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第八話 天使と悪魔。
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空を華麗に飛んでいく悪魔さまが憑依した親密なお友達を、屋根伝いに跳び交って追いかけている魔法少女な着ぐるみの俺。
凄いシュールな光景だよね。
こんなアニメチックなシチュエーションだと――。
魔法少女が華麗に空を飛び、
親密なお友達が屋根伝いに跳び交う。
――ってのが普通じゃね?
明らかに立ち位置が逆じゃんね?
「まぁ、良いや。えっと、悪魔さま。あの二人は?」
釈然としないまま、気になった二人のことを呟いた。
すると例の如く、視界の左下隅からポップアップされるガイダンス。
――――――
Called Nano with Kana,but there is no signal.
――――――
二人の識別信号らしきものは出ていないってさ。
「おいおい、天使からの襲撃だってのに⁉︎ 魔法少女なのに、迎撃に出てないだって⁉︎」
「貴様が気にしておる二人について、我は関与しておらぬ。我とはまた違う者に隷属しておるのでな? ――放っておけ」
悪魔さまの言葉に質問を返そうとした時、投影されるマップに赤いマーカーが表示された。
そしてその赤いマーカーから逃げるように散らばっては、次々に消えていく黄色いマーカー。
「この黄色いマーカーって人を指し示す表示だったよな? この状況はもしかして――」
「解りきったことを聴くな、下僕」
解りきったこと。それはつまり、現在進行形で天使に追われていると人と言うこと。
そして、それが次々に消えていく状況は――。
それすなわち、殺されたと言うこと。
「この位置は……教会じゃね? あいつら、祈りを捧げる信徒までもを狩るのかよっ⁉︎」
「当然であろう? 人間全てを滅ぼすつもりなのだから。誰であろうと見境なくだ」
「正義の味方ではない俺でも、そいつは流石に納得できないし許せない。――悪魔さま、急ごう!」
「解っておる。だが急ぐのは貴様だ。――もの凄く遅い」
「――はい、すみません」
◇◇◇
そんなこんなで辿り着いた現場は――仮にも天使の所業とは思えない、目を背けたくなるほどの惨状だった。
俺が巻き込まれた電車事故、その比では断じてないほどに。
適切な言葉も見つからず、俺は言葉を失った。
心臓の鼓動が早鐘を打ち、呼吸が覚束なくなって息が詰まる。
吐きそうになり、気を抜けば意識が飛ぶ。
原型を留めない老若男女の食い散らかされた肉片と、無残な残骸だけが残されていたからだった――。
コックピットを模した筐体に乗り込んで、相手と戦う対戦ゲーム感覚だった自分。
スーツアクター気分で、変身ヒーロー感覚で気楽にやってた自分。
そんな考えの甘さを本気で痛感し、そして後悔し――今、それを呪った。
◇◇◇
定例の礼拝日たる今日。
突如、現実とは思えない災いが、この教会へと降り掛かった――。
御神体である神の像を粉々に破壊し、無作為に人を襲う――人為らざる異形の者ら。
感情も何も示さない、彫刻のような無機質な表情のまま、ただ人を殺していく。
不気味な表情が縦に割れると、頭全体が悍しい口となり、捕らえた人を鈍い咀嚼音をあげて貪る。
礼拝堂に充満する、死の匂い。逃げ惑う人の絶叫――そして。
「早く! 皆んな、逃げて! 慌てずにそちらから、急いで!」
そんなこの世の地獄と化した教会で、勇敢にも自身は逃げることもせず、たった一人で礼拝に訪れていた信者らを懸命に誘導し、必死に逃していた者が居た。
この教会で神に仕える、修道女だった。
だがしかし。悪意はその修道女へと矛先を変える。
教会の中に入り込んだ複数体の人為らざる異形の者ら。
逃げ惑う人々には目もくれず、修道女を取り囲むように、突如、動き出した。
修道女が周囲を見ると、信者らは礼拝堂から逃げ遂せたようだった。
自分の役目をなんとか成し遂げ、いざ自身も逃げようとするも、それは許されなかった――。
