7 / 12
第一部 現代編――。
第七話 金は無くとも心は裕福?
しおりを挟む
「妾も弁当とやらが飽きてくるほどには、随分、月日が経ってしまっておるのか……。追放されてまなしは、もっと美味しく感じた筈じゃが……」
一昨日の廃棄で戴いた、五〇〇円もする豪華な幕内弁当を前に、緑色のジャージ姿のマリーがむくれて愚痴る。
そりゃ……全く同じ弁当が昼夜問わず三日間も続いたら、文句の一つも言いたくなるわな。
「マリアお嬢様。私共は咎人。贅沢を申されてはなりません。食事も満足に摂れない下賤の者も、大勢、存在するのですから。ありつけるだけ良しとお考え下さい」
黙々と食べていた、同じく緑色のジャージ姿な下衆徒君は、下衆なおっさんとは思えない真面目顔でマリーを諫める。
いつも思うけども、できた従者だよね。
見てくれは最悪最低だけど。
「無理に食べなくても良いけど、明日も明後日もその弁当になるからな?」
マリーに向かって箸を突きつけ、軽く叱咤しておく。
実際、マリーの言うことも良く解る。俺にしても正直に言って飽きてきたから。
「主に下衆よ。真っ当なことを真顔で言うでないわっ! はぁ――豚の餌に等しい監獄の臭い飯よりは、ずっと良いと思うしかないの」
向日葵の種を頬袋一杯に貯め込んだハムスターのように、幼くも可愛い頬っぺたを膨らましてむくれるマリー。
「その点、ミサは電気とやらの補給だけで良いのじゃからな? 妾の気持ちも解る筈もないて」
ミサに向かって力なく愚痴るマリー。
愚痴られたミサは反応しない。何故なら現在は充電中だから。
スカートの裾から伸び出ている妙なコードをコンセントに挿していた。
美少女にあるまじきいけない恍惚の惚け顔で虚空を見つめているので、マリーの話を全く聴いちゃいないって訳。
一体、身体の何処に繋がっているのか。そこが非常に気になる――。
「マリーの気持ちは解るけどな? ちゃんと食べたらあとなら――そうだな、ご褒美にアイス食べて良いから」
「小童扱いす――な? ア、アイスとなっ⁉︎ それはもしや至高の逸品……ア、アイスクリームとやらのことかっ⁉︎」
アイスと耳にした途端、小学校の給食御用達のフォークスプーンで掬って口に運んでいたマリーの手が止まる。
そのまま固まって、油の切れた人形の如きぎこちない動作で、ギギギっと俺の方に顔を向けた。
「左様に御座います、マリーお嬢様……ぷ。下衆徒君のようにはいかんか。俺には似合わん」
下衆徒君の良くやる執事の嗜みの真似をして、マリーにそうだよと伝えてみた。
「マイロード、滅相も御座いませんっ⁉︎」
「下衆、さっさと食せっ! ア、アイスクリームぞっ! アアア、アイスクリームっ! あぁ……何と甘美な響きであろうか――」
うっとりと虚空を見つめ、心は既にアイスクリームで一杯のようなマリー。
豪華な幕の内弁当を、ほぼ機械的に口に運んでいた。
◇◇◇
皆で苦痛な食事を終えたあと、冷凍庫から三個のアイスクリームを持ってきてやった。
「おぉ……至高の逸品が……遂に……遂に妾の元へ――」
お預けを食らっているだらしない犬のように、忙しなく待つマリーの目は血走って涎ダラダラ。
アイスクリームを動かすと、それを追いかけるように視線を動かす――結構、面白い。
「大袈裟だな……って、確かに久し振りか。マリーは苺とバニラとチョコ、どれが良い? ちなみに全部ってのはなしだ」
「い、言おうとしたことを先に遮るでないわっ! ――ううう……どれも甲乙つけ難い……なんとも悩ましい。うむむ、芳醇な苺……否、香ばしいチョコ。いやいや、懐かしくも純粋なバニラも捨て難い……うむむ」
目が大きく見開かれた真剣な眼差しになって、俺の手にあるアイスクリームを交互に見比べ、これまた真剣な顰めっ面で悩んでいた。
「しゃーないな。二つ選んで、マリー。俺の分も食べて良いいから」
「なんと⁉︎ ぬ、主がどうしてもと言うのなら、止むなく妾がもう一個を貰ってやってもやぶさかではないが……」
「でもな、マリー。今はどっちか一個な? お腹を壊すと大変だし」
「こ、小童扱いするでないわっ⁉︎ こ、このような姿でも、妾は妙齢の大人ぞっ⁉︎」
「はいはい、そうでした。マリーは大人だね? だったらちゃんと我慢もできるよね?」
「くっ、小童をあやすようなその言い草が、妙に気に入らぬが……ならば!」
そう、むくれて言い放ったあとで――。
「……って、おい!」
