上 下
8 / 10

第八話 天使と悪魔。

しおりを挟む
 空を華麗に飛んでいく悪魔さまが憑依した親密なお友達を、屋根伝いに跳び交って追いかけている魔法少女な着ぐるみの俺。

 凄いシュールな光景だよね。
 こんなアニメチックなシチュエーションだと――。


 魔法少女が華麗に空を飛び、
 親密なお友達が屋根伝いに跳び交う。


 ――ってのが普通じゃね?
 明らかに立ち位置が逆じゃんね?

「まぁ、良いや。えっと、悪魔さま。あの二人は?」

 釈然としないまま、気になった二人のことを呟いた。

 すると例の如く、視界の左下隅からポップアップされるガイダンス。


 ――――――
 Called Nano with Kana,but there is no signal.
 ――――――


 二人の識別信号らしきものは出ていないってさ。

「おいおい、天使からの襲撃だってのに⁉︎ 魔法少女なのに、迎撃に出てないだって⁉︎」

「貴様が気にしておる二人について、我は関与しておらぬ。我とはまた違う者に隷属しておるのでな? ――放っておけ」

 悪魔さまの言葉に質問を返そうとした時、投影されるマップに赤いマーカーが表示された。
 そしてその赤いマーカーから逃げるように散らばっては、次々に消えていく黄色いマーカー。

「この黄色いマーカーって人を指し示す表示だったよな? この状況はもしかして――」

「解りきったことを聴くな、下僕」

 解りきったこと。それはつまり、現在進行形で天使に追われていると人と言うこと。
 そして、それが次々に消えていく状況は――。


 それすなわち、殺されたと言うこと。


「この位置は……教会じゃね? あいつら、祈りを捧げる信徒までもを狩るのかよっ⁉︎」

「当然であろう? 人間全てを滅ぼすつもりなのだから。誰であろうと見境なくだ」

「正義の味方ではない俺でも、そいつは流石に納得できないし許せない。――悪魔さま、急ごう!」

「解っておる。だが急ぐのは貴様だ。――もの凄く遅い」

「――はい、すみません」


 ◇◇◇


 そんなこんなで辿り着いた現場は――仮にも天使の所業とは思えない、目を背けたくなるほどの惨状だった。
 俺が巻き込まれた電車事故、その比では断じてないほどに。
 適切な言葉も見つからず、俺は言葉を失った。
 心臓の鼓動が早鐘を打ち、呼吸が覚束なくなって息が詰まる。
 吐きそうになり、気を抜けば意識が飛ぶ。


 原型を留めない老若男女の食い散らかされた肉片と、無残な残骸だけが残されていたからだった――。


 コックピットを模した筐体に乗り込んで、相手と戦う対戦ゲーム感覚だった自分。

 スーツアクター気分で、変身ヒーロー感覚で気楽にやってた自分。


 そんな考えの甘さを本気で痛感し、そして後悔し――今、それを呪った。


 ◇◇◇


 定例の礼拝日たる今日。
 突如、現実とは思えない災いが、この教会へと降り掛かった――。

 御神体である神の像を粉々に破壊し、無作為に人を襲う――人為らざる異形の者ら。
 感情も何も示さない、彫刻のような無機質な表情のまま、ただ人を殺していく。

 不気味な表情が縦に割れると、頭全体が悍しい口となり、捕らえた人を鈍い咀嚼音をあげて貪る。

 礼拝堂に充満する、死の匂い。逃げ惑う人の絶叫――そして。


「早く! 皆んな、逃げて! 慌てずにそちらから、急いで!」

 そんなこの世の地獄と化した教会で、勇敢にも自身は逃げることもせず、たった一人で礼拝に訪れていた信者らを懸命に誘導し、必死に逃していた者が居た。


 この教会で神に仕える、修道女だった。


 だがしかし。悪意はその修道女へと矛先を変える。
 教会の中に入り込んだ複数体の人為らざる異形の者ら。
 逃げ惑う人々には目もくれず、修道女を取り囲むように、突如、動き出した。

 修道女が周囲を見ると、信者らは礼拝堂から逃げ遂せたようだった。
 自分の役目をなんとか成し遂げ、いざ自身も逃げようとするも、それは許されなかった――。

「か、神よ! 救いの手を! どうか、どうか!」

 人為らざる異形の者らに囲まれる中、胸から提げる銀の十字架を握りしめ、天に向かって必死に祈りを捧げ続ける修道女。


 だがしかし。無情にもその願いは聴き届けられなかった――。
 

 世界を呪うが如く、絶望に染まってこと切れた修道女に、容赦なく群がる人為らざる異形の者ら。
 魔物に等しい醜悪な姿を曝し、我先にと修道女の手脚を捥ぎ取り、臓物を引き摺り出し、咀嚼していく――その時だった。


 礼拝堂のステンドグラスが粉々に吹き飛び、そこから舞い込んだ一つの影。


 禍々しい妖気に似た威圧を纏い、ゆっくりとその場に立ち上がると、ただの餌と成り果てた修道女を、嬉々として咀嚼していた人為らざる異形の者らは――。


 その全てが動きを止め、その影に怯えた。


 ゆっくりと立つ影の獰猛な獣のように怒りを帯びた目が、血に飢えた野獣の如き真紅に染まり、人為らざる異形の者らに突き刺さる。


 次の瞬間――紅い目が揺らぐ。


 対峙する一体の異形の者の脳天目掛け、渾身の力で手にした武器を打ち込まれた。
 陥没した頭部から押し込み、そのまま斬り崩す。

 真っ二つになって肉片を撒き散らす異形の者を蹴飛ばし、別の異形の者の懐へと潜り込む。
 到達した刹那、手にした武器を下段より突き出し、天井へと撃ち出した。
 腹部を難なく貫通。背中から肉片とドス黒い体液を撒き散らしながら、天井に突き刺さる。

 そのまま床で半回転し、舞い踊るように手にした武器を渾身の力で穿つ影。
 なんの感情も示さない、彫像や能面のような無表情の顔面を貫いた。
 あまりの威力に耐えきれず、眼球や脳髄らしき体組織を撒き散らし木っ端微塵に爆散。
 長椅子などを巻き上げながら吹っ飛んで、壁に叩きつけられた。

 全身から禍々しいまでの強大な威圧を放つ、凄惨な現場に立つ影の正体は、ただ一人の魔法少女。


 正しくは――その着ぐるみ。


 悪鬼羅刹に等しい物言わぬ修羅と化し、人為らざる異形の者ら――天使を次々と殲滅していくのだった。



 ――――――――――
 世界の行く末は、俺の頑張り次第?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

怪異・おもらししないと出られない部屋

紫藤百零
大衆娯楽
「怪異・おもらししないと出られない部屋」に閉じ込められた3人の少女。 ギャルのマリン、部活少女湊、知的眼鏡の凪沙。 こんな条件飲めるわけがない! だけど、これ以外に脱出方法は見つからなくて……。 強固なルールに支配された領域で、我慢比べが始まる。

徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……

紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz 徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ! 望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。 刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...