悪夢で視る人――それは俺だけが視ることのできる、酷く残酷で凄惨な個人的ホラー映画。【第二部・リテイク版】

されど電波おやぢは妄想を騙る

文字の大きさ
上 下
8 / 12
第二部 上映中

Scene 28.

しおりを挟む
「美杉――大丈夫か?」

 俺に縋りついて震える美杉。華奢な肩と腰に手を回し、しっかりと抱き締め直す。

 仄かに漂う優しい香り。潰れるたわわな果実からは、柔らかさと温もりに鼓動を伝えてくる。


 そのどれもが懐かしい――俺の知る美杉のものだ。

 
「えっと……お、お兄ちゃん?」

 嫌がる素振りひとつ見せず、されるがままの美杉。

「……ああ。済まないな、美杉。俺が大丈夫じゃねぇな。二年振りに懐かしい美杉にんで……もう少しこのまま、この悪夢から覚めずにいたいんだ。駄目か?」

 俺の頬を美杉の頬に寄せ、耳元で囁く。

「夢じゃなくて悪夢? 何を言ってるのか良く解らないんだけど? 要は私と組んず解れつをしていたいってことね? 私はいつでもどうぞお召し上がり下さいって感じだよ、お兄ちゃん」

 美杉も頬を俺の頬に押し返し、華奢な両腕でしっかり抱き留めて、以前と変わらぬ可憐な声で答えてくれた。

「阿呆だろ?」「失敬ね!」

「いくら悪夢の中の美杉とは言え、大人の大変けしからんいけない行為を含み、何をしても良いってのは断じて違う! 俺はそこまで飢えてねぇし」

「さっきから何を言ってるのよ? 意味が解らない。それよりもさっきの喪服の女。あれは誰? 明らかに美人っぽい女だったよね!」


 まぁ、俺と美杉だからな?
 良い雰囲気も台なしになるのは止むなし。


「さぁな。――それよりもだ、美杉。久し振りにオムライス作ってくれん?」

 美杉がことある毎に作ってくれた、まじないつきのオムライスのことだ。

「美味しくなーれ、美味しくなーれ、萌え萌えキューン♪ ――ってヤツで頼む」


 これだな。これに尽きる。


「あ。今、しれっと話題を摺り替えて誤魔化した? 私と言う素敵で可憐な美少女を差し置いて、お兄ちゃんの彼女さんだったら――ううん、それだけは絶対にありえないね。生きた歳イコール彼女居ない歴かつDTなお兄ちゃんだもんね」

「えらい過酷な言われようだな、俺……って、うっせーわっ! 今はオムライスだっ! 早よ早よっ!」

「――はいはい、解ったわよっ! 材料あるのかな……ちょっと待っててね」

「美杉。先に言っとくが……裸エプロンだけはNGだかんな」

「――ちょっとっ⁉︎ なんで私の考えてることが尽く完璧に解るのっ⁉︎ 驚かそうと思ったのにっ!」

変態 痴女だからな」「えらい過酷な言われようね、私」

 アッカンベーとプリプリと怒りながらも、台所に向かう可愛らしい美杉。


 その後ろ姿から目を離せずに、俺はただずっと眺めていた――。


「こんな幸せな悪夢を体感させて貰えるとはな。夢でもし逢えたら素敵なことね……って言葉が心に染みるわ、全く。――が何者なのかってのは、追々、追求するとしてだ。今だけは……まぢで感謝しておいてやるわ」