「――主よ。苺のアイスをあ~んだ。次は妾からもあ~んだ。早うせい」
いきなり俺の胡座の上にどっかりと座り、見上げるように強請ってくるときた。
「マイロード、マリアお嬢様。私はとても……とても羨ましく思います。差し出がましく恐縮に御座いますが……私も是非とも御二方と……あ~んなる行為を――」
下衆いおっさんの醜悪な面を、後光が差すほどの笑顔に歪めて身悶える下衆徒君。
キモい。まぢキモい。
「絶対に嫌じゃっ! 妾が穢れるっ! 孕むっ!」
「相変わらず歪みねーのな。マリーに激しく同意。俺もちょっと――」
ほぼ同じタイミングで下衆徒君を否定する。
「おっふ。御二方共に容赦ない仕打ち――はぁはぁ」
「変態めっ!」「変態だな」「おっふ」
結局、下衆徒君は一人寂しくアイスクリームを頬張り、俺とマリーは苺アイスを交互に半分っこした――。
――――――――――
悪戯はまだまだ続く。(笑)
一昨日の廃棄で戴いた、五〇〇円もする豪華な幕内弁当を前に、緑色のジャージ姿のマリーがむくれて愚痴る。
そりゃ……全く同じ弁当が昼夜問わず三日間も続いたら、文句の一つも言いたくなるわな。
「マリアお嬢様。私共は咎人。贅沢を申されてはなりません。食事も満足に摂れない下賤の者も、大勢、存在するのですから。ありつけるだけ良しとお考え下さい」
黙々と食べていた、同じく緑色のジャージ姿な下衆徒君は、下衆なおっさんとは思えない真面目顔でマリーを諫める。
いつも思うけども、できた従者だよね。
見てくれは最悪最低だけど。
「無理に食べなくても良いけど、明日も明後日もその弁当になるからな?」
マリーに向かって箸を突きつけ、軽く叱咤しておく。
実際、マリーの言うことも良く解る。俺にしても正直に言って飽きてきたから。
「主に下衆よ。真っ当なことを真顔で言うでないわっ! はぁ――豚の餌に等しい監獄の臭い飯よりは、ずっと良いと思うしかないの」
向日葵の種を頬袋一杯に貯め込んだハムスターのように、幼くも可愛い頬っぺたを膨らましてむくれるマリー。
「その点、ミサは電気とやらの補給だけで良いのじゃからな? 妾の気持ちも解る筈もないて」
ミサに向かって力なく愚痴るマリー。
愚痴られたミサは反応しない。何故なら現在は充電中だから。
スカートの裾から伸び出ている妙なコードをコンセントに挿していた。
美少女にあるまじきいけない恍惚の惚け顔で虚空を見つめているので、マリーの話を全く聴いちゃいないって訳。
一体、身体の何処に繋がっているのか。そこが非常に気になる――。
「マリーの気持ちは解るけどな? ちゃんと食べたらあとなら――そうだな、ご褒美にアイス食べて良いから」
「小童扱いす――な? ア、アイスとなっ⁉︎ それはもしや至高の逸品……ア、アイスクリームとやらのことかっ⁉︎」
アイスと耳にした途端、小学校の給食御用達のフォークスプーンで掬って口に運んでいたマリーの手が止まる。
そのまま固まって、油の切れた人形の如きぎこちない動作で、ギギギっと俺の方に顔を向けた。
「左様に御座います、マリーお嬢様……ぷ。下衆徒君のようにはいかんか。俺には似合わん」
下衆徒君の良くやる執事の嗜みの真似をして、マリーにそうだよと伝えてみた。
「マイロード、滅相も御座いませんっ⁉︎」
「下衆、さっさと食せっ! ア、アイスクリームぞっ! アアア、アイスクリームっ! あぁ……何と甘美な響きであろうか――」
うっとりと虚空を見つめ、心は既にアイスクリームで一杯のようなマリー。
豪華な幕の内弁当を、ほぼ機械的に口に運んでいた。
◇◇◇
皆で苦痛な食事を終えたあと、冷凍庫から三個のアイスクリームを持ってきてやった。
「おぉ……至高の逸品が……遂に……遂に妾の元へ――」
お預けを食らっているだらしない犬のように、忙しなく待つマリーの目は血走って涎ダラダラ。
アイスクリームを動かすと、それを追いかけるように視線を動かす――結構、面白い。
「大袈裟だな……って、確かに久し振りか。マリーは苺とバニラとチョコ、どれが良い? ちなみに全部ってのはなしだ」
「い、言おうとしたことを先に遮るでないわっ! ――ううう……どれも甲乙つけ難い……なんとも悩ましい。うむむ、芳醇な苺……否、香ばしいチョコ。いやいや、懐かしくも純粋なバニラも捨て難い……うむむ」
目が大きく見開かれた真剣な眼差しになって、俺の手にあるアイスクリームを交互に見比べ、これまた真剣な顰めっ面で悩んでいた。