「か、神よ! 救いの手を! どうか、どうか!」
人為らざる異形の者らに囲まれる中、胸から提げる銀の十字架を握りしめ、天に向かって必死に祈りを捧げ続ける修道女。
だがしかし。無情にもその願いは聴き届けられなかった――。
世界を呪うが如く、絶望に染まってこと切れた修道女に、容赦なく群がる人為らざる異形の者ら。
魔物に等しい醜悪な姿を曝し、我先にと修道女の手脚を捥ぎ取り、臓物を引き摺り出し、咀嚼していく――その時だった。
礼拝堂のステンドグラスが粉々に吹き飛び、そこから舞い込んだ一つの影。
禍々しい妖気に似た威圧を纏い、ゆっくりとその場に立ち上がると、ただの餌と成り果てた修道女を、嬉々として咀嚼していた人為らざる異形の者らは――。
その全てが動きを止め、その影に怯えた。
ゆっくりと立つ影の獰猛な獣のように怒りを帯びた目が、血に飢えた野獣の如き真紅に染まり、人為らざる異形の者らに突き刺さる。
次の瞬間――紅い目が揺らぐ。
対峙する一体の異形の者の脳天目掛け、渾身の力で手にした武器を打ち込まれた。
陥没した頭部から押し込み、そのまま斬り崩す。
真っ二つになって肉片を撒き散らす異形の者を蹴飛ばし、別の異形の者の懐へと潜り込む。
到達した刹那、手にした武器を下段より突き出し、天井へと撃ち出した。
腹部を難なく貫通。背中から肉片とドス黒い体液を撒き散らしながら、天井に突き刺さる。
そのまま床で半回転し、舞い踊るように手にした武器を渾身の力で穿つ影。
なんの感情も示さない、彫像や能面のような無表情の顔面を貫いた。
あまりの威力に耐えきれず、眼球や脳髄らしき体組織を撒き散らし木っ端微塵に爆散。
長椅子などを巻き上げながら吹っ飛んで、壁に叩きつけられた。
全身から禍々しいまでの強大な威圧を放つ、凄惨な現場に立つ影の正体は、ただ一人の魔法少女。
正しくは――その着ぐるみ。
悪鬼羅刹に等しい物言わぬ修羅と化し、人為らざる異形の者ら――天使を次々と殲滅していくのだった。
――――――――――
世界の行く末は、俺の頑張り次第?
凄いシュールな光景だよね。
こんなアニメチックなシチュエーションだと――。
魔法少女が華麗に空を飛び、
親密なお友達が屋根伝いに跳び交う。
――ってのが普通じゃね?
明らかに立ち位置が逆じゃんね?
「まぁ、良いや。えっと、悪魔さま。あの二人は?」
釈然としないまま、気になった二人のことを呟いた。
すると例の如く、視界の左下隅からポップアップされるガイダンス。
――――――
Called Nano with Kana,but there is no signal.
――――――
二人の識別信号らしきものは出ていないってさ。
「おいおい、天使からの襲撃だってのに⁉︎ 魔法少女なのに、迎撃に出てないだって⁉︎」
「貴様が気にしておる二人について、我は関与しておらぬ。我とはまた違う者に隷属しておるのでな? ――放っておけ」
悪魔さまの言葉に質問を返そうとした時、投影されるマップに赤いマーカーが表示された。
そしてその赤いマーカーから逃げるように散らばっては、次々に消えていく黄色いマーカー。
「この黄色いマーカーって人を指し示す表示だったよな? この状況はもしかして――」
「解りきったことを聴くな、下僕」
解りきったこと。それはつまり、現在進行形で天使に追われていると人と言うこと。
そして、それが次々に消えていく状況は――。
それすなわち、殺されたと言うこと。
「この位置は……教会じゃね? あいつら、祈りを捧げる信徒までもを狩るのかよっ⁉︎」
「当然であろう? 人間全てを滅ぼすつもりなのだから。誰であろうと見境なくだ」
「正義の味方ではない俺でも、そいつは流石に納得できないし許せない。――悪魔さま、急ごう!」
「解っておる。だが急ぐのは貴様だ。――もの凄く遅い」
「――はい、すみません」
◇◇◇
そんなこんなで辿り着いた現場は――仮にも天使の所業とは思えない、目を背けたくなるほどの惨状だった。
