上 下
35 / 53

第三五幕。

しおりを挟む
 私は傍で力無く俯いている褐色の女性に、脅かさない様に細心の注意を払い、着ていた外套を被せた。

『ア……アゥ……ア』

 泣きっ面で一生懸命に何かを伝え様とする褐色肌の女性。
 声帯を潰されているのか、声になっていない。
 更にどす黒く変色する程の打撲跡が全身に及び、脚の腱の部分には抉られた痕跡が残っている――。

「辛い目に遭ったんだな。もう大丈夫、心配無い。楽にすると良い」

 脅かさない様に女性の前にの平を見せてから、そっと頭を撫でる様に触れる私。すると――。

 右手が淡く輝き出して、褐色肌の女性に伝播していく――。
 淡い輝きが全身に及んでいき、最後に強く輝くと褐色肌の女性に吸い込まれる様に溶けて消えた――。

「もう大丈夫だよ、声も出るし自分で立つ事も出来ると思う。怖がらずやってごらん」

 そう言って頭を優しく撫でてあげた。

『――ア……ワ、タシ……⁉︎ 私、声が出ル⁉︎ 喋れル⁉︎ こんナ、こんな事っテ――ウぅ……」

 歓喜に打ち震え、大声を上げて泣き出す褐色肌の女性。

 紅の時と同様、謎の癒し力が発揮されて良かったと、内心、胸を撫で下ろす私。
 凄惨で酷い傷跡は、何一つ残っていない。
 艶々とした健康状態の良い顔色に迄回復している――と言うか、戻っている。

 自分の摩訶不思議な癒しの力が発現するのを、初めて落ち着いて見る事になった私。

 どうやら傷を癒すのでは無く、傷自体を無かった事にしている様な印象を受けた。
 この能力も自分の意思で自由自在に使い熟せる様にならねばと深く思う。
 しかし、心に受けた痕跡は、こんな私にも戻せないし治せないだろう。

 自分で乗り越え、生きるしか無い――。

『奇跡のお力を行使なさル、聖人様を見ている様でス。旦那様、本当に何とお礼申し上げて良いのカ。妾には何も返せませン……』

「構う事は無いさ。村で平和に愉しく暮らしてくれれば良い。後は……偶に紅の面倒を見てあげて欲しい、かな? 駄目か? 駄目なのか?」

『――プ。旦那様、狡いでス。断れないではないですカ』

「だって、そのつもりだよ? 駄目か? 駄目なのか?」

『もゥ……その言葉と仕草、殊の外お気に入りのご様子ですネ』

 下衆共を縛り上げていく黒と、両手で顔を覆って歓喜に咽び泣く褐色肌の女性との間で、茶化す様に戯る私は、側から見れば滑稽と言うより何とも言えないシュールな光景だろうけど。

 仲間が酷い目に遭わされた現実から、少しでも気を逸らせてあげたかったから戯けて見せた。
 後、二人があたふたする様子が、何気に面白かったってのが正直な本音だったり――。

「ご協力、感謝致します! 我々はこれにて!」

「あ、はい。どうぞお構い無く」

 数人の衛兵が下衆共を纏めて連行していった。
 最後の最後に挨拶をした隊長らしき人物に見送りをした所だった。

 だが、愛玩奴隷の子達は解放されない。
 いつ何処で嗅ぎ付けたのか、この街の奴隷商が引き取りにやって来ていたからだった。

 所有者亡き後は手元に戻ってくると言った都合の良い契約らしい。
 殆ど長期リース、レンタル紛いの人身売買だった。

 理由を聴けば、全ては愚王による政策だった。

 この世界では、そう言う決まり事が公的に存在している。
 力で訴えれば強奪になり、逆に犯罪者となるのだと衛兵が教えてくれた。

 出所が怪しくても、一度、商品として認可された時点で、助け出すには買い取るしかないのだそうだ。
 例えば、誘拐されたお姫様であっても。

 理不尽過ぎるが止むを得ない、納得してくれと、奥歯を噛みしめ悔しさに握り拳を作り、私に深々と頭を下げていた衛兵だった。

「あの商人を相手取り、無傷でお戻りになられる程の剛の者。ワタクシ、少し驚きましたで御座います」

 シルクハットに燕尾服、更には仮面舞踏会等で顔を隠す様な、異様な蝶柄のアイマスクを身に付けた寸胴短足の奴隷商。
 蝶柄のアイマスクで覆っている為に表情が読み辛いが、顔の皺から察するに、多分、壮年以上の歳だろうな。

 自慢の鼻髭を摘みながら、下衆な笑顔で私にそう話しかけてくるのだった――。



 ――――――――――
 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

錆びた剣(鈴木さん)と少年

へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。 誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。 そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。 剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。 そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。 チートキタコレ! いや、錆びた鉄のような剣ですが ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。 不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。 凸凹コンビの珍道中。 お楽しみください。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結済】異界転生千本桜

譚月遊生季
ファンタジー
歴史に偉大な足跡を残した者は、転生に時間がかかる。……その魂は良くも悪くも「並」からは外れているのだから。 王子の亡命を手伝っていた船乗りズィルバーは、あるきっかけで自身の「前世」を思い出す。 「見るべきものは全て見た」そう言い残して散った豪傑は、異世界にて新たな希望を見い出した。 それは、亡命中の王子アントーニョを守り抜き、立派に成長させること…… 異世界に転生した平安武士と男装した姫君の冒険譚、いざ開幕!! ※タイトルは「いかいてんしょうせんぼんざくら」と読みます。平家物語、および義経千本桜のオマージュです。 ※なろうやカクヨム、ノベプラにも投稿しております。 ※キャラクターの背景を鑑みて現代の価値観では問題がある表現を使用している場合もありますが、差別を助長、肯定する意図は一切ございません。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...