31 / 53
第三一幕。
しおりを挟む
目的地である商人邸がある街は、比較的に治安も良く、近隣に住む様々な文化を持つ種族との交易が盛んだと言う。
そのお陰で街は活気に溢れ発展し、そこそこに大きい規模に成長したのだと、宿店主と給仕の女性から教わった。
ただ、その街へ行くには山を三つ程越えて、広陵地帯に出なければならないらしい――。
馬車では時間が掛かり過ぎる上、途中で魔物や野盗に出会す可能性も蔑ろに出来ない。
余計ないざこざや悶着等に巻き込まれでもしたら面倒臭い事この上無いし。
そう言う経緯で当初の予定通り、竜の姿の紅に乗って移動する訳だが――。
『主人よ、下衆の者と解っておって、何故に手を出しては為らぬのか?』
空を優雅に飛ぶ紅が、抱いている不満を隠しもせず、念話で私に伝えて来た。
「やっぱり私の妻だけに阿呆だな。いきなり火炎息を吐き散らし、屋敷の周囲を灼熱の地獄にしてどうする?」
紅の首をポンポンと叩き、諫める私。
私が否定した内容そのままに、着いたなり実行すると言うのだから紅は。
そう言う所だけは、妙に竜の発想なのな。
『儂を何だと思うておるのだ主人よ! きっちり屋敷のみを焼き尽くしてみせようぞ?』
「確かに紅なら可能だろうが、それがいかんと言っているんだ! 人質の安全もそうだが、他にも囚われている者も居るかも知れ無い。それに屋敷に従事している人の中に、何も知らない善良な人が混ざってたらどうする! 巻き込んだら寝覚めが悪いだろうに!」
と、紅の技量は肯定しつつも、頑なに否定しておく私。
更にそれだけでは無いと続ける――。
「大体、街の上空に火竜が現れたら、街の警備兵とかが黙っちゃいないだろ? 挙って迎撃に出張って来る筈だ! 万一に竜の力を削ぐ魔導具でも使われたら目も当てられないだろうに!」
今から襲撃するのは街の一角、繁華街のど真ん中に陣取る商人邸。
戦場に在る砦や要塞とは訳が違う。
強行突破するにしても、紅の遣り方では戦火や被害が大きくなり過ぎ、目立ってしまうから駄目なのだ。
『むう。ならば、どの様に攻め入るつもりなのだ主人は?』
「え? 今更にそれを聴くのか紅? 勿論、私は玄関から堂々とお邪魔するよ?」
『阿呆は主人の方よの! 正面切って敵陣に堂々と乗り込む等、愚の骨頂であろうが!』
等々、決して口論でも無い不毛な言い合いを続けながら、件の商人邸が在る街へと向かっていた――。
街の入口から少し離れた場所に降り立ち、絶世の美女に戻った紅と徒歩で進む。
この間も不毛な言い合いは続くも、ああだこうだと言い合っている間に、街の入口へと辿り着いた。
「そこの二人、待て!」
大きな跳ね橋がある城門に等しい検問所に差し掛かった所で、街を警護していると思しき二人の衛兵に呼び止められた。
「見慣れ無い奴だな……ここへは何をしに来た?」
長身痩躯の衛兵が、ありふれた質問を投げ掛けて来た。
「この街にお住まいの商人様に野暮用があってね? 態々、遠くからやって来たんだが?」
用件は濁し気味だが、嘘は言っていない。
「身分証か通行証を見せてみろ。持っている筈だ」
もう一人のやや小太りな衛兵が、私にそう詰問してきた。
「身分証? 通行証? 何だそれは? 生憎とそんな物は持っていない」
無い物は無い。物怖じせず、威風堂々とそう告げる私。
当然、嘘は全く含まれていないし、持っていないからと言って、卑屈になる必要も全く無い。
「無いだと? 貴様は聖騎士では無いのか? ――違うな、冒険者か。ならばギルドから発行される階級章があるだろう? それを見せろ。――貴様の身形から察するに、上等級……嫌、特等級以上か?」
勝手に冒険者と決めつけて詰問してくる衛兵。
――階級章とは、この世界における冒険者組合が敷いた制度に基づいた身分証の事。
見習い、初等級、中等級、上等級、特等級、勇等級、神等級と七段階に別れているそうだ。
各等級を示す魔石を加工した板状の物に、本人の個人情報等が記録されると言った、異世界ならではの記録媒体らしい。
現代だと軍人の認識票みたいな物。
実はこの事についても、鍛冶師から事前に教わっていた私だった。
ちなみに先代の勇者である鍛治師は、予想通りの勇等級だった。
尚、神等級は未だ誰一人として到達していない未知の領域で前例も無く、書いて字の如くの神話級らしい――。
「えっと……では、少し待って下さい」
こう言う下っ端の衛兵には、そこそこの袖の下を握らせておけば、穏便に済むのが一般的な通例儀式。
こんな所は現代だろうが異世界だろうが相変わらず一緒。
それに倣って、私が背負い袋から金貨の詰まった革袋を取り出そうとすると――、
「怪しい動きは見せ――」
「おい、どう――」
詰め寄る衛兵と一緒に居た衛兵の二人が私に近付くと、急に膝が崩れる様に倒れ込み、そのまま地面へ横たわってしまった――。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
そのお陰で街は活気に溢れ発展し、そこそこに大きい規模に成長したのだと、宿店主と給仕の女性から教わった。
ただ、その街へ行くには山を三つ程越えて、広陵地帯に出なければならないらしい――。
