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第陸章 混沌の発露――壊れた虚構世界編。

佰捌拾漆話 疑心、其の参。

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「クモヨは下半身が入りきらんだろう? すまんが藁を掻き集めて寝床にするしかない。肩が冷えるかもだから同素材でこさえた俺的バスタオルで我慢してくれ。ほれ、コレを羽織っておくと肩はスゲー温かいぞ。婆ちゃんについては――」

「ホント! アタタカイ……。パパ、アリガトウ」

「貴方……アタシは要らないわよ? 暑いのも寒いのも割と平気だから」

「さよか。ならクモヨのみで良いな」

「お姉ちゃんと一緒に包まるので良いけど……でもパパは?」

「俺か? 俺は気にするな。どうとでもなる」

「だったらさ――こうすれば良いんだ、よっと!」

 俺に跳びつく未来は、俺的ブランケットを俺に巻きつけて横から潜り込み、アイをチョイチョイっと手招きして呼ぶ。

「だよね、お姉ちゃん! ――えい!」

 呼ばれたアイも俺に跳びつくと、俺を間に挟む感じに未来の反対側で俺的ブランケットに包まった。

「あらあら。では私も真似しちゃいましょうか。――彼方!」

「――! ――!! ――!!! ――ぷは! 死ぬって、気持ち良く死ぬって!」

 なんと、最妃までもが俺にダイビング!
 俺的超お至宝の双丘が容赦なく迫り、俺を幸せの窒息死に導く気が満々。

「貴方……その不適切極まりない笑顔でなければ素敵なのに。ホント、残念なイケメン、ね!」

 更に妹的美少女形態の婆ちゃんまでもが、俺に覆い被さって跳びつく始末。

「義兄さん、アリサも独りは寂しいのよ?」

 アリサは跳びつかず、背中から俺にそっと抱きついてきた。

「ワタシモ パパト……」

 ちょ、待って⁉︎ ウェイトだ、クモヨ⁉︎
 このパターンはクモヨも跳び込んでくるのか⁉︎
 流石にそれは俺ヤバないっつーか、潰れたド根性カエルになるって⁉︎

「ク、クモヨも大切な家族だからな。俺家族達はボッチになんて絶対しないっつーの。ほら、皆んなで一緒に固まって寝るぞ?」

 跳び込もうと構えるクモヨに、必死に格好をつけて待てのサインを送る俺。

 引っ付き虫な皆を強引に引き摺るように床を這ってクモヨの側まで行くと、俺家族に埋まったままの状態で右腕だけを出し、何ぞそれっぽいことを宣ってクモヨの頭をグシャグシャと撫でてやる。

「そそ」「賛成」「貴方……流石ね」「あらあら」「なのよ?」

「パパ、ミンナ……アリガトウ……ワタシ――」

 俺が言ったことに相槌を打ち、クモヨに寄り添う俺家族。
 皆んなでクモヨの大っきい下半身を抱き寄せて笑い合った。

 俺って家族はホント、――素敵過ぎるのな。

「貴方……アタシが伸び広がってさ、皆を包んで保温性を上げてあげるわ」

「それはノーサンキュー、絶対ヤダ。万一、寝ぼけでもしたスライム何ぞに溶かし喰われたくはねぇしな」

「貴方……祟るわよ」

「冗談だ。婆ちゃんも皆と同じく普通に寝たら良いさ。正体がケッタイな液体何ぞなモノであれ、例外なく俺家族に違いないんだからな」

「貴方……贄るわよ。でもまぁ、アタシもそうさしてもらおっかな」

 結局は皆で一ヶ所に固まって眠ることになったり。
 俺的お至宝と超お至宝な双丘に囲まれて、更に牛乳な石鹸の良い香りで包まれる俺。


 約一名、例外な子は居るけども。
 勿論、誰とは決して言わんけども。


 そんな……小さな幸せを満喫しつつも、静かに思案するのだった――。


 ◇◇◇


 耳長美形族な女性。
 不自然極まりない状況下だ言うに、本当にここに住んでいるのか不意に疑問に思った俺は、記憶を遡って思い出してみた。

 そして、ある重要なことに気付いた。
 それはヒトが生活する上で必須になるであろうモノ。
 当然、亜人でも一緒だ。
 特に重要な、その生活必需品がナニひとつ見当たらなかったのは流石におかしい――。


 それは食器。或いは調理道具でも良い。
 それらが一切、見当たらなかったのを思い出したのだ――。


 ここに住んでいると言う前提で考えれば、有り得ないとも言える。
 先ほどの飯時前に婆ちゃんの通訳で聴いた内容からも、そう言い切れる。

 確か『食事の用意も致します』って言っていた筈なのに、道具すらなくどうやって調理するんだよってな?
 ま、確かに用意はしてくれたけども。


 何処で買って来たのかは、俺の知るところでは全くないのだが。


 だがしかし、仮にも住んでいるっつーんなら、台所に今使わずともそれ相応な、食器或いは食器棚、調理道具が揃っていて然りなのな。
 或いは着替や干してある洗濯モノでもなんでも構わない――。


 そう。生活感が全く感じないんだよ。


 加えて、俺達の通された客間にも生活感を感じさせるモノがまるでなかった。
 花や調度品、棚や箪笥たんすかご何ぞでもなんでも良い。
 そう言った類いのモノがナニ一つ揃って居ないのだ――。

 ただ、それらは住まいの外観や内装が指し示す通り、所有できるほどに裕福ではないのかもと考えてやってもやぶさかではない。
 しかし、生活必需品がないってのだけは、明かに不自然なことなんだよ。
 水汲みしてきた桶から移し替えて貯蔵する、水瓶みずがめすら台所にも見受けられなかったのは流石におかしい。

 水浴び場はあるが現代的に言うとシャワー室に等しく、お世辞にも風呂何ぞと呼べるよーな場所ですらなかった。
 水浴びする為に、態々、井戸水を汲み上げに往復するくらいだからな。

 ここの寝床にしても照明器具である蝋燭ろうそく、ランタンですらナニひとつ見当たらないのだよ。
 今は白夜に近い状況らしいので明るいが、極夜には必須と言っても良いのに――そいつがない。

 あとは……どうやったらそーなる的ファンタジー過ぎる弁当、そして藁をどうやった?


 もしかすると耳長美形族の女性は――。


「――ナニ⁉︎ この悪寒⁉︎」

 突然、両肩を抱き込んで、ブルっと身を震わせ起き上がってくる未来。

 直後にアイが起き上がり、直ぐ様、床に胡座を組んで座るとこめかみに指を添える、某とんちスタイルで目を瞑る。

「緊急。九時の方向、約二キロメートル先、怪電波反応出現。照合――パターン青。推定、敵勢力。勢力割出――」

 そのまま、例の電波メカ口調で抑揚なく告げたのだった――。



 ―――――――――― つづく。
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