流行りの異世界――転生先が修羅場で阿鼻叫喚だった件について説明と謝罪を求めたい。

されど電波おやぢは妄想を騙る

文字の大きさ
上 下
32 / 53

第三二幕。

しおりを挟む
「――無関係な人に手荒な真似はよせって」

 私が何も無い所に向かって告げると――。

『――ごめんなさイ、面倒臭い事になりそうだったのデ、つイ』

 魔法による認識阻害を行なって存在を隠蔽していた、見えているのに見えない事になっている眼帯の女性から注意された――若干、呆れた表情で。

 私は断固として断ったのだが、彼女だけは件の商人邸迄の道案内役として、無理矢理について来たのだった。

「紅が美人過ぎて目立つのが悪い」

「主人こそ、とっとと上空から襲撃すれば良かったのだ」

『――と、言うかですネ、御二方ハ、いつまで不毛な言い合いをなさるおつもりですカ? 真面目に遣って下さイ!』

 私が倒れた衛兵二人を掴み上げ、元居た詰め所にきちんと座らせておく。
 紅が煩いので、とっとと目的の商人邸へと足を運ぶ私だった――。


 ◇◇◇


 人々が行き交う広場を介し、様々な露店が建ち並ぶ活気に溢れた繁華街の方へと案内してくれる眼帯の女性。
 結構な人混みだと言うに、意にも介さず飄々と摺り抜けていき――。

『ここでス――』

 ――成金趣味が丸出しの、酷く下品な豪邸の少し前で立ち止って、目的の場所へと到着した事を告げた。

 丁度その時だった――。
 私達が見ている豪邸の前に、一台の馬車が停まった。
 素早く物陰に隠れて息を潜め、様子を伺って見ていると――人相が大変良くない野盗崩れらしき人物が、荷車の方から何人か降りてきた。

「――さっさと降りろ、愚図共!」

「後でた~っぷり、気持ち良い事しようなぁ~、主にオレが。ひゃっはっはー」

 愚図と罵られたのは、荷台から降りてくる数人の見目麗しい少女と幼い子供達。
 薄汚れた質素な麻の布を単に被せられただけの、裸に近い格好をさせられている。
 手枷と首輪を嵌められた上に、脚には重々しい鉄球を嵌められ痛々しい。

「あぅ……」

「さっさと立てよ、ウスノロ!」

 足が縺れ転んだ幼女を助ける所か、容赦無く鞭打つ下衆な男。

「下衆め……」「紅、もう少しだけ待て」

 見るに耐えない所業に怒りを露わにする紅。
 跳び出そうとする所を制止した私。

 こんな人々で賑わう繁華街、そのど真ん中で悪行三昧が平然と行わていると言うんだから、世も末だ。

「おい。大事ななんだ、程々にしておけ」

「へ~い、オラ! お前の所為で怒られちまったじゃねーかよ! こりゃあ、たぁ~っぷりと慰めてもらわねぇとなぁ、へっへ」

 幼女の髪を掴み上げ、無理矢理に立たせる下衆な男は、そう言って麻の布に汚らしい手を入れ、弄りつつ鼻息を荒くした。

 程なく、全員を荷台から下ろし終えると、皆が商人邸内へと姿を消していった――。

『どうやらの帰りだと思われまス』

 眼帯の女性から、聞き捨てならない不穏当な言葉が発せられた。

「――買い付け?」

『はイ……。首輪の所に愛玩奴隷に付けられる品質表示の荷札が見受けられましたのデ、奴隷狩りでは無ク、この街の奴隷商から買い付けたかト」

「――人を何だと思っている!」

 怒りに身を任せて壁を殴りつけたい所だったがぐっと堪える。

『それハ……やはり商品でしょうカ?』

 言ったままに受け取ったらしく、そのままの意味で返された。

「嫌、そう言う意味で言ったのでは無いのだが……」

 お陰でほんの少し冷静さを取り戻した私。

「――紅、彼女と一緒に少し下がっていてくれ。力を削ぐ魔導具を持ち出されるかも知れないし。そして君はその万一に備え、紅に付き従っておいてくれ」

「主人よ、儂も暴れたい。あの下衆共は許しがたい。万死に値する」

『紅様の擁護役、引き受けましタ――どうカ、鎮まり下さいまセ、紅様』

 怒りを露わにして唸る紅を、私の指示に従った眼帯の女性が抑止して宥める。

 二人を私の後ろに付き従わせ、何も言わずに玄関まで行くと、渾身の力でもって扉を殴りつけ吹っ飛ばした!

「――商人とやら! さっさと出て来い! 私の大切なを引き取りに来た!」

 怒鳴りつける様に大声で呼びつける私!

「――何だテメェらは?」
「ヒュ~! こりゃまた、凄えぇ美人だな、おい!」
「何か何処かの阿呆が殴り込んで来たぞ~」
「ここへか? そりゃ~、阿呆だわ」
「命知らずにも程があるってもんよ」
「ざわざわ……ざわざわ……」

 数十人の見るからに野盗の様な柄の悪い下衆共が、各々武器を手にわらわらと現れて、玄関口へと集まって来た。
 
「豪邸に相応しく無い、とても品のある優雅な佇まいの使用人が、沢山、出て来たな」

 怒りの篭った嫌味たっぷりな口調で、下衆共に向けて告げる私。

 繁華街のど真ん中にある、腐っても商人の豪邸。
 もしも燕尾服に身を包んだ者が慌てふためき出迎えたなら、先ずは穏便に交渉してみるつもりだった。


 ――さっきの非道な振る舞いを目にする迄は。



 ――――――――――
 気になる続きはCMの後!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...