悪夢で視る人――それは俺だけが視ることのできる、酷く残酷で凄惨な個人的ホラー映画。【第二部・リテイク版】

されど電波おやぢは妄想を騙る

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第二部 上映中

Scene 29.

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 俺は重い目蓋をゆっくりと開ける。
 視界が水面を通して見ているかの如く、全体的にぼやけ気味に映る光景は――小汚い滲み模様。
 長年過ごした見知った天井、つまり俺ん家だった。

 お約束のテロップを映したまま、つけっ放しになっている大画面液晶テレビもいつもと同じ。
 その脇でけたたましく鳴り響いていやがる目覚まし時計にしても同じ。

「俺、泣いているの――って、何処かの綾波勿論、あのエヴァんかっ!」

 視界がぼやけて見えている理由は、単に涙目だからだ。

「久しく忘れていた、心が満たされる良い夢――違う。を堪能させて貰って、こんなことを言うのもなんだけどさ――」

 そして。起き抜け一発、愚痴る理由。


 壁掛け時計のカレンダーが指し示している日時は――美杉の命日だからだ。


「こっからかよっ⁉︎ これじゃ全然先に進んでねぇじゃんかよっ!」


 そう。当日、俺が目覚めた時刻と全く同じだったんだよ。


「――喧しいわ!」

 布団を捲って飛び起きると、クソ喧しい目覚まし時計を払い退け、目一杯に八つ当たる。

「くそっ! 悪夢の中で悪夢を見せられるわけの解らない経験をさせられた俺には、今が現実なのか非現実なのか、最早、全く解らんくなったわ!」

 今まで唯一の判断材料と思っていた痛覚での見分けが曖昧になった。
 その所為で俺が叫ぶ通り、最早、見分けがつかんのだ。

「取り敢えずつねってみるか――うん、痛いな。ならば一応……今は現実で合ってると解釈して動くしかねーのな――なぁ、美杉?」


 返事はない。ただの写真のようだ――。
 

「今日は大事な日だからな……それと何か関係でもあんのかよ? 俺に何ぞ知らせたい……とか? ――なぁ、美杉?」


 やはり返事はない。どう見てもただの写真のようだ――。


「返事するわけねーか。したらホラーだっつーの……いかん、さっきの悪夢を引き摺ってるわ俺。阿呆なことやってないで、ちゃっちゃと出掛ける準備をせんと」

 大きく背伸びをして布団から出ると、窓のカーテンを開けた。


 今まで燦々さんさんと降り続いていた雨模様ではなく、素晴らしい上天気だった。


「ふぅ――良い天気だ。微風そよかぜが特に気持ち良いな」

 窓も開け外気を取り込むも、不快指数ゼロの湿気一つない爽やかな空気が部屋に入ってくる。

「――んで、玄関を出たら実は雨だった……って、急になんなよ?」

 雨なんぞはまず降りそうにない、本気の本気な清々しさが実に怪しい。

「これで降ってたら激おこ案件だぞ? それでなくてもちょいとトラウマ案件だっつーに。……おっと、こうしちゃ居られないんだっけ」

 クローゼットの中からビシッとした真っ黒なスーツを取り出し、そそくさと着替え始める。

 着替えて顔を洗い、予め用意していた持って行くお参りセットを再確認する。

「墓参りセットにお供えの花束おっけ。念の為に傘もおっけ。――今回はスコップも一応は持ってくか」

 土木用スコップの存在感と言うか違和感が激しく、予想以上に場違い過ぎるとは思うが……不測の事態に備えて止むなしだ。


 決して墓を暴くとか荒らすとかの目的で持って行くのではない……あくまでも念の為だ。


「――うっし、ここまでは順調、完璧だな! んじゃ、美杉。ぼちぼち行ってくるわ」

 出掛け際に美杉の写真に視線を移し、毎日の日課であるお出掛けの挨拶を交わす。


 本当に可愛らしく屈託のない笑顔。
 さっきの悪夢で漫才した美杉のままだ。


「さてと、外はどうかな……南無さん!」

 祈るようにドアを開けて本気でホッとした。

「おおっ! 今回は晴れのままだっ!」

 窓から見たままに、今回は凄く上天気。安堵の気持ちで戸締りをし、一階の駐車場に向かって意気揚々と車に乗り込むのだった。


 ◇◇◇


 誰も居ない部屋。
 飾られた写真の中の美杉が再び不気味に動き出す――。


「ヲ兄チャン、気ヲ付ケテ逝ッテラッシャイ。油断スルト痛イ目ニ遭ウヨ? アハハ。――フヒッ――フヒッ」

 素敵な笑顔は消え去り、顔半分がドロドロに焼け落ちた皮膚と肉を曝け出し、眼球を吊り下げて悍しく薄ら笑っているのだった――。


 ――――――――――
 気になる続きはこの後、直ぐ!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
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