ぞんびぃ・ぱにつく 〜アンタらは既に死んでいる〜

されど電波おやぢは妄想を騙る

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◇第一部◇

第三話 物資調達。

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「退廃した世界での物資調達の舞台が、毎度、ホームセンターと相場が決まってる意味が良く解るわ、ホント。マジで納得するよ」

 買い物カートを押しながらついてきてくれる鈴木さんと、ペットコーナーで缶詰などを物色している俺。

 ドックフードやキャットフードは、バランスの取れた貴重な栄養源だからね。
 人間用のサプリメントフードも、ここには結構な品数がそのまま残っているけども、ご馳走として取っておく。

 しかし着替から日用品、簡単な保存食に工具に至るまで自由に選び放題で、それを俺が独り占めできたのは、幸運としか言いようがないよ。

「残念なのは、ペットコーナーで生体を扱っていないってことですね。鮮度の高い美味しい食事にありつけたかも知れませんし」

 犬用ビーフジャーキーを手に取り、溜息混じりで残酷かつ怖いことを言い出す鈴木さん。

「仔犬や子猫、熱帯魚とか残ってても、流石に食べる気はないですよ? ゾンビにならず助かったのに、食当たりで死ぬなんてギャグでしかないっしょ? つーわけで、安全そうな保存食と缶詰で難を凌ぎます。実際、当面の間は足りそうですし」

 ドックフードの缶や袋詰めをカートに載せて、鈴木さんに伝える。

「ですよね~。いよいよ考え方がゾンビに染まってきたかな?」

「人格だけは残しておいて下さいよ? 俺……鈴木さん達にはマジ感謝してるんですから――この手で始末するのは……正直ごめんですから」

「解ってますって。ヤバそうだったら人知れず何処かに旅に出ます」

「それも寂しいですけど……」

 そんな鬱になりそうな会話を交えながら、電化製品とアウトドアグッズのコーナーに足を運び、目的の乾電池と油などを一通り揃える。

 替えの作業着に寝袋、ランタンや着火剤に固形燃料などの重要な道具類も、しっかりカートに突っ込んでおく。

 ちなみに携帯タンブラーなどの容器は、中に詰め物をすることで、自作の焼夷手榴弾とかになる。
 製作には欠かせない材料なので、これらもついでに放り込んでおく。

「あ、そうそう。スコップとハンマー、ツルハシも欲しいんで、資材館の方にも立ち寄ってもらって良いっすかね? ――ところで……旨いっすか、それ?」

 襲いくる脅威に自作の釘バットで対処してきた俺だけど、ここらで正しく武器として使えそうな道具が欲しく、鈴木さんに尋ねた。

「構いませんよ? 道中、何が起こるか解りませんし、来る回数は減らした方が安全でしょうし。要る物はできるだけ揃えて持って帰りましょう。――しかし干し肉はどうも食べ辛い。僕は苦手かも? ……山田さんもどうです?」

「あ、どうも。――俺は食えればなんでも良いですけどね? 案外、美味しいじゃん」

 鈴木さんから手渡された干し肉をしがむ俺。
 犬っころ用は大味でパサつくんだけど、肉の味がちゃんとするんで割に旨い方だと思う。
 こう言う状況だから、生肉にはありつけないんでね。
 スーパーなどに残ってる腐った肉とか加工肉なんかは、鈴木さん達の食料になってるよ。


 荷物がてんこ盛りのカートを押し、資材館へと向かう俺と鈴木さん。


「エンジン付チェーンソーとか強力そうですよ? あ、電動もある」

 鈴木さんが、偶々、目についた工具を推してくる。

「殺傷能力は確かに凄いけど、どっちもNGですって。以前、ここに来た時に持って帰った小型発電機から車載バッテリーに繋げて、回生電力を生み出せるようには組んでいますけども、結局は限りある資源に違いはないんです。まして軽油やガソリンなんてのは、もっと無駄には使えないですって」

 チェーンソーを手に取って、仕様表記のタグを確認しながら、やはり駄目だと伝える。

「そうですね……すいません」

 しょんぼりして歩く鈴木さん。

「身体も鍛え始めましたし、そうそう野良ゾンビ共に遅れを取ることはないですって」

 しょんぼりする鈴木さんの肩を軽く叩いてあげた。

 鈴木さんはゾンビ独特の腐った身体。
 ブニブニした感触が手から伝わる。
 生計を共にする他ならぬ鈴木さんなので、触れることに対抗もなく、全然、嫌な気もしない。

「この腐った身が朽ちるその時まで……僕の自我が残っている限り、山田さんらと行動を共にして護ります。僕自身、少しでも長く人の心でいられるように……頑張ってみます」

 肩に置いた俺の手に、鈴木さんの腐った手が重なる。

「俺もいつまで生きてるか解りませんが、鈴木さんらの側に居ますよ……明日にでもゾンビ化するかも知れませんけどね?」

 そう冗談めかして伝える俺。


 その時だった――。
 物陰で何かが動いた気がした!


「動かないでっ!」「――え⁉︎」

 鈴木さんの肩を掴んでいた右手に力が籠り、咄嗟に何事かと仰ぎ見る鈴木さん!
 
「そこの物影に何か居ますよ、鈴木さん……」

 すかさず釘バットを構え、物陰を注視する。
 一気に緊張感が増し、嫌な汗が吹き出る……。
 まぁ……何かとは言った俺だけど、ゾンビしか残っていない廃れた世界だからな。


 要は何のゾンビかが問題なんだよな。


 次の瞬間、鈴木さんが音もなく宙に舞い上った――。

 俺と大差ない大きさの蜘蛛が、いつの間にか天井に貼り付いて糸を垂らし、鈴木さんを拘束して持ち上げたのだ!

 遠目に見ても明らかに腐っているのが解る――。


 つまりゾンビ化しているってことだ。


「なん……だと⁉︎ ――アシダカグモだと⁉︎」

 普通でも拳大くらいの大きさなアシダカグモ。
 不意に遭遇した人は、大概、驚いてしまう。
 毒はなく性格も臆病で、無理やり捕まえようとでもしない限り、襲ってこないのが普通。

 主食は確かゴキブリの筈で、家にゴキブリが居たら必ず居ると言われており、逆も然り。
 人知れず駆除してくれる、通称『軍曹』と呼ばれる益虫だ。

「チッ、ゾンビ化して見境がなくなってんのか!」

 大慌てで糸を掴もうとするも、一瞬で引き上げられて手が届かない!

「僕は放っておいて良いです! 山田さん早く逃げて!」

 悲痛な面持ちで叫ぶ鈴木さん!

「いくらゾンビな鈴木さんでも、見捨てて逃げられるか!」

 何かないかと必死に周囲を見渡す俺!
 こうしている間にもどんどん引き上げられていく!

「――こ、こいつで! 串刺しにすれば!」

 目に入った鉄パイプを掴み、蜘蛛目掛けて投げつけようとした俺!


 しかし――。


 既に視界から消え失せていた――。


 
 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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