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第一部 運命の出逢い。それは――。

十五発目 強敵、現る――色々と間違っちゃいませんか?【中編】

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 扉の隙間から覗いた中の様子。
 薄暗い一室は、岩肌が剥き出しの壁に、妙に怪しげな柄の壁掛けが一枚だけ飾られた広い空間。

 そんな不可解な場所に、一人の見覚えのある人物が拘束され、玉座を模して人骨で組み上げた禍々しい椅子に腰掛けている体表面が緑一色の者と相対していた――。

 それは人の頭蓋骨で作られたと思しき禍々しい王冠を被り、一見すると単に緑に塗られた禿げた中太りのおっさん。
 小汚い腰布を纏ったダルダルのお肉がボンレスハムにも関わらず、何かの骨を繋ぎ合わせて作ったと思しき首飾り、腕輪、指輪などの装飾品で下品に着飾っているときた。


 あれは……魔に連なる者。


 黄ばんだ汚らしい牙をチラ見させるエグい薄ら笑いで、投げ出された女性を値踏みするかのようにじっとりと見ていた――。


 ◇◇◇


「――余はハメハメハ大好王でゴブ。開脚して平伏するが良いでゴブ」

 太った身体からは想像もできない鋭い動きで、汚らしい緑の短い御御足おみあしをサっと勢い良く組み替えつつ告げた。


 薄汚い腰布からチラ見える何かを見せつけるかのようなサービスつきで。


 は? ハメハメ大好王だと?
 人でない魔に連なる者ってのは肌の色からして直ぐ解ったけども。
 緑の人型で魔に連なる者って言えば……確か……小鬼ゴブリンとか言うんだったけ?
 王冠付きは小鬼の王様ゴブリンキングだったっけ? ……初めて見た。


「巫山戯るな……後ろ手に縛られたうえ、そんな姿勢でひれ伏せば股が裂けるだろうが!」

 亀の甲羅を模した怪しい複雑な縛り方で捕縛され、無造作に床に投げ出されている、栗色の髪を後ろで括った見覚えのある女性――。


 それは至高のマイクロビキ二アーマーに身を包んだ痴女。
 つまり、アの女王の部下さんだった。


 顔を覆うマスカレイドなマスクも奪われ、隠された素顔を晒している。
 幼さの残る目鼻立ちがくっきりとした気品のある顔を歪めてはいるが、それでも十代のデラべっぴんさんだった。

 実はつい最近、見たことのある人。
 冒険者組合でアー姉が呼びつけ、強制的に交代させられてた女性職員だったり。


 憎まれ口を吐く余裕あるんだ。
 でも……外で待機を命じられてた筈なのに、何故に捕らえられて最奥に居るの?


 それ以前に受付業務はどーしたん?


「――くっ……殺せ」

 何かをチラ見せられ、捕らえられた女騎士が挙って言うと噂の台詞を何故か吐き捨てた。


 こう言うと鬼畜かもだけど、その覚悟があるのなら、酷い目に遭う前にとっと自害すれば良いじゃん。

 聖騎士パラディンだったなら教義とかで自害は禁止されてるかもだけど、暗殺者アサシンな貴女にはまずないじゃん。
 寧ろ、ドジ踏めば自害か消されるのが定石じゃね?


「伊達に露出狂ではないゴブ? ……気の強い女ゴブ。ならば――シール団・ともの皆さ~んでゴブ!」

 部下でも呼んだのか、チーン、チーンとこれは良い物だと言った香ばしい仕草で、高級そうなガラスの小瓶が二回ほど鳴らされる――。


 シール団? 友の皆さん?
 なんだそれ?


 ハメハメハ大好王と名乗った者が合図した直後、真っ白な煙スモークが焚かれて床に拡散していった。
 そして、何処からともなく大勢の声が近付いてくる――。


「「「「「王!」」」」」


 ――と言う、掛け声に合わせ、チーン、チーンと良い物はやはり響きが違うと、再度、確かめる香ばしい仕草で、更に高級そうなガラスの小瓶が二回鳴らされる。


 その直後――。


 玉座に腰掛けるハメハメハ大好王の前に、前に歩いている某MJが披露した有のに後ろに進む名なムーンウォーク、謎の歩行術を披露して集合する二人――否、二体。


「王よ――アナホルド・シコル・ツレネーナー、推参だモウ」

 現れた一体が傅いた。
 二足歩行の牛だろうか?
 牛にしては堀の深い顎が角張った筋肉質な巨躯で、鼻輪と色眼鏡が割にお洒落。

「王よ――シルデスカ・イエ・スカトローン、ここブヒ! お呼びで御座いますでブヒ」

 続いてもう一体が傅いた。
 二足歩行の豚だろうか?
 豚にしては豚と罵られて然りのダルダルでない引き締まった巨躯で、まるで戦場に趣くとても乱暴な格好。


 更に周囲からも斥候スカウトもビックリな、謎の鋭くもキモいアクロバティックな入場を披露して現れた複数の影――。


 二体の後方に整列した途端に天に向かって勢いよく腕を伸ばし――、


「「「「キモ、イィーっ!」」」」

 気をつけ! 礼! 休め! 最後に挙手! の、足並み揃った香ばしいポーズを披露した集団が勢揃いした。


 ツッコミどころ満載なんですけど?


