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第陸章 混沌の発露――壊れた虚構世界編。
弐佰壱話 井戸、其の弐。
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麻の素材のようなモノでできたロープに設置した、登山何ぞで使うチューブ型下降器を用い、ロープと懸垂降下器の摩擦を緩めながら、井戸の内壁を後ろ歩きの要領で慎重に下降していく――。
そんな特殊部隊も真っ青な似非軍人のように、スルスルと器用に降りていくわけなんだが、俺的ナイトヴィジョンに映し出された情報通りの結構な深さだ。
だがしかし、秘密の花園では地下五キロメートルも降下させられた――あん時よかは全然マシだよ。
サバゲーで鍛えた、数少ない俺の趣味的技能を舐めんなっつーの。こんくらいなら余裕なのな。
『パパ、大丈夫?』
「おうよ、全然に余裕!」
俺的ナイトヴィジョンを通じて、アイの心配そうな声が届く。
段々と暗くなって、井戸の内壁も湿り気を帯びてくる。
俺的ナイトヴィジョンの暗視機能を有効にしつつ、内壁を蹴ってはスルスル降りてを繰り返し、順当に下降していった。
ぼちぼち井戸の底に到達する頃、足元を見やって真面目に驚いた。
いきなり開けた地下空洞に出会して、尚且つ自噴井戸何ぞですらもなく、井戸の真下が溜池のようになっているだけで、本当に地下に川が流れていやがったのだ。
「地下水脈でもあんのか? 正しく大きい川と言うほどでもないが、湧水って感じでもないのな」
ロープにぶら下がったまま、俺的ナイトヴィジョンの暗視機能を切って下に照明を当て、通常視野で足元に広がる川をじっくり見やる。
日本中の何処を探しても、これほどに綺麗な水は、最早、見当たらないんじゃねーのってくらい、澄んで透き通っていた。
反射した照明のお陰で幻想的にキラキラと輝いてもいる。
そんな川の真横には、ヒトが二、三人並んで歩ける程度の幅で自然の岩や土が剥き出しの、やや泥濘んだ荒れた道っぽいモノが、本当に奥まで続いていた。
「まぢかよ……彼女が言ってたまま……違うな。それ以上じゃねーの」
ターザンジャンプで泥濘んだ側道に降り立つ俺は、俺的ナイトヴィジョンを使って地下空洞なこの場所の周囲一帯を隈なく見渡してみたり、内壁を隈なく観察してみたりすることにした。
岩肌や土が剥き出しの内壁で、全体がやや湿っている。
水位が上昇して濡れたわけではなさそうで、この場を水で埋め尽くしたりはなさそうだ。
そう言った形跡は一切見て取れない。
つまり、鉄砲水で押し流されたり、溺れたり何ぞの災難とは無縁ってことだ。
この湿り気具合から察するに、層理面に添って流れる地下水の溶食作用によってできた、地下空洞に近しいと思える。
つまり、天然鍾乳洞に似ているのだ。ほぼそんな感じで合ってるのな?
但し、現実世界に在る鍾乳石云々は流石に見て取れないし、独特のカビ臭さ何ぞも全くしないとくるからファンタジーなんだけどな。
ただ、間違っても深井戸や自噴井戸何ぞと呼べるモノでも場所でもなかったのは確かだな、うん。
「パパー」
そうこうしていると、俺的ナイトヴィジョンから聴こえているわけではなく、上の方から俺を呼ぶアイの声が不意に聴こえてくる。
声の方を見やってみると仮称、アイライトを点灯させたアイが、この場所までロープを伝って降りて来た。
俺同様……違うな。俺以上の特殊部隊も真っ青な本格的な懸垂降下でな?