「しゃーないな。二つ選んで、マリー。俺の分も食べて良いいから」
「なんと⁉︎ ぬ、主がどうしてもと言うのなら、止むなく妾がもう一個を貰ってやってもやぶさかではないが……」
「でもな、マリー。今はどっちか一個な? お腹を壊すと大変だし」
「こ、小童扱いするでないわっ⁉︎ こ、このような姿でも、妾は妙齢の大人ぞっ⁉︎」
「はいはい、そうでした。マリーは大人だね? だったらちゃんと我慢もできるよね?」
「くっ、小童をあやすようなその言い草が、妙に気に入らぬが……ならば!」
そう、むくれて言い放ったあとで――。
「……って、おい!」
「――主よ。苺のアイスをあ~んだ。次は妾からもあ~んだ。早うせい」
いきなり俺の胡座の上にどっかりと座り、見上げるように強請ってくるときた。
「マイロード、マリアお嬢様。私はとても……とても羨ましく思います。差し出がましく恐縮に御座いますが……私も是非とも御二方と……あ~んなる行為を――」
下衆いおっさんの醜悪な面を、後光が差すほどの笑顔に歪めて身悶える下衆徒君。
キモい。まぢキモい。
「絶対に嫌じゃっ! 妾が穢れるっ! 孕むっ!」
「相変わらず歪みねーのな。マリーに激しく同意。俺もちょっと――」
ほぼ同じタイミングで下衆徒君を否定する。
「おっふ。御二方共に容赦ない仕打ち――はぁはぁ」
「変態めっ!」「変態だな」「おっふ」
結局、下衆徒君は一人寂しくアイスクリームを頬張り、俺とマリーは苺アイスを交互に半分っこした――。
――――――――――
悪戯はまだまだ続く。(笑)
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】悪役令嬢のざまぁ回避奮闘日記〜誰も親友の男なんか寝取りたくないんだって!〜
るあか
恋愛
私の好きな乙女ゲーム『王宮学院魔道科』
それは、異世界の男爵令嬢に転生したヒロインが国直属の貴族しかいない学校『王宮学院』の魔道科へと入学する話。
途中色んな令息といい感じの雰囲気になるけど、最終的には騎士科の特待生である国の第ニ王子と恋仲になってハッピーエンドを迎える。
そんな王宮学院に私も転生したいと思っていたら、気付いたらその世界へと転移していた。
喜びも束の間、自分の名前を知って愕然とする。
なんと私の名前の登場人物はヒロインの親友で、彼女の彼氏を寝取ってしまう悪役令嬢だった。
確かこの令嬢の結末は自分の行いのせいで家が没落貴族となり、破滅を迎える設定……。
そんな結末嫌だ!
なんとか破滅を回避するため必死に行動してみるが、やっぱり結末は同じで……
そんな時、ヒロインの魔法アイテム『時戻りの懐中時計』を自分が持っている事に気付く。
ダメ元でそれを発動してみると……。
これは、悪役令嬢役に転生した私がざまぁを回避するため何度も時を戻り、ハッピーエンドを目指す物語。
そして奮闘している内に自身も恋をし、愛する人を味方につけて、ゲーム内の裏設定を色々と探り、真のハッピーエンドを追い求めるラブコメファンタジーである。
※エールありがとうございます!
前世を思い出したのでクッキーを焼きました。〔ざまぁ〕
ラララキヲ
恋愛
侯爵令嬢ルイーゼ・ロッチは第一王子ジャスティン・パルキアディオの婚約者だった。
しかしそれは義妹カミラがジャスティンと親しくなるまでの事。
カミラとジャスティンの仲が深まった事によりルイーゼの婚約は無くなった。
ショックからルイーゼは高熱を出して寝込んだ。
高熱に浮かされたルイーゼは夢を見る。
前世の夢を……
そして前世を思い出したルイーゼは暇になった時間でお菓子作りを始めた。前世で大好きだった味を楽しむ為に。
しかしそのクッキーすら義妹カミラは盗っていく。
「これはわたくしが作った物よ!」
そう言ってカミラはルイーゼの作ったクッキーを自分が作った物としてジャスティンに出した…………──
そして、ルイーゼは幸せになる。
〈※死人が出るのでR15に〉
〈※深く考えずに上辺だけサラッと読んでいただきたい話です(;^∀^)w〉
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げました。
※女性向けHOTランキング14位入り、ありがとうございます!!
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる