流行りの異世界――転生先が修羅場で阿鼻叫喚だった件について説明と謝罪を求めたい。

されど電波おやぢは妄想を騙る

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第五二幕。

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「おっと。紅のところに戻る前に、ここに来た用事を済まさねばならなかった」

 魔剣ルインと念話の最中、不意に思い出した私。
 スキュラとか言う魔物と、屍竜に対処していた為、すっかり忘れていた。

『用事とな?』

 怪訝そうな響きで、私に問い掛けてくる魔剣ルイン。

「ああ。私が世話になっている鍛冶師からの依頼でね。紅魔石こうませきとやらを持って帰れとさ。なんでも、装具の制作に欠かせないんだと」

『紅魔石? ――なるほど。それならば……そこの魔結晶を砕いてみよ。中心に埋まっておるぞ』


 と、言うわけで砕いてみた。


「――本当だ。これが紅魔石と言う物か……綺麗だな。探す手間が省けたよ。有り難う、魔剣ルイン」

『礼には及ばん。一応、貴様は我が認めた新たな所有者だからな――今後はルイと呼ぶが良い』

「そうか。私と共に歩んでくれるか……有り難いな。至らない若輩者だが宜しく頼む、ルイ」

『魔剣に頭を下げるか……貴様、本当に面白い奴よの?』

「良く言われる。――さて、ルイ。ちょっと思い付いたことがあるんで、戻るのは少し待ってもらいたい」

『――なんだ?』

「私の妻は同族が誰も居ないことに、酷く寂しがっている。なので――」

 黒竜の竜玉を地面に置き、静かに右手を添える。
 そして目を瞑って切に願う私。


 すると――。


 私の右手が神々しく輝き始め、包み込むように竜玉へと伝播していく。

『なんと……貴様……あ、いや、敬意を込めた呼び名に改めよう。――しゅよ、少々尋ねるが……一体、何者なんだ?』

「私か? 今代の勇者? 神の御使? ――なんかそんな御大層な呼び名で呼ばれているが……実際、なんなんだろうな?」

『――自分のことをなんだろうな、だと? 他人事みたいに良くもまぁ……』

 ルイと念話をしている内に、神々しい輝きに包まれた竜玉が、巨大な竜の姿へと変わっていく――。

「実際、この世界に誘われる前の、正しい自分のことは知らない。解っていることは、こんな冗談じみた特殊なことが、自分の意思で何故か平然とできるってことくらいだ。――良し、どうやら上手くいきそうだ」

