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第二部 上映中
Scene 28.
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「美杉――大丈夫か?」
俺に縋りついて震える美杉。華奢な肩と腰に手を回し、しっかりと抱き締め直す。
仄かに漂う優しい香り。潰れるたわわな果実からは、柔らかさと温もりに鼓動を伝えてくる。
そのどれもが懐かしい――俺の知る美杉のものだ。
「えっと……お、お兄ちゃん?」
嫌がる素振りひとつ見せず、されるがままの美杉。
「……ああ。済まないな、美杉。俺が大丈夫じゃねぇな。二年振りに懐かしい美杉に逢えたんで……もう少しこのまま、この悪夢から覚めずにいたいんだ。駄目か?」
俺の頬を美杉の頬に寄せ、耳元で囁く。
「夢じゃなくて悪夢? 何を言ってるのか良く解らないんだけど? 要は私と組んず解れつをしていたいってことね? 私はいつでもどうぞお召し上がり下さいって感じだよ、お兄ちゃん」
美杉も頬を俺の頬に押し返し、華奢な両腕でしっかり抱き留めて、以前と変わらぬ可憐な声で答えてくれた。
「阿呆だろ?」「失敬ね!」
「いくら悪夢の中の美杉とは言え、大人の大変けしからんいけない行為を含み、何をしても良いってのは断じて違う! 俺はそこまで飢えてねぇし」
「さっきから何を言ってるのよ? 意味が解らない。それよりもさっきの喪服の女。あれは誰? 明らかに美人っぽい女だったよね!」
まぁ、俺と美杉だからな?
良い雰囲気も台なしになるのは止むなし。
「さぁな。――それよりもだ、美杉。久し振りにオムライス作ってくれん?」
美杉がことある毎に作ってくれた、呪いつきのオムライスのことだ。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌えキューン♪ ――ってヤツで頼む」
これだな。これに尽きる。
「あ。今、しれっと話題を摺り替えて誤魔化した? 私と言う素敵で可憐な美少女を差し置いて、お兄ちゃんの彼女さんだったら――ううん、それだけは絶対にありえないね。生きた歳イコール彼女居ない歴かつDTなお兄ちゃんだもんね」
「えらい過酷な言われようだな、俺……って、うっせーわっ! 今はオムライスだっ! 早よ早よっ!」
「――はいはい、解ったわよっ! 材料あるのかな……ちょっと待っててね」
「美杉。先に言っとくが……裸エプロンだけはNGだかんな」
「――ちょっとっ⁉︎ なんで私の考えてることが尽く完璧に解るのっ⁉︎ 驚かそうと思ったのにっ!」
「変態だからな」「えらい過酷な言われようね、私」
アッカンベーとプリプリと怒りながらも、台所に向かう可愛らしい美杉。
その後ろ姿から目を離せずに、俺はただずっと眺めていた――。
「こんな幸せな悪夢を体感させて貰えるとはな。夢でもし逢えたら素敵なことね……って言葉が心に染みるわ、全く。――アンタが何者なのかってのは、追々、追求するとしてだ。今だけは……まぢで感謝しておいてやるわ」
部屋の窓を開けて、静かにそう呟く。
あんなに燦々と降り続いていた雨もあがり、遠くに大きくとても綺麗な虹が掛かっていた。
「どんなに居心地が良くとも……俺にとっちゃ、ただの悪夢のままだよ――」
窓から風景を見渡すも、現実としか思えない。
もしも二年前なら……疑うことなく、この居心地の良い悪夢に延々と囚われて、飄々と過ごしていたかも知れなかったな。
「さて。痛みを感じる悪夢か……今までになかったパターンだな。要は現実と非現実の境目が曖昧になってきやがったってことだろうよ」
大きな虹をぼんやりと眺め、さっきまでのことを検証するように思い浮かべる。
「だとすると……ちょいと厄介かも知れん」
悪夢が現実に、現実が悪夢になる。それが如何に危険なことに繋がるか――。
「でーきーたー、よっとっ! えっへへ~っ♪ お~にぃ~、ちゃんっ!」
窓から外の景色をぼんやり眺めて、物思いに耽ってる俺の背中から、容赦なく抱きついて、たわわな果実を押しつけてきた美杉。
無邪気で屈託のない、本当に可愛い笑顔でだ――。
「良っしゃあっ! 二年振りに旨いオムライスを頂くとしますかっ!」
抱きつく両手を掴んでくるりと回し、正面からしっかりと抱き込んでやった。
「わっぷ、お兄ちゃんっ⁉︎ ちょっと……スーハー、スーハー……ああ、癒される……」
そのまま俺の胸に顔を埋めて、例の如く堪能し始める美杉。
「この変態め……」「否定はしない!」
今まで通り。なんら変わることのない現実。五感に訴えかけそう誤認させる。
だがしかし。これは儚い夢。
それも悪夢の輪廻に囚われる――俺の視ている悪夢。
「本当……有難うな、美杉……」
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
照れ臭そうに上目遣いではにかむ美杉を、絶対に離してやるもんかと言わんばかりに抱きしめた。
「さぁ、覚める前にとっと飯だ」
「――わわわ、ちょっと、お兄ちゃんってばっ⁉︎ もうっ!」
美杉を引き剥がし、食卓の方にくるりと回す。肩を掴んで食卓へと押し、急かすように追い立てる。
俺が泣いている姿を、ただ見せたくはなかったから――。
――――――――――
気になる続きはこの後、直ぐ!
