっと腐ってるけど、そうしてるとアンタ、やっぱめっちゃくちゃ美人だよな。
 最初からその状態で迫られてたら、俺の僅かに残る理性は、テラヤバではぁはぁだったかも知れんわ、うん。

「――解りました。但し、俺からは絶対に離れないで下さいよ?」

「それはプロポーズかな? もう、山田さんたら……大胆ね」

「断じて違うわ! 話の脈絡から察して下さいっての!」

「冗談よ。でも久し振りに外に出れる――今日のデートはエスコートお願いね、山田さん」

 よっぽど嬉しいのか、大はしゃぎな正しい向きの佐藤さんは、俺を覗き込んで悪戯っぽく上目遣いに微笑んだ。

 紫斑が浮き出て青白い豊かな双丘だが、たゆんたゆんなわけで――そんな魅惑の谷間が目に入る。

「――その顔はズルいです、佐藤さん」

 不覚にもちょっと照れ臭くなって、つい、そっぽ向く俺。

「――脈ありとみた!」

 俺の腕をすかさず絡め取って谷間に埋めると、冷たい手で手首を掴み、言葉通りに脈を測る。


 そんなトリッキーにボケんな。
 生きてるんだから脈くらいあるわ。
 至高の柔らかさで、脈が早くなってるかもだがな!


「話が纏まったので、早速、準備します。佐藤さんも動き易い格好――って言うと、曲解されてエロエロな服で攻めてくるだろうから……真面な服でお願いします。もしも不適切、或いは過度な露出の服だったら置いてくんで」

「――バレてたか」「解らいでか!」

 はっちゃけ気味でペロっと笑う、存外にもお茶目な性格だった佐藤さんだった。


 そんな風なやり取りのあと、部屋に戻ってせっせと出掛ける準備を進めた――。


 何せ、異性との人生初のデート。
 俺も佐藤さんと出掛けるのが、僅かばかり愉しみだったり。


 だがしかし、相手はゾンビッチ。


 めっさ美人なんだけどなぁ。
 存外、良い性格なんだけどなぁ。
 なんだかなぁな、ホント、複雑な気分だよ……とほほ。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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