「――えへへ、アイも来ちゃった」
俺と同じくターザンジャンプを披露して、泥濘んだ側道にふわりと舞い降りるアイ。
「来ちゃった。じゃねーよ、全く」
滑ったら危ないんで受け止めるつもりだった俺の両手は、ワシャワシャと虚空を掴むのだった。
「だって、アイが居た方が、パパも安心でしょ?」
最妃っぽい茶目っ気たっぷりの笑顔で、俺に何ぞ上目遣いで言ってくるアイ。
最妃と未来の影響からか、最近は特に愛娘らしくなっていくばかりだな。
「――まぁ、ぶっちゃけ凄く助かるけどな。良いのか? 休んでなくて」
虚空を掴んだ両手をナニ事もなかったかのようにそっと戻し、頭をポリポリと掻いて誤魔化しつつ、照れ臭そうに本音を伝える俺は、アイの頭をグシャグシャと撫でてやる。
「うん。アイは大丈夫。どっちかと言うと……パパのが心配だもん、ね」
そう言ってガッツリとハグされた。
どうやらアイは本気で心配してきてくれたっぽい。
流石に斗家唯一の良心回路は伊達じゃねーのな……有り難うな、アイ。
しかし、相変わらずの両目からビーム……違うんだったな。LEDな照明器具以上の明るさで両目が光っている姿は、何度見てもホラー過ぎてなんとも笑えるけどな。
「俺は若返ってる分、体力的には大丈夫だぞ? さて。アイが来てくれたことだし、もう少し調べてみるか。皆はもう少し休んで――」
地上で待っている俺家族達に、俺的ナイトヴィジョンを通して無事を伝えるついでに、待機の指示を出そうとする――のだが。
「二人だけで地下ダンジョンの探索なんてズルい! ボクは認めない!」
「未来ではないですけど、私も寂しくてよ?」
「貴方……埋めるわよ? アタシまで置いて先に行くなんて」
何ぞ妙な理由を宣う未来に続き、最妃に婆ちゃんまでもがロープを伝って降りてきてしまったり。
軽業師もビックリする相変わらずな身軽さで、俺とアイの隣へと泥濘んだ側道へとふわりと舞い降りる。
「――義兄さん、温泉洞窟の時みたいに、また調べられなくなったらアリサは嫌なのよ?」
「ワタシモ ミンナト イッショガ イイデ――ナノデ」
垂らした蜘蛛糸をたくし上げて、ぶら下がる感じでスススっと後に続いて降りてきたクモヨとアリサ。
降り方が妙に蜘蛛っぽいだけに、ちょっとだけホラーだけどもな?
俺的には、抜けな~い何ぞとお約束のように、捥がいてジタバタするシーンを思い描いて、密かに期待していたんだがな……。
そうか……無事に井戸の間口を擦り抜けられたのなか……残――ゲフンゲフン。良かったな、クモヨ。
結局は、皆が井戸の中へと一堂に集まる結果となってしまったり。
小鬼とやり合ったばっかで碌に休んでないだろうに?
ホント、俺って家族は――素敵だな。
―――――――――― つづく。
そんな特殊部隊も真っ青な似非軍人のように、スルスルと器用に降りていくわけなんだが、俺的ナイトヴィジョンに映し出された情報通りの結構な深さだ。
だがしかし、秘密の花園では地下五キロメートルも降下させられた――あん時よかは全然マシだよ。
サバゲーで鍛えた、数少ない俺の趣味的技能を舐めんなっつーの。こんくらいなら余裕なのな。
『パパ、大丈夫?』
「おうよ、全然に余裕!」
俺的ナイトヴィジョンを通じて、アイの心配そうな声が届く。
段々と暗くなって、井戸の内壁も湿り気を帯びてくる。
俺的ナイトヴィジョンの暗視機能を有効にしつつ、内壁を蹴ってはスルスル降りてを繰り返し、順当に下降していった。
ぼちぼち井戸の底に到達する頃、足元を見やって真面目に驚いた。
いきなり開けた地下空洞に出会して、尚且つ自噴井戸何ぞですらもなく、井戸の真下が溜池のようになっているだけで、本当に地下に川が流れていやがったのだ。
「地下水脈でもあんのか? 正しく大きい川と言うほどでもないが、湧水って感じでもないのな」
ロープにぶら下がったまま、俺的ナイトヴィジョンの暗視機能を切って下に照明を当て、通常視野で足元に広がる川をじっくり見やる。
日本中の何処を探しても、これほどに綺麗な水は、最早、見当たらないんじゃねーのってくらい、澄んで透き通っていた。
反射した照明のお陰で幻想的にキラキラと輝いてもいる。
そんな川の真横には、ヒトが二、三人並んで歩ける程度の幅で自然の岩や土が剥き出しの、やや泥濘んだ荒れた道っぽいモノが、本当に奥まで続いていた。
「まぢかよ……彼女が言ってたまま……違うな。それ以上じゃねーの」
ターザンジャンプで泥濘んだ側道に降り立つ俺は、俺的ナイトヴィジョンを使って地下空洞なこの場所の周囲一帯を隈なく見渡してみたり、内壁を隈なく観察してみたりすることにした。
岩肌や土が剥き出しの内壁で、全体がやや湿っている。
水位が上昇して濡れたわけではなさそうで、この場を水で埋め尽くしたりはなさそうだ。
そう言った形跡は一切見て取れない。
つまり、鉄砲水で押し流されたり、溺れたり何ぞの災難とは無縁ってことだ。
この湿り気具合から察するに、層理面に添って流れる地下水の溶食作用によってできた、地下空洞に近しいと思える。
つまり、天然鍾乳洞に似ているのだ。ほぼそんな感じで合ってるのな?