馬車では時間が掛かり過ぎる上、途中で魔物や野盗に出会す可能性も蔑ろに出来ない。
余計ないざこざや悶着等に巻き込まれでもしたら面倒臭い事この上無いし。
そう言う経緯で当初の予定通り、竜の姿の紅に乗って移動する訳だが――。
『主人よ、下衆の者と解っておって、何故に手を出しては為らぬのか?』
空を優雅に飛ぶ紅が、抱いている不満を隠しもせず、念話で私に伝えて来た。
「やっぱり私の妻だけに阿呆だな。いきなり火炎息を吐き散らし、屋敷の周囲を灼熱の地獄にしてどうする?」
紅の首をポンポンと叩き、諫める私。
私が否定した内容そのままに、着いたなり実行すると言うのだから紅は。
そう言う所だけは、妙に竜の発想なのな。
『儂を何だと思うておるのだ主人よ! きっちり屋敷のみを焼き尽くしてみせようぞ?』
「確かに紅なら可能だろうが、それがいかんと言っているんだ! 人質の安全もそうだが、他にも囚われている者も居るかも知れ無い。それに屋敷に従事している人の中に、何も知らない善良な人が混ざってたらどうする! 巻き込んだら寝覚めが悪いだろうに!」
と、紅の技量は肯定しつつも、頑なに否定しておく私。
更にそれだけでは無いと続ける――。
「大体、街の上空に火竜が現れたら、街の警備兵とかが黙っちゃいないだろ? 挙って迎撃に出張って来る筈だ! 万一に竜の力を削ぐ魔導具でも使われたら目も当てられないだろうに!」
今から襲撃するのは街の一角、繁華街のど真ん中に陣取る商人邸。
戦場に在る砦や要塞とは訳が違う。
強行突破するにしても、紅の遣り方では戦火や被害が大きくなり過ぎ、目立ってしまうから駄目なのだ。
『むう。ならば、どの様に攻め入るつもりなのだ主人は?』
「え? 今更にそれを聴くのか紅? 勿論、私は玄関から堂々とお邪魔するよ?」
『阿呆は主人の方よの! 正面切って敵陣に堂々と乗り込む等、愚の骨頂であろうが!』
等々、決して口論でも無い不毛な言い合いを続けながら、件の商人邸が在る街へと向かっていた――。
街の入口から少し離れた場所に降り立ち、絶世の美女に戻った紅と徒歩で進む。
この間も不毛な言い合いは続くも、ああだこうだと言い合っている間に、街の入口へと辿り着いた。
「そこの二人、待て!」
大きな跳ね橋がある城門に等しい検問所に差し掛かった所で、街を警護していると思しき二人の衛兵に呼び止められた。
「見慣れ無い奴だな……ここへは何をしに来た?」
長身痩躯の衛兵が、ありふれた質問を投げ掛けて来た。
「この街にお住まいの商人様に野暮用があってね? 態々、遠くからやって来たんだが?」
用件は濁し気味だが、嘘は言っていない。
「身分証か通行証を見せてみろ。持っている筈だ」
もう一人のやや小太りな衛兵が、私にそう詰問してきた。
「身分証? 通行証? 何だそれは? 生憎とそんな物は持っていない」
無い物は無い。物怖じせず、威風堂々とそう告げる私。
当然、嘘は全く含まれていないし、持っていないからと言って、卑屈になる必要も全く無い。
「無いだと? 貴様は聖騎士では無いのか? ――違うな、冒険者か。ならばギルドから発行される階級章があるだろう? それを見せろ。――貴様の身形から察するに、上等級……嫌、特等級以上か?」
勝手に冒険者と決めつけて詰問してくる衛兵。
――階級章とは、この世界における冒険者組合が敷いた制度に基づいた身分証の事。
見習い、初等級、中等級、上等級、特等級、勇等級、神等級と七段階に別れているそうだ。
各等級を示す魔石を加工した板状の物に、本人の個人情報等が記録されると言った、異世界ならではの記録媒体らしい。
現代だと軍人の認識票みたいな物。
実はこの事についても、鍛冶師から事前に教わっていた私だった。
ちなみに先代の勇者である鍛治師は、予想通りの勇等級だった。
尚、神等級は未だ誰一人として到達していない未知の領域で前例も無く、書いて字の如くの神話級らしい――。
「えっと……では、少し待って下さい」
こう言う下っ端の衛兵には、そこそこの袖の下を握らせておけば、穏便に済むのが一般的な通例儀式。
こんな所は現代だろうが異世界だろうが相変わらず一緒。
それに倣って、私が背負い袋から金貨の詰まった革袋を取り出そうとすると――、
「怪しい動きは見せ――」
「おい、どう――」
詰め寄る衛兵と一緒に居た衛兵の二人が私に近付くと、急に膝が崩れる様に倒れ込み、そのまま地面へ横たわってしまった――。
――――――――――
気になる続きはCMの後!
チャンネルは、そのまま!(笑)
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww
刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。
さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。
という感じの話です。
草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。
小説の書き方あんまり分かってません。
表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる