上 下
2 / 10

第二話 魔法少女なのか? 爆誕?

しおりを挟む
『契約は交わされました――認識改変及び原子分解再構成を実施――Standing by――Complete.』

 俺の意識を呼び戻すように、抑揚のない機械じみた合成音声が響いたと思ったら、身体が輝きだし力が漲る。

「――ななな、なんだってんだよっ⁉︎ 意味が解らん、意味がっ⁉︎」

 お陰で意識を持ち直せた俺が、スマホに向かって怒鳴りつけ、身動きしようと試みた瞬間――。


 折り重なって伸し掛かっていたであろう人の山が、一瞬で吹き飛んだ。


「――は? な、なんだよ?」

 痛みも何もない状態で、気付けば車内に直立不動の仁王立ちとなっていた。
 そして車窓に映る俺の姿を不意に見た瞬間、顎が外れんばかりに驚愕してしまう――。



「なんで――になってんの⁉︎」



 窓に映り込む姿は、女子中学生から女子高生の間くらいの年齢を、幼さが残る顔立ちのアニメ真っ青なだった。

 をツインテールにした、美麗なコスプレイヤーさんもが舌を巻く、フリフリの痛い魔法少女然とした素敵衣装に身を包んだ状態で、だ。

 だがしかし。何よりも各部位のバランスがだ、あり得ないほどにおかしい。
 ディフォルメされた、やたらと大きなフェイスなどなど。



「――って、これじゃねーかよ!」



 そう。コミケ会場などで良く見かけるアレだった。
 ただ良くあるコミカルなブチャむくれの姿ではなく、全身タイツ然としたスレンダーなタイプ。
 単に着ぐるみと表現するよりも、ドールやマネキン、或いはお面を被った人と言った方がより近いスタイルだった。

 その姿に驚愕している間もなく、間髪入れずに窓の外の景色が目に飛び込んでくる――。


 それは、この世の者とは思えない、醜悪な姿をした……何か。


 身体つきから察するに、化け物然とした女性らだった。
 そんな何かが逃げ惑う人々を惨殺し、蹂躙し、貪り喰っていやがる光景だった。
 そんな何かの足元に広がるのは、大量の遺体。無造作に投げ捨てられ、積み上げられ、喰い散らかされていた。
 まるで特撮やアニメの凄惨なワンシーン。
 理解の範疇を超える阿鼻叫喚の地獄絵図が、車窓の外で現実に展開されていた。

「アレらは一体……今、何が起きて……」

 何がなんだかさっぱり理解できない俺は、茫然自失に陥った。
 窓の外の光景をただ漠然と眺めていた……否、そうせざるを得なかった。


 そんな中、突然、手にしていたスマホが輝き出し、俺の両手に別れて何かを形取り始めていく。


「いかん……まずは冷静になって状況を整理しようか、俺。――着ぐるみってのを除き、良くあるネタだ。あの妙なメッセージ? それが契約となって、瀕死の俺を死の淵から呼び戻し、五体満足に生き返らせた。そう仮定してみよう」


 ――その理由は何だ?


「外の女性然とした意味不明な姿の何かを、俺が排除する為だろうな。アニメではお約束な鉄板定番展開だし。神や悪魔な高次存在、或いは地球外知的生命体だとして――基本敵にステゴロ素手の殴り合いで戦うってのは流石にないだろう」


 ――ならば、戦いに用いる武器は?


「で。コレですか……」

 どうやらその武器となる物が、香ばしいコスチュームで包まれた着ぐるみ然とした両手に収まっていた。
 恐らくこれを用いて、アレらと戦えと仰るんだろうな。

 実は魔法少女の着ぐるみ姿となっている俺の現在の視界には、何故かロボットのコクピット宜しくな見え方をして、ステータス画面も投影されている。

 そんな視界の右下隅に使用可能な武器として、手にしている武器を形取ったマークが、そうだと肯定するかの如く点灯しているってんだから。
 ただ……そこに記述されている内容に、流石に目を疑ったけども。
 摩訶不可思議なことに英語表記で――。


 ――――――
 Close  Quarters Combat.
 Equipment Weapon. “ Magical Tonfa ”
 ――――――


 ――と、記述されているってんだから。

「言うに事欠いてトンファー旋棍だと? ――おいおい、お巫山戯けが過ぎやしませんか? 魔法少女の着ぐるみ姿で、あの何かとC.Q.C.近接格闘をやれってか? 魔法少女と言えば、普通、可愛らしい杖とか神々しい剣とか素敵な弓とかと相場は違ったか?」

 外装と言うか見た目が些か乙女チックで可愛くディフォルメ&デコレートはされてっけども。
 誰がどう見ても近接格闘戦に用いる打突武器兼防具な、いかついトンファーと呼ぶに等しいそれだったことに悪態を吐いた。


