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第一部 運命の出逢い。それは――。

九発目 いけない穴――経験が足りない俺は直ぐ果てるやも。

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 ナイース街の南南東に広がる、気候が穏やかなノハーラ草原からそう遠くない岩石地帯。

 その一角にあるダル岩と呼ばれるくだんの場所へとチョッ早でやって来た俺達――。

「問題の洞穴がここ。情報を持って帰ってくれた冒険者達の話しでは、中は天然の迷宮になっていて、既に有象無能の魔物で溢れかえっていたそうよ」

 何の変哲もない単なる岩の狭間に、無造作かつポッカリと入口を晒し、カモンエブリバディナウと誘う洞窟の目前で近くの岩場に身を潜め、突入前の最終確認を行っていた――。


 そこは迷宮ダンジョンと呼ばれるそれ。


 俺が見習い期間の座学授業で習った話しだと、何の前触れもなく突如として現れると言う。

 何故、突如として現れるのか?
 誰がなんの目的で?

 そう言った発現条件や場所などの詳しいことは未だ、一切、解明されていない。

 冒険者の間では眉唾物の噂で。
 専門家などの間では憶測に推測で。

 常に色々と物議を醸し出し、論議されている場所だと言う。


 だがしかし。
 魔物の巣窟であることに間違いはない。


 未踏の遺跡に並ぶ、命の危険がつきまとう場所と言う点だけは――不変の法則。
 万一、人里に近い場所に出現した場合、これを速やかに攻略し排除するのが、冒険者稼業に身を置く者の鉄則。

 出現する迷宮によって条件は様々だが、その条件を達成しさえすれば、何故か痕跡を一切残さず、迷宮ごと全てが跡形もなく消え去るらしい――。

 その条件は知られている限りでは二つ。


 最奥に居座るボス的魔物云々の排除。
 お宝の入手、或いはそれの破壊。


 それだけだ。


 そんな摩訶不思議で危険な場所へと挑むことになる面子は、勇等級、特等級が一名ずつに、上等級が二名に加えて――、


 何故か組合秘蔵のひよっこたる俺。


 何処の勇者パーティかよって思ってしまうほどには、凄腕で頼もしい雲の上の方々ばかりの過剰戦力なパーティだし、面子的にも充分だと思う。

 そこになんで初心者の俺が強制参加させられねばならんのかと、未だ納得いかずにいたり。


 実際、場違い感パねく、テラ居辛い。


 ◇◇◇


「わたし……さきいく」

 背負っていた大盾を前方に構え、なんの躊躇もなくトコトコと洞窟の方へと近付いていくナイチチちゃん。


 歩く姿が何気に尊いな。
 一部分に限っては、けしからんけどな。


「儂も先っちょでイクわよ」

 同じく戦斧をブンっと振り抜き構えると、愛おしそうに戦斧の先端を撫でつつナイチチちゃんのあとへと続くゲイデさん。


 ぞわぞわと鳥肌が立った。


「私は真ん中で棒を立てておくわね」

 手に持っていた錫杖を頭上に掲げ、滑らかで如何わしい妙な手付きで上下運動させるキズナさんも洞窟に進む。


 そうきましたか。
 俺の棒ネタ以上にヤバさ炸裂ですね?


「――先頭に錫杖ね。迷宮だけに罠があるかもしれないし、先陣は私が行くわ」

 まるで実体のない幽霊のように、スゥっと揺蕩って先頭に躍り出るアー姉改め、アの女王。


 ねぇ、皆んな。
 ワザと狙って言ってません?


 物言いに動きの個性が其々に凄くあり過ぎるけど、ここに到着して直ぐから、そんなお巫山戯をかますことができる時点でもうスゲーよ。
 しかも気配を完全に遮断してるから凄い。
 気を抜けば見失うくらいに、で。


 比喩ではなく、道中、本当に見失ったりもしたり。


 アの女王は職業柄言わずもがな。
 金属鎧の幼いナイチチちゃんにゲイデさんまでもが、そこに存在すると言った気配が全くしないことには本気で驚いた。

 但しキズナさんだけは、気配がないと言うよりかは極自然なお花の良い香りを漂わせて、自分の存在を周囲に溶け込む感じで誤魔化しているっぽいんだけどね。

 お陰で俺が他三人を見失っても、キズナさんだけは直ぐに目で追えた。


 正しくは鼻でだけど。
 エロフ特有のフェロモンでしょうか?


 まぁ、それだけの実力を皆さんは持っていらっしゃるから凄いって。
 俺なんて緊張し過ぎてダメダメ。
 慣れない装備の重さに、道中は蹴躓いてばっか。
 金臭さを消すやら、音鳴りしないように油を塗るなどの、至極当たり前の事前準備すらも全く忘れてました。
 ガチャガチャ音を出し、気配すら増し増しのど素人で……本当に申し訳ありません。


 もう帰って良いでしょうか?