『主は……外の世界から招かれた者? つまり、人の理から外れし者か……納得だ』


 ほどなく、私の目の前に佇む巨大な竜。
 屍ではない、元の黒竜が姿を現した――。


『――むぅ』

 大きな翼を畳み、項垂れていた長い首を、緩やかに私の目線に合わせ、目と鼻の先に持ってくると、ゆっくりと瞼が開き、紅と同じ瞳孔が縦に細い金眼が開かれた。

『そこの人間――我を……生き返らせた。とでも?』

 縦に細い瞳孔が私を睨みつけた。

「黒竜、私に蘇生術は使えない……筈? ただ、妻の為にあるべき姿に戻って欲しいと、切望したに過ぎない」


 私にしても、堂々とした態度でもって、睨む黒竜を見つめ返した。


 病気も怪我もなかったことにできる、存外、冗談みたいな私の右手。
 無機物は駄目だったが、生物には効果がある。
 残された竜玉も、言わば生物の残滓。

 その竜玉から、何かに蝕まれ屍竜に堕ちる前の姿に戻せないものかと思って、駄目元で試してみたのだ。

『蘇生でないならば……刻を戻す奇跡? 主よ。言っておくけども、それは神の奇跡をも軽く凌駕しておるぞ?』

 抑揚なく驚くルイが、黒竜との念話に口を挟んだ。

「――知らん」

『全く……。黒竜よ。どうやら貴様の腐り滅んだ身体を、元の健康な状態の時まで巻き戻されたようだな。言い方を変えれば、主によって再構築されたと言っても良い』

 念話を通して知り得た内容を、黒竜へと説明するルイ。

『なんと⁉︎ 生命の理を操作できるなど……貴様――あ、いや、失礼。えーと……貴殿、そう、貴殿! 貴殿は超越者所縁の者なのか⁉︎』

 身を強張らせた黒竜の、妙齢で艶のある、おっかなビックリな声が頭に響く。

「――知らん」

『貴殿、我の知っている何処かの誰かにそっくりな物言いだな? ……まぁ良い。我の呪いを解き放ち、かつ命まで救ってくれたのは事実。となると……貴殿に敬意を表し、礼を尽くさねばならんな?』

 巨躯だった黒竜が淡く輝いたと思ったら、瞬く間に人と同じ大きさに縮んでいき、紅と同じ人の姿を形どった。

 つまり、素敵過ぎる妙齢の女性。
 更に言うと、褐色肌で漆黒の髪だけど、それ以外は紅と瓜二つの容姿で私が驚いた。

「貴方ではなく、貴女は雌だったのか。これは失礼した」

『声で解るであろう、普通? まぁ良い。これより先、我は貴殿が朽ちるその時まで隷属することを誓おう』

 そう言って傅く、紅そっくりな女性の姿をした黒竜。

「私の妻……紅き竜から救ってくれと頼まれていたのでね? 気にしないで頂けると私も助かる――できれば友人として、共に歩んで頂けないだろうか?」

『ならば主の友人として共に歩み、生涯をもって助力することを約束しよう』

「有難う黒竜。色々聴きたいこともあるんだが、少しばかり張り切り過ぎた……済ま――」

 膝が崩れ、前のめりに倒れ込む私。

『――おっと。……紅き竜とな? それは我の妹のことか? 妻と申しておったが、貴殿は……つがい……否、伴侶と言うのか?』

 すかさず受け止め、そう口にする黒竜。

『――どうやら、そうらしいぞ? 主は超越者に誘われた人の理を外れし者らしい。今代の勇者とも呼ばれているそうだ』

『なんと⁉︎ あの憎き魔王ですら使役できず匙を投げたほどの……へそ曲がりのお前が自ずから主人と認めるほどの……お人なのか? ――これは相当にタチの悪い人物に忠誠を誓ったか……』

『おい、黒竜。酷い言われようだな? 彼奴は我を便利な道具としてしか扱わず、我は従わなかっただけだ。――それでもただの剣として、力任せに無理矢理酷使しやがった。一応、魔剣たる我にも主を選ぶ権利くらいあるんでな』

『腐っても神話時代の伝説級の魔剣と言うことか? 魔王に唾を吐くなど……簡単に言ってくれる。それでは左眼を抉られた我が単なる無能――コホン。気が沈むので止めだ。ともかく紅の元へと連れ帰るとしよう』

 そう言葉にすると、力なく項垂れている私を、軽々とお姫様抱っこする黒竜。

『身が腐ってたのはそっちだろうが。――まぁ良い。魔力を相当に使って疲れたんだろう。そうしてやってくれ。――しかしこの絵面、主には酷だな』

『――ルイ。この者を相当に気に入ったのだな?』

『気に入ったとほざくか、黒竜。魔王なる規格外ならともかく、人間如き矮小なる者が不用意に我に触れれば、その者は強制的に……確実に精神を支配される。――我が魔剣と呼ばれる由縁だな』

『ふ――そう言いながら、気絶した隙に乗っ取ることもせぬとは……恥ずかしがるな』

『少し違う。主は気絶して自我を手放しているにも関わらず、支配はおろか干渉すら全く受け付けないときた。――そんな不思議な人間だから些か興味があるだけだ。もしかすると、我を正しく使い熟すやも知れんのでな?』

『――それは僥倖だな、ルイ』

『ああ、全くだ』

 私の意識が途絶えている間に、黒竜と魔剣ルインは、まるで旧知の中のような、そんなやりとりをしていたと言う――。



 ――――――――――
 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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