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第六話 俺の雇主は優しい悪魔?

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 天使共を無事に殲滅し、直ぐに消え去ってしまったナノとカナ。
 俺にしても二人に続き離脱すべきか、実は迷っていた。

「お子様向けの少女漫画やアニメなら、ここで場面転換、そしてエンドロール。次話で俺の変身解除後の話へとすっ飛ぶのが、鉄板定番で定石だとは思うんだけど……」

 俺が見てきた魔法少女関連の知識から、そんな風に考える。

 だがしかし。これは創作の話ではなく、現実世界の現代社会で起きている事実。
 不意に周りを見渡せば、爆撃空襲さながらの戦場跡――凄惨な現場と化している現状を放っておいて良いものか。

「否。アニメのようにサクッとは終われないし、終っちゃいけないよな……。できそうなことくらい手伝ってから、去った方が絶対に良いよな、これは」

 この凄惨な現場に、魔法少女の着ぐるみと言った場違い過ぎる姿の俺だが、人智を超えた凄まじい力を発揮できるのだから。

「どのくらい人が残っている? 要救助者を優先で」

 敵軍や友軍が探知できるのなら、被害に遭った民間人も探知できるだろうと考え、試しにそう呟く。

 直後、視界の右上隅に投影されるマップに、橙色と黄色のマーカーがいくつか表示された。

「この色の違いは何?」

 続けて質問するかのように呟くと――。


 ――――――
 Person who needs Tobe rescued by 
 being under the rubble.
 ――――――

 “ 橙色――瓦礫の下敷きになり救助が必要な人。”

 ――――――
 Pattern yellow.
 People who are not. 
 ――――――

 “ 黄色――そうでない人。”

 
 ――と、更に左下隅からポップアップで知らされた。

「結構、埋まってるな……急がないと」

 生き埋めとなっている要救助者の元へと急ぎ駆けつける。
 巨大な瓦礫を鷲掴みにしては、ポイポイと除去していった。

「遺体は数に入らないのな。人であった物だけに」

 途中、無残なご遺体に出会すも、視界のマップ上にマーカー表示はされなかった。

 次々と助け出している間に、俺の側に駆けつけたレスキュー隊員、警官、軍人の皆さんが、誰何などやんややんやと喧しく詰問してくるのだけれども。

「その人達を早く運んで! アンタらの仕事だろうが!」

 人命最優先だと恫喝、有無を言わさず安全な場所へと送り届けてもらう。

 投影されているマップ上から、要救助者のマーカーが全て消えるまで、俺はそれをひたすら繰り返すのだった。

「最後に邪魔な瓦礫を退けてっと。誰何は面倒だから逃げ一択だな」

 撤去に時間の掛かりそうな線路を塞ぐ大きな瓦礫やその他の瓦礫を、マジカルトンファーで粉々に砕いたあと、何も語らずにその場から緊急離脱した――。


 ◇◇◇


 ナノやカナの言っていた通り、意識するだけで元の姿にすんなり戻れた俺は、住み慣れたボロアパートの自分の部屋に帰ってきた――のだが。

「さて。俺んに帰ってはきたが……これは一体どう言う状況か、ちゃんと説明してくんね?」

 玄関のドアを開けた直後、瓶底メガネ、クイッ! で開口一発、そんな風に息を飲んだ。

「――大儀であった。ご苦労」

 ――と、言った、高圧的かつ威圧的な妙齢の女性の声で、俺の帰りをしれっと出迎えてくれた者がそこに居たからだ。


 だがしかし。それは人ではなく――。


 彼女居ない歴イコール生きた歳な俺が、就寝時における親密なお付き合いが主たる目的で大枚叩いてオーダーした逸品。
 等身大の良い歳したお子様向けな、いけないお友達であるその子が、あろうことか椅子にドカッと偉そうに脚を組んで座り、踏ん反り返っていたのだった。

 当然、人に言えない大事な部分までもが、匠職人の手できっちりと作り込まれた最高の逸品。俺の大切な魔法少女コレクションの中でも、最も大切な人……違う、人形が――。


 動くなんて、最高かよっ!


「高位の悪魔である我は、この現世においては精神体アストラル体に等しく、今はこれに憑依している。――悦れ、下僕」

 何処で覚えたのか踏ん反り返ったまま、前で組んだ腕の上に俺の欲望を忠実に再現した二つの果実を載っけて、激烈アピールときた。


 ただ、態度と物言いが、外見と仕草に似合っていない。
 高位の悪魔と仰ってますけど、小悪魔ギャルっぽいんだけどね。


「話はナノとカナからチラッと聴いた。要は中の悪魔さまが、俺の雇い主ってわけ?」

「まぁ、そうなるな。――貴様、あまり驚かずに自然体だな?」

「いや、自分の部屋に誰かが居るってことが、驚くよりも凄い嬉しくてさ……」

「――凄まじいまでの欲望……負のエネルギーが満ちていたのは……そう言うことか」

「俺の人生にリアルな友達や彼女なんて存在しない。それ以上にだな――」

 今までの酷い人生をデイジェスト形式で語る。
 身の上話を聴いてくれる人も機会も無かった俺は、目の前の悪魔さまに、長々と愚痴を吐き出した――。


 嫌がらず、ずっと聴いてくれていた。
 それが何よりも……凄く嬉しかった。


「貴様、見た目通りの気色悪さが悪目立ちしよったんだな? 潜った修羅場の内容……下等種共の下衆さ……人たる貴様にはさぞ辛かったことだろう。負の感情が力となる高位の悪魔たる我ゆえに、その下衆さは有難いが……些か可哀想に思えてきおったわ」

「悪魔なのに……話解るって……」

「貴様は我の下僕。我は下衆共と違い、大事に扱ってやろう」

 身体を操られたのか、ふらふらと膝の上に頭を持っていかれた。
 更に赤ん坊や幼児をあやすかの如く、優しくそっと抱き込んでくる。

「もう大丈夫だ。貴様は力を手に入れた。嘆き悲しむことは最早ない。それどころか、下衆共に感謝されることになっていくぞ?」

「――魔法少女だから?」

「そうだ。我の力の一端を受け継いでおる。特に貴様には色濃く引き継がれておるんでな? 活かすも殺すも貴様次第だがな?」

「そうか……で、なんで着ぐるみに変身? しかも俺は男だ。意味が解らん」

「難しい話は端折るが、単に我の趣味と言うことにしておけ。あとは資質を有しておれば性別など些細なことよ。ほれ、貴様らの社会でも仕事ができるできないに、性別が関係ないのと同じであろう? 単にそう思うておれ」

「納得いかんけど……まぁ、良いや。少し疲れたよ。続きは起きてからで」

「そうだな。良く休んでおけ――」

 俺の頭を膝に載せたまま、緩やかに髪を撫でてくれた。

 そして俺は、久しく感じることのなかった安心感に包まれて、予想外の優しい悪魔に抱かれて――。


 そのまま静かに、眠ってしまうのだった――。



 ――――――――――
 世界の行く末は、俺の頑張り次第?
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