「――そうなると俺がしんがり? 或いは外で見張って待機してますか?」

 真新しい金属の臭いをプンプンさせ、ガチャガチャと鎧の音を発する足手纏いの俺は、恐縮してそう提案する。


 決してビビったわけではない。
 単に足手纏いになるのが嫌なだけ。


「何⁉︎ 尻を狩るだと? ――儂のを是非」

 目を輝かせて振り返り、謎の白い歯キラリで清々しい笑顔のゲイデさん。

「なんですって⁉︎ 尻軽ですって? ――私とも是非」

 錫杖を上下運動させながら、舌舐めずりでなまら熱い視線を股間に送ってくるキズナさん。


 こんな状況でも全くブレないって。
 HAHAHA……ある意味尊敬します、はい。


「――曲解しない。それには及ばないわよ」

 そう言って、その場で軽く手を挙げたアの女王。


 すると――、


「お呼びで……」

 白い透き通る肌をやや朱に染めた、恐らく美しい――異様さの方が際立つ、怪しい身形の女性が音もなくそこに唐突に現れた。


 と、言うか湧いた。


 目のやり場に困るほど、アの女王の装備よりも更に肌の面積が増し増し。
 とても大事な部分がギリギリの装束。
 本当にギリギリのバランスで辛うじて隠している状態。


 ――否、チラ見えてる?


 至高のマイクロビキニアーマーに身を包んだ、顔半分を蝶柄マスクで覆った女性だった。


 パっと見痴女。ガン見でも痴女。
 じっくりと舐めるように見ても痴女。


「――はい?」

 瞬きして目を擦り、もう一度キチンと見直して見る。


 やはり痴女。


「くっ……タダヒト、十八歳。冒険の中で冒険を忘れた! これは直視したいけどしてはいけない類いの危険!」

 義姉のアの女王に続く、不意を突かれたセカンドインパクト――迂闊!

「そうか、これが暗殺者アサシンの真の威圧と言うものか……あ痛い」

「私と言う素敵な姉が居ながら、他所の女性の肌如きで取り乱すなんて……タダヒト?」

 恐れ慄く俺に、アの女王に軽い殺意を向けられた挙句、小石をぶつけられたり。

「きっと未体験だし興味尽きないのよ? 刺激的な姿に股間が暴れたんじゃない?」

 とかなんとか。微妙に否定し辛い。

「儂もキズナに激しく同意。儂の美しい裸体ならいくらでも見せてあげるのに」

 約一名、丁重にお断り申し上げたいことをほざいております。

「えっちぃのは、めっ! なの」

 今更ですか、ナイチチちゃん。
 その怒りんぼさんな表情も中々に尊い。

 でもね、頬っぺたぷっくりプンプンしても、ブルンブルンな破壊力が台なし感増し増しにしちゃってると思うんだ……。


 とかなんとか。
 お陰で色んな意味での緊張感が解れたけど。


「さて……対象のナイチチ護衛任務は一度反故。ここで待機。何かあれば組織に連絡を」

「――ぎ、御意。主様ぬしさま、御武運を」

 深く傅き重々しく返事をしたと思ったら、再び音もなく消え去った――。


 と言うか、俺の後ろに湧いた。


「また……後ほど」

「――え?」

 背中に良い感じの柔らかさが伝わってドキドキハラハラしてる俺の耳元で、そんな風に軽く囁れたあと、凄く優しい良い香りを残して――今度こそ消えた。


 後ほどって何?
 なまら嫌な予感がビシバシなんだけど?


 しかし……色違いのマスカレイド仮面舞踏会な痴女さんも、態度からしてアの女王の支配下にある暗殺者アサシンくみする者か……。

 闇に潜む者が露出度増し増し、更にギンギラギンにさりげなくないマスカレイドなマスクで目立ってて良いのだろうか?

 所属を明確にする為も、構成員が身につけさせられる特有の証ってのがあるが、アレがそんなだってのは――、


 何かの罰か嫌がらせだろうか?


 態度には出てなかったけど、白魚の肌を朱に染めてたくらいだし……人前に呼ばれて恥ずかしかったんだろうね。

「駆け出しが一人で待つのは逆に危険よ。ゲイデさんとキズナさんの間に居る方が安全で良いかも」

 洞窟内部を窺い、入口付近の地面を観察しつつ、そう伝えてくるアの女王。

「げっ。御二方の間は身の危険増し増しでちょっと……」

「「前から後ろから組んず解れつで――」」

 嫌な汗をかき拒否る俺に、大喜びで何か意味不明なことを言う御二方。

「お前ら……いい加減にしろよ? ――サクッと処分する殺害の意ぞ?」

 意識が狩られる一歩手前の凄まじい殺気を放ち、粗暴な物言いのアの女王に睨まれた。

「「ご、ごめんなさい」」

 ピシと姿勢を正して態度を改め、必死にウンウンと頷く御二方。

「お、おねぇた――おねぇちゃん、すごい……」

 対して全く動じず、クリっとした目を輝かせ、アの女王に尊敬の眼差しなナイチチちゃん。

「一発で黙らせる睨みは凄いっちゃ凄いけど――俺も漏らしそうになった」

 塩対応の受付嬢なアー姉に慣れた俺でも、今のはそんな感じ。


 絶対に逆らったらいけない人って、やっぱ居るんだな、うん――くわばらくわばら。



 ――――――――――
 アの女王のしもべもやっぱ夜の蝶?
 暗殺者アサシン、実はそっち系の元締め? ∑(゚Д゚)
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