ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第八話 焼肉の翌日は皆が元気。

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 一夜明けたところで、暗雲立ち込める腐りきった空は、何ひとつ変わらない。

 ボロッボロのアパートの一角に寄り集まった愉快な住人らが、今日も今日とて何が愉しいのか、朝っぱらから井戸端会議を開催し、やんややんやと大騒ぎしていた。

 お陰で強制的に目覚めさせられた俺は、文句のひとつでも言ってやろうと、皆の元へと向かっていった。


 だがしかし、俺の顔を見るなり――。


「昨夜は有難う、山田さん。――儂らの為に嫌な思いをさせて済まなかったな。これ、この通り」

 腐ってもムッキムキな筋肉を、妙な香ばしいポーズでピクピクとひくつかせてアピールしながら、軽く謝罪を述べてくる田中さん。


 腐った筋肉を自慢されても、ねぇ……。
 たぶん元気出たよと言いたんだろうが。


「いや、本当に久し振りの素敵なお肉だったよ。私の嗜好も大満足で……嗚呼……本当に良いお肉だったよ……全てが素晴らしかった。特にあの肉付きの良い臀部の肉と、霜降りたっぷりな豊満な胸の味ときたら……嗚呼、最高だ――」

 よっぽど美味しかったのか、毒々しい後光が差しているんじゃないかと錯覚するほどに、エグい恍惚の腐った表情で想い馳せる加藤さん。


 怖いことを朝から詳細に語るな。
 エグいから。存外にエグいから。


「山田さん……久し振りでお辛かったでしょう……私達の為にあまり無理をなさらないで下さいね」

 そんな優しい言葉を掛けながら、俺をそっと抱き込んで、労ってくれる前後逆向きの佐藤さん。
 要は負ぶさる形になって、抱きしめてもらっているわけで。


 当然、肩甲骨が顔にモロに当たる。
 動かれる度に頬が抉られて痛いだけっす。


 折角、美人さんからの抱擁を受けても、嬉し恥ずかしいあの柔らかさも、人肌の温もりも、仄かに香る大人な良い匂いすら、全くしません。

「山田さん、僕からも改めてお礼を。嫌なことをさせて……」

 深々と頭を下げて、昨日のことを謝ってくれる鈴木さん。


 禿げた所から脳髄見えてるよ? 
 微妙に収縮して蠢いてるからキモいよ?


「皆さん気を遣いすぎですって。なんと言うか、もう慣れましたし大丈夫です」

 そう、繰り返せば人は慣れるんだよ。

「もうね、お肉の御礼に頑張っちゃうわよ? ――ストレス発散、私に任せてみない?」

 何ぞ思い付いたのか、紫斑の浮き出た青白い顔で和かに微笑むと、俺に内緒話でもするかのように、耳元で甘く蕩けるような声で囁いてくる佐藤さん。


 だがしかし、舌舐めずりの音が最後に聴こえた――。

 
「ゾンビッチはノーサンキューで。でも、宅飲みくらいは今度付き合って下さい」

 気遣ってくれる気持ちを考慮して無碍にせず、本音でそう答えた。

「あら残念。どっちも好きな時に相手になるからね? 本当に遠慮せずに言ってね――チュッ」

 冷んやりした優しい口付けを頬に軽くしてから、クルリと回って恋人のように俺の腕を取ると、青白い頬を紫色に染めて照れ臭く笑う、可愛らしい仕草のゾンビッチな佐藤さんだった。


 進行方向は逆だけどな?
 腕の組み方もトリッキーだけどな?


 まぁ……いつもエロ担当で巫山戯ちゃいるが、俺を気遣う優しい気持ちは、毎度、ちゃんと伝わってくる。
 正しく人であったなら、間違いなく八方美人って言葉が似合う女性だよ。
 そんな佐藤さんが実は大好きだったりする俺――絶対に言わんけど。


 何されるか解らんからな?


「良いですなぁ、山田さん。――儂は年甲斐もなく、正直、羨ましいのう」

「私もあやかりたいものですな……ふぅ、暑い暑い」

 田中さんが香ばしいポーズを取り、腐った筋肉でアピールしつつ野次り、加藤さんは腐った手でパタパタと扇いで茶化してくる。

「冗談は腐るだけにしといて下さい」

 照れ隠しを兼ねて、めっさ爽やかな微笑みを携え、二人を静かに威圧しておいた。


 そしてこのあとで、加藤さんからある頼み事をされ、やんややんやとひと騒動することになる――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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