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◇第一部◇
第二話 生きる為に。
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「突然、世界が終わるって、未だに信じたくねーな」
電気もガスも水道も、ライフラインが全て止まっている自室で、せっせとお出掛けの準備を整える俺。
「ゾンビなアイツらは、別段、何も食べなくても生きていける……は、正しくないか。存在し続けていられるが、正しく人たる俺は飢え死にしてまうからな」
ゾンビたる隣人は死肉があれば良いだけで、食べなくても飢えに苦しむだけで死には……活動停止にはならないのだ。
だが、人が生きる為には、食べなければならない。
俺の部屋に備蓄していた水と食糧が心許ないから、今から調達に出掛けるんだよ。
幸いにして、この界隈で生き残ったのは俺一人っぽい。
周囲に残された食糧は、全て俺の物にできるってのが救いだよ。
「近所のコンビニとスーパー、ホームセンターで何ぞ手に入れるかな」
フード付きの雨合羽な外套を着込んで、簡素で大きなリュックを背負う。
護身用の武器として、自作の釘バットを持って部屋を出た。
「おや? 山田さん、今日はお出掛けですか?」
隣の部屋の窓から和やかに声を掛けてくるイケメンの鈴木さん。
若禿に悩むゾンビだけどな。
「ええ。近所のコンビニで缶詰と水類を調達して、ホームセンターで油とか乾電池を掻っ攫って来ようかなと」
油や乾電池は貴重なエネルギー源だからな。
「それだとゾンビ手があった方が楽ですね。重いし嵩張るし。道中の山田さんも心配だし、僕も手伝いましょうかね」
「鈴木さんも一緒に行ってくれるんですか?」
「勿の論ってヤツ。――僕も用意するから少し待って下さい」
若禿イケメンゾンビな鈴木さんは、冗談で俺を喰うといつも弄ってはくるが、元イケメンらしい心根の優しい男性だ。
ちょくちょくこうやって、手伝ってもくれる良いゾンビだよ。
瓦礫の山と化した界隈には、自我を持たずに蹌踉めき揺蕩う、野良ゾンビらが徘徊している。
アイツらは人格が残っているゾンビな隣人達とは違い、ホラー映画さながらに誰彼かまわず無差別に襲ってくる、厄介で迷惑な存在だ。
「鈴木さんが手伝ってくれると本当に助かります」
「お礼は山田さんが死に掛けたら、一番に戴くってことで」
「相変わらず俺を喰う気満々ですよね? ――潰しちゃいますよ?」
釘バットをチラつかせ、和やかに笑う俺。
「遠慮しておきます。――さて、コンビニとホームセンターのどっちから散策ですか?」
大きなリュックを背負い、ドアから出てくる鈴木さんは腐った顔で微笑んだ。
「イケメンだけに、その腐った笑顔が残念ですよ」
「そんな褒めなくても」
断じて褒めてないから。
寧ろ、本音でディスってるだけです。
――とまぁ、こんなシュールな冗談が交わせる程度には、心許せる鈴木さんだ。
どちらも若干の本音は混じってるっぽいけどね?
