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第漆章 混沌の渦中――悪意の巣窟編。

弐佰拾漆話 飛竜、其の参。

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 対峙している蒼と桜の二匹の飛竜。
 またも焼き払おうとするかの如く予備動作を見せた。

「「GUAGYAOHー!」」

 火炎息を大口に溜め、大きな咆哮をあげる。

「――ここだっ!」

 避けて反撃何ぞな迎え撃っての受けではなく、その隙を逆に突いて攻めに転じる。
 前方に盾を身構えて、二匹の飛竜に全速力で猛突進を仕掛けた。

「「えっ⁉︎ パパ」」「彼方⁉︎」

 急に走り出した無謀とも思える特攻の俺に対し、驚きの声。
 即座に臨戦体勢を整え、俺のあとに続こうとするアイと最妃。

「良い加減、舐めんなっつーの!」

 蒼の飛竜は華麗にスルー。
 巨大な桜の飛竜に向かって吠える。
 盾を身構えたままで、俺の数倍もある桜の飛竜の股座またぐらに飛び込み潜り込む。
 そして股座またぐらから、軸足と判断した左脚を俺的ライトセイバーで斬りつけた。

 実は桜の飛竜が地上で火炎息を吐く瞬間、両の脚を逆ハの字に踏ん張る癖を見抜いたのだ。
 それと宙返りからの毒棘尻尾を見舞う時、やつは右脚を半歩前に出して地面を蹴り抜き舞い上がる癖も見抜いた。
 他の行動に移る予備動作からの動作様式は、全て完璧に把握した。
 つまり、見切ったってこと。
 それを肯定、実証するかのように――。

「嘘っ⁉︎」「パパ、凄っ⁉︎」「流石でしてよ」

 巨体を支える両脚の均衡が見事に崩れ、左側に崩れる桜の飛竜。
 俺を追い掛けていた頭が自身の腹の下に潜り込んでいたのもあり、直後、狙い通りに仰向けに素っ転びやがった。

「GUAGYAOHー!」

 更に桜の飛竜に突進を仕掛けると、宙に舞い上がっていた蒼の飛竜。
 俺を狙って吐いたつもりの火炎息が、仰向けに素っ転んだ桜の飛竜に降り注ぐ。

「GYAGYAー!」

 流石の桜の飛竜もこれには堪らなかったようで、業火に焼かれて暴れまくる。
 溜めていた火炎息を吐き出して蒼の飛竜に放ち、抵抗する素振りを見せた。

「GUAGYAOHー!」

 当然、蒼の飛竜は更に上空へと逃げる!
 同士討ちに持っていく狙いまでもを、見事に達成する俺。

「――桜っ!!」

 桜の飛竜を滑るように通り抜け、盾を翳して素早く立ち上がった俺は、たったの一言を大声で叫ぶ。

 今の最新ゲーム機だとボイスチャットが主流だが、昔はキーボードでのチャットが主流だった。
 戦闘中に入力しておつる、所謂、チャット死何ぞな造語が生まれたくらいだからな。
 モンハ◯ってのは数値何ぞが表示され、敵の状態が解る系のゲームではない。
 良くあるレベルが全てのゲームでもない。
 実際の狩りにも等しい、対峙するモノの動向を見極め把握し、正しく己の体感を頼りに隙を突いて狩っていくゲームの代表だ。

 俺は言わずもがな。俺家族にしても、モ◯ハンは俺に付き合って初期の無印時代から遊んでいるヘビーユーザーだよ。
 単語入力で意思疎通をし、何千何万匹と繰り返し狩ってきた俺家族には、無駄に長い説明何ぞは邪魔なだけで一切不要。
 たった一言から次にどう動けば良いのなんてのは、当たり前の如く直ぐ判断できるんだな。

 それに、タンク役――壁役にはタゲ取りっつー用語がある。
 壁役ってのは対峙している対象の注意を引くのが仕事なのな?
 必然的に前に出ることになるので、ちょっとした判断ミスが大惨事に繋がるのだ。
 そんなわけで、俺は動きをつぶさに観察し、把握し、対応することにめっさ長けていたりする。

 つまり、長年、やり込んだゲームから培った技術や知識が身に染み付いていて、既に癖にまでなってしまっている。
 更に言うと、俺的敵の動作様式を把握できててしまえば、自ずと二手三手の先読みの行動も自然にできるんだよ。


 褒めてくれても良いんだからね? ね?


「りょ!」「肯定」「承知!」

 それだけで意図が伝わった。
 俺が開いた突破口から、モン◯ンで見せる素晴らしい連携を披露する最妃と双子組。
 直ぐ様、各々の成すべきことの為、瞬時に立ち位置を変えて戦闘に加わった。

「この光量ではどうでして!」

 地面に置いていた俺的ランタンを掴み上げ、前転宙返りの慣性を活かして上空の蒼の飛竜に目掛けて投げつける最妃。

 こちらを注視して舞い上がっていたが為に直撃を喰らう蒼の飛竜は、凄まじい閃光に目を焼かれる。
 更に、爆発した炸薬に翼を傷つけられたうえに煽られて、均衡を崩して霧揉み状態で墜落、地面へと叩きつけられた。

「GUA……GUAー!!」

「――大人しくしてなさい!」

 地面に叩きつけられ呻き暴れ捥がく蒼の飛竜に、最妃の俺的ウィップが容赦なく炸裂する。
 全身に電撃を浴びせ動きを鈍らせた。

「グッジョブ、ママ! ボクも――ハッ!」

 同時に未来は起き上がろうと捥がく桜の飛竜の頭上に跳躍し、渾身の一撃を振り落とす。
 そして深々と突き刺さる未来の拳。
 その穿たれた衝撃は凄まじく、頭を半壊させるに留まらず地面へと陥没させる。

「アイだって負けない! このっ!」

 未来の攻撃タイミングに合わせて動いていたアイ。
 頭が埋まって胴体が浮き上がった桜の飛竜の下半身を捉え、宙を彷徨う毒棘の尻尾を伐採ヒートホーク改で横薙ぎに斬り落とした。
 斬られた毒棘尻尾は体液を撒き散らし地面に落とされる。

「GUA……GYA……O――」

 半壊させられた頭を地面に埋め、毒棘尻尾をも切断された桜の飛竜。
 全身を痙攣させたあと、断末魔の咆哮をあげようとするも力が抜け動かなくなっていく。
 程なく完全に動きが止まり、地面に這いつくばった。

 ヒトの数十倍もある桜の飛竜を、とりあえずヒトたる俺達がリアルで討伐した瞬間だった。
 そこに痺れるゥ! 憧れるゥ! ――だな。



 ―――――――――― つづく。
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