36 / 53
第三六幕。
しおりを挟む
本来なら騒動を起こした張本人たる私は、問答無用で衛兵に拘束されてもおかしくは無いし、詰問責めに遭うのは必至だった。
だが、この奴隷商が何を思ったのか、衛兵に口利きをしてくれたのだ。
そう言う経緯で私はお咎めを免れた訳で。
「世辞は良い。奴隷商、そうやって私に近付いてくる腹積りは何だ?」
若干、強気の物言いな私だが、言う程に敵意は持っていない。
良い様に利用されない様に釘を刺しておくつもりで、剣の柄に手を添えて問い掛ける。
「流石で御座いますなぁ。特に何も、と。ですが、ここでお会いしたのも何かのご縁で御座いましょう。お近付きの印に――おい!」
奴隷商らしい卑しい顔になって、従者に指示を出す。
先程、商人邸に連れて行かれた内の一人が私の前へと連れてこられたのだ。
下衆に謂れのない暴力を振るわれていた幼い少女だった。
少々怯える幼女と一緒に、小さな鍵と羊皮紙で出来た契約書を奴隷商に手渡す従者。
「この者を献上させて頂きたく思います、はい。この者は、あの商品の中で最も価値が御座います故。高貴な生まれで、先日仕入れたばかり。勿論、無垢な見た目同様に生娘に御座います」
従者から受け取った鍵と羊皮紙を、和かに笑って差し出してくる奴隷商だった。
少々、胡散臭い笑い顔だが、見なかった事にしておく。
「――奴隷商。全員を寄越せと言えば、どう出る?」
「お~、怖い怖い。特に何も、と。申し上げておきます。貴方様とは懇意になさった方が、ワタクシも大変に助かるかと」
「そうか。恫喝する様な真似をして済まなかった。――もう一つだけ問う。奴隷商の所の愛玩奴隷を解放し、再び増やさない様にするにはどうすれば良い?」
「お~怖い怖い。流石にそれは応じる訳には参りません。ですが、懇意に、と。ワタクシから申し上げております手前、無碍には出来ますまい。そこでワタクシから一つ提案が御座います」
「何だ、奴隷商」
「世界の規則を変えてしまって下さい、と。それ以上はワタクシの口からはお伝え致しかねます。何せ卑しいワタクシ共にとっては、滅びの道になります故に」
「――奴隷商、言い方は良くないが、意外に良い奴で良い性格だな」
「ホッホッホ、良く言われます。もしもで御座いますが、何か人材でご入用の節は何卒、ワタクシの商会にご相談を。勘違いされやすいのですが、これでもワタクシ、真っ当な奴隷商を自負致しております故に」
「胡散臭さで台無しにしてるだけってのは伝わってくる。用が有れば頼むとしよう」
「では、信頼の証しとして――おい!」
またも奴隷商らしい卑しい顔になって、再び従者に指示を出す。
先程、商人邸に連れて行かれた全員が私の前へと連れてこられたのだ。
小さな鍵と羊皮紙で出来た契約書を、人数分持って。
「こちらの商品もお納め下さい」
従者から受け取った鍵と羊皮紙を、和かに笑って差し出してくる奴隷商だった。
どう見ても何回みても胡散臭い笑い顔だが、言葉にせず黙ったままにしておく。
「良いのか?」
「未来に投資です。言い方に不敬が御座います。と、先にお伝え致しますが、何卒、ご容赦願いたく思います」
要は言葉遣いに気に触るかも知れ無いが許してくれと、前言い訳をする。
その後に本題を淡々と告げる奴隷商。
「――実はこれらは、もう十分採算の取れた中古品で御座います。何より餌代の方が高くつきますので、処分と考えておりましたのが本音に御座います。野に放とうが魔物の餌になろうが構いません。物好きなあの商人が根こそぎ買い取ってくれたので喜んでおりましたぐらいです。詰まる所、どうなろうとワタクシの知る所では御座いません」
「――良い性格してるよ、全く」
前言い訳が無ければ、少し怒っていたかもだ。
不快な言葉に少しだけ眉根を寄せてしまった私。
「お~怖い怖い。それではワタクシは失礼させて頂きますよ」
大袈裟に怖がる素振りを見せるも、飄々としていた。
「奴隷商。一応、礼は言っておく。懇意にしてくれて有難う……済まない」
出逢った経緯より、出逢った事を大切にしたい私は、警戒を完全に解いた隙だらけの姿を晒す。
そして姿勢を正し礼を尽くし、深々と頭を下げた。
物言いや態度は褒めれた者では無いが、心根には好感が持てたからだ。
この奴隷商のお陰で、ここに居る数人は救われたのは事実なのだから――。
「とてもお優しく、勇敢にして謙虚。卑しいワタクシへの配慮も忘れない。正に稀代の勇者様に御座います。ワタクシ様な下衆の者に頭を下げる等、勿体無い」
「良いんだ。それと、その事は内密に頼みたいとお願いはしておく。聴き入れてくれると幸いだ」
「――畏まりました。ではこれにて」
私との長話を終えた奴隷商は、深々と頭を下げて、礼を尽くした挨拶を交わす。
そして自分の下品とも言える豪華な馬車に乗り、従者を引き連れて素直に帰っていった――。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