「とりあえずはホームセンターからで」
「了解です。早速、行きますか」
ボロッボロのアパートから仲良く出掛ける――。
色々な物が散乱している道路をひたすら歩き、瓦礫の山と化した物陰に注意を払い警戒しながら、目的地であるホームセンターを目指した――。
途中、犬や猫などの野良ゾンビと遭遇するも、釘バットで簡単にあしらって、弱点の頭を潰していく。
ゾンビはホラー映画のお約束でもある、頭が弱点。
そこさえ潰してやれば、簡単に動かなくなる。
「今日もご馳走が手に入りました」
嬉しそうに野良ゾンビの前後の脚を、持ってきた麻縄で辿々しく縛っていく鈴木さん。
「今日の飯? 俺の前で貪り食うのだけはノーサンキューで」
「解ってますって。あとで皆さんと一緒に、こっそり食べますよ」
「うぇ……連想した。ちょいとドン引き……。おっと、頭も入りますよね?」
釘バットで殴り倒した際に、釘に絡んで引きちぎれた頭を外し、鈴木さんに手渡した俺。
「一番美味しいのは脳髄ですよ? 所謂、珍味。――でも僕が正しく人だったら、間違いなく山田さんに激しく同意ですよ。最初は食べるのにも凄く抵抗あったけど、飢えを凌いでおかないと、いつまた暴走してしまうか解らないので」
会釈しながら受け取りつつも、やや申し訳なさそうになって、言い訳する鈴木さんだった。
余りにも長い飢餓状態が続くと、飢えに負けて自我が崩壊し、野良ゾンビさながらに陥ってしまうからだ。
ただ手遅れになる前――早い段階で満腹になれば自我が戻るってのが、野良ゾンビとの大きな違い。
どうしてそうなるのかは、アパートの皆んなで検証中だったり。
「鈴木さんも好きでゾンビになったわけでは無いですし、少しは理解するように努めてますよ俺? 実際、俺自身もいつゾンビ化するか解りませんしね?」
今は正しく人として生きている俺。
偶々、ゾンビ化しなかっただけに過ぎないのだから――。
「ずっと人でいられることを願ってますよ。よいしょ、お待たせしました」
頭をビニール袋に入れてからリュックに詰め終えて、狩りの獲物のように麻縄で脚を縛った野良ゾンビを肩に担ぐ鈴木さん。
現代ホラー版のマタギっぽい。
そんなこんなを繰り返し、ようやくホームセンターに無事に辿り着く俺と鈴木さん。
「ここが丸っと無事だったのは、本当に奇跡ですよ。タダでなんでも揃うし」
「ですね。武器や生活道具には困らなくて良いし。犬猫の餌も沢山あるし、当面の間は凌げそうですもんね?」
シャッターが降りたままの入口に立ち、見上げるホームセンターは、ほぼ無傷の状態で残っている。
今の俺にとっては、貴重で重要な物資調達庫だな――限りはあるけども。
もしも他に生存者の類いが居れば、確実に荒らされていただろうと思う。
それがないと言うことは、必然的に俺以外の生存者が近くに居ないってことになる。
「ちょっと長居しますけど、鈴木さんは休んでて下さい」
「では、お言葉に甘えて……ふぅ。生き返る」
重そうに獲物を担いでいた鈴木さんが、近くの瓦礫に腰を下ろした。
疲れないクセに。生き返るってギャグか。
とは、口が裂けても言わない俺は、とっとシャッターを開けて中に入っていった――。
――――――――――
退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
電気もガスも水道も、ライフラインが全て止まっている自室で、せっせとお出掛けの準備を整える俺。
「ゾンビなアイツらは、別段、何も食べなくても生きていける……は、正しくないか。存在し続けていられるが、正しく人たる俺は飢え死にしてまうからな」
ゾンビたる隣人は死肉があれば良いだけで、食べなくても飢えに苦しむだけで死には……活動停止にはならないのだ。
だが、人が生きる為には、食べなければならない。
俺の部屋に備蓄していた水と食糧が心許ないから、今から調達に出掛けるんだよ。
幸いにして、この界隈で生き残ったのは俺一人っぽい。
周囲に残された食糧は、全て俺の物にできるってのが救いだよ。
「近所のコンビニとスーパー、ホームセンターで何ぞ手に入れるかな」
フード付きの雨合羽な外套を着込んで、簡素で大きなリュックを背負う。
護身用の武器として、自作の釘バットを持って部屋を出た。
「おや? 山田さん、今日はお出掛けですか?」
隣の部屋の窓から和やかに声を掛けてくるイケメンの鈴木さん。
若禿に悩むゾンビだけどな。
「ええ。近所のコンビニで缶詰と水類を調達して、ホームセンターで油とか乾電池を掻っ攫って来ようかなと」
油や乾電池は貴重なエネルギー源だからな。
「それだとゾンビ手があった方が楽ですね。重いし嵩張るし。道中の山田さんも心配だし、僕も手伝いましょうかね」
「鈴木さんも一緒に行ってくれるんですか?」
「勿の論ってヤツ。――僕も用意するから少し待って下さい」
若禿イケメンゾンビな鈴木さんは、冗談で俺を喰うといつも弄ってはくるが、元イケメンらしい心根の優しい男性だ。
ちょくちょくこうやって、手伝ってもくれる良いゾンビだよ。
瓦礫の山と化した界隈には、自我を持たずに蹌踉めき揺蕩う、野良ゾンビらが徘徊している。
アイツらは人格が残っているゾンビな隣人達とは違い、ホラー映画さながらに誰彼かまわず無差別に襲ってくる、厄介で迷惑な存在だ。
「鈴木さんが手伝ってくれると本当に助かります」
「お礼は山田さんが死に掛けたら、一番に戴くってことで」
「相変わらず俺を喰う気満々ですよね? ――潰しちゃいますよ?」
釘バットをチラつかせ、和やかに笑う俺。
「遠慮しておきます。――さて、コンビニとホームセンターのどっちから散策ですか?」
大きなリュックを背負い、ドアから出てくる鈴木さんは腐った顔で微笑んだ。
「イケメンだけに、その腐った笑顔が残念ですよ」
「そんな褒めなくても」
断じて褒めてないから。
寧ろ、本音でディスってるだけです。
――とまぁ、こんなシュールな冗談が交わせる程度には、心許せる鈴木さんだ。
どちらも若干の本音は混じってるっぽいけどね?