 ちなみに指揮官らしき巨躯の二体には、牛は角の部分、豚は頭頂部にさっき見たのに酷使した寄生茸マットマーラーが生えていた――。


 恐らくはさっき見た寄生茸マットマーラーの一種……亜種だろうか?
 形は微妙に違うようだけど、良い感じに影が落ち全貌は不明。
 ただ、何やらキモくピクピクと蠢きテカる様がそっくりだった。

 謎の下っ端集団については、全員が目と鼻と口の部分が僅かに開口した覆面を被っており、人なのかどうかも不明。
 ただ寄生茸マットマーラーっぽいのが下半身に窺えた。

 だがしかし。
 どう言うわけか上手い具合に謎の影が差し、こちらからは全貌が見て取れない。

 各自から個別にチラ見している部分を繋ぎ合わせ統合し補完すれば、当然、全貌は見えてくるのだが……。


 そのことには触れないでおくのがお約束、或いは現状の最適解だ、うん。
 まさかとは思うけども、アレで操ってるとかなのか?


「まずは精神的に追い込んでやるが良いでゴブ」

 手にしていたバラ鞭で自分の尻をパシんパシんと叩きながら、アヒージョ、セニョリータ、ウヒャッダッパーっと謎の奇声をあげつつ指示するハメハメハ大好王。


 自分を追い込むんかい!


「カズノコ祭りだモウ」「尿意でブヒ」

 それに変な返事をする指揮官らしき二体。

「「「「「キモ、イィーっ!」」」」」

 けったいな雄叫びを一斉にあげて、捕らえられた女性を中心に円陣を組むように囲んだシール団・友の皆さん。

「や、やめろ⁉︎ 何をする気だ⁉︎ き、貴様ら……くっ……」

 顔を顰めっ面にし抵抗する女性。




 くぱぁ~♡




 愉悦に歪んだ薄気味悪い笑顔の指揮官二体が、そんな擬音がバッチリな悪戯を披露し始めた――。

「――うむ、色々とデンジャラスでゴブ」

「モウ、髪金で発禁」「やり過ぎて垢BANブヒ」

「「「「「キモ、イィーっ!」」」」」


 取り囲んだ各々が意味不明に呟く。


 実はゴツい両手で割り開いた、なまら磯臭くもデカい貝を、目の前に突きつけて至極ゆっくりと割り開いて見せつけてるだけです。


 あれほどに大きくも立派な貝は、採れるのが稀ゆえに、滅多に見ることはできない。
 そんな素敵貝なので、商人の間でも高額の取引がされている逸品。
 当然、貴族でも滅多に口にすることができないと有名な、そんな貴重で稀な高級食材は、一貝で数十万から数百万エーンはくだらないときた……それを使っての激しい悪戯とは。


 ――全くもって意味不明。


「しっかり見るんでモウ。無理矢理こじ開けられた所為で……モウ……糸を引きツンっと磯臭い潮を噴いてるだモウ?」

「鮮度の高い綺麗な色の中身が……ウネウネと蠢いてるブヒ? ここを押すと……ブヒヒ。――あゝ、貝ってのは採れたて開けたてがぷりぷりして旨いんだブヒ」

「ゴブゴブ……流石はシール団・友きってのグルメでゴブ。中々に容赦ないドSっぷりでゴブ」

 人骨玉座に踏ん反り返って、褒めて遣わす仕草のハメハメハ大好王。

「「「「「キモ、イィー!」」」」」

 少女を取り巻くシール団・友の皆さんは謎の奇声をあげ、指揮官らしき牛と豚の二体を流石だと手を叩いて褒め称えた。


 あのさ、意味不明過ぎんか?


「け、穢らわしい……」


 穢らわしいのか⁉︎


「モモモウ⁉︎ 新鮮な貝の旨味を知らぬ愚か者めだモウ! 何故にこの新鮮さが解らないのかモウ⁉︎」

「ブヒブヒ⁉︎ 悲しいブヒ……無理矢理こじ開けられた貝が無駄になって可哀想でブヒ……美味しいでブヒ」

「「「「「キ、キモ、イィ……」」」」」


 とかなんとか。


 拘束した女性に磯臭い貝を見せつけて、グルメを説く意味も、嘆く意味も、その全ての行動が俺には解りません。


 もうね、頭痛が痛い……。


 ◇◇◇


「あのさ……。あまりにも馬鹿馬鹿しい虐待? そんなだけども、一応は助け出した方が良くね?」

 重々しい扉の前に戻って集まっている面子に、力なく進言する俺。


 拘束されている点はスルーして、あの様子だと気概を加えられるどころか、旨い料理を振る舞われて歓待されるんじゃね? ――とは思う。

 手のひらを返し、筆舌し難い辱めを受ける可能性は否定できないけども。

 アレらが小鬼の王様ゴブリンキングと、牛の巨漢ミノタウロス豚の巨漢ハイオークだとしたら、女性に筆舌し難いなまら酷い辱めをするからだ。

 そんな有名な魔に連なる者だって聴きかじったのを、今さっき思い出したから。


 だがしかし、御三方は。


「一生懸命、タダちゃんの尻を触ってたけど、感触ないから面白くない」

 腕組みしてプンプンの某ドワルフ。
 またもベクトル方向性違いにほざく。

「キズナさん――ウチの組織にこない?」

 アの女王にしても某ドワルフと同じで、扉の中の様子に、一切、触れないときた。

「――姐さんのお誘いは嬉しいんですけど、結構な煩悩を消費するので……遠慮しておきます」

 そして魔力でなく煩悩とほざく某エロフも無関心。

「おにぃた――おにぃちゃん。おはなしする、なの」

 俺の袖をチョイチョイと引っ張って、首を傾げて慰めてくれる、流石は至高の御方おんかたたる幼乳神様ナイチチちゃんだった。

 それに引き換え御三方ときたら――はぁ。
 どんな時でもブレず迷わずの鬼畜っぷりに、俺は本当に残念で仕方ない思いでいっぱいです、うん。



 ――――――――――
 磯臭い貝は数万エーンもする天然物?
 シール団・友、なんて恐ろしい組織っ⁉︎ ∑(゚Д゚)
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