ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第五話 俺って運は良い方かな。

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 ホームセンターからカートを押して、少し離れた近所のスーパーへと足を運ぶ俺と鈴木さん。

 調子こいてカート一杯に物を積んだので、嵩張って仕方がない……当然、歩く速度も遅くなる。

「野良ゾンビに出会したら、これ、収拾つかんくなりますね」

「うーん、小分けにして持っていくとか?」

「いっそ車をキープしましょうか? ガソリンが貴重ですけど、安全には変えられません」

「車はその辺りにゴロゴロ放置されてますけど」

「鍵がないとシリンダーを引っ張り出さないと動きませんし、最近のは盗難対策がされてるんで面倒ですって」

「と、なると……あれですか?」

「そそ、あれですよ」

 一台の車を見やり、俺と鈴木さんが互いに頷き合う。


 それは自衛隊の汎用小型車両――七三ナナサン式だった。


 野良ゾンビの鎮圧か避難誘導かで出張ってきたのは良いが、返り討ちか何かに遭って止む無く乗り捨てたんだな。
 横転してやがるが、割に原型を留めて残っていた。

 周囲に警戒しながら近付いて、車内を覗き込む俺。

「予想通り鍵もついてやがる。鈴木さん、これ戴いちゃいましょう」

「じゃあ、正位置に戻して試してみましょうか?」

 七三式を二人で押して引き起こす。
 何度か挑戦して、上手い具合に正位置に戻すことができた。

「ふぅ……一人と一体だと、きっつ」

「体力が全然なくってすいません……流石に山田さんは……力持ちですね」


 俺がどうこうと言うより、鈴木さんがひ弱なだけでしょうが。


 創作やゲームで良くある、ゾンビになったら謎パワーで力持ちなんてことはない。
 世の中、そんなに都合良くはできてやしないんだよ。
 腐っているので、身体も脆く動きも鈍いし、その分だけ力も衰える。
 俺如きニートでも、野良ゾンビ対処が簡単にできる理由だな。

「いえいえ、俺は単にテコの原理を応用しただけです。早速、エンジンを掛けてみます。鈴木さんは休んでて下さい」

 キーシリンダーに差さったままの鍵を捻り、セルを回す。
 キュルキュルっと音はなるも動きは渋い。
 何回か挑戦したのちに、ようやくエンジンが掛かった。

「バッテリーがヘタってるっぽいですけど、問題なさそうですよ。まぁ、戻ってからちゃんと整備してみます」

 ボンネットを開けた状態で、アクセルを軽く吹かしてみたりと色々確認するも、特に異常は見当たらない。

「鈴木さん、とっとと荷物を積み込んで向かいましょう」

「流石は山田さん。機械に強いって羨ましい。僕には何がなんだかサッパリですよ?」

「まぁ、趣味の範疇ですけど、こう言う機械の分野は得意ですから」

 ボンネットを閉じて、荷物の積み込みに掛かる。

「ご謙遜を。回生電気式発電機を、手持ちの材料で作っちゃえるほどなんですから。僕は凄いと思いますよ」

「――褒めても何も出ませんよ」

 ぽりぽりと頭を掻いて、照れる俺だった。

「スタンドに立ち寄って、ガソリン携帯缶とかも入手して置きましょうか。足も確保したことですし、折を見て軍の施設にも出張ってみましょう」

 運が良ければ、重火器などが手に入るかも知れないし。
 重火器の殺傷能力の高さは、鈍器の比じゃないからね。

「イェッサー! ――なんちゃって」

 敬礼の仕草で茶目っ気たっぷりに返事する、ゾンビな鈴木さん。


 昔に流行ったコミカルなゾンビ映画を観ているようで妙な感じだよ。


 程なく荷物を無事に積み終え、二人で七三式に乗り込んだ。

「さて、廃れた世界でドライブと洒落込みますか」

「ええ。運転手宜しくです、山田さん」

 途中でガソリンスタンドに寄って、目指すはスーパー。
 帰りにコンビニ……は今日は良いか。
 車が手に入って、活動範囲も広がったことだしな。


 流石に軍用だけはあって、瓦礫が散乱している荒れた道をものともせず、ひた走る七三式。
 ギャップを拾う度に、大きく跳ねるのが不快。
 車内にしても、無線機などがごちゃごちゃ装備されていて狭く、座席も固く妙に汗臭い。
 乗り心地は、お世辞にも快適とは言えなかった……。

「この界隈には……あんまり人の野良ゾンビが居ないですよね」

 車の窓に腕を引っ掛けて、景色を見やる鈴木さんから、そう問い掛けられた。

「まぁ……ド田舎ですし。少ないに越したことはないですよ。駅の方や繁華街の方に向かえば、きっと盛大にお出迎えしてくれますよ?」

 確かに蹌踉めき揺蕩っている野良ゾンビな人は、この周辺には殆ど居ない。
 原型を留めていない遺体や、肉片となって巻き散っている残骸らしき者や物は、そこら中で見て取れるけども。
 偶に出会す程度で済んでいるのが、不幸中の幸いだった。

「それは是非に行かない方向で」

「俺も嫌ですって。何が悲しくて自ら死地に赴かねばならんのか。仮初でも平和っぽいのが一番ですって」

「ですよね……」


 予定通り、ガソリンスタンドに立ち寄って補給をする。
 給油ホースは電気が止まっている為に使えないので、地面に埋まっている貯蔵タンクから直に吸い上げることになる。

「貯蔵タンクのマンホールを開ける鍵と、携帯缶に汲み上げるホースも要るな」

 スタッフの詰所の窓ガラスを割って侵入し、併設されるピットの鍵などを入手した。
 解錠して中に入ると、お目当ての携帯缶も見つかった。

 鈴木さんと手分けして、七三式と携帯缶に給油していく。
 折角なので、灯油もついでに戴いておく。

「山田さん、こっち終わりました。何気に世紀末の略奪者な気分ですよ」

 七三式と携帯缶の給油が終わったことを伝えてくれる鈴木さん。


 いや、正しく世紀末で略奪者ですよ?


「ははは……違いない。マンホールはちゃんと閉めといて下さいよ?」

 灯油缶を積んでいた俺は、そう返事をした。

「さて、俺って実は運が良いんですかね? 妨害もなく平和」

「それは何かが起きるフラグってヤツですよ、山田さん。気を抜かず行きましょう」

「あちゃ~、俺の台詞が鈴木さんに取られちゃいました。ははは」

 頭をぽりぽりと掻いて、罰が悪そうに笑って誤魔化しておく。


 その時だった――。


 ピットの影から這いずって出てくる、醜悪な面構えの野良ゾンビ。
 スタンドの制服に身を包んだ男性っぽい。
 腐って崩れたのかは知らんが、下半身がごっそりとなかった。

 匍匐ほふく前進のように伏して、両腕だけで這いずってにじり寄ってくる。

「言わんこっちゃない! 急ぎ離れますよ!」

「面目次第も御座いませんってね!」

 素早く七三式に乗り込み、ガソリンスタンドから急発進して難を逃れる、俺と鈴木さんだった――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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