 トンファーとは、60センチ程度の棒状の本体にグリップが付いた、左右の手に其々に持って扱う武器。
 手首から肘に沿わせて持ち、敵の攻撃を受け流し、手首の返しのみで攻めに転じる攻撃スタイルが基本。
 また端を持って警棒のようにも扱ったり、グリップ部で敵の武器を引っ掛けてのパリー弾くと、状況に応じて自在に戦闘スタイルを変えられる、万能かつ素敵な武器には違いない。違いないんだが――。


「これはあれか? 魔法[物理]とかほざく系の所謂アレか? マジカルって言葉が付けば、何でも魔法っぽいって解釈は安直過ぎんだろうが?」

 実際に香ばしいポーズで構えてみると、妙にしっくりとくる。
 しかも更に神々しく輝き出して力が漲りやがるときた。


 そんな風に首を傾げていると――。


 神々しく輝く光の所為かは知らんが、窓の外で蹂躙していた醜悪な奴らの内一体が、こっちに気付いたのか向かってきやがった。


 最早、悩んで躊躇している暇はなくなった。
 答えはハイかイエス、やるしかない。


「しゃーない……。今までの俺は死んだことにして、今日からマのつく自由業、魔法少女のスーツアクターとして生きていく。そしてデビュー戦はアレだな。魔法[物理]系を駆使して、やっつければ良いんだな?」

 脳内にある魔法少女関連のオタク知識をフル導入して、今やるべきことに見当をつけ、実際の行動に移す。

「おりゃあっ!」

 マジカルトンファーで窓を勢い良く殴りつけると、飴細工でも壊したかの如く簡単に破壊できた。そしてそこから外に飛び出した。

「ま、取り敢えずは……倒そう。そのあとの痛い決め台詞を考えるところから始めるかな。その次は締めの痛ポーズ……やること一杯だよ」

 突拍子もないことを考えつつ、目の前の女性然とした何かに向かっていき、魔法少女の着ぐるみには実に似つかわしくない、香ばしくも滑稽な格ゲーっぽいファイティングポーズで相対するのだった――。


「えっと……。魔法少女なのかナノカ? ――で、俺、惨状参上?」

 香ばしいポーズで疑問符付きの名乗りを高らかにあげるのだった――。



 ――――――――――
 世界の行く末は、俺の頑張り次第?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

Dance in the Darkness. ―― Silence is mine.

されど電波おやぢは妄想を騙る
SF
 人の悪意に蔓延り、現代社会の罪なき人々を悪夢に染める、様々な事件の裏で人知れず暗躍し続けきた存在が居る――。  その常軌を逸した存在とは――『梦』  そして、得体の知れない『梦』に、日夜、抗い続けている国家機関があった――。  警視庁公安部梦特別対策室。  通称、T.I.M.E.  ある日、上から回ってきた奇怪な事件。  とある少女が謎の失踪と言った、ありふれた事件内容に違いはなかった。  だがしかし、少女の行方を追っている内に行き着いた先――そこで出会す凄惨な現場。  いつ終わるとも知れない悪夢の輪廻が、再び廻り始める――。  ◇◇◇  ※既存の登場人物及び設定を一部引き継ぎ、新たな物語として展開していく形になります。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

悪夢で視る人――それは俺だけが視ることのできる、酷く残酷で凄惨な個人的ホラー映画。【第二部・リテイク版】

されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
 遡ること二年前。突如として隣の夢野家が業火に包まれる瞬間を目撃した。  取るものも取らず俺が駆けつけた時には――既に鎮火していた。この僅か一瞬の間に。  そんな普通ではあり得ない状況下で、俺は大切な美杉(みすぎ)を失った。  全てを奪いさったあの日――夢野家を襲った怪奇現象の真相を暴くべく、旧友でもある友人のコネで、国家権力に身をおく現在の俺――夢野有人(ありひと)  美杉は未だ生きていると頑なに信じ、あの日に体感したあり得ない不可思議な現象の謎を解く為にも、現在も必死で行方を追っていた。  焼け跡からは美杉の遺体は発見されていない。死んだと言われても納得も理解もできる筈もない。  気乗りはしないが日本のしきたりである命日の墓参り――中身のない墓標へと渋々足を運ぶ。  そうして思い出が詰まった公園からバスを乗り継ぎ、墓標がある霊園へと訪れていた。  だがしかし。この一帯を包む空気、雰囲気が余りにもおかしい。  言い知れぬ不安と疑問が募っていくのだった――。 【ご注意】過去に晒していた怪文書を作り直した魔改造版です。諸々の事情で蓋をしてたんですけども、腐る前に日干しの恥晒し敢行です(笑)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...