「とりあえずはホームセンターからで」
「了解です。早速、行きますか」
ボロッボロのアパートから仲良く出掛ける――。
色々な物が散乱している道路をひたすら歩き、瓦礫の山と化した物陰に注意を払い警戒しながら、目的地であるホームセンターを目指した――。
途中、犬や猫などの野良ゾンビと遭遇するも、釘バットで簡単にあしらって、弱点の頭を潰していく。
ゾンビはホラー映画のお約束でもある、頭が弱点。
そこさえ潰してやれば、簡単に動かなくなる。
「今日もご馳走が手に入りました」
嬉しそうに野良ゾンビの前後の脚を、持ってきた麻縄で辿々しく縛っていく鈴木さん。
「今日の飯? 俺の前で貪り食うのだけはノーサンキューで」
「解ってますって。あとで皆さんと一緒に、こっそり食べますよ」
「うぇ……連想した。ちょいとドン引き……。おっと、頭も入りますよね?」
釘バットで殴り倒した際に、釘に絡んで引きちぎれた頭を外し、鈴木さんに手渡した俺。
「一番美味しいのは脳髄ですよ? 所謂、珍味。――でも僕が正しく人だったら、間違いなく山田さんに激しく同意ですよ。最初は食べるのにも凄く抵抗あったけど、飢えを凌いでおかないと、いつまた暴走してしまうか解らないので」
会釈しながら受け取りつつも、やや申し訳なさそうになって、言い訳する鈴木さんだった。
余りにも長い飢餓状態が続くと、飢えに負けて自我が崩壊し、野良ゾンビさながらに陥ってしまうからだ。
ただ手遅れになる前――早い段階で満腹になれば自我が戻るってのが、野良ゾンビとの大きな違い。
どうしてそうなるのかは、アパートの皆んなで検証中だったり。
「鈴木さんも好きでゾンビになったわけでは無いですし、少しは理解するように努めてますよ俺? 実際、俺自身もいつゾンビ化するか解りませんしね?」
今は正しく人として生きている俺。
偶々、ゾンビ化しなかっただけに過ぎないのだから――。
「ずっと人でいられることを願ってますよ。よいしょ、お待たせしました」
頭をビニール袋に入れてからリュックに詰め終えて、狩りの獲物のように麻縄で脚を縛った野良ゾンビを肩に担ぐ鈴木さん。
現代ホラー版のマタギっぽい。
そんなこんなを繰り返し、ようやくホームセンターに無事に辿り着く俺と鈴木さん。
「ここが丸っと無事だったのは、本当に奇跡ですよ。タダでなんでも揃うし」
「ですね。武器や生活道具には困らなくて良いし。犬猫の餌も沢山あるし、当面の間は凌げそうですもんね?」
シャッターが降りたままの入口に立ち、見上げるホームセンターは、ほぼ無傷の状態で残っている。
今の俺にとっては、貴重で重要な物資調達庫だな――限りはあるけども。
もしも他に生存者の類いが居れば、確実に荒らされていただろうと思う。
それがないと言うことは、必然的に俺以外の生存者が近くに居ないってことになる。
「ちょっと長居しますけど、鈴木さんは休んでて下さい」
「では、お言葉に甘えて……ふぅ。生き返る」
重そうに獲物を担いでいた鈴木さんが、近くの瓦礫に腰を下ろした。
疲れないクセに。生き返るってギャグか。
とは、口が裂けても言わない俺は、とっとシャッターを開けて中に入っていった――。
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退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
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