但し、現実世界に在る鍾乳石云々は流石に見て取れないし、独特のカビ臭さ何ぞも全くしないとくるからファンタジーなんだけどな。
ただ、間違っても深井戸や自噴井戸何ぞと呼べるモノでも場所でもなかったのは確かだな、うん。
「パパー」
そうこうしていると、俺的ナイトヴィジョンから聴こえているわけではなく、上の方から俺を呼ぶアイの声が不意に聴こえてくる。
声の方を見やってみると仮称、アイライトを点灯させたアイが、この場所までロープを伝って降りて来た。
俺同様……違うな。俺以上の特殊部隊も真っ青な本格的な懸垂降下でな?
「――えへへ、アイも来ちゃった」
俺と同じくターザンジャンプを披露して、泥濘んだ側道にふわりと舞い降りるアイ。
「来ちゃった。じゃねーよ、全く」
滑ったら危ないんで受け止めるつもりだった俺の両手は、ワシャワシャと虚空を掴むのだった。
「だって、アイが居た方が、パパも安心でしょ?」
最妃っぽい茶目っ気たっぷりの笑顔で、俺に何ぞ上目遣いで言ってくるアイ。
最妃と未来の影響からか、最近は特に愛娘らしくなっていくばかりだな。
「――まぁ、ぶっちゃけ凄く助かるけどな。良いのか? 休んでなくて」
虚空を掴んだ両手をナニ事もなかったかのようにそっと戻し、頭をポリポリと掻いて誤魔化しつつ、照れ臭そうに本音を伝える俺は、アイの頭をグシャグシャと撫でてやる。
「うん。アイは大丈夫。どっちかと言うと……パパのが心配だもん、ね」
そう言ってガッツリとハグされた。
どうやらアイは本気で心配してきてくれたっぽい。
流石に斗家唯一の良心回路は伊達じゃねーのな……有り難うな、アイ。
しかし、相変わらずの両目からビーム……違うんだったな。LEDな照明器具以上の明るさで両目が光っている姿は、何度見てもホラー過ぎてなんとも笑えるけどな。
「俺は若返ってる分、体力的には大丈夫だぞ? さて。アイが来てくれたことだし、もう少し調べてみるか。皆はもう少し休んで――」
地上で待っている俺家族達に、俺的ナイトヴィジョンを通して無事を伝えるついでに、待機の指示を出そうとする――のだが。
「二人だけで地下ダンジョンの探索なんてズルい! ボクは認めない!」
「未来ではないですけど、私も寂しくてよ?」
「貴方……埋めるわよ? アタシまで置いて先に行くなんて」
何ぞ妙な理由を宣う未来に続き、最妃に婆ちゃんまでもがロープを伝って降りてきてしまったり。
軽業師もビックリする相変わらずな身軽さで、俺とアイの隣へと泥濘んだ側道へとふわりと舞い降りる。
「――義兄さん、温泉洞窟の時みたいに、また調べられなくなったらアリサは嫌なのよ?」
「ワタシモ ミンナト イッショガ イイデ――ナノデ」
垂らした蜘蛛糸をたくし上げて、ぶら下がる感じでスススっと後に続いて降りてきたクモヨとアリサ。
降り方が妙に蜘蛛っぽいだけに、ちょっとだけホラーだけどもな?
俺的には、抜けな~い何ぞとお約束のように、捥がいてジタバタするシーンを思い描いて、密かに期待していたんだがな……。
そうか……無事に井戸の間口を擦り抜けられたのなか……残――ゲフンゲフン。良かったな、クモヨ。
結局は、皆が井戸の中へと一堂に集まる結果となってしまったり。
小鬼とやり合ったばっかで碌に休んでないだろうに?
ホント、俺って家族は――素敵だな。
―――――――――― つづく。
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