俺が巻き込まれた電車事故、その比では断じてないほどに。
適切な言葉も見つからず、俺は言葉を失った。
心臓の鼓動が早鐘を打ち、呼吸が覚束なくなって息が詰まる。
吐きそうになり、気を抜けば意識が飛ぶ。
原型を留めない老若男女の食い散らかされた肉片と、無残な残骸だけが残されていたからだった――。
コックピットを模した筐体に乗り込んで、相手と戦う対戦ゲーム感覚だった自分。
スーツアクター気分で、変身ヒーロー感覚で気楽にやってた自分。
そんな考えの甘さを本気で痛感し、そして後悔し――今、それを呪った。
◇◇◇
定例の礼拝日たる今日。
突如、現実とは思えない災いが、この教会へと降り掛かった――。
御神体である神の像を粉々に破壊し、無作為に人を襲う――人為らざる異形の者ら。
感情も何も示さない、彫刻のような無機質な表情のまま、ただ人を殺していく。
不気味な表情が縦に割れると、頭全体が悍しい口となり、捕らえた人を鈍い咀嚼音をあげて貪る。
礼拝堂に充満する、死の匂い。逃げ惑う人の絶叫――そして。
「早く! 皆んな、逃げて! 慌てずにそちらから、急いで!」
そんなこの世の地獄と化した教会で、勇敢にも自身は逃げることもせず、たった一人で礼拝に訪れていた信者らを懸命に誘導し、必死に逃していた者が居た。
この教会で神に仕える、修道女だった。
だがしかし。悪意はその修道女へと矛先を変える。
教会の中に入り込んだ複数体の人為らざる異形の者ら。
逃げ惑う人々には目もくれず、修道女を取り囲むように、突如、動き出した。
修道女が周囲を見ると、信者らは礼拝堂から逃げ遂せたようだった。
自分の役目をなんとか成し遂げ、いざ自身も逃げようとするも、それは許されなかった――。
「か、神よ! 救いの手を! どうか、どうか!」
人為らざる異形の者らに囲まれる中、胸から提げる銀の十字架を握りしめ、天に向かって必死に祈りを捧げ続ける修道女。
だがしかし。無情にもその願いは聴き届けられなかった――。
世界を呪うが如く、絶望に染まってこと切れた修道女に、容赦なく群がる人為らざる異形の者ら。
魔物に等しい醜悪な姿を曝し、我先にと修道女の手脚を捥ぎ取り、臓物を引き摺り出し、咀嚼していく――その時だった。
礼拝堂のステンドグラスが粉々に吹き飛び、そこから舞い込んだ一つの影。
禍々しい妖気に似た威圧を纏い、ゆっくりとその場に立ち上がると、ただの餌と成り果てた修道女を、嬉々として咀嚼していた人為らざる異形の者らは――。
その全てが動きを止め、その影に怯えた。
ゆっくりと立つ影の獰猛な獣のように怒りを帯びた目が、血に飢えた野獣の如き真紅に染まり、人為らざる異形の者らに突き刺さる。
次の瞬間――紅い目が揺らぐ。
対峙する一体の異形の者の脳天目掛け、渾身の力で手にした武器を打ち込まれた。
陥没した頭部から押し込み、そのまま斬り崩す。
真っ二つになって肉片を撒き散らす異形の者を蹴飛ばし、別の異形の者の懐へと潜り込む。
到達した刹那、手にした武器を下段より突き出し、天井へと撃ち出した。
腹部を難なく貫通。背中から肉片とドス黒い体液を撒き散らしながら、天井に突き刺さる。
そのまま床で半回転し、舞い踊るように手にした武器を渾身の力で穿つ影。
なんの感情も示さない、彫像や能面のような無表情の顔面を貫いた。
あまりの威力に耐えきれず、眼球や脳髄らしき体組織を撒き散らし木っ端微塵に爆散。
長椅子などを巻き上げながら吹っ飛んで、壁に叩きつけられた。
全身から禍々しいまでの強大な威圧を放つ、凄惨な現場に立つ影の正体は、ただ一人の魔法少女。
正しくは――その着ぐるみ。
悪鬼羅刹に等しい物言わぬ修羅と化し、人為らざる異形の者ら――天使を次々と殲滅していくのだった。
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世界の行く末は、俺の頑張り次第?
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