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◇第二部◇

第三三話 さぁ、移住開始! その前に。報・連・相はとっても大事。

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 軍仕様の無線機に、少々、梃子摺てこずりはしたが、基本はラジオや一般無線機と大差はなく。
 なので数日も要することなく、僅か一日半で組み上げた。

 そして子機との接続テストを無事に経て、今は駐屯基地の中村さんに、こちらで決まったことの報告、了承を得ている真っ最中だった。

 移住の件は二つ返事のオールおっけ。
 寧ろ人格の残る愉快なゾンビらに興味津々のご様子だった。

 ついでに俺嫁の身体の変化について事細かく報告し、中村さんの見解を尋ねるのだった。


 ◇◇◇


『いや~、まさに愛の奇跡だね。話を聞いててさ、ボクもビックリだよ』

 なんとなく高揚気味に聞こえる口調でそう仰るときた。

「いや、俺の方がビックリだよ。あまりにもファンタジー過ぎる。冗談は腐るだけにしろし」

 通信機に向かってそう答えておく。
 ノイズもなく感度良好。流石、俺と内心で自画自賛。

『ははは、確かに。ボクの方でも前に搾取させてもらった山田さんの体液をさ、培養してたんだけども。そっか、そんな効果があるとはねぇ。ボクも飲んだりして試してはみようかな。――ただねぇ』

 言い方が相変わらずエロっぽいが、最後の最後で不満げになる。

「ん? どしたん? 何ぞ問題でも?」

 いきなりテンションがクールダウンした中村さんが気になって促してみれば。

『うん。実は体液に含まれている元気に泳ぐアレ。空気に触れちゃったのがいけなかったのか、もう殆ど死んじゃってて生臭いのよ。朝イチの特濃ヌキ立てピッチピチを注いでくれないとダメなのかもね』

 普通に言えば良いのに、誤解を招くように誘導するビッチ極まる物言い。

「またそうやってほざいて誘導するし。ホント、この似非幼女ビッチめ。普通に言え、普通に」

『良いじゃん、ほざくくらい大目に見てよね。ま、詳しく検査してみないと解んないけども、他に要因があるかもだし。なるべく早く奥さんと一緒にこっちにきて。三人でシヨ?』

「そこで頷いたら退っ引きならない大惨事になるのな。ホント、どこまでもビッチだな」

『ははは。こんな風に赤裸々な姿を見せるのは山田さんだけだよ』

 態と艶のある甘い声を出すときた。

「真面な異性が俺だけだからだろうが……まぁほざく分には付き合ってやるけどな?」

『やっぱり良い人だねぇ、山田さんは。大好き。早く会いにきてね』

「あいよ。皆んなの準備が整い次第、直ぐに向かうよ」

『んじゃ、山田さん、またね。チュッ』

「チュッはスルーしておくが、ありがとう」

 通信を終えて振り返ると静かに聞いていた俺嫁がですね、俺の知るところでは全くないのですが――。


 背中に般若が幻視できるほどの息苦しさを醸し出し、なんかヤバい雰囲気を纏って和やかに微笑んでいらっしゃるときた。
 生きている身でないだけに、文字通りので、な?


 ◇◇◇


「やぁ、山田さん――って、どしたん? その顔?」

 俺と出逢うなり目玉ドーン。
 もう目玉ぶらぶらには慣れたのか、目がぁ~! 目がぁ~! とかな大騒ぎもなく、リアクションも薄い。ちょいと寂しい。

「いや。豆腐の角に顔を打つけただけです。気にしないで下さい」

 正しくは俺嫁のビンタが飛んできて、手形に赤いだけです……痛てて。

「豆腐? 変わった形の豆腐だことで……まぁ良いですけど。僕たちの準備は済みましたよ。直ぐにでも出れます」

 目玉を戻しながらのイケメンスマイル。
 相変わらずシュールな光景。

「了解です。ただ今日はもう遅いし、明日の朝イチで向かうとしましょう」

 その頃には俺嫁の機嫌も治ってるでしょう、うん。

 そうやって鈴木さんと漫才をやっていると、田中さんが荷物を持って現れた。


 殆どが健康器具。意味ないのに。


「儂も巣立ちか……このアパートとも今日で最後となるのか……」

 巣立ちって……コメントし辛いわ。

「まぁ……私も思うことはありますけども、より良い道に進むだけですよ、田中さん。娘も友達が出来るって喜んでますから」

 娘さんと手を繋いで現れた人攫い――ゲフンゲフン。加藤さん。

「……♪」

 やたらソワソワしてる娘さんも、引っ越しを楽しみにしてる模様。
 どうやら犬畜生と聞いて大喜びだったところを察するに、ハスターがお目当てらしい。


 ただ……あのモンスター然とした異様な巨躯が、期待外れかつトラウマにならないと良いけど。


「あっちには三つ首とは言え、相当に頭の良い犬畜生が居ますし退屈はしないですよ。娘さんの遊び相手に護衛くらいは軽く熟しますよ、アイツなら」

 一応、さらっとフォローを入れておく。
 まぁ、ハスターなら言われずとも理解するだろう。

「私も楽しみ。山田さんの治療もしてくれたし……お礼言わないと。それ以上のことをしてないか吐かせ――コホン。問い質して、そっちのお礼もたっぷりしないと、ねぇ」

 まるで暗殺者のように一切の気配なく、俺の背後から音もなく静かに現れる。
 紫斑が少し出ている血色のない青白い顔は、えげつないほどの病んだ笑顔……怖っ⁉︎

「な、何にも……ないから」

 何もない。疾しいことは一切。胸を張って言える。
 だがしかし。疾しくない程度のことは、結構、いっぱいある……迂闊。

「言い淀んでからのその間。実に怪しい」

 俺の下から見上げるように覗き込んでのニヤリ。目が一切笑ってない……怖えっ⁉︎

「「「怖っ」」」「何よ?」

 愉快なゾンビら三人も俺に激しく同意らしい。
 娘さんに至っては加藤さんを盾にして、その背後に隠れてのチラ見。

 実際、中村さんは黙っていれば、それこそ人形のように可愛い。そこは認めてもやぶさかではない。


 黙っていれば、な?


 だがしかし、口を開けばエロに誘導。
 中身がいかんせん似非幼女のビッチ。残念系似非美幼女ビッチ。流石にノーサンキューだ。

 更に言うと俺に幼女万歳の趣味はない。
 ただあの容姿からの大人の姿で迫られていたら、俺もどうなっていたかは解らないけど。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 少し望みが出てきたか……。
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