だが、この奴隷商が何を思ったのか、衛兵に口利きをしてくれたのだ。
そう言う経緯で私はお咎めを免れた訳で。
「世辞は良い。奴隷商、そうやって私に近付いてくる腹積りは何だ?」
若干、強気の物言いな私だが、言う程に敵意は持っていない。
良い様に利用されない様に釘を刺しておくつもりで、剣の柄に手を添えて問い掛ける。
「流石で御座いますなぁ。特に何も、と。ですが、ここでお会いしたのも何かのご縁で御座いましょう。お近付きの印に――おい!」
奴隷商らしい卑しい顔になって、従者に指示を出す。
先程、商人邸に連れて行かれた内の一人が私の前へと連れてこられたのだ。
下衆に謂れのない暴力を振るわれていた幼い少女だった。
少々怯える幼女と一緒に、小さな鍵と羊皮紙で出来た契約書を奴隷商に手渡す従者。
「この者を献上させて頂きたく思います、はい。この者は、あの商品の中で最も価値が御座います故。高貴な生まれで、先日仕入れたばかり。勿論、無垢な見た目同様に生娘に御座います」
従者から受け取った鍵と羊皮紙を、和かに笑って差し出してくる奴隷商だった。
少々、胡散臭い笑い顔だが、見なかった事にしておく。
「――奴隷商。全員を寄越せと言えば、どう出る?」
「お~、怖い怖い。特に何も、と。申し上げておきます。貴方様とは懇意になさった方が、ワタクシも大変に助かるかと」
「そうか。恫喝する様な真似をして済まなかった。――もう一つだけ問う。奴隷商の所の愛玩奴隷を解放し、再び増やさない様にするにはどうすれば良い?」
「お~怖い怖い。流石にそれは応じる訳には参りません。ですが、懇意に、と。ワタクシから申し上げております手前、無碍には出来ますまい。そこでワタクシから一つ提案が御座います」
「何だ、奴隷商」
「世界の規則を変えてしまって下さい、と。それ以上はワタクシの口からはお伝え致しかねます。何せ卑しいワタクシ共にとっては、滅びの道になります故に」
「――奴隷商、言い方は良くないが、意外に良い奴で良い性格だな」
「ホッホッホ、良く言われます。もしもで御座いますが、何か人材でご入用の節は何卒、ワタクシの商会にご相談を。勘違いされやすいのですが、これでもワタクシ、真っ当な奴隷商を自負致しております故に」
「胡散臭さで台無しにしてるだけってのは伝わってくる。用が有れば頼むとしよう」
「では、信頼の証しとして――おい!」
またも奴隷商らしい卑しい顔になって、再び従者に指示を出す。
先程、商人邸に連れて行かれた全員が私の前へと連れてこられたのだ。
小さな鍵と羊皮紙で出来た契約書を、人数分持って。
「こちらの商品もお納め下さい」
従者から受け取った鍵と羊皮紙を、和かに笑って差し出してくる奴隷商だった。
どう見ても何回みても胡散臭い笑い顔だが、言葉にせず黙ったままにしておく。
「良いのか?」
「未来に投資です。言い方に不敬が御座います。と、先にお伝え致しますが、何卒、ご容赦願いたく思います」
要は言葉遣いに気に触るかも知れ無いが許してくれと、前言い訳をする。
その後に本題を淡々と告げる奴隷商。
「――実はこれらは、もう十分採算の取れた中古品で御座います。何より餌代の方が高くつきますので、処分と考えておりましたのが本音に御座います。野に放とうが魔物の餌になろうが構いません。物好きなあの商人が根こそぎ買い取ってくれたので喜んでおりましたぐらいです。詰まる所、どうなろうとワタクシの知る所では御座いません」
「――良い性格してるよ、全く」
前言い訳が無ければ、少し怒っていたかもだ。
不快な言葉に少しだけ眉根を寄せてしまった私。
「お~怖い怖い。それではワタクシは失礼させて頂きますよ」
大袈裟に怖がる素振りを見せるも、飄々としていた。
「奴隷商。一応、礼は言っておく。懇意にしてくれて有難う……済まない」
出逢った経緯より、出逢った事を大切にしたい私は、警戒を完全に解いた隙だらけの姿を晒す。
そして姿勢を正し礼を尽くし、深々と頭を下げた。
物言いや態度は褒めれた者では無いが、心根には好感が持てたからだ。
この奴隷商のお陰で、ここに居る数人は救われたのは事実なのだから――。
「とてもお優しく、勇敢にして謙虚。卑しいワタクシへの配慮も忘れない。正に稀代の勇者様に御座います。ワタクシ様な下衆の者に頭を下げる等、勿体無い」
「良いんだ。それと、その事は内密に頼みたいとお願いはしておく。聴き入れてくれると幸いだ」
「――畏まりました。ではこれにて」
私との長話を終えた奴隷商は、深々と頭を下げて、礼を尽くした挨拶を交わす。
そして自分の下品とも言える豪華な馬車に乗り、従者を引き連れて素直に帰っていった――。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる