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第陸章 混沌の発露――壊れた虚構世界編。

佰捌拾壱話 住人、其の参。

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 わんだばーなオタク用語に耳を疑い、ちゃんと聴いてみるかと考えた俺は、何ぞ会話しているっぽい素振りの婆ちゃんの側まで歩み寄っていく。

 婆ちゃんを除く斗家の面々は、俺の後ろに控えている。
 先ほどまでのまったり空気が嘘のように、態度は自然体だが雰囲気は既に臨戦体勢に移行していた。

 そして――徐に振り返る婆ちゃん。
 その顔はキラッキラな超笑顔。
 ドヤ顔で何ぞ伝えてくるのだった――。

「貴方……ヒトが来たのは随分と久しぶりですね。どちらからいらしたのです? ――と言ってるわよ?」

 何故にわんだばーなケッタイな短い用語の羅列から、そんな長文翻訳が易々とできちまうんだよ、婆ちゃん?

「なんだかなー なんだかなー」

「貴方……そうでしたか。ナニもない所ですけど歓迎致しますよ? ――ですって」

 ツッコむ隙を与えないスピーディさで、容赦なく追い立ててきよるのな、うん。
 まさに今、俺がそんな言葉を、絶賛、吐かしてやりたいわ!
 まぁ、婆ちゃんにはあとで問い質すとして。

 俺の耳には相変わらず妙な用語に聴こえているんだが……疑問に思ったら負けってか?
 しっくりこない時に良く使われる、聴き覚えのある用語まんまに聴こえるんだけども?
 そんな感じの良くない印象を与える用語の羅列から、なして歓迎する意味合いの翻訳が出てくるのか、婆ちゃん?

 それにな、何処から来ましたよとも俺達はまだ返答すらしてない筈なのに、既に相手が納得してやがる点についても相当にファンタジーだよな、婆ちゃん?


 アテレコで適当に宣ってたら、まぢ泣かすぞ?


「じゃばざはっと かえるちがう」

「貴方……可愛いお子様ですね。しかも双子って羨ましい。――ですって」

 あの宇宙戦争な洋画に出てくる宇宙ギャングの大将は、確かに見た目が醜いカエルだけども……。
 どーしてそんな言葉から、俺愛娘らを愛でる言葉に翻訳できんのよ? なー、婆ちゃん?

「げっとあうと はりぃあっぷ」

「貴方……皆様お疲れでしょう。とこの用意を致しますから、本日は是非に泊まっていって下さい。久しぶりに大勢のお客様で私も嬉しい。――ですって」

 日本語に飽きて今度はステイツな、うん。
 翻訳すると『さっさと出て行け!』って意味合いの言葉なのな。

 それをなして歓迎の意味で受け取り、泊まっていくように促してくる言葉になって翻訳できんの、婆ちゃん? 

 更に、そんな長ったらしい文章になしてなんのよ、婆ちゃん?

「わし おまえ くう おまえ かま はいれ」

「貴方……簡素で申し訳ありませんが、お食事の方もご用意させて頂きます。――だって」

 今、俺的電波脳内で具体的に想像してみたけども、小さなお子様が泣き噦り、お食事中の家族の方の手が止まり、ご年配の方は違うモノも止まったぞ?

 そして閲覧注意どころか見せられないよ! のテロップが所狭しと乱舞したぞ?

 更に放送事故の垂れ幕が出て、決まり文句が掲げられたんだけどよ、うん。

 そんな食卓に俺達を材料にした料理を出す気が満々で、なおかつ御馳走を振る舞うのは材料にされた俺達の方って言葉からさ、なんでそんな翻訳出来んの? 婆ちゃん?


 もうね、全てが無茶苦茶だね、ここ。
 世界に場所に言語ですら法則無視の極み。まぢに、ナニ?


「あのさ……俺の耳さ、腐ってないよな、最妃?」

「パパもか……ママ、ボクの耳は?」

「激しく同意。意味不明の羅列。解析不能。理解不能」

 俺と未来にアイは揃って同じ考えの模様で、最妃に見せたところでどうにかなるわけではないのだが、耳にしている言葉がおかしく聴こえたことをそれとなく皆に伝えている。
 つまり、共有したい思惑があるのだった。

「ええ。大丈夫でしてよ? 勿論、三人ともに普通ですわよ?」

 いつも通りの和やかな笑顔の最妃。
 言葉に孕んだ真の意味を華麗にスルーと天然炸裂ときた。
 そのまんまな意味で受け止めて、順番に見て回る始末。
 もしかしてワザとか? それともやっぱ天然?

「アリサは最後の言葉だけハッキリ解ったのよ? 下手な英語なのよ? 喧しいってのよ?」

 どうやら耳に聴こえたそのままの意味で解釈したらしいアリサ。
 頬っぺたをぷくっと膨らませてプリプリ怒っているみたいだ。

 コント的探検衣装の腰ベルトに提げている、大好に預けられたパイナップル近代兵器的手榴弾を掴んで、その安全ピンに指を掛けていたり。

「クモヨ ニハ ちんぷんかんぷん デス」

 アリサの横に立つクモヨは、顎に手を当て首を傾げてキョトンとしたあどけない表情。
 オタク用語っぽい言葉には、意味すらも解っていないようだ。

「疑問に思ったら負けってことで、一旦、スルーでやり過ごそう、な? このおかしな現象にも何ぞな意味はある筈だ。きっと、なんとかなる! ――とにかく先に進めよう」

 複雑心理な俺は、根拠のない自信で宣う。
 何ぞ予想はしてたが、のっけから既に大惨事っつーのは流石の俺も頭痛が痛い。

 しかし、如何に馬鹿げていようとも、相対した問題をなんとかしないことには先に進まないのが普通の王道RPG! つまり、基本中の基本だ!


 普通だったら、だがな?
 RPGでもない、けどな?


「めげるな、諸君! これは試練だ! やんごとなき意味不明な存在が与えたもーた試練なのだ! これに耐えて、見事、超えて見せるのだ! 立てよ国民!」

 壇上のマイクに向かって演説する、素敵ボイスの家柄党首のようにパントマイムで宣う俺。

「――何処の演説シーンよ、パパ」

「八十点。動作激似。結局他人。声色NG」

 ジト目でツッコむ未来に、抑揚無く電波演技で評価するアイ。

「あー、うん。すまん、ちょっとした気分転換。真面目に言うけども、意味不明な場所で意味不明な問題に打ち当たってもな、そこで投げたら永久に停滞してしまう。悠長に成り行きを見護る何ぞ、愚作に等しい行為だ」

 こんな冗談みたいな状況に、俺にしては珍しく真顔で皆に伝える。

「いつも言ってるけども、観測した時点でそれは事実で体感した時点で現実になる。受け入れてどうするかを良く考えるんだ。思考を留めず先に進む。答えは自ずと付いて来るもんだ。なので前に進むしかないんだよ。壁が邪魔なら打ち壊せだよ。とにかく今は行動あるのみ! GO、GO、GOだ!」

 そして、なんとかブートキャンプで有名な、香ばしいポーズでフィットネスの宣伝をしている元軍人の黒人さんのモノ真似を披露して、複雑心理な思いのままに半ば投げやり気味に皆に伝えた。

 当然、双子組からは生暖かいジト目で、アリサも覚えがあるのか双子組同様にジト目だったり。

 和やかな笑顔の最妃とキョトンと顎に手をやり首を傾げるクモヨの二人は、意味が解っていないっぽいのはお約束。

 そして、俺達は婆ちゃんに手招きで促され、納得も理解もできないままに、渋々と耳長美形族の女性のあとにちゃんと付き従っていくのだった――。



 ―――――――――― つづく。
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