 部屋の窓を開けて、静かにそう呟く。
 あんなに燦々と降り続いていた雨もあがり、遠くに大きくとても綺麗な虹が掛かっていた。

「どんなに居心地が良くとも……俺にとっちゃ、ただの悪夢のままだよ――」

 窓から風景を見渡すも、現実としか思えない。
 もしも二年前なら……疑うことなく、この居心地の良い悪夢に延々と囚われて、飄々と過ごしていたかも知れなかったな。

「さて。痛みを感じる悪夢か……今までになかったパターンだな。要は現実と非現実のになってきやがったってことだろうよ」

 大きな虹をぼんやりと眺め、さっきまでのことを検証するように思い浮かべる。

「だとすると……ちょいと厄介かも知れん」

 に、になる。それが如何に危険なことに繋がるか――。

「でーきーたー、よっとっ! えっへへ~っ♪ お~にぃ~、ちゃんっ!」

 窓から外の景色をぼんやり眺めて、物思いに耽ってる俺の背中から、容赦なく抱きついて、たわわな果実を押しつけてきた美杉。


 無邪気で屈託のない、本当に可愛い笑顔でだ――。


「良っしゃあっ! 二年振りに旨いオムライスを頂くとしますかっ!」

 抱きつく両手を掴んでくるりと回し、正面からしっかりと抱き込んでやった。

「わっぷ、お兄ちゃんっ⁉︎ ちょっと……スーハー、スーハー……ああ、癒される……」

 そのまま俺の胸に顔を埋めて、例の如く堪能し始める美杉。

「この変態 痴女め……」「否定はしない!」

 今まで通り。なんら変わることのない現実。五感に訴えかけそう誤認させる。


 だがしかし。これは儚い夢。
 それも悪夢の輪廻に囚われる――


「本当……有難うな、美杉……」

「お兄ちゃん? 大丈夫?」

 照れ臭そうに上目遣いではにかむ美杉を、絶対に離してやるもんかと言わんばかりに抱きしめた。

「さぁ、とっと飯だ」

「――わわわ、ちょっと、お兄ちゃんってばっ⁉︎ もうっ!」

 美杉を引き剥がし、食卓の方にくるりと回す。肩を掴んで食卓へと押し、急かすように追い立てる。



 俺が泣いている姿を、ただ見せたくはなかったから――。

 

 ――――――――――
 気になる続きはこの後、直ぐ!
 チャンネルは、そのまま!(笑)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪夢で視る人――それは俺だけが視ることのできる、酷く残酷で凄惨な個人的ホラー映画。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
 彼女居ない歴イコール、生きた歳の俺は二十歳。  仕事が休みになると、当然、することもないので、決まって部屋に引き篭もる悪い癖を持っている。  何をしているかって言うとナニではなく、ひたすらに大好物なホラー映画を鑑賞しているってわけ。  怪奇物にスプラッター、パンデミックに猟奇物まで、ホラーと名のつく物ならなんでもバッチ来いの大概な雑食である。  めっさリアルに臓物が飛び出す映画でも、観ながら平気で食事が喉を通るって言うんだから大概だろ?  変なヤツだと後ろ指を刺されるわ、あの人とはお話ししてはダメよと付き添いの親に陰口を叩かれるくらいのな?  そんな俺が例の如くホラー映画を鑑賞中、有り得ないことが俺の身に起きた。  そこを境に聴くも悍しい体験をしていくこととなる――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜

長月京子
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリー中です。楽しんでいただけたら投票で応援していただけると嬉しいです】 自分と目をあわせると、何か良くないことがおきる。 幼い頃からの不吉な体験で、葛葉はそんな不安を抱えていた。 時は明治。 異形が跋扈する帝都。 洋館では晴れやかな婚約披露が開かれていた。 侯爵令嬢と婚約するはずの可畏(かい)は、招待客である葛葉を見つけると、なぜかこう宣言する。 「私の花嫁は彼女だ」と。 幼い頃からの不吉な体験ともつながる、葛葉のもつ特別な異能。 その力を欲して、可畏(かい)は葛葉を仮初の花嫁として事件に同行させる。 文明開化により、華やかに変化した帝都。 頻出する異形がもたらす、怪事件のたどり着く先には? 人と妖、異能と異形、怪異と思惑が錯綜する和風ファンタジー。 (※絵を描くのも好きなので表紙も自作しております) 第7回ホラー・ミステリー小説大賞で奨励賞 第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。 ありがとうございました!

パラサイト/ブランク

羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。

何カガ、居ル――。

されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
 物書きの俺が執筆に集中できるよう、静かな環境に身を置きたくて引っ越した先は、眉唾な曰くつきのボロアパート――世間一般で言うところの『事故物件』ってやつだった。  元から居た住人らは立地条件が良いにも関わらず、気味悪がって全員引っ越してしまっていた。  そう言った経緯で今現在は、俺しか住んでいない――筈なんだが。  “ 何かが、居る―― ”  だがしかし、果たして――。“ 何か ”とは……。    

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...