チャンネルは、そのまま!(笑)
俺に縋りついて震える美杉。華奢な肩と腰に手を回し、しっかりと抱き締め直す。
仄かに漂う優しい香り。潰れるたわわな果実からは、柔らかさと温もりに鼓動を伝えてくる。
そのどれもが懐かしい――俺の知る美杉のものだ。
「えっと……お、お兄ちゃん?」
嫌がる素振りひとつ見せず、されるがままの美杉。
「……ああ。済まないな、美杉。俺が大丈夫じゃねぇな。二年振りに懐かしい美杉に逢えたんで……もう少しこのまま、この悪夢から覚めずにいたいんだ。駄目か?」
俺の頬を美杉の頬に寄せ、耳元で囁く。
「夢じゃなくて悪夢? 何を言ってるのか良く解らないんだけど? 要は私と組んず解れつをしていたいってことね? 私はいつでもどうぞお召し上がり下さいって感じだよ、お兄ちゃん」
美杉も頬を俺の頬に押し返し、華奢な両腕でしっかり抱き留めて、以前と変わらぬ可憐な声で答えてくれた。
「阿呆だろ?」「失敬ね!」
「いくら悪夢の中の美杉とは言え、大人の大変けしからんいけない行為を含み、何をしても良いってのは断じて違う! 俺はそこまで飢えてねぇし」
「さっきから何を言ってるのよ? 意味が解らない。それよりもさっきの喪服の女。あれは誰? 明らかに美人っぽい女だったよね!」
まぁ、俺と美杉だからな?
良い雰囲気も台なしになるのは止むなし。
「さぁな。――それよりもだ、美杉。久し振りにオムライス作ってくれん?」
美杉がことある毎に作ってくれた、呪いつきのオムライスのことだ。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌えキューン♪ ――ってヤツで頼む」
これだな。これに尽きる。
「あ。今、しれっと話題を摺り替えて誤魔化した? 私と言う素敵で可憐な美少女を差し置いて、お兄ちゃんの彼女さんだったら――ううん、それだけは絶対にありえないね。生きた歳イコール彼女居ない歴かつDTなお兄ちゃんだもんね」
「えらい過酷な言われようだな、俺……って、うっせーわっ! 今はオムライスだっ! 早よ早よっ!」
「――はいはい、解ったわよっ! 材料あるのかな……ちょっと待っててね」
「美杉。先に言っとくが……裸エプロンだけはNGだかんな」
「――ちょっとっ⁉︎ なんで私の考えてることが尽く完璧に解るのっ⁉︎ 驚かそうと思ったのにっ!」
「変態だからな」「えらい過酷な言われようね、私」
アッカンベーとプリプリと怒りながらも、台所に向かう可愛らしい美杉。
その後ろ姿から目を離せずに、俺はただずっと眺めていた――。
「こんな幸せな悪夢を体感させて貰えるとはな。夢でもし逢えたら素敵なことね……って言葉が心に染みるわ、全く。――アンタが何者なのかってのは、追々、追求するとしてだ。今だけは……まぢで感謝しておいてやるわ」
部屋の窓を開けて、静かにそう呟く。
あんなに燦々と降り続いていた雨もあがり、遠くに大きくとても綺麗な虹が掛かっていた。
「どんなに居心地が良くとも……俺にとっちゃ、ただの悪夢のままだよ――」
窓から風景を見渡すも、現実としか思えない。
もしも二年前なら……疑うことなく、この居心地の良い悪夢に延々と囚われて、飄々と過ごしていたかも知れなかったな。
「さて。痛みを感じる悪夢か……今までになかったパターンだな。要は現実と非現実の境目が曖昧になってきやがったってことだろうよ」
大きな虹をぼんやりと眺め、さっきまでのことを検証するように思い浮かべる。
「だとすると……ちょいと厄介かも知れん」
悪夢が現実に、現実が悪夢になる。それが如何に危険なことに繋がるか――。
「でーきーたー、よっとっ! えっへへ~っ♪ お~にぃ~、ちゃんっ!」
窓から外の景色をぼんやり眺めて、物思いに耽ってる俺の背中から、容赦なく抱きついて、たわわな果実を押しつけてきた美杉。
無邪気で屈託のない、本当に可愛い笑顔でだ――。
「良っしゃあっ! 二年振りに旨いオムライスを頂くとしますかっ!」
抱きつく両手を掴んでくるりと回し、正面からしっかりと抱き込んでやった。
「わっぷ、お兄ちゃんっ⁉︎ ちょっと……スーハー、スーハー……ああ、癒される……」
そのまま俺の胸に顔を埋めて、例の如く堪能し始める美杉。
「この変態め……」「否定はしない!」
今まで通り。なんら変わることのない現実。五感に訴えかけそう誤認させる。
だがしかし。これは儚い夢。
それも悪夢の輪廻に囚われる――俺の視ている悪夢。
「本当……有難うな、美杉……」
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
照れ臭そうに上目遣いではにかむ美杉を、絶対に離してやるもんかと言わんばかりに抱きしめた。
「さぁ、覚める前にとっと飯だ」
「――わわわ、ちょっと、お兄ちゃんってばっ⁉︎ もうっ!」
美杉を引き剥がし、食卓の方にくるりと回す。肩を掴んで食卓へと押し、急かすように追い立てる。
俺が泣いている姿を、ただ見せたくはなかったから――。
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チャンネルは、そのまま!(笑)
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